円筒形の宙に風が吹く。自然を模した大地の上を多くのトラクターが駆け、麦を見事に刈り取っていく。
この大地には様々な穀物が植えられ、様々なものが食べられることだろう。このコロニーの功労者に敬意を払い、コロニー在住者はその名前をたたえる。
レノア・ザラ、プラントの学者でありながら月面と内通し農業関連の技術革新をこのL1にもたらした、食糧問題を解決した偉人。
もしも戦争がなければ、このコロニーのこともバレてはいただろう。
しかし、L1がやっていてプラントがやってはいけないという道理はなく、きっとこのコロニーが最初に発覚していれば、ユニウスセブンへの核攻撃は無かっただろう。
この戦争を起こさないために作り出したものは、その機能を果たさず図らずも宇宙に穀倉地帯を提供している。
しかし、ならばこの戦争での一番の功労者が誰か、そんな話を耳にすることがある。例えば、戦争を終戦に導いたアズラエルやシーゲル等と一般的には言われるだろうか?
それとも、連合のMS開発に尽力した科学者達というか?それとも、戦場で活躍したパイロット達というだろう。
だが、物事は往々にして小さな一歩から全てが変わっていく事が有るということを、ここに記して置かなければならない。
この戦争で地球側の功労者と言えば、最も多くの戦費を捻出した、ブルーコスモスの支持者達。
そして、プラント側といえば俺の目の前にいる、二人。ラクス・クラインとアルテイシアだった。
二人は互いに近くにいたが、その関係は敵どうしという程遠かった。
だが、この2人のこの距離がなければ、アルテイシアはラクス・クラインに情報を提供出来なかったし、ラクス・クラインはその情報からラウとの接触をせず、シーゲルはこの世にいなかった。
「あの………、はじめまして。アルテイシアといいます。
こうやってお会いするのは初めてですよね?」
「その声は、いつも垣根の向こうにいた方ですか?お久しぶり…とでも言えばいいでしょうか。」
彼女たちはこの穀倉コロニーに現在、身を隠す形で臨時に居住している。ラクス・クラインはその身柄の貴重さから、政治利用されるのを拒んだシーゲルの手によって、アルテイシアはその憎悪が彼女に向くことを許容できなかった俺によって。
「若い二人がそうやって顔を合わせることが出来て、場を提供した老人としては嬉しく思うよ。」
「あの、この場に呼ばれた身として失礼ながら、私達は何故ここに呼ばれたのでしょうか?」
「そりゃあ疑問に思うだろうな。そうだな、今後の身の振り方について君たち二人に聞きたいことがあったというところだ。
単刀直入に言うが、俺達と一緒に木星に行ってみないか?というお誘いの言葉だよ。」
木星、核融合炉に必須であるヘリウム3や重水素を多量に含んだ巨大ガス惑星、その開拓第一号として俺は2人を誘っている。
この世界では、未だに木星圏の開拓が進んでいない、そのために中立組織である木星船団もいない。
核融合炉を本格的に駆動させ始めた、このコロニー群には死活問題と言えるだろう。数十年もすれば、月面のヘリウムは使い切ってしまう。
そうならないように、木星開拓をするのだ。
「この30年の間に、様々な設計をしてきた。やっと戦争も終わりを告げるのだから、今しかタイミングがない。
使用されていないL1のコロニー内部で、木星開拓船を建造してねその第一陣にと思ったんだが、どうかな?」
「どう……と言われましても。私はまだ色々な事を知りませんし、それにまだあの歌の意味が理解できていません。どうしてあの時、皆さんに私の心が通じたのか…。」
あれが、サイコフレームの本来の力なのだろう。人の意識を媒介に、その願いを聞き入れたと言う。
アクシズを押し返そうとした、あの力と同じものがあれなのだろうな。それが、あの宙域の人々の心を動かした。
「あれは、本来君の力なのだろうな。人に誰かに、歌という形で語りかけられる…誰かに寄り添える素晴しいものだよ。」
だが、それが答えとも言えないのがアレの恐ろしさでもある。
「アムロ・レイ、私は……木星に行ってみたい。外から地球を見たいんだ、そうすればキャスバル…父さんの考えていたことが少しでも判ると思うから。」
「そうか……、顔も知らなかった友人同士各々考えが違うのも、運命なのかもな。」
「そうですわね、まさか貴女だとは夢にも思いませんでした。データをくれたのは貴女なのですよね、私ずっと誰だったのかわからなかったんです。」
彼女達の談笑は始まる、それが途方も無い程に長い時の再会を願ったものなのだろう。
