あたり一面日の当たる、まるで畑のようなこの場所の空は実際のところ、鉄と硝子で出来ていた。
その空を優雅に飛ぶ者はなく、人工的なその空からの光を浴びて草花達は意気揚々とその身を育む。
「どうです?ここまで揃えるのは少し骨が折れましたが、プラントにもここまでの施設は無いと、俺はそう思いますが。」
「いえ、たった2年。たった2年でこれ程の施設を……、あなたはいったい何者何ですか?」
レノア・ザラ。彼女は植物学者だ、特にコロニー内部での食物野菜等の遺伝子改良を得意とする。そういう人物、俺は彼女をこのL1コロニーへと招待した。
1人の学者として。
「ここでの研究は極秘のものです。勿論、理事国は知らない。でも、プラントのように外側から見るのは難しいし、何よりバックがいるというのは強みです。」
この研究所のバックには、
非公開組織、月面都市連盟・通称〘LCL〙(Lunar City League)
という、俺の協力者達による大連盟が出資している。
俺を助けた者たちが出資者となるこれには、月面基地の軍人達も関わっているために、その防諜能力は計り知れない。
俺はそれのオブザーバーのようなものだ。
「それはそうですが……、私もプラントで研究をしているのです。今は大事な時期、返答はその後でもよろしいでしょうか?」
彼女は自分の仕事を解っている、プラントでの非合法な農業研究はどれ程彼女達に大打撃を与えるのか。
食料自給率が粗ないプラントにとって、今輸入を止めた場合死を意味する。
それを解っていながら進めるしか無いのは、彼女の夫であるパトリック・ザラやシーゲル・クラインの所属する黄道同盟による、強硬的な指導によるせいだ。
彼女にはプラントの独立なんかよりも、子供たちと静かに暮らしたいという思いがあるにも関わらず、男達や政治に傾倒する者たちはそんな事等知らず存ぜぬなのだ。
「では、その時はまた連絡の程を。こちらからも何度か営業に行かせてもらいますよ。」
未来というものが確定していないというのなら、刻を見ているこの俺にも変えられるものだろう。
なにもない空間、欺瞞の使用もないだろうこんな場所にたった1人で来るなんて、本当に豪胆な人だ。
俺は貴方にそうやって育てられてきたわけじゃないのに、貴方はそうやって1人で色々とことを成そうとする。
「全艦停止……。
着いてきた艦隊は全艦いるか?脱落したものは?」
いないに決まっている、彼等はもう覚悟が決まったような連中だ。大切なものを失ったもの、恐怖よりも怒りに満ちるもの、恐怖を克服しようと痩せ我慢でプラントと戦争をしたいもの。
そんな奴らしかここにはいない。
いや、戦争を憎むものがいるか…。
「ありません、ですがどうしてこの様な何も無い宙域に?」
「何も無い…か、確かにレーダーにも可視光にも映る物は何も無い、だが確かにそこにある。あの時と同じだよ。
まったく、いるならいるで信号弾の1つでも撃ってほしいものだな。」
俺のその発言と共に、何も無い空間から赤い球体が打ち上げられ破裂する。そこから光が発し、船が姿を表した。
「こちら、地球連邦軍・外郭新興部隊ロンド・ベル所属〘アムロ・レイ〙大尉だ。
地球連合軍・第13独立機動艦隊司令〘アムロ・レイ〙准将に、貴艦隊への合流を願う。」
「こちらアムロ・レイ准将だ。貴艦の合流を歓迎する。
IFF同期はどうか?」
「はい、一応……イリスと出ていますが、これまた随分とさっぱりしましたね。砲塔が1つもない。
向こうから艦のデータが送られてきておりますが、これは特化しすぎていますな。まさに砲艦と言ったところでしょう。」
なるほどな、中央部のカタパルトをレールに電磁誘導路を作り上げ、それを集束レンズにして超高圧のメガ粒子砲を打ち出した訳か……力技だな。
「聞きたいことがある、アムロ大尉。その艦での砲撃はあと何度出来る?」
「あと一撃、だが外郭部を攻撃するだけではあれは修復されてしまう。だから、内部から破壊するほうが良いぞ?」
言ってくれるな、それが簡単にできればどれ程良いことか。
「とりあえずこの艦のシステムの復旧を手伝ってくれないか?1人では大変でね、それにそろそろ飯を食いたいしね。」
この人はなんてマイペースなんだか、正直艦内が騒々しい事に気がついてくれよ。それとも態とやっているのか?何より全てを見通しているんだろ?貴方は。
『人はそんなに便利にはなれないよ、ただ可能性を見ているだけさ。』
「そちらの艦隊の船に移乗したいのだが、良いだろうか?可能ならば、司令の艦など…?」
「それは勘弁願いたいな、得体の知れない組織の人間を旗艦に乗せたくはない。
だが、そうだな…。不確定要素は纏めておいたほうがいい、エターナルへの移乗を許可しよう。」
別に対面しなくたって会話くらい出来るだろうに、まったくはじめから色々と教えてくれても良いでしょう?
