良し、後は遺書を書けばいいのかな?
荷物を整理し、自分の家から出る準備を進める、
思えばここには長く住んだものだ、20年以上もここにいる羽目になろうとは思いもしなかった。
「準備できました?」
「いや、まだ遺書とか書いてないからね、もう少し掛かりそうだよ。」
あの子は感が鋭い、俺が失った感覚まで持っているから当然といえば当然だが、それにしてもNTというものは純粋に伸ばせばあの様な可能性を見せてくれるか……、いやア・バオア・クーで戦った時の感覚と近いのだろうな。
だが、失うこともなく順調に成長した。その感覚を持って大人になったというのなら、人の感情に寄り添えるだろうさ。
「君も閉心術とか覚えたかい?精神の感応がNTの武器でもある、俺もあまり知られたくないからさ。」
「出来るに決まっているでしょ?伊達に、人殺しを生業にしていたわけでは無いんですよ?
大丈夫、地球では上手くやりますよ。だから安心して、役割を果たしてきてください。」
彼女の震える心を前に、俺は彼女に短く口付けをする。
家の玄関を出れば、もう返ってくることは出来ないだろう、彼等と共に未来を見据えて行くのだから。
CE65年、テム・レイと名乗っていた俺は死に、一人の亡霊は月へと登る。
L1コロニー郡 嘗ては〘世界樹〙と呼ばれ、宇宙開発の拠点となりプラントや他のラグランジュ・ポイントとの接続点とされた、シリンダー型コロニー郡。
地球軍の主力が展開し、世界樹攻防戦と呼ばれた一連の俺も参加した戦いが行われた場所であり、軍民問わず多くの住民がコロニーと共に死んだ場所。
そのコロニーは半壊し、俺達の艦艇は周囲の残骸に紛れながらゆっくりと進んでいく。
重力の影響を受けること無く、ふわふわと浮かび続けるこれらの物体は、自由に宇宙を漂い続けあまりの危険度により、L1の残存勢力や地球、プラント問わず調査を行えなかった場所である。
未だに放電現象が確認されており、廃棄コロニーの電源は生きている。いつ大爆発が起きるか解らない、内部の水素へと引火した場合、一気に破裂するゴム風船。
そんなものが浮いている宙域へも俺達は踏み入れたのだ。
「探索作業、50%を達成しました。これまでに見つかったものは、マルセイユ三世級が3、ドレイク級が2、ネルソン級が4が五体満足、完全な状態で見つかりました。
しかし、実際に搬出する場合ネルソン級2隻が不可能な状態です。従って、3,2,2が現在発掘出来る最大限です。」
「解った、それでも戦力として上々だな。まさか、ネルソン級が残っていたとはな。ザフトの戦闘目標が粗かったことに感謝だな。」
これで、こちらの数的戦力は倍したが問題はMS運用能力に欠けているという点だな、そこは小規模な改修でなんとかするしか無い。
シーゲル閣下達の呼び掛けが上手く行くことを祈るか…?
「敵はいるか?連合のIFFにも反応はあるか?だとしたら、こんな事報告されると厄介だ。」
「どちらにも反応ありません、しかしデブリが多すぎてレーダーも動体センサーも役にたっていません。」
この宙域ではMAも役にはたたない、偵察用のMSも欲しいな。まあ、作られるとすれば戦後だろうか?
「こっちに発掘した艦艇の画像を回してくれ。」
俺の方へとデータが来るが……、おかしいな。これは改装されている?なぜだ、MSの運用を前提に改修された艦艇は現在月にしか存在しない筈だ、だとすればこれはあまりにも早すぎる。
まるで、俺達が予めここに来ることを知っていたように…?
っ……!?
「俺も出る、機体を回してくれ。見つけた艦艇は牽引ワイヤーで接続しておけ。」
「どうしたんですか?」
「この宙域…何かがいるぞ?MS隊は警戒態勢を上げておけ、それと……俺の後に付いてくるなとも。」
俺を待っているな、誰だ?この感覚、この前のミラージュコロイドの奴か、だとすれば相当な手練れだな。
こんな宙域で待つということは、一騎打ちを御所望なのだろうな。
……
宙域を暫く1人で飛んでいるだいたい20分程飛んでいるが、どこまで誘うつもりなのか。デブリが密集していて、背面の脳波制御端末ビット、量子通信とはまた違う全く未知のこのユニットでのオールレンジ攻撃。
それを、制約されているということでもある。
多関節の腕として使うしか無いだろう。
ここか……、俺を見ているやつがいるのは。
攻撃がない、それどころか誘ってすらいるように感じる。
「俺は逃げも隠れもしないんだ、少しは出て来てくれても良いんじゃないか?」
「出て来てもいいが、そうすると直ぐにライフルを撃つだろう?安全装置を掛けてくれなければ、出たくはないんだけどな。」
この声聞き覚えがある。いや、いつも常に聞いている俺の声だ。
「巫山戯るのもいい加減にしろ、だいたいどうして生きていると言わなかったんだ?おふくろはその事を知っているのか?」
「知っているさ、元々彼女の発案だ。敵を欺くにはまずは味方から、自分の子供にすら自分の事を隠さなければならない。
だからこそ、奴に俺のことを知られていないんだ。」
奴、おそらくはダイクン。シャアとか言う人物の事だ。俺を囮に雲隠れしたというのか?いや、囮は結果的ということか…だが、シャアという奴はそれ程の存在か?
