その蒼い宇宙を見て   作:丸亀導師

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時間の境界線












宇宙(そら)の瞬き

老人は一人のベッドの直ぐ側に設けられた、椅子に座りもせず眼前に眠りにつく、顔を包帯で巻かれ眠りにつく男を見下ろしている。

パイロットの性別が判明したのは骨格からだった、顔面は酷く焼け爛れ、最早皮は皮としての役割を果たす事なく、皮膚呼吸も不可能である。

 

クリーニング療法による皮膚移植も検討されたが、男の顔を知るものなど、ここには誰ひとりいない。

哀れな男は、このままケロイドで顔がまるでのっぺらぼうの様になる外無いのか?

 

機体のデータからコックピット内部の様子や、通信履歴を遡ればこの男の顔が伺い知れるかもしれないが、それよりも速くこの男が目を覚ますかも知れない。

 

「本当に大丈夫なのだろうな、未知の感染症を媒介していないとも限らないのではないか?」

 

「その心配はありませんね、無菌室での検査の結果該当者の血液や体内から検出されたのは、我々の内でもごくありふれたものばかりです。

それにです、もしそんなものがあれば今頃世界はパンデミックですよ。一月前からいるんです、誰も免疫を持っていませんから。

 

それよりも、興味深いものがあります。」

 

老人の後ろから出て来た医者であろう男は、タブレットを起動するとそれを老人に見せる。

 

「この男は我々とほぼ同じDNAを持っていますが、一部特殊なものがあります。仮にΩ因子とでも言うべきでしょうが、彼はそれを体内に持っていますので、現行の人類とは少し異なるようです。」

 

老人はその言葉を聞いて、眠り続ける男に目を向ける。その瞳は興味を見せた様に。

 

 


 


 

「これで9つ…、ガンバレルは残弾無し。リニアガンは、残り3発か?

こちらアムロ、敵の第二波がやんだ。今のうちに補給をしたいものは、母艦へと着艦せよ。俺も、着艦する。」

 

第一波、第二波と敵の攻勢を跳ね除け俺は一度、母艦へと補給の為に帰還する。

推進剤もさることながら、左舷前方のアポジが咳き込んでいる。

無理のさせ過ぎは機体寿命の低下と、自らの死に直結する。

 

「補給を頼む、簡易修理もだ。俺も手伝うが、左側第4アポジが咳き込んでいるんだ。」

 

「解っちゃいますけどね、そんな簡単には行きませんぜ!」

 

機体の反応速度もそうだが、機体限界が近い。

こんな事では、撃墜されているのと変わらないではないか?いや、生きてまた出撃出来るだけまだマシか?

 

「ホラ!中尉はさっさと休憩室に行った行った!機体の整備よりも身体の整備をしてくるのがパイロットの仕事だろうが!」

 

そう言って一度格納庫から吐き出されるように、休憩室に押し込まれる。

確かに彼等の言う通りか?

とりあえず、何か身体に入れたほうが体力的にも…。

 

「俺はもう行きたくねぇ!あんな、あんな…!あんな奴ら、俺等が勝てるわけねぇだろ!

機体性能が違いすぎるじゃねえか、今は運良く帰ってこれたけれど、次はそうはいかないかもしれないんだぞ!」

 

恐怖というものは人をおかしくするというが、それは仕方のないことなのかも知れない。

感情を抑制して戦うことなんか、俺達人間には出来ないだろう。必ず何処かで焦りや油断が出てくるのはそうで、そこから想定外の事が起きれば、恐慌状態にもなる。

だから騒いだり喚いたりするのは仕方の無いことなのだが。

 

「おいっ!なら飛ばないのか?ここに引きこもっていたとしても、敵は遅からず来るだろう。

その時、お前は逃げる事も出来ずに死んでいくぞ、ならまだ抗える術があるのなら、まずは戦って生き残ろう。

こんなところで死んでちゃ、辞任する事だって出来ないだろう?」

 

軍を辞めるのは別に構わない、それを止めるのは出来ない。

だが、今は戦ってもらわなければ、それこそ俺が困るのだ。

 