「了解した、ではこの艦を曳航してほしい。護衛がなければ、敵に近付くことも出来ないからな。」
「解ったよ、ではこれで通信は終わるが何か聞きたいことは?」
無いと言って通信を切るそれでいてMSに現在乗っているのだろう、だが妙に大きい。俺達のそれよりも2周り程大きいか?これではカタパルトには…いや、やはりエターナルにしたのは良い判断だったな。
「俺は1度部屋に戻るこれからの行動の確認をもう一度したいからな、それとイリス…艦の簡易修理をやってやれ、随分と疲れているみたいだからな。
後、アナスタシア少佐を呼んでおいてくれ。」
俺も妙に疲れが出てくるよ。
……
慌てて俺の部屋が開くように、彼女は肩で息を吐きながら現れた。
「別に急いで来なくても良かったのに、水でも飲むかい?」
「どうしてそうやって落ち着いていられるんですか?血を分けたお父さんが生きていたんですよ、それも眼の前に五体満足でいる。」
「別にこの前あっていたと言ったろ?それに親父は最初から五体満足じゃない、あの人は目が見えない。」
そういう意味じゃないって顔をしているな、まあ普通なら血を分けた家族が帰ってきたのだから、お帰り位言うのが普通なのだろうな。
「あの人は、俺とは違って熱血漢だ。今、何を考えているか教えてあげようか?」
「それと、会わないのは何か関係があるんですか?」
関係か、確かにそう思うよな。
「大有りさ、俺は俺だ。だから恐れる、あの人と完璧な迄に感応した時、俺は俺でいられるのか?とね。
だからあの人のことが、親父の事が怖いんだ。俺が俺でなくなることが。
俺はこの世界に生まれたアムロ・レイであって、ロンド・ベルのアムロ・レイじゃないからな。」
「でも……、それは…。貴方らしくないですよ、だっていつも何かにつけて前線に出ようとするじゃないですか。その時点で、似ています。
それに、例え記憶を共有したとしても貴方は貴方です、どうやったって年齢を重ねたあの人とは違います。」
「そうだろうか?」
「そうですよ…。だから、一度でいいから会ってください。それに、昔は結構あってたって言うなら今更じゃないですか?」
……それもそうか、そうだな。
「君がそう言うなら、そうしてみるよ。」
そう言うと彼女はニコリと笑う、俺はその笑顔に惚れたのかもしれない。
ほう…これが、あの映像の最後に映っていたMSにそっくりだな。いや、それこそ背面の〘ファンネル〙というものが無いくらいだ。
「ガンダムか……、なるほどな。こういう機体をガンダムというのか。それにしても、我々の機体よりも大きいのだな一回りは大きいな。」
眼前のカタパルトに降り立った機体は、我々の知るMSと同じ姿をしているにも関わらず、より大型で何よりスマートだった。
固定武装など無いに等しく、恐らくは外装のみで戦闘を行うタイプなのだろうことは、一目で解った。
