その蒼い宇宙を見て   作:丸亀導師

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裏切り

コロニー建設公社なんてもののないこの世界において、このコーディネイターとか言う素敵な労働力の連中は、ナチュラルという人種に対して猜疑心が非常に強い。

彼等の特殊な出生によるものだと解るのだが、それにしても彼等のそれは被害妄想に過ぎるほどだ。

 

ジョージが言うには、身勝手な出生時の遺伝子改変を僕は許してしまっただとか言う。

この男は最初に遺伝子改変によって産まれてきた存在だという、身体能力と頭脳を併せ持つ、そんな存在ではあるが彼はそれに対して自己努力の賜物だという。

 

確かにどんなに地が良くとも、本人に怠け癖があればこれ程の事を成し遂げられる存在になる事は出来ないであろう。

現に私の言葉に現を抜かし、自己の判断を行わない愚者もいる。

 

だが、私はそんな状況に陥るまいと努力する者も知っている。

 

彼の弟子と言ったほうが良いのか、その中の一人にシーゲルという青年がいるが、彼は私の事を快く思っていないようで、私の事を事あるごとに糾弾する。

私の事をナチュラルとか言う存在だと知っている数少ない人間だからと言う面もあるが、確固たる信念を持っているのだろう。ひどく警戒されているのがその証拠だ。

 

もしもジョージが死ねば、私は隠居させられるだろうな。こんな無為な人生案外悪くない。

 

だがアムロ……私がここにいると言うことはお前もこの世界の何処かにいるのか?

もしいるのなら、もう一度あって裁定を下して欲しい。今の私を見てお前がどう思うのか、お前しか私の行いを裁く権利を持つ者はいないのだ。

 

 

 


 


 

 

「知らない天井だ……。ここは…何処だろう。」

 

辺を見渡すと白いナプキンや薬剤が並べられた棚があって、合成治療機もある。

かなり先進的な設備、プラントでは寧ろ見ないような様々な防疫設備もあって、僕は初めてここで自分が生きていることが解った。

 

身体を起き上がろうとして脚に力を入れると、左側に力が入らないどころか足の感覚がない。それでもやっと力を入れて、起き上がると、変な格好で起き上がってしまった。

これでやっと、あの出来事が夢じゃないと気がついた。

 

「そんなに急いで起き上がらなくても、私は君を人体実験の道具になどしないよ?ニコル・アマルフィ君。」

 

ニコニコと筆ヒゲを蓄えた白衣の男が、妙に近い距離感で僕の近くに捻りよりながらそう答える。

 

「ここはどこで、僕はどうなってしまうんでしょうか?」

 

「ここは、家の部隊の艦。そうだな、君達の言う白い悪魔の根城と言ったところかな?

君は捕虜ではあるが、施設も無いのでねこうやって医務室で診ているんだよ。

君がどうなるかは解らないが、人体実験に使われることはないよぉ。」

 

ねっとりとした口調で僕の無い脚の太腿を擦ってくる、悪寒がするのは気のせいじゃないと思う。

 

「冗談はさておきだ、きっとそろそろ艦長が来ると思うのだが、温和な人だ。媚を売っておいた方が懸命だよ?本部になんて行ったらどうなるか知れないからね。」

 

冗談にもほどがある、捕虜に対する性的暴行という歴史を見たことがあるけれど、戦場では同性同士でもそう言う事があったと言うし正直怖いな。

でもそれよりも……、白い悪魔という男がこれから来るのか…。

 

アムロ・レイ、色々な顔写真が出回っている実在しているが故に謎な側面がある、連合のMSトップエース。

ブルーコスモスという噂もあるし、それが濃厚でもあるから僕をどうするのか解らない。

正直不安だし、何よりブルーコスモスなら僕たちコーディネイターに対して何かしら憎悪しているかもしれない、だとしたら洗脳されたりするのかもしれない。覚悟は決めておかないと。

 

「失礼する。彼は起きているな?」

 

「ええ、つい先程。どうです?何か話でもさせましょうか?」

 

スライドカーテンの向こうから、シルエットだけが見える。点滴に繋がれた忌々しい腕を見ながらも、僕はその人物がどんな存在なのか好奇心にも似たものが見えてくる。

ハハ、怖いと一周回ってこうもなるんですね。

 

