最初に実験として作り出したクローンは、私のスペアというなんとも言えない存在だった。
出資者である私の年齢はお世辞に言ってもそれ程若くはない、実験中に死ぬ可能性が充分に高い事、現在の人工子宮を使用した場合の性能テストを兼ねたそれは、実際に失敗した。
「性別が逆ではないか?どうしてその様な事が起こるのか?」
「性細胞に関する実験は多々行われましたが、性別を確定するのは今ですら難しい事です。
現にコーディネイターの性別をコントロールすることが難しい事から、この様な事が起こる可能性は充分にあるのです。」
生まれてしまったいないというものは、私はこれ程小さいものを手に取ったのは、幼少期とミネバのそれ以来だろうな。
「破棄という選択も勿論ございます。」
「破棄だと?別に良い、私はこう見えて暇でな退屈しのぎに育児でもしてみようと思う。」
初めに言われた前提を、私は無視しそれを行った。
次々に行われる実験と、数々の失敗の間。たった一人人としてここに立っている私の分身は、アルテイシアによく似ている…。
だが、既に捨てたと思ったのだが郷愁というものは時に人を狂わせるのだなと感じ、アルテイシアという名を付けた。
唯一の心残りと、自らがコレを育てる為に愛着を持つためにこの名をつけるとは、些か笑い話と言えるだろう。
人は生きるために、何かしらの役目を担う。それがこれならば、私も満足行くだろう。
パチパチとコンソールをたたく、機体のモニターに格納庫が映り多くの整備員が映りこむ。機体のコンディションは良好、推進剤の量も充填完了か…。
「ブリッジ、艦隊の各艦との通信回線を開いてほしい。無線封鎖は解除だ、位置情報から本艦隊とはこのまま進んでいけば、ヤキンで交差する。
その前に我々の位置に気付かせる。上手くいけば敵の守備隊は、我々と本艦隊の戦力とで分散が可能だ。そうなれば、敵の防衛網は虚弱になる。」
「了解しました。エターナルを中心とした多国籍艦隊は、我々の後方より上角3°岩礁宙域内を月を背にして航行中です。彼等には行いますか?」
「いや、彼らは隠密に進むしかない。通信は一方通行とし、我々の攻撃開始時刻とともに突撃してもらう。」
通信が開く間に各機とのIFFの確認を終わらせる。これで最低限、誤射は避けられるだろうな。
それにしても、親父の機体データを入れ忘れたとはな、正直いろいろな意味で疲れが出ているのか?それとも、俺の中に恐怖があるのか。
そうしているうちに通信が開く。
「各艦、MSコックピットから済まない。これより全艦、ヤキンへと一直線ルートで向かうことになる。艦隊編成を扇状にしヤキンを半包囲しつつ前進していく。MSの出撃準備をしつつ、要塞戦の準備をして欲しいい。
今回の戦闘は、今次大戦の最終局面になるだろう。既にハルバートン提督率いる艦隊は、ヤキンへの攻撃準備点へと到達している。我々の艦隊が地点に到達次第、戦闘が開始される。
改めて、戦闘前に気を引き締めてほしい。
戦闘開始まで残り1時間といったところだ、各艦奮励努力し最善のうちに戦闘を終える事を期待する。以上だ。」
訓示なんて、軍人になってからまさかこんな年齢でやることになろうとは思わなかったな。本当に戦争というものは、何が起こるかわからないものだ。
「お見事です。しかし、もっと判りやすく出来なかったのですか?」
「済まないな、こういうとこは素人でね。」
「流石に准将殿も、苦手なことがおありでしたか!ハハハハハ。」
そんな笑い声が映像越しに響いてくると逆に安心する。彼らの心は正常で、切り替えがまだできているということに。
「各員お喋りはそこまでだ、さあもう一仕事頑張ろうか?勝利のために。」
・・・・・・
「時間合わせ3.2.1.作戦スタートします!」
艦隊の主砲射撃の開始とともに、艦内のサイレンが鳴り響く。格納庫内の空気が吸い出され、真空状態へと移行する。希薄になった残りの大気は格納庫ハッチの解放と共に、ゴミを宇宙へと導くように外へと放たれる。
「カタパルトに移動する誘導頼む。」
「了解しました。」
既に僚機のいくつかは出撃している、それでも編隊を組むために待機している者たちもいる。
