レノアさんと出会ってそれなりの付き合いになった。
まず最初にされた質問は、目が見えないのにどうやって生活しているのか?本当に目が見えないのか、という問いだった。
まず、目が見えないことを証明するために俺は屋外で義眼を外した。息を呑んでいたことを思い出す、彼女はごめんなさいと謝ってきた。
「気にもしていません、自業自得ですからね。昔、目を火で炙る事故を起こしまして。」
それでも彼女は俺に優しく接してくれる、哀れみを持つことのできる素敵な女性だ、ただ彼女の夫であるパトリックはそうでもないようだが。あってもいないし、顔を合わせたこともない男の事まで判るのは少々嫌なことだな。
次にどうやって生活しているのかという質問に、俺は回答に苦慮した。
何て説明すれば良いのか、ニュータイプ論が無いこの世界。この力はもっと非常に大きな定義である超能力者だとか、そういうものに例えられてしまうかもしれない、それは大いなる誤解なのだから、そんな説明してはならないだろう。
だから正直に話した、俺なりのニュータイプ論に対する解釈、それを信じるか信じないかは彼女次第。周囲の環境が解ること、声のない声が聞こえることを。
彼女がそれをどう感じ取ったのかは解らない、だが彼女は植物の遺伝子工学を選考している人だ。俺のその言葉を少しの思考の後何かしらの答えを得ることを信じて。
「俺にも解らないよ、第1この声の主は俺じゃない。たぶん、俺の親父の声だろうけどな。」
周囲の目線はまさに疑いの目だった、特に俺に対する不信感を持っているものはシーゲル・クラインだ。この映像の主と敵対している奴と同じ声がするのだから、似たような存在とでも思っているのかもしれない。
「貴方のお父上…確かテム・レイと名乗っていましたね。貴方の素性に関する調べは軍がやっていますから、信頼はしていますが改めてこの映像の声を聞くに。貴方の名前、〘アムロ・レイ〙にこの映像の主は敵対していますよ?」
「俺の名前は元々親父の名前だったってだけの話さ、そしてその映像は確実に親父の過去のことだろうな。こんな気持ちの悪い動きを出来るやつを俺は二人しか知らない、親父と赤い奴だ。」
「本当に君はこのことについて知らないのかね?第1アズラエルからの話では、君のお父上は既に死んでいると。」
死んでいるね……、確かにそう思ってたよ。あんなにピンピンと生きていたとは思わなかった。
いつも宇宙を見て違和感を感じていたけれど、まさか本当に生きていようとはな。
「それが生きていた…、この前戦闘になりましたよ。良ければ俺の戦闘データでも見ますか?
ゾッとしますよ、俺の動きを完全に制御していましたから。」
「それでも、アムロさん。貴方の声紋とこの映像の声紋は、あまりにも似すぎている。まるで、クローンのように…。」
正直に言うべきだろうな、ここで隠しても良いことはない。スターシャに目配せをして、首を横に降る手出しは無用だ。そんなことしても、いずれバレる。
「アズラエル、貴方の言う事はあっている。俺は、その男のクローンだ。最高の完成度だと俺は思っているよ。」
「冗談ではなさそうですね。」
「だから、クルーゼさんと友人関係だったって…そう言う事だったんですか?」
そうか、ラウも自分の正体を誰かに託したか。
「ああそうさ、奴は俺の弟分みたいな存在でな始めてあった時は本当に小さくてな、可愛い奴だったよ。
ムウ、お前の親父さんを殺したのはたぶんラウだ。俺のところに懺悔しに来たことがあった。
だが、ラウには戸籍が無い。だから誰にも裁けなかった、それを苦しそうに言っていたよ。」
周囲は俺の話についてきていないのか、それとも信じられないのか話し声が聞こえない。
「アズラエル、俺を殺すのは構わない。だが、戦争が終わってからにしてくれ、その方が俺も後腐れが無いからな。」
「そんな事しませんよ。しかし、クローンですか良くもまぁ失敗するものだと思っていましたが?」
「俺は寿命にあまり響いていないんだ、ラウは違ったようだが、たぶん母胎の影響なんだろうな。
それよりもだ、この映像から判ることを1つだけ言うのだとすれば、ダイクンや俺の親父の論理感が解るな。」
「というと?」
俺はキラに地球が見える位置まで映像を巻き戻させた。そして、消滅したオーストラリアのシドニーを指した。
「シドニーが消滅してクレーターが出来ている、そして映像の隕石には巨大なエンジンだ、これだけでこいつ等の世界の戦争がどういうものか見えてくるよ。」
地球に小惑星を落として、地表の環境そのものを破壊してしまうという、NJとは比べ物にならない程の事を何度もやるという精神性を持った世界の住人。
それだけでどれ程恐ろしいか、今パトリックを操っている奴は躊躇なく地球を潰すような奴だという事だ。
………
話も一段落し、それぞれが休憩に入っていく。俺のことなんてもはやどうでもいいのだろう、そんな空気が漂う中キラが俺のすぐ傍にやってきた。
「どうした?俺が誰かのクローンだってことが解って、少しホッとしたかい?」
「うっ……いや、はい内心そうです。でも、僕はそれを聞きたいんじゃなくて、アムロさんは自分がクローンだと知ったときどう思ったのかって。
僕は、自分が造られた存在だなんて知ったときから、ちょっと自分という存在に自信が無いんです。」
「キラ、そんなどうでもいい事を考えていたのか?
