久し振りに合ったアルの肩には何やら得体のしれない狂気が纏わりついていた。
彼は何を血迷ったのか、はたまた俺から話を聞いたことを思い出してそれを実行したのか…、彼の隣には彼に良く似た子供がいた。
彼の名はラウ。ラウ・ラ・フラガ、まだ幼く歳の頃は5つにも満たないだろうか。
俺の息子とは4つ程離れた彼を、俺の息子は快く受け入れた。
孤児院の子供達と違い、この子の事をまるで自分の弟分のように可愛がっている。
アルは彼を俺のところに預けに来たという、何故そんな事をするのか、そんな事は決まっている。やましいことがあるのだと。
俺は彼を問い詰めた、言わなくても貴様ならば解るだろうと言われた。
そう、ラウは彼のクローンだったのだ。
「カガリ、後は頼む。」
「お父様もいきましょう!あんなブルーコスモスの言葉等無視をして、何故お父様が逝かねばならないのですか!」
そんな言葉が周囲に響く、哀れなものですね。最初から連合に入っていればこんな事にならずに済んでいたでしょうに。
ですが、入っていたらいたでカーペンタリアが目と鼻の先であるオーブ等、吹いて飛ぶ様なものでしょうからどっちに転んでも駄目ですがね。
中立国というものは戦場にならないという保証があるわけではない、ただ全ての交戦国に対してある意味で敵対しているとすら言える存在です。
どちらにしても、差し伸べられた救いの手すら払いのけなければならないのが、必然です。
「では行きましょうか皆さん、長居は無用ですから。
アークエンジェル並びに、オーブ軍の皆さんは早いところ宇宙に上がる準備をしたほうが良いですよ?
今は向こうも判断に倦ねているようですが、明日の朝には攻撃が再開されるでしょうから。
あぁ、マスドライバーまで行けば安全ですよ?あそこは必ず無傷で落とさなければ連合も意味がないと思っていますから、滅多な事では攻撃しません。
したとしても、それは目標を失う事に等しい行為ですので。」
ひとしきりそう言うと、僕は3人を連れて部屋を出ていく。ウズミさん、彼との会話は実に有意義だった、願わくば平時に商談をしたかったくらいですよ。
僕の後ろをフレイさんが、ついてこようとしています。
「フレイさんは、来なくてもいいですよ?積もる話もあるでしょうから、僕等は先に行きますので。それでは。」
僕とウズミさんの会談で決まった事は一つ、オーブのマスドライバーを破壊しないという事です。
これは態とというのが正しいのですが、連合はマスドライバーさえ手に入ればこの戦闘の意味を失います。
だから何だということですが、ここで一つの手法がある。
無防備地区宣言と言う有名無実化した制度が存在する。
つまりこの、マスドライバー施設が存在するカグヤ島のみがその宣言を行わず、大西洋連邦との徹底抗戦を謳うという手法です。
この方法は最重要目標であるマスドライバーを人質とする事によって、連合戦力を誘引し連合が否応無しに交渉のテーブルに付かざるを得ない状況を作り出す。唯一の方法でもある。
そして、私達が出ていった後速やかに内部で革命を起こすことにより、オーブ首長国の代表首長の変更を行う。
それに対する生贄として、ウズミ以下現在の代表首長の首を物理的に飛ばすことにより、その子供達への飛び火を防ぐ。
その後、大西洋連邦との連合との間の講話を、カガリ・ユラ・アスハの名において下院によって行う。
これならば、オーブのカガリさんに咎が向く事無く、父親に利用された可哀想な娘と言う印象を大西洋連邦の民衆に与える事が出来る。
「現実の前では理想というものは単なる空想に過ぎない、ですが道化であるがゆえに、見える世界もあるのですよ…。」
「は?おっさん何言ってたんだ?」
彼等には解らないでしょうがね。
「君達も別に良かったんですよ?彼等と話をしても。」
「あのさぁ、そんな事しても俺達は寿命が短いんだぜ?悲しくなるだけだからよ。」
彼等は投薬のせいで人間としての機能をとうの昔になくし始めている。過剰な反応速度に対する、心機能の劣化は彼等の身体を、蝕み、人よりも遥かに早く亡くなるだろう事は明らかで。
「すいませんね、僕のせいで。もう少し早ければ君達の命を削らずに済んだかもしれないのに。
僕は、悪魔を殺そうとするあまり同じ悪魔になってしまった。」
そんな言葉に彼等は呆れたように言う、彼等はエイプリルフールクライシスで亡くなった家族の復讐のためにここまで来たのだ。後悔もないのだろう。
「さて皆さん、まだ一仕事あります。出来る限りの将兵を宇宙へと上げるお手伝いでもしにいきましょうか。」
願わくばあの小娘が立派な理想主義を掲げられる、そんな戦後にに成れることを願いますよ。
沈痛な空気の中、ドミニオンから来たのはフレイだけになった。バジルール中尉、いや少佐?がドミニオンの指揮をとっているらしいと言う事はフレイから聞いたけれど、ここに降りてくることはなかった。
そんな中で一人取り残されているフレイに、僕達は質問をしようとする。
「ちょっと待って、色々話さなくちゃならない事はあるけれど、今は落ち着いて欲しい。
ほら…、カガリだって今は一人になりたいでしょ?」
「一人に……か、そうだな。私にはなんの力もない、あの男が言った言葉もお父様が言った言葉も全て現実的に、たぶん最善策なんだろう。
解っている、解っているが納得…できないんだ…。だから、今は
カガリがフレイの事を
アークエンジェルにいた時は、名前を呼んでいたのにそんな事になってしまうのだろうか?
