俺は柄にもなく白衣を着ながら、硝子越しに起動実験に参加していた。
ミノフスキー粒子を使用した〘Iフィールド〙を展開し、その中心に熱核融合反応を起こす実験。
莫大なエネルギーを用いるための、夢のようなシステム。民生用の核融合炉すら存在しない、宇宙艦艇用の推進システムとしてのそれしか無い、それを今目の前で安定的に作り出そうという試みだ。
周囲の研究者たちは半信半疑だ。
確かに俺の乗ってきたνガンダムにはそれがあったが、それを動いているのを見たことあるやつは誰もいない俺以外は。
「本当にこれで動くのですか?俄には信じられません。
圧力容器だって従来のそれと、殆ど同じです。そんなにIフィールドとは凄まじいものなのですか?」
「信じるか信じないかはやってみてからで良いだろう?別に失敗しても大爆発が起きるわけでもないのだから。」
俺には確信があった、これが動かないことはないという確信が。
私達は、件のアムロ大尉という方と共に、画面の向こう側の方々と作戦会議をしていた。
眼の前の少し歳をめした方は、その年齢とは裏腹に淡々と話を進めていく。
それこそ、このエターナルの装備であるミーティアの真骨頂を把握していないにも関わらず、その全てを〘知っている〙事に驚きを隠せない。
「つまりは、アークエンジェル等の陽電子破城砲搭載艦とイリスの5隻でジェネシスを、通常戦力である艦艇によってヤキンを叩くということでいいのか?」
「その通りだ。今回の戦闘での要である、ハイメガ砲はあと一撃しか撃てない。
先程の長距離射撃でジェネレーターに負荷がかかったせいだが、やはり試作兵器、熱量が充分ではない。
コンマ1度ずれただけで照射位置がずれてしまったが為に、完全に内部を破壊できていない。
次こそは接射して、破壊し駄目もとで陽電子砲を叩きつける。
これをもって完全破壊するつもりだ。」
計算式が出ること無く、既に答えをしているみたいに話を進める二人は、私達を置いてどんどんと勧めていってしまう。恐らくは二人共互いの行っていることを理解しているのだろう。
あえて言葉に出して、私達に〘聞かせる〙ということをしているのでしょうか。
「機動艦隊はヤキンへと向かうが、やはりこれも囮だな。ということは、5隻の作戦が失敗すれば俺達はヤキンと共に焼かれる可能性があるのか。
まあ、それは任せるしか無いが…問題があるとすれば…、シャアの私兵という奴らか?」
「その通りだ、データを今表示する。」
私達の使用している端末を、さも当然のように使っている大尉さんは、何処からか取り出したメモリからデータを抽出し、画面にそれを出した。
「最大の難敵は、クローン兵だ。
彼等は、スーパー・コーディネイター計画と共に作られた、様々な空間認識能力を持つ者達のクローンだ。
ムウ、そしてアムロ。お前たちにとっては見知った顔の者たちもいることだろう。
彼等の遺伝子データを下に、促成技術を使用して作られた短期型クローンと言える。」
「おいおいこいつは……、俺達のパーソナルデータとかどうやって取ったんだよ。」
人の業、それを凝縮したようなそんな兵士たち。兵器として作られた者たちが待ち構える戦場に、私達はいかなければならないようだ。
「彼等はMSパイロットとしての訓練のみ受けた、感情のない機械のような連中だ。
躊躇なく殺すのが望ましい、彼等は数年も保たない。それならばいっその事殺すほうが、彼等のためだ。」
さも当然のように殺害することを推奨するという、ある意味清々しい方なのでしょう。
それが余計に私には理解できない、どうしてその様な思考が出来るのか、ニュータイプというものがこういうものなのだろうか?
だとすればあまりにも……危険な人だ。
「あの…、殺すって。この人達は洗脳されているだけなんじゃないんですか?」
「1名、1名だけだ。ラウ・ル・クルーゼ…、彼だけは洗脳されているだろうな。
だが、もし名前を呼ばれたとしても、それに真艫に受け答えしなくてもいい。
彼の自我は破壊されている。戦闘者としての意識が強化されている。そして、恐らくはキラ・ヤマト君。君を猛追してくるはずだ。」
「僕をですか?」
キラが狙われる、それはきっとメンデルに関係があるのでしょうけれど、それでもどうしてそこまでするのでしょうか?