良いかい?君は確実に愛されていたさ、その証拠に君は戦争というものに巻き込まれないように、君のご両親は育てていた。
つまり、君のその才能を戦いのために使わせたくなかったということになる。」
その言葉に対して、キラはその顔を少し暗くさせる。彼の悪いところだ、俺がお世辞を言っているとでも思っているのだろう。
「アムロさんのお父さんはどうだったんですか?」
「俺の親父は、俺がやりたいことをやらせてくれたし、やっちゃいけないことは怒ってくれた。たぶん愛してくれたんだと思う、自分の分身を相手によくもまぁ世話なんてできたと思うよ。
でも、たぶんキラの両親の方が家の親父よりも優しいと思う。
親父はやるときは結構スパルタだったから。
それにだ、君が異常な存在なら俺はどうなる?俺が異常だと言うなら俺の親父はどれだけ異常な存在か。別の宇宙に来てまで、戦争で奴と戦おうとしている。
それでも君が自分の事を特別視するならば、1つ約束してほしい。
皆を護ってやってくれ、俺達はこれから新星…今はボアズと呼ばれているらしいが、それを叩かなきゃならない。しかも正攻法でだ、こちらには戦略兵器がない。
どうなるかなんてのは運次第になる。
宇宙での戦闘に慣れてるやつはいないからね、君と俺とムウくらいなものさ。」
想定される戦場は要塞戦、最低でも3倍の数は必要だ。ボアズ要塞は元は東アジアの資源衛星だったものだ、その硬度は推して知るべしといったところだ。
「ただ、上手く行けばシーゲル閣下の伝で内乱を起こしている可能性もある。その時は、その隙をついて行こう、俺達はそういう戦闘を許されている。
まあ、要するに難しいことは俺等大人がやる、だから君の仕事は艦隊を守ってほしい。」
「ボアズを落とすって……、僕等は連合と一緒に行動するって事ですか!」
「そうか、まだシーゲル閣下は言ってなかったか。まあしょうがないさ、彼の決断も鈍ることがないと良いんだが。」
連合にいい思い出がないのは俺達も同じだが、キラ達程酷くは無いだろう。
殆ど見捨てられていたに等しいのだ、連合への不信感は計り知れない。
「だが、そうでもしないと俺達の戦力だけで正面切ってザフトを相手にすることは出来ないからな。
それに、アズラエルは約束は守る男だ。商人っていうのはこういう時、目ざとく実直だ。」
「それでも…、もし敵が来たら僕は皆を護ります。けど、ラクスやアスランは大丈夫か心配で。」
「そうか…、そんな覚悟がない人間がここにいないと思うかい?だけどもし、そういう場面に出くわしたのなら俺達は、俺達なりにやらなきゃならない。
それが力を持っているものの役目だろうさ。」
だからこそ、親父は何かをやろうとしているのかもしれない、俺にとって嫌な予感がする。
ズカズカと音を立てて来そうなほどの気迫を漂わせながら、格納庫にいる僕たちの傍にカガリがやってきた。
「アムロ・レイと話がしたい!」
「なんだ?」
僕たちは今回最後の模擬戦を行う為、参加者全員が1度アークエンジェルの格納庫に集合した。年齢幅は非常に若い、たぶんアムロさん除いて全員が、20以下だろう。
そこを狙って現れたようで、ものすごく不満そうな顔をしつつそれでもどこか諦めを匂わせていた。
「今回、我々も遺憾ながら連合と共にボアズ攻略に参加することになった。
私の国は現在一応名目上は、私の名前で連合へと参加している事になっているらしいが、それにしても正直納得したくない。」
「君は正直者だな、包み隠さず話してくれる。それが君の美徳だと思うよ、でも俺が相手じゃなかったら外交問題になるだろうね。そういうところは気を付けて、色々と切り替えていくのも大切だよ?」
カガリはたぶん予めそう言われるのが解っていたのかもしれない、それに対して尻込みしなかった。逆に切り返すようにアムロさんに話を始めた。
「私はただ見ていることしか出来ない、勿論クサナギで戦闘には参加するが、MSに搭乗して前線に出ることは皆に拒否された。
私という存在が大切なのは判る、だが私だって皆を守りたいだから!」
「この模擬戦に参加すると……そうだな、艦艇が沈めばMSは帰るところがなくなる。という事は直掩が必要になるだろう。
それなら、キラ!お前の傍においてやれ、そうすればお前も守りやすいだろうし、殿下も納得してくれる。」