カーテンが開かれると、眼の前には先程の医官とそれよりも少し身長の低い僕と同じ髪型の人がいた。

あぁ、見たことがある顔だ。敵の連合のニュースを傍受してみている時に、良く流れている顔がとても温和そうにこちらを見ていた。

 

「君は、ニコル・アマルフィであっているかな?喋らなくてもいい、病み上がりだからね。

君が救助されて一日後、君の所属していた部隊がアークエンジェル隊を追撃、ストライクを一機墜としたそうだ。

良かったね、君の犠牲で君の部隊は使命を半分果たした事になる。」

 

アスラン達は任務を達成したようですね、でもたぶん3人は僕の事を死んだものと考えているんですねきっと。

アスランは、あのストライクを撃墜する事に戸惑いを覚えていましたから、良かったです。

 

「そうか……、君の処遇なんだが。残念ながら当分の間、この艦にいてもらうことになる。

赤道連合が地球連合に合流するらしくてね、それで艦隊を派遣すると同時に調印式を行う事になっているから、君はここにいなければならない。

何か質問はあるかな?」

 

「1つだけ、仮に僕の事を置けるとして何時までなら僕をこの艦に載せたままに出来るんでしょうか?」

 

紳士的な人なのかもしれない、説明したい事だけを言って、僕の現状に対する処置を教えてくれる。

ありがたい反面、その後どうなるか決まっていないのが恐怖を煽る。優しくされているのは解るけれど、やっぱり不気味だ。

 

僕を救助したこの艦は、多くの同胞…コーディネイターが乗艦して僕達の前に幾度となく現れた。

そんな彼等が付き従う彼が、どういう人かを僕は少し知りたい。

 

僕に対してこうやって接しているのは、果たして本性を隠しているだけかもしれない。だって僕はコーディネイターだ、それも今地球軍から目の敵にされているプラントのコーディネイターだ。

 

「そうだな、それは君が俺の事を知りたいとかそういう意味で言っているのかな?

なら、交換条件だ。君達と共に現れたあの赤い、恐らくはゲイツという以前確認された機体。

それに登場していたパイロットの事を聞きたい。

たぶん……シャアという男だろう。」

 

「それだけで……それだけで良いんですか?もっと機密情報だとか、そういうものを話さなくても。」

 

どうしてそんなに軽い条件を、僕にとってあのパイロットは良くわからない人としか言いようが無い人だから、なんとも言えない。正直疑ってる、シーゲル議長よりも老齢で第一世代としては余りにも、戦闘に特化しすぎていると思っていたから。

 

「君からは機密情報だとかそういう物は引き出せないと思っているからね、ザフト全体の目標なんてまだ指定されていないんだろう?

それにだ、君にはもっと酷なことをさせる事になるからな。」

 

機密を喋らせる以上に酷な事とは何だろうか?実際問題、そんな事はあるのだろうか?まさかと思う事はあるけれど、普通はさせない。

 

「長期間俺達と動向をする上で、確実でより安全な方法はただ一つ。俺達の隊に欠番があるんだが、そこに君が入ると言う方法だ。MS隊の予備の人員が不足していてね、数人分空いているんだ。

勿論断って貰っても構わないが、そうなると君はアラスカで降りてもらうことになる。」

 

捕虜を戦力としてカウントするなんて、それは余りにもな方法だ。ましてやパイロットとして徴兵すると、どうかしているんではないか?と、思わずにはいられないけれど、彼の目は至って真剣そのものだ。

 

「そうなった場合、こちらで身分証を偽造することも出来る。君がいる部隊はそう言う部隊だ、使えるものはなんだって使う。

宇宙で拾ったパイロットも掃除係をしてもらっていたし、俺達には使う事には微塵も抵抗感はないよ。」

 

「仮にそうだとして、一応僕は敵のパイロットですよ?それを同じパイロットになんて、もし脱走したら。それに僕の足は片方無いんですよ?」

 

「足のことは心配しないでくれ、義足を用意する。もし、表返ったらその時は俺が殺すから、覚悟はしておいてくれ?