「君等が対応している間に、俺は戦場の奥に待っているだろうシャアを討ち取る。
勿論、援軍に来てくれるのは嬉しいがあまり来ないほうが良い。正直言って、足手纏になるからな。」
「親父、それは俺でもか?奴がどういう機体に乗ってくるかなんて、解ったものじゃない。それでも、1人で行くのか?」
「奴は俺を相手に闘うためだけに生きている、タイマン専用の機体でくることは解っているよ。
お前なら、加勢に来てくれれば頼もしいがそれよりも優先すべきは、ヤキンのジェネシスコントロールセンターを破壊することだ。」
たった1人の感情だけで、この戦争の終結が左右されるなんて考えたくもない事、ですがそれが事実なら人とはどれだけ愚かなのでしょうか…。
……
話も進んでいき、一段落ついたところで私達の船は皆様の艦隊と分かれ始める。
私はまだあの部屋にいて、そこには大尉様がいる。
アムロ様と呼ぶのはあまりにもおかしな事のようで、私はこの方をそう呼ぶ事ができない。
「それで、俺がここでこうして色々と纏めている間、君はずっと待っているのかい?ラクス・クライン?」
「いえ…ですが、貴方は辛くはないのかと思いまして。
だってそうではありませんか?こんな、誰もいない世界に1人来たのでしょう?
だとすれば孤独を感じるのが当たり前だと思いまして。」
彼は私の目をしっかりと見つめるように、こちらへと顔を向けた。
その瞳が私の瞳を捉えることはなく、どこを見ているのかわからない。
その目をはっきりと見たとき、初めて私は義眼というものを見た。
「辛くないかといえば辛いさ、俺には帰れるところがあるのかとかそういう思考に陥ったこともある。
だけどね、今は一応帰れる所はあるつもりだ。その選択が良いか悪いかは、今の俺でもわからない。選択肢は無限にあるからね。
でも、一応最善を尽くしているつもりだよ?」
「お強いのですね、私はきっと」
耐えられないと言おうとしたら、手でそれを制された。まるでそれ以上口にしては行けないというように。
「それ以上は言わないほうがいいよ、言霊は案外バカに出来ない。言葉の力というものは凄まじいものがあるからね。」
「それはニュータイプというものに関係があるのですか?」
言霊というものがどういうものなのか、なんとなくわかるのですが、それでも科学の発達した今の時代にその様なものがあるのでしょうか?
「ニュータイプとか科学とかそういうものとはあまり関係がないよ、どちらかといえば自分という存在に対する否定をしてしまう、そういう行為があまり良くないということだよ。
君は色々な事に興味を持っている、それでいて理想主義者だ。実にシャアによく似ているよ。」
「私が?シャアに、あのダイクンによく似ているというのですか?どうして?」
私はあの様な破滅願望を持った方とは違います。ただ、世界がより良い方向に向かっていけば良いと思い、お父様と一緒にプラントを離れたのです。私はあのような自己中心的で、理想とは程遠い方とは違います。
「奴も昔は今の君のように、理想に燃えていたよ。希望を見つけ、それが絶えないようにとそう動く奴だった。
だが、戦争が人がそれを変えた。
いつしか奴は人というものに絶望し、人を導くという建前に俺との決着だけに執着した。
奴は純粋だったんだ、ただ人のためにそうあろうとしてそれで…現実に失望してしまったんだ。
そんな奴に君が重なって見える。君の未来は色々あるが、選択を間違えれば君は奴と同じように、理想を建前に世界を目の敵にする者になる事だってあるかもしれない。」
「私はそのようにはなりません、そのような…」
私は、断言できなかった。実際私は、たった1人の男の子に対して執拗になっている自分もいて、もしこれが破綻したら私は何処かで罅が入ることだってあるかもしれないのだ。
そうなったら、果たして私は、〘今の私〙と同じと言えるのだろうか?
「ラクス・クライン、人は良くも悪くも変わっていくものだよ、だから同じ過ちを繰り返さないようにと工夫もするし、変わらない部分だってある。
次の瞬間、自分が自分でなくなっているかもしれないとか、そういう事だってあるかもしれない。
だから、友人や愛する人が必要なのかもしれない。だから、妄執に囚われてはならない、色々なものを見るのもいいと思うよ?
