その日、俺はこの世界に来て初めて
未だに彷徨う声も木霊しない、殺風景な情景に逆に新鮮味を覚える。
CEも60年を過ぎ早3年という、様々な問題を抱えいつ大規模な宇宙戦争が起きてもおかしくはないこの世界に、俺はもしかすると災禍の種を蒔こうとしているのかも知れない。
「君と二人きりでこんなところに来る日が来ようとは、昔は思わなかったよ。」
「私もです。新婚旅行……と言うには僅か遅すぎますが、でも本当に良かったんですか?
まだ、模擬戦であの子は貴方に勝っていないのに。」
俺の息子は大西洋連邦の軍人になるという。正直な話、複雑な気分だ。結局は俺と同じ道を歩んでいるのではないか、という不安で溢れている。
親ばかなのか、それとも子供を信じてやれてないのか。
大学卒業と共に直接幹部候補生学校へと入学、それからパイロット課程を目指すという。
俺にそんな才能あっただろうか?確かに、地球連邦軍内部の改革をやるには通るべき道だっただろうから、それなりに学習したが、結局は士官学校に幹部学校に入る前にこの世界に来てしまったからな。
「それで、どうします?直接行きましょうか?」
「いや、約束の時間迄はまだ早い。少し、観光しながら時間を潰そうと思う。」
約束の時間は夜だ、昼間に行ったところで意味は無い。
周囲の公園には、子どもたちが遊んでいて休日を家族で過ごす人々の姿がある。
そんな時に何かが俺の直ぐ側に飛んできた、不格好で未だに拙い技術で作られているものだと解る。鳥形のロボット。
それとそれを追いかけて来た黒髪の少年。
そのすぐ後に、その少年の母親と思われる人物が現れた。これは手作りだろうな、それもたぶん少年の。将来はメカニックマンになるのだろうか?
この先何かあれば、この子も戦争に行くのだろうか?
「すいません、子供の玩具がそちらに行ってしまって。」
「気にしなくても大丈夫ですよ、子供は夢中になることが仕事ですから。それに、長所は伸ばしてこそですよ。」
そう言ってそれを返す。遠くには連れの家族の姿も見える、家族揃って……そう言う光景は良いものだな。
間に入っては迷惑だろう、僕等はそれを感じて直ぐにそこを離れる。
その前に
「今を大切にしてください、この先何があっても貴女のことを子供が尊敬できると、そう思えるように。」
そう言って離れた。彼女に嫌な予感があったから。
出港までの十数分の間、少年達は一人の友人の船出に集い、死ぬなよ、だとかまた近い内にあおう等と口々に言う。
そんな普通とは少し違う光景と、そんな友人を持てる彼等に正直なところ良いものを見たと思う。
これから俺達は1度、月方面。L1コロニー群の方へと出港する。半壊したコロニー群へと大軍で向かう事は出来ず、かと言って互いに指名手配されている彼等に、それを任すことも出来ない。
大手を振って正面から堂々と向かえるのは、俺達13艦隊の三隻のみ。
ならば、その仕事を完遂することが俺達の仕事と言える。
だからこそ、より危険な仕事とも言える。
俺達の艦隊は、そう言う行為を行うということは、月面主力艦隊と大っぴらに援助を期待出来ないという、致命的な部分が出てくる。
戦力の増強を表立って行えば、現在の大西洋連邦主体の、もっと言えば戦術単位を格上げされた場合、ザフトの目を引いてしまう恐れがある。
それ故に、この艦隊の数+1程度の数でやらねばならない。自分で言った事とはいえ、危険なことをする事になる。戦争とはままならないものだな。
「本当に良かったんですか?あの娘に喋ってしまって。」
「別に良いさ、アズラエルなら出汁に使うだろうし、シーゲル閣下なら扇動に使われるかもしれない。
カガリ嬢に至ってはまだ若すぎて、腹の中の探り合いでは到底勝つことはできない。
ラクス・クラインは純粋だよ。純粋に、打算無くこの戦争の終結を望んでいる、それに役割を持ちたい年頃だしね。最適だと思うよ。」
「だとしても、貴方の出自を話すなんて豪快が過ぎますよ。今度なにかする時は、私も同席させてくださいね?」
ラクス・クライン、彼女にだけは俺の出自を話した。ムウも知らない、俺という一人の人間のクローンという存在を。
彼女は、ラウの正体を知ってなお動揺せずにそれを静観した。
それだけではない、キラ・ヤマトが人工子宮で育ったということも含めて、彼女という存在が優しさを持っているということも、強い心を持っているということも。
俺がどういう存在なのか、ラウという存在の友人という意味から、既に想定していたという想像力の高さも。
だが、俺という存在に対しての期待は拭えなかった、俺という存在がどういうものか理解していなかったから。
目を瞑り彼女が俺にした質疑を思い出す。
〜
『アナタは人を導くという選択を出来るのだと私は考えています。seedを持つもの、ニュータイプというあのダイクンが提示したものは、正に私の想像した姿です。』
そう…、純粋に世界を良くしようとするあまり、現実を想像と勘違いするほどに正に、理想主義者だ。
確かに一人の賢人に指導された者達は、より良い道を進むだろう。
だが、その賢人がいなくなったら?