「はじめまして、アムロ・レイ大尉といいます。これより貴官の指揮下に入りますが、よろしくお願いします。」
入った通信を画面越しに見る、彼のその顔は確かにあの男と同じだ。だが、年相応に老けているのだが……、何処かあの男と違う。まるで、我々のことを見ていないかのようだ。
いや、そうか。見ていないのではない、見えないのだ。だからこそ、私を見るような目線を感じない、それどころか私のそれを知るすべがない。
だが、それでもおかしい。初めての人間に合うにも関わらず、あまりにも勇敢すぎる。
「こちらこそ、よろしければ1つ話をしたいというものがいるのですが。勿論、私も同席させていただきますが。」
「あぁ、知っているよ。フレイ・アルスターが俺と話をしたいんだろう?それで、この艦にキラ・ヤマトと共に移乗したのは解っています。直ぐに行きますよ、それと艦の簡易修理は外装だけで充分ですと伝えてください。」
たった1人でこんなところに来る男だ、いったいどんな神経をしているのやら。
「では到着次第迎えを…。」
「結構だ、何処にいるかも知っているからね。あなたの指揮するこの艦の内部も洗いざらい。」
無礼な男だ、だが恐ろしい男でもある。この艦の内部データはザフトしか持っていない。それどころか、この艦の乗員くらいしか把握していないのだぞ?
……
私は直ぐに艦橋から退出し、アルスター君のいる部屋へと急いで移動した。
具合の悪そうな彼女は機体と共にこちらに来たが、ここに来た後でもやはりヤマト君に支えられている。
娘のラクスも彼女の事が心配で付きっきりで看病しているようだが、果たしていったいあの男に何の用があるのか?
そして、何があっても良いように護衛にアスラン君を揃えてある。
「済まない遅くなった。こちらに、例の男が来る。どれ程かかるかわからんが、無理はし過ぎないようにな。」
「はい……、私のわがままに付き合っていただきありがとうございます。」
アークエンジェルから突然話があった時はなんだと思ったが、いったいどんな話をするのか?
「失礼します。やはりここか、だいぶ待たせたかな?」
本当にここに来た、案内もなしにか。正直に思う、薄気味悪いにも程がある。あのダイクンはまだ人間的側面が多く、我々の延長線上であることが解ったが、この男はそれ以上に異質だ。
「話があると、そういう事になっているけれど、俺はその内容を知っている。それでも話さなくちゃならないかな?フレイアルスターの心を保つために、君が変わりを務めたという事を。」
「はい…、そうですね。フフフ、おかしなものね?貴方も大佐も生きているというのに、ここでもまだ争っているなんて。
正直、滑稽だわ。」
「フレイ?どうしたの?」
フレイ・アルスターの様子がおかしい。まるでこの男と知り合いのような。
私が聞いた話と違う、アムロ・レイへの質問なるものを聞いていたのだが、だがこれは…?