「機雷があるか、そうとうミサイルが迎撃されているな。
艦隊は直掩で持たせろ、主砲射撃はMSが出撃後も継続、敵の目を艦隊に引き付けてくれ。」
いくつもの輝きが要塞から放たれる、此方の主砲のほうが射程が長いが要塞戦だ。最後には要塞に張り付かなきゃならない。
遠距離攻撃の迎撃はこちらもやらなければならないし、それなりに艦隊は消耗するだろう
「レイ准将カタパルトスタンバイ、射出開始します。」
「アムロ・レイ出るぞ!」
体がシートに引き付けられる、プレッシャーが幾つかあるな。これは、多少無理をしなければならないかもな。
「始まったか…。バルトフェルド君、指揮は君に一任している存分に頼むぞ。
各パイロットに伝えてほしいのだが良いか?無線封止を解除する。」
瞬く間に、星が輝くようにヤキンの宙域は閃光と光の帯によって彩られ、まるで花火という芸術作品のように宇宙を彩っている。だが、その一つの光が瞬く間に数名。或いは数百名の命が失われていると考えると、正直薄ら寒いものもある。
「パイロット諸君、準備は良いか?フリーダムのキラ君、並びにジャスティスのアスラン君も聞こえているだろう?
この戦争を始めたものの1人として、私から諸君ら戦場に赴く戦士達に1つ謝っておく事がある。
ただただすまなかったと、言葉だけで全てを伝えることなど出来はしない。
戦をしなくても良い者たちすら、この手で戦場へと駆り出してしまったことも。
戦いたくないと思っている者たちすら、戦場に駆り出してしまったという事実をこの場で謝罪させてもらいたい。
これは、私達政治を担うものの怠慢によって引き起こされた人災であり、起こるべきでなかった事である。
そして、そんな戦場に君たち若者を前線に出させてしまう行為、謝りきれるものではない。
しかし、今こうしてナチュラル、コーディネイター問わず。一つの信念の元で戦うことができることを、私含めたこの艦隊の政治を担うものの代表として一言。ありがとうと言いたい。
願わくば、貴君らがこの戦闘を生き残り再び顔を合わせられるよう早急に終わることを切に願う。」
士気は…落ちるだろうか?それとも上がるだろうか?私は、学者であって煽動家ではない。
短い文章の中にその言葉を、意味を込めることがどれ程難しい事か知っている。それ故にわかる、私は政治に向いていないと。
「これより、オペレーション〘クロノス〙の発動を宣言する。この戦いが未来への道を切り開くことを、古き神の御名において奉ずる。」
この、無力な私を許してほしい。この戦を止められず、全てを始めてしまった。私達の事を…。
凄い…ただその一言に尽きた。
アムロさんは、艦隊の配置をシーゲル閣下の艦隊が通れるよう態と穴を開け展開させ、自らがそれ以外の空域に突出する事によって戦力を誘引した。
私達はその後ろについていこうとしているけれど、穴を埋めようとするザフトのMS群が次から次へと群がってくる。
互いに殆ど一進一退な戦場に、次々と閃光が拡がり人々が死んでいくのだろう。
落ち着け、私の役目は追いすがる事じゃない。私の役目は艦隊がきちんと要塞に取り付く為の護衛だ。
「B中隊、突出しすぎている!!そのままでは囲まれるぞ!!」
「解っていますよ!ですが、准将が開けた穴をみすみす防がせる訳にはいかないでしょうが!」
部隊の損耗は思ったよりも少ないとはいえ、流れ弾が当たって落ちる機体なんかも結構いるのだ。
「クソッ!D中隊B中隊を援護しつつ北上!AC中隊は私とともに、その更に奥へと侵入し、敵の防御線に浸透するぞ!」
アムロさんが開けた穴は時間とともにどんどんと狭くなっていく。
どれ程1人の戦闘力が突出していたとしても、所詮は戦術レベルのことであり、大局への影響はさほど響くことではない。
特に、今この場で敵は私達の部隊構成を看破した。それによって要塞攻略部隊で、最も対艦戦闘能力の低い私達の艦隊に殺到し始めているんだ。
苦しい戦闘が続く中、私の瞳は大きな2つの光が私達の頭上遥かを飛び去っていくのを確認する。
遂に始まった、オペレーション〘クロノス〙。早いとこ、敵の心を挫く様な戦果を期待したいんだけど!