返事は明日の昼12時までだ、色々と書類の準備があるからな。

では、Dr.彼の事を頼むよ?」

 

悩ましい提案に僕は頭を抱える、連合本部に拘束されるのと味方をこの手で殺す事。どちらを取るのか一晩中悩んだ。

性急な判断、もし戦場であった時味方を殺せるかと言う踏み絵、この人は残酷だ。

でももし、僕が彼の立場ならこんな事はしたくない。だって、後ろから攻撃されるかもしれないのだから。

 

 

………

 

金髪の(ひと)が僕の前を歩き、僕はそれに付き従うように歩いていく。左足がまだ痛むけれど、地球軍の医療技術もプラントとさほど違いもないようで傷口からの出血はないみたいだ。

尤も、僕の場合は左足が癒着しちゃっているらしく、普通の医療技術ではもうどうしようもないと言うことだけれど。

松葉杖は何処でも良く使われるようだ。

 

「その後足の調子はどうですか?4日でどれ程回復したか解りませんが。」

 

「はい、悪くありません。偶に左足が猛烈に痛むことはありますが、幻肢痛と言うそうですけど我慢できない程では無いので。」

 

「おっ?結構似合っているじゃないの、どうだい?今度1杯やろうぜ。親睦会も兼ねてよぉ!」

 

昼間から何を言っているのか、僕の連合制服を見ていったのだろう。

なんて返せば良いんだろうか?と言うか彼等の法律と僕の年齢を鑑みると、たぶんまだ未成年なんじゃ……。

 

「開くのは良いのですけれど、貴方方主計科に出す書類をまだ提出していないそうですが、早くしないと減俸ですよ?」

 

「おっと……ヤバいな。」

 

たった一言で顔を真っ青にして仕事に戻っていく彼等の姿を見ると、何処の国でも同じような事はあるのだと実感する。

僕を先導しているこの人は、アナスタシア大尉。

この艦のMS隊副長、または副官と呼ばれているらしい。

近々少佐になると、医官の人が言っていたのを耳にした事もある。

 

「クラウス・ニュンペー少尉、私達はああいう態度をしていますが、なぜだか解りますか?」

 

クラウス・ニュンペー……それがここでの僕の名前だ。

艦長が考えて僕にそう名を付けたらしい、クラウスはニコルの別称、ニュンペーはアマルフィの名の下になった神話からと言っていた。

 

この部隊は如何わしい任務が多いから素性の知れない人物も多いという話から、僕が隠れるにはちょうど良かったのかもしれない。直ぐに部隊証を偽造してくれた。

 

「少しでも、僕が敵から味方にと言う信頼をしようという努力……ですか?」

 

「はい、そうですね。ですが、それは半分もう半分は本当に酒が飲みたいだけですので、気になさらず。」

 

この人は僕に対して物凄く余所余所しいと言うか、まったく信頼されていない、当たり前でむしろこっちの方がありがたい。

 

「当分の間は、私が貴方の監視をします。不穏な行動は謹んで下さい、大佐は許しても。私は、貴方を信用していませんので。

それと、後々連合軍の軍法を渡しますので義足が来るまでにそれを読破しておいて下さい。良いですね?」

 

あと一週間、一週間で脚に義足を付ける。それまでに僕は、彼等と同じ立場で仕事をする準備と、心構えをしなくちゃならない。

僕は覚悟をして戦わなくちゃならない時が来る、それでも連合と言う視点でプラントを見ると言うのは非常に高い価値があると信じて。

 

 


 

「ねぇ、今日こそ教えてくれない?アンタ達の隊の人間の事、私さとっても気になってるんだよねぇ。」

 

眼の前の赤髪の女は俺にそう言って、途轍も無く優しい声で諭してくる。

コイツが誰かなんて言うのはどうだって良いし、寧ろ知らない方が身のためだって本能が訴えてくる。

 

「はっ、俺が答えると思ってるのかよ冗談はその声だけにしてくれよ。」

 

軽口を叩くけど正直状況は絶望的に悪い。前回来た時はこの声の主、つまりこの女と別の男女グループが言い争いになってた事だ。

ストライクのパイロットは、俺達と同じコーディネイターって事は何となく知ってたんだが…この女の恋人だったなんて思いもよらねぇだろ!