殿下……アムロさんはカガリに対してそう言った。そうか…、アムロさんは今一線を引いたんだ。僕たちはあくまで予備戦力として、艦隊の直掩をやらせる。その間に、自分たちは要塞を落とす為の。
だとすると、この模擬戦の役割はたぶんここにいる若年組が須らく、艦隊直掩隊ということになる。
アムロさんは、高年齢層を集めて要塞に向かっていくつもりだ。出来るだけ若い人選に、戦争の日常を与えないために。
「キラ。」
「は、はい!」
アムロさんは真剣な面持ちで僕を見る。そして、周りに集まった僕たち若年兵に目配せをすると僕に命令した。
「艦隊の防衛に関する指揮は君が行う事とする。」
「え?いやどうして…」
「この中で一番艦艇に対する防衛戦闘を経験しているのは、キラお前を置いていないからだ。
特に、君は宇宙空間での防衛戦闘の経験もある。
アルスター少尉以下の俺達の部隊の連合パイロットは、宇宙空間での防衛戦闘の経験がない、アスラン君達プラント組は防衛戦闘時の連携のノウハウがない。
つまりは、防衛戦闘においてこの中で一番経験があるのは君だということだ。」
僕が一番上に立って皆を指揮する…?それじゃあ皆を守るということの、幅があまりにも広くなってしまう。
僕はそんな大多数の人を動かすとかしたこと無いし、何よりフォーメーションとかそういうのを勉強したことがない。
「君はムウと共に既に一通り経験しているよ、後は応用くらいなものだが…。士官学校出の連中も良く聞いておけ、お前達の教わった教本は基本的にMAによる艦隊の防御だ。
だが知っての通り、MSはMAほど直進能力が高くない。あまり吹かし過ぎれば、直ぐに推進剤を使い果たしてそのまま漂流することになる。
今回の戦闘は能動的な作戦になるから、臨機応変な対応を迫られるだろう。そうなった場合、推進剤を気に留めながらやらなければならない。
キラはその点、アークエンジェルの防空戦闘でフェイズシフトダウンを経験し生き残った一番のベテランだ。
だから、皆彼の指示に従うように。良いか?」
アムロさんが周りにそういう、イザークさんはなんか納得行かなそうな顔をしているけど、フレイはニコニコと何故か嬉しそうだ。
「では、20分後に状況を開始する。
俺は1度この艦を出て、襲撃組を率いて君たちの守るこの艦隊を襲撃していく。
どこから攻めるのかは俺達が主導権を握っているからそのつもりでいてくれ、君達の奮闘を祈っているよ。」
そう言うとさっさとMSに登場していく、その後ろ姿を見送りながらも、僕に対するプレッシャーがかかる。そんな中僕は纏まりのないこの集団を上手く纏めることが出来るのだろうか?
いや、纏めなくちゃならないんだ、でも……いやこういう時は誰かを頼って良い。僕は異常な奴じゃない、ごく普通の人だから。
「アスラン!それに、連合の皆も知恵を貸してください!僕は元々一般人だったから、戦術とかそういうのに疎かったから。だから、みんなの力を借りたいんです!」
僕だって万能じゃないんだ、1人で出来る範囲なんてたかが知れてるのだから。
「機体の収容は終わったか?」
「はい、つつがなく。しかし、本当に単艦でいいのですか?それもこの試作艦で、だいたいこんな兵装で前線に出ていったとして、果たして役に立つのかどうか?」
大丈夫だろう、この艦はどうせ乗り捨てるんだ。役目が終われば無用の長物、こんな危険な兵装を持った艦はコイツだけで充分だ。何より、正面から敵に攻撃しに行く訳じゃない。
「舵はヤキンの方へ固定したまま慣性航行でいく、ミラージュコロイドとミノフスキー粒子を散布しつつ、敵に気取られないようにな。」
戦闘できるのは俺だけで充分だ、艦は無人同乗者は無し。この研究所の人間が被害に合うのは抑えなければならない。 サイコミュで各種機材をコントロール出来るようにしたんだ、今のコイツは船の形をしたMAだからな。
この研究所はエネルギー問題を解決するために造ったんだ、戦争のためじゃない、将来彼等がそれを上手く利用してくれることを祈ろう。
「お気を付けて」
「あぁ。彼女が目を覚ましたら頼むよ?彼女の夫を殺したことを謝っておいてくれ。」
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