そうして人は大人になっていくんだ、勿論変わらないところだってある。
だから、君はもっと友人を作ったほうが良いもしれないね。プラントにはそういう人はあまりいないんだろう?」
そう言われて改めて自分に友人と言える存在が少ないことを実感する。特に、親友だとか思える存在など、私はプラントには誰もいないのだ。アスランだって、元婚約者という理由だけしか合う通りはなかったのだから。
私のファンはいるかもしれない、でも友達はいないんだ。
「同じ趣味とかそういうのから始まる関係だってあるかもしれない、そこは君自身の努力しだいだと思う。」
「友人……、わかりました。やってみます。ですが、戦争が終わってからでも良いでしょうか?」
「君には時間がある、色々と試してみれば良いさ。
さて、そろそろ互いに準備に取り掛かったほうが良いんじゃないか?皆が待っているよ?」
微笑みながらそう言うと、退室していく。その後ろ姿は確かな威厳があった。
アークエンジェル達が離れていく、正直に言って今戦力を二分したくはない。だが、普通数の多い方に敵も戦力を割くのが成道だ。なら、俺達は全力で囮に徹する他無いだろう。
『本当に俺と一緒に来なくても良かったのか?』
「俺はこの艦隊の司令官だぞ?
司令官が持ち場を離れるわけにはいかないだろ。確かにパイロットも兼任しているが、最前線に出ているのは前線が押し込まれるとまずい時くらいだ。
基本は、こうやって椅子にふんぞり返っていたほうが、かえって将兵も安心するものさ。」
それに、俺にもやりたいことはある。可能性があるならば、見捨てるつもりは毛頭ない。
『クルーゼの洗脳はかなり重度なものだ。自らのコンプレックスをより強固なものにされているから、お前にあったら最後、本気で殺しに来るぞ?』
「それを聞いたのは二度目だ、俺は諦めが悪いほうだからな。だから、可能性があるのなら信じたい。
それと、クルーゼじゃない。ラウだ、そんな偽名で塗り固められたものよりも、本物のアイツがまだいるはずだ。」
『執拗にかられ、目的を見失ったら最後、お前は殺されるかもしれないんだぞ?それでもか?』
どんなに言われようとも決意は変わらない、何としてでも彼の洗脳を解く方法は有るはずだ。
もしも駄目だと、俺が判断したらその時は俺が手を下す。
「それよりも、そっちの方こそ大丈夫なのか?ダイクンの機体は、正直言って親父のそいつよりも機動性は上なんだろう?」
『どうだろうな?奴はたぶん〘ザク〙で出てくる。こっちの機体を大型化して、サザビーのコックピットを無理矢理に付けたやつだ、奴用にチューンされているだろうな。』
親父のMSνガンダムは、はっきり言ってお粗末な作りだ。まだ前に乗っていたヤツのほうが、完成度は上だろう。
関節部の大型化が未完成の領域だったのだろうが、それでも無理矢理それを持ってくる必要などあったのか?
『勿論理由はあるが、コイツの弔い合戦みたいなものさ。俺達の機体、特にサイコフレームはこの世界において明らかに異常なものだ。
人の感情をエネルギーに転換するなんて代物、この世界の住人には早すぎる。最悪、負の感情に充てられて悲惨なことになりかねない。
なら、この戦いで跡形もなく葬り去った方が良いと思ってね?』
「だとしても、拾われたら厄介じゃないのか?それこそジャンク屋なんかに拾われたりしたら、何処に売られるか解ったものじゃない。」
何か代案があるのか?それとも、死ぬつもりなのか?
「言っておくが、お袋に最後にただいまくらい言ってから死んでくれよ、そうじゃなきゃ親子喧嘩もやりようが無いからな。」
『安心しろ、死ぬつもりはない。一応、案はあるんだ。それに…こいつで戦うと誰がいつ言ったんだ?』
不敵に笑っているんだろうな、馬鹿にして俺はもうガキじゃないっていうのに。
「そっちの武運を祈っておくよ。」
『こちらもな。じゃあ、気をつけろよ?』
ヤキンか、無駄な抵抗なんてやめてさっさと負けを認めてくれれば、殺す必要なんて無いんだがな。
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