「奴は一体何なんだ?親父の関係者だろう?連合に情報を提供してくれないか?さもなくば…、解るだろう?」
「提供しても良い、だが条件がある…。俺に勝てたら、はなしてやるよ。」
機体が見えた、一瞬意識の外にIFFが反応する前に親父の意識からその機体の情報が頭に入ってくる。
あえて俺にそれを渡すのは、余裕の現れか!
右側のデブリから僅かな殺気の中、ビームライフルが撃たれる。それを僅かにアポジモーターを吹かし、後方に動かしながら第二射を撃たれる前に既に上方へと登っていく機体に向け、ライフルを放つ。それをまるで柳のように僅かな挙動で逸らすその姿に、あの赤い機体を操るアイツに重なって見える。
俺と同じ機体、だがビットが無い分この空間の中では向こうが有利か?的が小さいものな!
慣れている、非常にMS戦というこの2年間でやっと始まった戦いに、汎ゆるセオリーを手にしているように動く。
やはり、親父と奴は同じ場所から来ているのだろう、だからか俺の動きを完全に操ろうとしているその手腕に感心する。
それに対して、デブリを蹴り機体の速度を加速させ、互いに瞬間的な判断をしなければならない土俵へと上げる。
機体の判断を誤れば、デブリに激突しデブリの仲間入りとなるそんな戦いは、俺が追われる立場となる。
牽制射を背面ビットから撃つも、やはりそれを最低限で逸らしてくる。
ビットを分離し、デブリに紛れさせ戦闘用にΔ型に展開しいつでも攻撃を加えられる用に罠を張る。
機体を進行方向とは真逆に蹴り、互いにビームサーベルを抜きあう。一瞬の操作を行い、ライフルを投げ捨て俺は一刀を親父は二刀を相手を狙って振りかぶる。
瞬間、互いにサーベルを防御する。
俺は盾で、親父はサーベルで。
稲光がサーベル同士の干渉で発生する。
俺の盾に施された対ビームコーティングが一瞬で蒸発し、
盾がサーベルの進行方向に溶断される。
それを、取り出したサーベルで受け止める。互いの粒子が飛び散り、熱を持ってコロニーの外装の残骸に穴が開く
「途轍もない熱量だ、これがメガ粒子ビームか。」
殺し合うつもりはないのに、なんという殺意……いや、信頼しているのだろうな。この程度なら受け止められると。
「そうだ、殺し合うつもりはない。今のお前の実力を見たいだけだ。其の為にお前の実力に見合う機体を俺が造った、そのためにこの機体も用意した!」
本気でやらなければ殺られる!
「だが、どうやら潮時らしい。」
サーベルの反発を利用して機体を後方へと進ませると、デブリを用いて機体を急加速させ離脱していく。追う必要は無い、だがこれは俺の負けだな。
悔しいという感情だけが、この空間にあった。
そのすぐ後に俺を追ってきた僚機が現れる、スターシャにニコル君か…来るなと言っておいた筈だが。
「親父は何を考えている?」
なんのために機体を駆る、目も見えない人間がそんな事をしてまで、何を望む。
頭の硬い者達でなくて良かった、これで我々も一端の戦力を名乗ることが出来るだろうな。
我々と行動を共にする事となった人物達は、これで4桁に達する事になる。
我ながら私のネームバリューも捨てたものではないな、さながらジャン・ムーランと言ったところか?