 

扉越しに聞こえてきたからな、下手な事言ったら確実に刺される。

 

「ふぅん…今日もだんまりなんだ。ま、良いけどさ。

ねぇ、ニコル・アマルフィ君の最後聞いてみたいと思わない?

接触回線越しに聞こえてきたんだよねぇ、悲鳴みたいな声上げてさ正直言って情けない奴と思ったんだけど、最後の最後にアスランって言ってたのよね……。

 

ねぇ、アンタ。ディアッカ・エルスマンなんでしょ?それじゃあもしかしてデュエルは、イザーク・ジュール?」

 

なんでそんな事知ってるんだよ、こっちは一回も喋ったことなんて無いぜ?

 

「あ、図星なんだ。へぇ、じゃあさアンタの悲鳴をさプラントに届けたら、アスラン・ザラ出て来てくれるのかしら?

だとしたら、嬉しいわよねぇアンタは大事にされてる。私のあの人を殺した奴を呼べる餌になれるなんて幸運よね………。」

 

酷く沈黙が来た、俺を真っ直ぐに見下ろす眼光には確実に殺すという意志が宿っている。

コイツやべぇよ。

 

「ま、良いわ。本部についたら尋問が待ってると思うのよね、どんな目に合うのかしら楽しみねぇ。今ここで喋った方が楽になれるかもよ?

逃がして上げても良いのよ?その代わり、アスラン・ザラに伝えてほしいの、フレイ・アルスターがアンタの大事な大事な親友の仇を取って上げるからって。」

 

何言ってんだよコイツ、なんなんだよ。

 

「フレイッ!またここにいたのか、行くぞ!」

 

「サイには関係ないでしょ?これは私の案件、MSに乗れない人は黙っててくれない?」

 

同じ艦内に馴染めてねぇっていうか、こんな事がまだまだ続くのかよ……。

 

 

 


 

プラント最高評議会は混乱していた。

いや、一部の人物が混乱していた。

その人物の名前はユーリ・アマルフィ、戦死したニコル・アマルフィの実の父親である。

 

その荒れ具合と言ったら、正直気でも狂ったのではないかと私自身思ってしまう程だ。

いや、実際に彼は気が狂ってしまったのだろうな、嘗ては私と共に戦争の早期終結を望む穏健派と言われた男が、一時の中にナチュラル蔑視のタカ派へと鞍替えした。

 

「君の気持ちも最もだが、だからと言ってこの作戦は時期尚早ではないか?

地上の戦力をすり潰す事になりかねない、先日我々はカーペンタリア基地戦力をすり潰したばかりだ。

直ぐの攻勢は不可能ではないか?」

 

「ふん、今仕掛けねばいつ仕掛けるか?オペレーション・スピットブレイクは、今やらねば地球軍の増強を待つ事となりますます防御を強固にするばかりか、反撃の余地すら与える事になる。今こそやらねばならないのだ!」

 

私は軍事というものを甘く見ていたのかもしれない、軍という存在がどれ程おぞましい存在なのかを、歴史というものを見て知っていたつもりでいたが、これこそが軍部の暴走という歴史の轍だというのか…。

 

最早時間はない、このまま行けば損害は広がるばかりか、最悪の場合プラントそのものを破滅に導くかもしれない。

パトリックを中心とする彼等は戦争というものの狂気に飲み込まれ、最早戦争の継続そのもの。ナチュラルを討つことだけを考えている。

手段が目的と成り代わり、我々はそれに飲み込まれる。

 

私の計画に賛同してくれた者たちとともに、ここはプラントを離れるべく行動を加速しなければ。

外からではなく内からやらねば、判断は速いほうが良い。気取られる前に、動かなければ。

 

この狂気、私はこの狂気を加速させている、あのシャア・アズナブルと言う男が気に食わない。

奴は自己の裁定を何かに行わせようとしているのだろう。

アレは昔からそうだった。

 

そして、人の目の届かないところで勢力を拡大し、いつの間にかこのプラントを手中に収めようとしていた事もある。なんとも悍ましいものか。

 

アレはそういう類の存在、古代ならば王と言われるカリスマなのだろう。

だが、崇拝という愚かしい行いは断じて招いてはならない、一人のカリスマに酔いしれた国というものの末路は、幾らでも歴史は記しているのだから。

 

 




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