決まっている、路頭に迷い我こそはというものが現れ、内戦を始める。
だからこそ、革命家は世捨て人になる。現実を見たくなくて。
『俺は世直しなんか考えちゃいないし、俺に政治家が出来るとも思っちゃいない。人は導くのではなく、考えながら進まなければいずれ衰退し、衰亡する。
たった一人の賢人に出来ることは少なく、いずれ官僚主義と大衆に呑み込まれ、その賢人すら想像しなかった方向へと進んでいくだろう。
だからこそ俺は政治家にはならないし、成れない。
逆に言えば、俺は軍という存在から大西洋連邦を、イヤ今は連合軍というものの体質を少しずつ良くしていく事しか出来ない。
理想主義も良いが、理想と現実の区別をつけないと、足元を掬われるぞ?』
『では、私達はどうすれば良いのですか?ただ、愛する人を護ろうと、世界を其の為に良くしようとする行為はいけないことなのですか?』
『誰かのために何かを為そうというのなら、性急にならず1度静観し、物事を見極めるところから始めなければならない。
急ぎすぎれば軋轢を生んで、遅すぎれば腐る。
それは学んで見て経験して初めて、解ることだろう。
だから、今の君のように責任感に押し潰される必要はない、君はまだほんの小さな女の子じゃないか。』
『ですが、人は正しい道を選べないこともあります。』
指を絡ませて祈るようにする彼女の姿は、導きを欲している民のように神に縋っているようだ。
『君が渇望する想像の中での俺はきっと、神のようになんでも手に取るように解るのだろう?
だが現実の俺は、一人の人間として不完全だ。精神的にも………、肉体的にもな。
クローンというものを君は知っているだろう?ラウから得た物は、君にその真実を提示する。
ラウの寿命はクローンだからのものではなく、人工子宮の不完全さ、早すぎた技術によって齎されたものだ。
だが、彼はそれを信じたくなかった、誰かのせいにしたかった。俺と比較してしまったというものもある。』
彼女は俺の顔を見て嫌な想像をしている。自分の信じる存在が崩れさる、現実とは無情なものだ
『クローンというものは何も人工子宮だけで出来るわけじゃない。
俺は…俺という人間は、一人の人間の体細胞から生まれたクローンだ。俺の父と呼べる男は、俺と同じ顔同じ仕草をしたが、俺よりも遥かに現実を見通し、世界に干渉することを放棄していた。
自分というものの影響を見定めて、あえて姿を隠していた。
いつでも外に出て、世界を変えようとすることは出来たはずなのに、人々の本質である〘御輿〙になることを恐れた。
俺はそれを間近で見てきた、少しずつ少しずつ世界を良くしようとする父の姿を。
君はどうしたい?理想ではなく、今目の前にいる男の現実を聞いて?
もし、その決意がそれでも揺るがないのなら対等なものとして、手助けはしよう。
だが、一歩前に踏み出せばそこは誰も知らない道が前に横たわっている。
選択肢は提示できるが選択するのは君だ、何をなし何をなさぬか。
君には多くの時間がある、ゆっくりでいい。考えるんだ、理想と現実その折り合いを。』
説教くさく言うが俺自身、そんなものを行えるほど物事の本質を見抜けるものではない。
人の考えは時と共に変化する、それは人一人の中ですらな。
真面目な彼女だ、真剣に考えるだろう。
〜
「解った、但し危険なところには一緒には連れていけないぞ?俺は君に死んでほしくないからね」
「嫌です、その時は私は部隊を率いて行きますよ。そうすれば危険だって怖くありませんから。」
勇敢なのは良いことだが、勇み足にならないか心配だな。
ちょうどそんな事を話している間に、ニコル君はこちらに戻って来る。
彼は疑問を抱きつつ、現実に打ちのめされながらも希望を持って歩いている。
その姿が俺には眩しく見えていた。
艦内に警報が鳴り響き、バタバタと足音がするかのように慌ただしく、機体は進んでいく。
僕等がメンデルを出て、地球衛星軌道上迄の道のりの中、戦いは終わる事もない。
幾度も僕等は戦闘を行い前に進んでいく。
ザフトの艦艇が地球軌道上に増えているのは、地上に残った戦力が宇宙に戻るのを手助けする為だ。
解っている。彼等を倒すということは、その分ザフトの人間が死んでいくということを。
宇宙に上がり直ぐにOSの変換もままならず溺れていくジン、宙をかけることの出来ないディン。
ザウートに至っては単なる的にしかならない、そんな中でもそんな彼等を果敢に救おうと、作戦も立てずに来るザフトの艦艇は烏合の衆だ。
連携を知らない、軍隊であるフォーメーションを知らないMSというアドバンテージを失ったザフトには、戦う術を持たない。
彼等の戦い方は、ローマと戦うゲルマン人のように個の力でぶつかるしかないのだ。
「投降してください!このままでは、貴方達の艦を落とさなければならないんです!」
僕等は狩っていく、諦めて折れる人はおらず僕の声、
〘ニコル・アマルフィ〙としての声は彼等に届かない。