暫くの間、喚いていた奴の話を聞きながらも自らの行いを整理しつつ、次の戦闘時の注意点を脳裏に叩き込む。

話を聞くに、先月娘が産まれたばかりだとか

それならばと、彼に生き残るアドバイスでもしてやろうという気にもなる。

 

幼い子供を抱く彼と、その妻の写真を俺に見せてくれる。その顔には笑顔と、ある種の決意が現れる。

彼には生き残るための闘争心がある、だから彼は生き延びる為に様々に戦うのだろう。それがどの様な結果になるとしても、決して後悔の無いように。

 

そしてそれも終われば、再び戦場が始まる。

宇宙(そら)の瞬きは、随分と鳴りを潜めた。

戦闘自体は散発的になってきている、敵も味方も疲弊して互いに充分に戦力の集結を行えていないからだ。

だからこそ、こういうときに限って攻勢側は奥の手を隠しているものだ。

 

「……ア…中。アム…・レイ中尉!敵の新手が出現、戦闘後のデブリに紛れていたもよう!

装備から重装型と断定、至急通達のポイントで迎撃を行え!」

 

こちらの部隊の立て直しもまだなのに、更に来るか。

これは、単独で行くしか無いのか…?

俺に奴らを、止めることが出来るか?いや、俺以外に誰が出来るか!

 

一人ポイントへと急行する、各地から引き抜かれた者達が件の部隊と戦闘をしていた。

だが、敵の護衛も中々に手強いと見た、白色のパーソナルカラー…?

何だ、この違和感は?いや、俺はコイツを知っている。

 

『貴様、ラウ・ラ・フラガ!何故ここにいる!』

 

俺がそう言葉を発したのと、奴が俺を認識したのはほぼ同時だった。

光と影が瞬き、1つまた1つと光が広がるたびに何人かの命が消えていく。

その中で、俺は友人と再会した。

 

『その憎悪はなんだ、貴様何に絶望した!』

 

俺は、矢継ぎ早に次の言葉を放つ。

勿論、向こうとの無線は一切途絶しているにも関わらず、俺は遠慮なしに語り掛ける。 

 

『貴様こそ、どうしてそこまで抗える。望まれて産まれてきた訳ではあるまいに!』

 

よく訓練された動きに隙の生じ辛い、細かな機動は奴の全力を眼の前に露にする。

 

俺が奴を抑えなければ、味方はどれ程落ちるだろうか?

未だに未熟なこの男に、どれ程のものが落とされただろうか?

 

『私と戦いながらこうも他所に意識を向けられるか、ならばここで引導を渡してやろう。貴様こそが我が最大の障壁なのだからな!』

 

互いに決定打が出ない、ガンバレルは牽制にもならず逆に俺の機動性が削られる可能性すら有る。

それ故に、オールレンジ攻撃は奴には通じない。

 

俺の足止めをするコイツには人類へと復讐心があると同時に何か、寂しさのようなそんな物を感じる。

それは……例えば、迷いのようなものが…

 

ゆっくりと流れる時間の中、軌跡を辿って進む道。

無理をさせ過ぎた機体が悲鳴を挙げるのと、ラウのMSの遠距離武装を破壊したのは、ほぼ同時であった。

 

重装型の機体がコロニーへと行く、MA隊がそれを追って……

 

そして、世界樹は落ちた。

実際には、コロニーの大凡8割に大なり小なりの損害が出ているというのが事実だ。

だが、だからといってその損害は馬鹿には出来ない。

 

世界樹は地球軍の宇宙における前線に位置していて、何より軍港としての役割があった。

それが損傷しているということは、戦略上の拠点の損失と同意義であり、戦略上の敗北を意味する。

 

そして、そんな損害の状況がある中でも人というのはその被害を誰かに責任を擦り付けようとするものだ。

勿論、防衛任務についていた提督は降格処分とされその損害の補填をしようと、艦艇の増産とMAの急増を行う。

 

また、戦意の損失を防ぐ為に、戦いで戦果を上げたものを神輿にするのが常套手段であり、俺は正にそれにうってつけだった。

俺は戦闘の経過とMSという全く新しい兵器に対して、俺なりの回答を余儀なくされるだろう事は、考える迄もない事実だった。

 




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