その蒼い宇宙を見て   作:丸亀導師

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覚悟

ヨチヨチと歩く子供の姿は、和やかなものだ。

俺は、地球の上でこうやって過ごしているが、この子はそろそろ訓練を始めなければならない。

早ければ早いだけ、覚醒は早まるんだろうな。トラウマにならなければだが。

 

子供の世話に俺はこの力を使う、だいたい何がしたいのかとかそう言うのを知るのに非常に便利だ。

常日頃から心に語りかけているのだが、いまいち反応がない。

いや、反応はあるが物心がついていないせいかもしれない。

 

反応があるなら別に良いか、とりあえず色々なものに触れさせてみるのも良いかもな。

人の死に触れるには少し早いと思うから、余り人というものに触れさせるのは戸惑うが、偶に何かを感じ取って泣いている。

子供の感受性というものは凄まじいものだ、俺はそんな物どうだって良いと切り捨ててしまうからな。

 

「なあ、そろそろ会わせなきゃならないかもしれない」

 

「会わせるとは……あの方に?でも、何をされるかなんて解ったものじゃないのよ?この子だって。」

 

会わせたくはない、だが契約だ。破った時ほど怖いものはない。

 

「何かがあれば俺が守るよ。」

 

あの老人の下にはνガンダムがある。一度見せてみてもいいかもしれない。

 

 

 


 


 

アークエンジェルが地球軍本部アラスカのJOSH-Aに入ったという情報が来た。

無事の帰還という事ではないが、到着したことについては賛辞を贈りたい。

 

俺達は赤道連合にとどまり続けている、交渉の進展は上々らしい。連合がMS技術を提供する替わりに、赤道連合は地球連合に対して最恵国待遇というものを取るのだとか。

要するに、プラントに対して関税の強化。

連合軍の無害通航権の付与、並びにザフトに対する隣接する公海への進出を認めないという事だ。

 

この辺り非常にデリケートな話で、これ以上やればカーペンタリアからザフトが来る可能性があるからこそ、ギリギリの判断なんだろう。

同時にオーブに対しても行っていたようだが、こちらは前回俺達が寄港した際にそれなりの対価を支払ってしまったがために、2度目の外交カードとしては価値が無かった。

 

そんな中、工作船によって俺の艦は修復されていたんだが、どうやらかなりまずい状態のようだ。

 

「ジェネレーターが不安定になっている?」

 

「ええ、元々この艦は技術実証艦ですので、耐久性に難があったのでしょうな。

見てください、この数値では良くて八割と言ったところでしょう。何処かの工廠で修復が必要です、これでは宇宙には上がれませんな。

しかし良かったですな、もし気が付かぬままに宇宙に上がっていたら、艦が破裂していたかもしれませんな!」

 

本当に気がついて良かったと思う、この艦は新しいと言えば聞こえが良いが、MS運用能力に難があったからそろそろ退役なのかもしれないな。まだ使っていない武装もあるから、どうにか使い道はないものか?

 

「ありがとう、次の配属先がどこであれそこで修復をしたいんだが……、確か次はパナマで受領するものがあったな。」

 

「パナマですか、そりゃ大変な場所で。こことも反対ですからね、襲撃されるかもしれませんよ?

ですが、あそこは艦ドックがあります。宇宙船ではありませんが、修復する場所はありますからやるならそこですな。」

 

修復か、確かにやらないでおくのは駄目だろうな。

 

「何時頃出発なされるので?」

 

「そうだな、隠密行動も要求されるから明日の夜明け前だな。長時間飛行試験もやりたかったんだが、大丈夫そうか?」

 

「飛行程度なら大丈夫ですな、宇宙空間では駄目でしょうがこの程度なら航空機でもちゃんと飛べるLevelですから。」

 

航空法はそんなに甘かったか?いや、今は気にすることでもないな。

パナマか…、何が待っているのか正直楽しみなんてこれくらいなのだろうな。

 

そして夜明け前に静かに出港する。スラスターの甲高い音のせいで隠密行動とは言えないだろうが。

隠密行動だがこの艦にとっての一番の隠密行動は、上空を飛んでいくことだ。

 

速度はスラスター全開時よりも遅いが、それでも亜音速領域だ。ザフトの航空機では然う然う追いついてこれまい。

それにだ、途轍もない電波撹乱のせいでレーダーなんて何も使えないからな。

姿形は見えるがレーダーは使いものにならないし、誘導兵器に至っては誘導すらしない。

 

それどころか対策していない機材は軒並み動かなくなっているしな。

改めてこのフライト技術の軍事的恐ろしさを実感するよ、電磁パルスなんて相手にならないな。

 

………

パナマに到着した俺達を待っていたのは、またもやあの男だった。

ブルーコスモスの盟主という奴は本当に暇なのだろうな、どうして俺の行く先々にいるのやら。

しかも、何処から情報を仕入れたのか知らないが、クラウス・ニュンペー少尉を連れて来いと、しかも軍のお偉いさんの証文付きとはな。

 