それに対するフレイはがっかりしたような表情をしながらも、否定しない。
嫌われる事を知っていてここに残ったんだ。
「カガリ……、駄目だよ。ソイツなんて言っちゃ、フレイもフレイだよ。なんで、否定しないのさせっかく友達になったんでしょ?」
「私は良いのよ、嫌われるなんて私の所属しているのはアズラエルさんの下、本当なら貴方達の敵として前に現れる筈だったんだもの。」
フレイの目は明らかに泳いでいた、動揺が顔に出ていた。
皆それに気が付いていた、知らないのは顔を伏せているカガリだけだった。
「とりあえずさ、なんであのムルタさん?がここにいるのか、聞いても良い?」
「うん……、私がなんでここにいるのかも話す。」
彼女が話す内容は、実に荒唐無稽なものだったけれど同時にあのムルタさんの印象を良くした。
たぶん、ブルーコスモスの理念に忠実に生きているだけで、財界人としては非常にまともな人なんだろう。
カガリはひっそりとそれを聞いていた、いつものような激情も無ければ、割って入るような素振りも見せない。
ただ、淡々とそれを聞きながら納得のいかない顔をしながら。
正直余りにも虫の良い話だと思う、自分の会社の利益にならないから、だから僕達に味方をするというその言葉が、その行動原理が。だけど、それが逆に人間臭い嫌いにはなれない人だ。
寧ろ、アムロさんのほうがよっぽど物語の登場人物みたいで、現実味を感じないから、納得出来てしまう。
「フレイ……、あのさ。さっきは、ゴメン……。でも、踏ん切りが出来ないんだ、だって私は母様の顔すら知らない。
お父様だけが私の唯一の家族だから……、ゴメン…。」
「良いよ、私だってママの顔すら知らないし、パパが落とされそうになった時思ったもの。どうしてパパがって、でも私は失わなかった。
カガリは私よりも辛い思いをする、それも顔の知らない誰かの為にだから、怒ってなんかいないよ?」
カガリは、それを聞いて泣いた、それはもう今まで見たこともないほどに。
……
僕等はアークエンジェルと共にマスドライバーで打ち上げられ、宇宙へと旅立つ。
それと一緒に、ドミニオンがゆっくりと空を登る姿が艦橋から見える。
次第に小さくなっていくマスドライバー、そしてオーブ。
周囲からの攻撃は一切無く、平和な時と同じ様に宇宙へと飛び立つ。
これから僕達は、オーブ軍残党として生きなければならない。
フレイ達は大丈夫なんだろうか。
そんな考えが頭をよぎる、重力を振り切るには第一宇宙速度を超えなければならないのに、あの船はそんな速度出しているようにはとても見えないから。もしかしたら嘘をついているのかもしれないと、そう思ったからだ。
でも直ぐにその考えが杞憂だったことに、自分の人を信じない部分に嫌気が差した。
そんな考えも吹き飛ぶ出来事が来るまでは。
「僕とカガリが姉弟?まさか、そんな事。」
考えもしない事を聞くと人は驚きのあまり、何を喋れば良いのかわからなくなって言葉が出なくなるという。
今の僕はまさにそんな状態なんだろう。
図らずも、僕とカガリは血縁関係であり互いにそれを意識せざるを得なくなる。カガリにとって、僕は唯一の肉親になったのだから。カガリは、僕のことを失いたくないのかもしれない、何故かそんなカガリを見ると無性に可愛く思えた。
日が落ちて、暗闇がやってきてそして朝が来る。
俺達はその戦闘経過から、たった1日で敵の基地を完全に掌握しザフトの部隊のその尽くを駆逐した。
勿論、街や村に逃げ延びた者たちもいるだろう、だがそういう奴に限って民衆に殺されるのだ。
どれ程恐ろしいことか。