「この娘の身体はまだまだ大丈夫よ、でも心には相当大きな負荷がかかっているわ。このまま争いを辞めなければ、きっとこの娘は壊れてしまうわ。
そう、例えば大佐が見出したカミーユ・ビダンのように。」
「解っている、だからこそ最短で奴を討たなければならない。それで、戦争が終わる。それこそ、もうプラントには連合に抗う力は残っていないからな。 シャアがいなくなれば、自ずと降伏するよ。そういう道が出来ている、そういう道を奴は舗装した。」
「その為に、殺し合いの為にその力を使うのね。今の貴方には刻も記憶も見れるというのに、それにしか使えないなんて哀れだわ。」
私はいったい何を見せられているのだろうか、例えば死者と会話できるものがいたとして、もしそれが現実なのだとしたらきっと私はこのように、唖然とするのだろう。
だが、まさかまるで別人格のようにアルスター君の肉体を扱うものがいる。
「これで終わりだよ、俺達3人の戦争はね。後はこの世界の人達がどう決断するかだ。だから、彼女の心を守ってやってくれないか?」
「傲慢ね、この娘を戦争の道具としようと言うの?でも、戦っている中が最も安全ではあるわね。解ったわ、せめて彼女の苦は私が引き受けて上げる……。
そろそろ彼女が起きると思うわ。アムロ、終わったら迎えに来るわ。」
「もう少し後でも良いんだよ?俺は、まださよならを言ってないからね。」
そう言うが早いか、アルスター君は糸の切れた人形のように、力なくその場で再び目を閉じた。
「今の話はいったいどういう。」
「そういう事だ、キラ・ヤマト君だったね。彼女をちゃんと守ってやれよ?
さて、アスラン・ザラ君。君にも話があるが…、まあこれを読んだほうが君には早いと思う、後で読んでくれ。」
懐から取り出したメモリをアスラン君に渡す、それが一体何なのだ?まったく、どういう状況か?頭が痛くなる思いだ。
「これはどういうことか説明していただかないと、納得出来ないのだが、貴方はいったい何と会話をした?」
「観念的な相手だよ、説明するだけ無駄だと思う。
それよりも、これからどういう作戦をしていくのか、どういう障壁があるのかという、実利の話をしましょう。アークエンジェルはCIC直結で、息子の方はたぶん今頃艦長室にいるからな。それと、カガリ・ユラ・アスハには語りかけておくよ。」
この男はまったく読めない、力尽くで話を始めるつもりか?
それに、語りかけるとはなんだ?
私は1人だけクサナギにいる。友人の看病も出来ずただ座して、戦いが始まるのを待つだけという、なんと自分の無力さを感じながら。
「キサカ、周囲の警戒はどうだろうか?」
「問題ないでしょう、そもそも艦隊がいるのです。我々だけが見ているわけではありませんから。」
そのとおりだ、今の私達は群れの中の1つでしかない発言力のない艦艇1隻にどれだけの力があろうか。
『聞こえるか、カガリ・ユラ・アスハ。』
突然頭に声が響く、一体なんだろうか?私は統合失調症にでもなってしまったのか、ノイローゼか?それとも鬱病なのか?
最近色々な事が多すぎて私の心は遂に壊れてしまったのかと、その時思った。
『聞こえているな、そこにキサカという男がいるだろう。直ぐに姫様の部屋へと入ってくれ。秘匿回線で会議を行う。』
これは……幻聴なんかではないのか?
思わず背筋が寒くなる、こんな事生まれて初めてだ。幽霊というものを私は信じないが、もしかするとこんなことなのかもしれない。
『最重要なことを話す、急いでくれよ?』
「あ、あぁ解った。」
「カガリ様、どうかなされましたか?」
私はその言葉にギョッとした、どうやら私にしか聞こえていないのだ。こんなコズミック・イラにコズミック・ホラーなんて流行らないのに、これは。
「キサカ!少し良いだろうか、内密に話をしたいことがある!」
「?了解しました。副長、少しの間外す指揮を頼む。」
こんなに肌寒い思いをしてまで、私は何をしているのだろか?あまりにもオカルトな事が今巻き起こっている、いったい私の身に何が降りかかろうとしているのか?
部屋に付き、直ぐにモニターを点ける。そこには見知った者たちが映り込み、私は青白い顔をしながら恐る恐る画面を覗き込んだ。
「良し、これで全員が揃ったな。
では、これよりジェネシス攻略隊の編成を行う。」
あまりにも重要な事柄、だが今の私の目に映っていたのは
アムロ・レイと年老いたアムロ・レイが息継ぎのタイミングも一致するように、話を始めた姿だった。
コズミック・イラでコズミック・ホラーをやってしまった。
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