「少尉すまないな、こんな短期間で呼ばれるなんて思わなかった。俺の方でもフォローはするがもしもの時は……、逃げても構わない。」

 

「いえ、寧ろ捕虜の身ですからこうなる事は既に織り込み済みですよ。」

 

良い子だな、温和な性格に頭もよく、それでいて度胸もある。こう言う子はコーディネイターと言えど滅多にいない、逸材と言うやつなのだろうな。

 

「スターシャ、君に無茶言って付いてきて貰う事になるとも思わなかったよ。」

 

「アムロさんの行くところに私有りです。どんなところでもお供します、それが私達ですから。」

 

「あの……お二人って付き合っているんですか?」

 

他愛のない会話をしながら艦を降りていく、艦の修復作業が行われる事にもなり、総員退艦の上で待機命令がくだされた。

向かうはパナマ司令部、総勢136名がそこへと向う。そして俺は、そこにふんぞり返っているであろう、ムルタ・アズラエルに会う為に。

 

移動している最中、車両の中から乾ドックが見えた。嫌に巨大な船体の艦が見えた気がする。

白っぽい何処となくアークエンジェルを彷彿とさせる色だが、少し形状が違うな。

同型じゃないし、一回り小さいか?

 

ああいう手合いの船に乗って戦いたいものだ、今の艦では少し能力が不足しているしな。

せめて、格納庫がもっと広々としたものが欲しい。

MSも1個中隊は欲しいからな。

 

施設内に入ると俺とニコル、スターシャの3人は待ち構えていた軍関係者に率いられ一室に案内された。

そこにはいつもと同じように、ワイングラスを片手に俺を待ち受けているムルタ・アズラエルがいた。

 

「お久しぶりですね、さっそこに座りましょう。」

 

俺はそう言われても立ったまま彼に対して問いかける。

 

「今度はなんのようだ?まさかと思うが、外にあった艦を俺達にくれるっていう、そんな話じゃないだろうな?」

 

「あ〜……、そんな話ですよ。隠し事は上手いほうだと思ったのですが、そんなにすぐに解りますか?」

 

「そんな顔をしてもなんにもならないぞ、だとしたら。イリスはどうなる?」

 

「あの実証艦は改設計をして貴方の戦列に加えさせますよ?機動艦隊構想と言うやつですね、大気圏を自由に行き来する強襲揚陸艦隊、実に男心くすぐる響きじゃないですか。」

 

コイツ、酔っているのかいつもよりも機嫌が良いな。

いや、どちらかと言えば事業に成功してシャンパンでも開けた後のようなそんなものか?

 

「その間俺達にはこの基地の守備をしろと?そういう訳か?

実業家が軍の作戦に口を挟める程に、この国の民主主義は極まったのか?」

 

「そうですね、軍の動きをどうこうするとかは私には権限はありませんが、軍の兵器に関しては口出しできる程度には。」

 

皮肉に対して事実を突きつけてくるか、あまり良い事実とは思えないな。

 

「さて、お戯れはそのくらいにしてですね。

初めまして、ムルタ・アズラエルです。ニコル・アマルフィ君ですね?」

 

「え、あ自分は」

 

やはり気がついているか、いや彼の素性はともかくそうか、有名税というものは辛いものがあるな。

 

「いえいえ、結構ですよ?僕は君の事を結構気に入っているんです。

コーディネイターの癖に、僕達を見下していないばかりかこうやって、ナチュラルに付き従っている姿に感動を覚えます。

しかもこれが、あのユーリ・アマルフィの息子と言うだけでもね。」

 

「だとしたらどうする?最悪の手段に出ることだって俺は出来る。あえて答えてもらいたい。」

 

ニコル君は不思議そうな顔をする。アズラエルは俺が自分の考えている事をだいたい知っていると踏んでいる、だからこそ会話が飛び飛びになる。

だから周囲から誤解を招く。

 

「そうですね、別にどうでも良いですよ。ここにいるのは、単なる少年兵で、宣伝に使おうものなら劇物になるような。

そんな余りにも使い道が無い代物です、僕は看過しますよ。面倒くさいことはまっぴらごめんですから。」

 

「なら、俺の判断で彼を連れ回す事に異論はないな?」

 

ワインの香りを堪能しつつ俺の言葉を聞き流し、楽しんでいる。悪趣味だな。

 

「本当、悪趣味ですね。いつか背中から刺されても知りませんよ?」

 

「覚悟はできていますよ、僕には敵が多いですからね。」

 

スターシャが俺の言葉を代弁する。代弁しなくてもと思ったが、ニコル君がいるならした方が良いか。

解らないとかそういう顔をしているしな。

 

「あ、それとこれお渡ししておきます。」

 

便箋が渡された。ラウの奴から?アズラエルと裏でつながっていたのか、いやスパイでもしているのか?