周囲を埋め尽くす敵に対して、私達の部隊のなんと少ないことだろうか。それでも、今までの戦場のように倍の敵と戦っている訳では無いとは言え、要塞を相手にするのだから最低でも3倍は必要なのに。
私達の正面戦力はその数よりも少ない。
「アナスタシア少佐!第二波が到着します、これで少しは…!」
無駄口を叩いているものから死んでいく、私達の部隊での最初の損耗か…。
悲しくなんかない、でも…もう一緒にお酒は飲めないな。
連合全体の動きはそれ程硬くない、寧ろこの大軍勢を指揮するハルバートン艦隊はその威容を遺憾なく発揮して、私達よりもより深くに入り込んでいるようだ。
数がある分私達よりも遥かにやりやすいのだろう、それだけこっちは辛いということでもあるのだけれど。
「アムロさん…早くしてくださいね?」
こんな圧力の強い戦場二度とごめんだと思いながら、私は近接を仕掛けてくる敵をサーベルを使って斬り伏せる。
止まったら死ぬ、動き続けろ。
光輝く宇宙を余所に私達はアークエンジェルと共に、戦場を横切るように移動している。
ヤキンの部隊は私達の事なんて目も触れずに、まるで私達が見えていないかのように動き出す気配すらない。
「カガリ、先行しないで。素人なんだから、艦隊からそんなに離れると大変なことになるよ。
相手が出て来たら1人で対処せずに、誰かと一緒に行動してよ。」
「わ、解っている。だが、素人というのは言いすぎだろう。私だってそれなりに戦えるつもりだ。」
「おいおい、まだ口論してるのか?まったく、お嬢様は俺が護衛やるから大丈夫って言ったろ?」
ムウさんはそう言うけど、カガリは直情型の人間だ。だから、部隊に損害がでは始めれば居ても立っても居られないかもしれない、寧ろそうなる。
「キラが先行して、アムロさんが敢えて薄くした敵の部隊に風穴を開けてくれるから、艦隊の直掩だけやってくれれば良いって事言ってるんだけど、聞かないんだもの。」
「まだやってないから!どうしてそう、私への信頼はある意味お前は無いんだ!」
「だって前科あるし!」
ク〜ッ!!
とか言って言い返せない彼女の事は置いておいて、そろそろキラが前線に到達する頃だろう。
その時、前方で大規模な閃光が幾つも現れた。
ミーティアのマイクロミサイルが炸裂しているようだ、アレなら敵の動きをある程度制限出来そうだ。
「アムロ大尉の方は動きはどうなの?」
「さあな、あの人は昔から顔見知りだったが何考えてるのかさっぱりな人だった。
俺等よりも遥か未来を見てるんだろうけど、まだ早いらしいぜ。もっと近付いて撃たなきゃならんとよ。」
でも、それにしても彼はMSに搭乗して私達の直ぐ側に来ている。艦の操船をどうやっているのかわからないし、特にエターナルに機体を持って来た後、その後もう一機を操縦無しで着艦させていたらしいから、何かそういう端末を使っているのだろう。
そもそも、聞いても教えてくれないのが厄介だ。
「まあ、俺等から相手にそういうのが漏れるのを防いでいるんだろうさ。っと、そろそろ到着するぜ。全機待場は解るな?