いや、抵抗運動などというが元はと言えば身から出た錆、そんな偉人と共に並べられるような人間では、ないな私は。
まあ、大事の事も良いが小事も見抜けねば、私という父親としての責務もあるしな。
最近、ラクスが俯き気味でとても心配になっている。親バカと言うならばそれでも良い、それでもこの娘は私の娘なのだ。
彼女達の生み出した命は、何の因果があるのかこうしてここに集い、未来を開こうとしている。
親として、私はそれを見る義務があるのだ。
父親というものは思春期の娘に嫌われやすいという、そう言う言い伝えがある。
ラクスは意外にも、そのようなこともなく育ってくれているが、それでもそのような普通の女の子として成長して欲しいというのが、父親としては当然であろう。
我々は進化したのではない、一人のただの人間。
私が初めて目にした、本来の進化した姿の者たちは、戦争に身をやつしまるで効率よく、コーディネイターを相手に圧倒的な力を示す。
娘はそんな彼等を見てどう思っているのだろうか?期待を寄せているのだろうか?あの、ダイクンの言う言葉に踊らされていないだろうか?
「ラクス、大丈夫かい?何か悩みが有れば、相談にのるよ?」
「お父様…、いえ大丈夫ですわ。悩んでなんていないです、ただ少し考えることがあっただけで。」
娘よそれが悩むということだ、あんな男の戯言に耳を課す必要など無い。
新人類がどれ程素晴らしいと説かれようとも、所詮は人なのだ。例え時を見て、汎ゆる物事に対して完全に理解することが出来るとしても、一人の人間は物理的に何かを成すには少なすぎるのだ。
「ラクス、少し話をしようか?例えば、キラ君との関係の話とか。」
「キラ……様の事についてですか?でも、私が彼に何を言う資格などありませんわ。だって、キラ様にはフレイ様がいらっしゃるもの。」
思い悩むのは別に良い、少しベクトルを変えてやれば気分転換になるだろう。特に、恋愛事ほどその人間の本質が出るところは無いからな。
「お前には忙しくて、話したことがなかったかな?私とお前の母との馴れ初めを、そして恋愛とはどういう戦争であるかを。」
自由恋愛というものの良さを忘れてしまった我が妻と、おそらくはメンデルで亡くなったであろう相方よ、私はお前達のように傲慢ではない。
少しだけ、そう少しだけ娘が一歩進めるように背中を押すだけの、単なる父親なのだ。
戦争は激化の一途を辿っている。
プラント最高評議会が、戦線の縮小と銘打って戦線を地球から宇宙へと後退させたことは、もはや公然の秘密と言ってもいいだろう。
私のような熱心なクライン派の人間は、今のこのプラントでは思想を隠して居なければ、誰かに密告などされれば私は娘達から離されて、娘達は思想教育を受ける可能性すらあるだろう。
「あなた、今日もあの人達が来ました。本当に大丈夫なんでしょうか?」
「解らない、でもこの戦争もそう長くは無いだろうね。プラントは負ける、どういう運命を辿るかわかったものではないが、今よりは遥かに理事国の体制の方がマシだったと言えるね。」
家の中ではそう言えるが、もしも外でそんな事を言ったが最後投獄されることは目に見えている。
今、プラントの労働者人口はピーク時の四分の三にまで減っている。
戦争経済によって潤っているはずの食卓の中には、穀物から作り出された合成蛋白質が並び、お世辞にも子供の発育に良いとは思えないサプリメントでビタミンを補う始末だ。
ある日私はいつも通り勤務先へと行こうとしていた、家族と共に朝食を取り何気なく過ごす毎日がそこにあった。
そんな時だ、家のチャイムが鳴り響く。
こんな朝からなんの冗談だろうかと、私は玄関に立ちドアを開けた。するとそこにはザフトの制服を着た者たちが立っており、私に目を向けたあとこう言う。
「おめでとうございます、貴方は義勇兵としてザフトに入隊する権利が与えられました。どうか、ご検討のほどよろしくお願いします」
と。
あぁ、遂に来たかとそう思った。
地球から脱出できているものの数は限られていると、前々から聞いてはいたが、それ程までにザフトは押されているのか。
私は歴史にそれ程詳しくはないが、今なら解る。これを断ることは到底不可能な事だ。
プラントは、コーディネイターの揺り籠という集団心理の中で醸造された強迫観念で住民を縛り上げている。
そのせいで、もしもこれを断ったらどうなるか?きっと私だけでなく、家族にすらその矛先は向くだろうと容易に想像が付く。
それに、サインする場所はこんな玄関である。やるか拒否するか、2つに1つだが拒否した場合私はきっと何かしらの罪をでっち上げられ投獄されるだろう。
もはや拒否しようがしまいが地獄が待っているということだ。
だから私は家族のために、これにサインする。決してプラントの為ではない。
だから私の可愛い娘達よ、どうか私を殺す者たちを恨まないでやって欲しい。
私は君たちのために死んでくるのだから。
誤字、感想、評価等よろしくお願いします。