ここ台湾島では猛暑によって多くの人間が亡くなった、マラリアと言う病気はどれ程免疫を向上させようとも、否応なしに彼等の命を奪った。それだけではない、ワクチンや血清は熱に弱くそれだけで薬がなくなる。
NJを投下したザフトの兵は、それだけでも恨みを買っていたのだ。そして、自分達の言いなりの人間を優遇しその他の人間を侮辱するかのように扱った。
それが報いなのだろうな。
早々に降伏した者たちとは対象的に、戦後どの様な事になるのか正直なところ想像に難しくない。
それでも、掃討戦は2日にわたった。
俺の隷下の部隊は、対MS戦闘が終わると早々に艦隊に帰還し、後は通常戦力がそれを担う。
適材適所というものだろう、俺達には設営部隊も無いのだ。専ら奇襲、強襲が主任務になる当たり前だ。
「オーブが降伏したか……。」
その報告が入ったのはまさにその時だろう。
長期的な戦闘となる見通しとなっていたオーブは、戦力を一局所に集中し連合の戦略目標であるマスドライバーを人質に、その島に立て籠もった。
確かにその方法ならば民衆に被害は出ないだろう、だが為政者としては最悪の決断をしたとも言える。
国民を見捨て、施設だけをその戦力の下に護ろうとする姿は、実に独裁的に見えたことだろう。
オーブの住人の殆どがそのことの意味を知っていたとしても、他国の人間からはそうは見えない。
そうなったら最後、革命が起きても仕方が無いというように、軍によるクーデターすら可能だ。
「護るためならば自らの命すら捨てる覚悟を持って、汎ゆる手段を模索する。為政者としては、鑑だな。」
誰にでも真似なんて出来るものでもない、自ら進んで悪役になる。十数年は諸外国から白い目で見られるだろうに、自分の死後よりも今を取るか……。
だが、死後その功績を再び世間に公表し評価を回復させた事例は存在する。それに期待しよう。
「どうしたんです?また、難しい顔をして。
家の機体、整備に入ったんですから書類も溜まってるんで、お願いしますよ?」
「書類か…NJのせいもさることながら、家の艦の特性のせいで基本紙媒体だものな、これは負担になるよ。
誰か秘書でも雇うか?……。
冗談は置いといてだな、オーブでドミニオンが確認されたんだそうだ。
俺達にはそれを追跡せよとのことだ。」
そう言うと彼女は少し笑う。元々見逃したのだ、どう出るかなんて知っていたのだから俺達なんてマッチポンプだろう。
「それで?今回はどうするんですか、もう彼等は宇宙に出たみたいですけど?」
「俺等の戦力で問題があるとすれば、MAだ。幸いにもグラスパーはバッテリー駆動だ、ストライカーパックを着ければ宇宙でも飛べるさ。
どこに行くか、彼等が何処に向かっているのか。それは…、俺の勘かそれとも。
計画書通りに行くかだな。
一応、戦力をそこで集結する手筈にはなっているが、一番の問題は。」
「クライン派にどれだけの戦力があるのか、ですか。」
こういう事態を想定して段取りとしてL4中域に戦力を集結する手筈にしてある。
地球軍の戦力がボアズを攻略するであろうことは、解りきったことだ。
彼等とは遭遇しないようしなければならない。
「それで、何時行きます?」
「明日じゃ駄目かな?」
「急すぎですよ?でも、悪くはないんじゃないですか?何時ものことですし。」
笑いがこみ上げてくる、そうだな何時ものことだ。
こういう時の為にドック艦があれば良いんだがな、俺達の戦力なら一隻くらいあっても罰は当たらないだろうに。
「では、翌朝0900時に出発する。それまでに必需品を揃えておくように、各員にも良く通達してくれ。」
「了解しました。」
久し振りの宇宙か…楽しみだな。
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