突撃を開始せよ!」
ゆっくりと加速させていく、攻撃に対して反撃しつつアークエンジェル達を前に押し上げるために、私達は奮闘する。
時折、変な声が聞こえるし何か悲鳴のようなものも聞こえる気がするけれど、大丈夫。誰かが
肩部リニアガンが火を吹き、敵のコックピットを正確に撃ち抜いていく。あまりエネルギー消費を増やしたくないから、迂闊に攻撃も出来やしない。
そんな私達の事を気にせず、トリコロールの〘ガンダム〙という機体は次々とリニアバズーカで敵を撃ち抜いていく。
本当に殆ど回避動作をしない、それどころか攻撃を置いているみたいにしている。
キラ達のこじ開けた穴を通過すると、誰かが私達を見ているような感覚を覚える。
いや、私達を補足したんだ!!
「カガリ!後退!ムウさん!」
「ああ!カガリの嬢ちゃん、下がってろよ!!」
流石はムウさんだ、的確に敵の何処かから来る狙撃をそらしながらカガリを後退させてる。
やはり彼女は艦隊と共に動くべきだ。
「皆、敵がお出ましになったよ。」
センサーが捉えられない敵の数は…10機。それも、それぞれの識別も全部解っている。でも、+で雑魚がいるのが本当に邪魔だ。
エターナルに記録が残っていた機体群に、私達にとっては最悪の敵かもね。
「皆良い?敵の新型は全機分裂炉搭載機だから、気を付けて。特に三馬鹿!バカスカ撃たないでよ!」
嫌な感覚は消えて無くなればいい。
「射点に入った!全力で防衛しろ、240秒持たせれば良い。そうすればジェネシスは落とせる!」
後240秒。
宇宙戦闘を外から見ると、その光景はあまりにも綺麗なものであろう。点いたり消えたり明滅する光は、夜空の星々よりも瞬きそのあまりにもの美しさに見惚れるものもいるだろう。
それはきっと地球から見ればあまりにもちっぽけなもので、その目に焼き付けることは出来ないだらうが、プラントというコロニー。その、耐圧硝子から望む宇宙の光景に其れ等は彩りとして加わるだろう。
「わぁ…お母さんお母さん!あれってなぁに?新しいお星さま?」
幼子が母親に聞く、母親はそれを見て本当になんだろうか?と深く考える。
食料の統制が始まって幾日か、配給制という辛い中プラントの勝利を確信して、成人していった年若い男女が旅立って行く傍ら、数少ない妊娠した者達は何不自由無く、優先的にそれを与えられた。
しかし、その光景を目の当たりにした能天気でないものたち、即ちは生産を一手に引き受ける者達にとって、その光景はまさに地獄のようなものだろう。
プラント本国に程近いところによる戦闘の光は、確実にプラントとという共同体にとって、戦争というものの最低な結果をもたらしている。
熟練者を保留しつつ、新参者たちほど送られる戦場。それによって、プラントというものには深刻な少子高齢化が進んでいるのだ。
たったの6千万しかいない人口は、その脆いピラミッド構造の下層から崩れ落ちていく。
どれだけ製造能力があろうとも、出生率が低いという事の恐怖は押して図るべきことであり、それは共同体の崩壊を意味する。
ピカピカと輝く青天井には、今やプラントの絶望の未来の象徴とも言える状況を祝福するように花火が上がっているのだ。何たる祝福であろうか、なんと美しいものであろうか…。知らぬものは幸福に暮らし、知る者こそ地獄を見るというこの不条理を。
「そうねぇ、何か新しいお星さまが出来たのかも知れませんねぇ。」
何の興味も持たないものにより、能天気にもその家族には不幸が訪れる。
既にこの家族の父親とも言える者は、あの星になったのだ。
たったの一瞬。
いくつもの命を刈り取る白い悪魔は、この様な事を行いつつも要塞への道をただひたすらに作っていく。
能天気な家族の命をひたすらに刈り取り、その憎悪を一身に受けながらもその歩みを止めることの出来るものは誰もいないのだ。
道中襲ってくる敵をその一打に一網打尽にしながら、たった1人、一個艦隊に匹敵する敵を一身に葬り去りながら要塞への道を作るのだ…。
追い縋る2つの光が、その行く手を阻むように接近していた…。
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