〘裏切り者〙そんな言葉を言われ、否定出来ない僕にも否はある。でも、彼等は恐れているんだ。地上で行った蛮行の報復を。
今までに投降した人達の数は200人に満たない。艦艇に所属している人数は千は優に超えるのに。
「これで4度目、どれだけ来るんでしょうか。月地球間L1までの軌道の制宙権は既に連合にあるというのに、どうして来るのでしょうか。」
「人は自分の信じたいことを信じる。そういう生き物だ、だから連合のMSの性能がプラントが作り出したそれよりも上だと認めたくない人物が送り出している。
問題は俺のそんな考えの中でもっと嫌な、心理的な作戦の可能性もある。」
アムロ司令はそんな状況の中、様々な考えを僕に聞かせてくれる。この戦争の根幹から、現場の心理から。
そして、僕の疑問に対しても。
「この戦争で俺達は大量破壊兵器を数度使った、核とNJだ。互いに多くの犠牲者を出して、未だにその脅威は使用できなくなった今も、続いている。
もしもNJ下で核が使用出来るようになったら、連合は躊躇なく核を戦術目的で使う。
逆にプラントには戦略的な大量破壊兵器は存在しているか、それが大いなる疑問でもある。」
「シーゲルさんが言っていたジェネシスという兵器、それを持っていて人は使おうとするのでしょうか?だってそれは、あまりにも危険すぎます。」
「今の俺達は、それの下準備をやらされていると考えることが出来る。」
司令は語る、人がトリガーを引く心理に最も直結するものは、恐怖であるということを。
現在のプラントは、このままジリジリと押されればやがて敵が本国までやってくるという恐怖で、頭が麻痺してきているはずという。
そして、もしも今僕達がこうしてザフトの部隊を削っていくことが、その目的に使われているのだとしたら、それはそんな判断が出来る人はきっと、人として何処か大切なものを失っているとしか思えない。
「じゃあ、敵の策謀に乗ってるって事になるじゃないですか!こんな事させる相手を敵に回して!」
「あぁ、そうなる。この戦争はもう、そういう奴の掌の上で動いているというものだろう。途轍もない謀略家だよ、連合もプラントも戦争を辞めることが出来ない。
コイツがその目的を果たすまで、戦争を終わらせないようにすれば簡単に済むことだ。」
今のプラントを実質的に支配している、ダイクンという人物の姿が人のそれからまるで見えない化け物になったように、僕は錯覚している。あまりにも巨大な敵は、何を目的にしているのか全く解らない、まるでプラントに攻めて来いと言っているみたいに。
「どのように進んでいくか、君はこの戦争の本質が見えてきたんじゃないか?俺にはない、プラントの人間としての視点。
どうやったら上手くいくのか。」
「解りません、何が答えなのか何をすれば差別はなくなるのか、互いが互いに罵り合ってそんな子供じみた感情で戦争をする。
何で、人類というものはもっと高慢な存在じゃないんですか?」
驕り高ぶり、それでも未来のために汎ゆるものを貪欲に取り込んで、前に進んでいこうとするのが人類じゃないのだろうか?
コーディネイターをこの世界に生み出したのもきっと最初はそんな、未来のためにという心が少しでもあったからじゃないのか?
「高慢か…、人はそこまでのものじゃないさ。
洪水に死に火山に死に台風におろおろとし、ちょっとした暑さと寒さで死んでいく。高慢に傲慢なるほど、人というものは強くない。
弱いからこそ、恐れるからこそ人は前に進んでいく、より良くより楽に生きるために。
それが、この戦争の根幹さ。互いに自分達の事を持つものと持たざるものと錯覚し、勝手に怖がった結果さ。」
「それじゃあまるで、自然界に生きているのと何ら変わりないじゃないですか!
こんな、こんな単純な事で互いを認め合うという簡単な事が出来ないだけで、いったいこの戦争に何の意味があるっていうんですか!」
僕はこの戦争に嫌気が刺していた、たぶんこれが正常なものなんだろうと思う。もしも麻痺した結果、僕等に最後まで抗った人達のように、恐怖の内にすべてを拒否して死ぬような、そんな心になったら世界はどうなってしまうのか?
「だから、君達という世代は宝なんだ。
大人の歪んだ思想に対して、何で?という疑問を抱くことが出来る。
戦争を終わらせることが出来るのは、君達みたいな人達なのかもしれない。
さ、そろそろL1に到着するぞ。ジャンク屋から得た情報には、近郊部にまだ手付かずの廃棄コロニーがあるそうだ、プラントからの攻勢のせいでこの中立地帯は今まで誰も手を出せなかったそうだが、今は違う。
君もパイロットだ、戦闘とは違う細かな操縦テクニックが必要な繊細な作業だ。期待しているよ?」
僕はまだ疑問を持ち続けなければならない、答えを持ってもそれだけで満足しちゃならない。
僕は、眼の前の全てを受け止めると自分で決めたのだから。
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