真意を確かめようとも、酔った人間は相手し辛いな。

 

「お友達から貴方へのラブレターです。

貴方のご友人という意味ではありませんが、プラントの上の上に知り合いが出来まして。

それと、これは軍事機密なのですがザフトが近々アラスカのJOSH-Aに向けて全面攻勢をかけるそうですよ。」

 

「なんだと?いや、俺にそれを言うということはサイクロプスを仕掛けているな!」

 

「御名答です。敵を一網打尽にするそうですが…、私は反対したんですよ?兵器だってただじゃない、普段の2割の値段で造らされている身にもなって下さい。」

 

「それじゃあ、アークエンジェルは体の良い囮だったという事ですか!?」

 

俺は静かに拳を強く握りしめた。

嫌に用意周到な訳だ、囮として俺達とアークエンジェルを利用して、どちらに転がろうとも本部に行く方を選定し戦略的価値の高い方を手駒に残しておく。

戦術としては立派なものだが、自爆攻撃が全てを台無しにしている。

 

「それでは、僕はまた移動がありますのでよろしくお願いしますよ?」

 

俺達を残してアズラエルが退室すると嫌な空気が室内に残った。

 

 

 


 

綺麗な花が咲く庭に、ピンクのロングヘアを靡かせて僕の眼の前に現れるのは、ラクス・クライン。

プラントの歌姫にして、評議会議員シーゲル・クラインの娘。この戦争の中で最も多くの人を間接的に殺した人の娘。

 

「キラ、お身体の具合は大丈夫ですか?」

 

「うん、大夫良くなったと思うよ。」

 

どうして僕はここにいるのかと言う疑問は尽きることは無い事柄だけれど、今は生きていると言う現状を受け入れたい。

けれど……指輪が無くなったことだけは正直受け入れたくない。

 

フレイに指輪を渡した時、交換に貰った彼女の私物である指輪。僕の手には少し小さかったから、ネックレスにして僕は首から下げていたんだ。

だけどあの戦闘で紛失しちゃったのかもしれない。

 

「アークエンジェルは無事にアラスカまで到着したそうですよ?私の協力者様からそ言う連絡がありました…。

やっぱり地球軍に戻りたいですか?」

 

「ううん、地球軍には戻りたい訳じゃないんだ。ただ、あの船には大切な人達が、大切な人が乗っているから。

だから、僕はあの船に戻りたいとそう思ってるんだ。」

 

「そう………ですか…。」

 

悲しそうな顔をする彼女、何を考えているのか深い沈黙が僕らを包む。

彼女の掌の上で、ピンクボールのハロは耳をパタパタとはためかせていてその空気を和ませようとしている。

 

「キラ……これをお渡しします。」

 

「これは……!どうして、無くしたものとばかり思ってたんだ。ありがとう!」

 

フレイから貰った指輪が僕の手元に戻ってきた、フレイと僕を繋ぐ一つの糸が今ここに戻ってきたんだ。チェーンもしっかり残ってる。少し焦げてるけど。

ギュッと手の中で確かにはここにある事を確認しつつ、安堵する。

だからこそ、僕は地球に戻らなくちゃならない。

 

アークエンジェルが無事にアラスカに到着したって事は、必ずフレイは生きている。

彼女は強いんだ、それこそ僕と同じくらいには強いんだ。だから、必ず生きている。

 

「ここにいても良いのですよ?ここでこうして暮らしていても。」

 

僕はネックレスを首につけながらその言葉を聞いた。でも、もう決めた事なんだ。僕の為、彼女の為に戦うと。

 

「僕は戻らなくちゃ駄目なんだ。」

 

「なぜ? あなたお1人戻ったところで、状況は変わりませんわ?」

 

僕が意見を持つなんてこと、僕が意見を押し通すなんてこと今まで考えた事無かったけど、でももう僕は逃げる事は止めたんだ。

 

「僕には護るべき人も護るべき場所もある、その為に戦ってきたんだ。だから、僕はその自分の腕の中で護れるものを守りたい。」

 

「そうですか……、解りました。」

 

扉の開く音がする、誰かが来た。

白服を着た人が立っていた、何処かであった事があるんだろうか?誰かに似ている気がする。

 

「ラウ・ラ様用意が出来たのですね。」

 

「えぇ、早くしなければなりませんがね。」

 

「貴方はいったい…?」

 

二人に連れられ僕は歩みを進める

 

「ラクス嬢、私が協力するのはこれっきりです。」

 

見知らぬ場所に僕は連れられ、扉を再び潜る。白服の男はそこで止まって僕達をみる。

ラクスと僕も足を止めてそっちを見る。

 

 

「キラ・ヤマト君次に会う時は敵となっているだろう、一つだけ覚えておいてほしい。可能性を信じろ、その先に未来はあると。」

 

白服の男はそれだけ言って扉を閉めた。

 

 

 




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