「もし、木星から帰りましたら。是非、もう一度私の歌を聞いてください。
実は、ニコル様と世界を周るコンサートを開こうという計画があるのです。
平和になれば、そういう事も出来ると。ですから、私は歌い続けますわ、平和が来るその時まで。」
人の歩む道は決まっていない、サイコフレームを少しでも遠ざけるには、俺が持っていくのが手なのかもしれない。
そして、誰かがそれを継いでくれるように、必要となるその時まで…。
ヤキンでの戦闘から早いもので既に1月という時間が流れていた。
ジェネシスによる、2個艦隊の壊滅から未だに戦力の拡充が行えない連合は、いつしか戦力を、分散しつつ戦闘が再開されても良いようにと、俺達13艦隊への政治的圧力を強めた。
アークエンジェルは辛くも、オーブへの編入という形で罪に問われる事もなく。彼女等の亡命は事実上成功したといったところだろう。
そして、クライン派から編成された艦隊はプラントへと凱旋を果たし、生き残っていた数少ないザラ派。並びにパトリック・ザラと全面的に和平へと動き出すように方針を転換させ、事実上クライン派がプラントを統治する形となったようだ。
もっとも、当のシーゲル・クラインが自ら座す事を許さず、全責任を持ってして、今時大戦の引き金を引いたものとして、色々とまとめていくだろう。
そして、俺達13艦隊には艦隊として既存の兵器体型に無いものばかりがかき集められた。
例として言えばドミニオンだろうが、この艦は量産するには少々死角が多い割に、通常兵装による砲撃戦が強いとも言えない、比較的中途半端な艦であるがゆえに、補給という点においてお荷物だったのだろう。
それが、俺達に補填とされて組み込まれた。
艦長はそのままナタル・バジルール少佐が指揮を取り、俺達には得難い艦隊戦力となった。
結局、クリーブランド級は2隻とも戦力として数えることが出来なくなり、俺の指揮する艦隊はエポナとドミニオンのたった2隻に成り下がった。
そんな中、俺達にはある司令が出されていた。
L1コロニー郡の内部調査を言い渡されたのだ。
……
「バジルール少佐、済まないな。君としては最悪の左遷された状態だと言うのに、こんな事につきあってもらって。」
「いえ、私はその様なこと思っておりません。元々、祖国には違和感を感じていましたから、この艦隊に配属されたことは光栄に思います。」
彼女はそう言うと、通信をきった。定期連絡、無線封止をしているわけじゃないからな。
彼女は戦争から少し経った頃から、連合。特に大西洋連邦への不信感が増していたこともあり、不穏分子を一局所に纏めたい連邦は彼女を艦ごと俺達の方へと回したようだ。
嘗て、大西洋連邦で多大なる貢献をしたバジルール家は、今没落したと見られているという。
「スターシャ、君もご両親との話し合いは大丈夫だったのか?」
「どうせ家を飛び出したのは私ですから、それに……生きる道は自分でと決めていますので。」
そんな彼女達を連れて俺はL1宙域へと足を踏み入れた。
大凡半数が崩壊したコロニー群は、その残骸を依代として一時期海賊が跳梁跋扈していた、勿論戦時中当時の俺達の部隊が戦闘して綺麗にしたりもしたものだ。
「こんなあからさまにやってもバレないどころか、してやったりと思っているのがアズラエルの凄いところだな。」
L1コロニー郡、それは宇宙開発最初の拠点の1つであるコロニー群の1つ。
旧来のコロニーはミラー材質の不具合から、その姿かたちは円筒形の金属棒のように硝子がほぼ無い密閉型のコロニーとして建造された場所。
逆に言えば、全ての場所で食物の生産が可能であるという、そういう意味では効率的なコロニーである。
そんな巨大な構造物の後端部には、いくつかの小さなスラスターが取り付けられ、それが今か今かと点火されるのを待ち続けている。
「コロニーごと月の裏まで持っていくとはな、どれだけ莫大な費用をかけるのか。月面都市すら建造を始めていると聞く。これは完全に地球に対する裏切りだろうな。」
残骸だらけとなり、拡張が不可能となったL1を放棄し、コロニーごとL2へと引っ越しさせるという、豪快な方法で経済を支配しようとする彼には、正直言ってコーディネイター等どうでも良いほどに優秀な頭脳があると思う。
現にコペルニクスとは対極の位置に、〘ルクレティウス〙という基地兼、L2の新たな拠点として採掘基地を建設することに決まったという。
このまま、行けば数年後にはL2には多くの移民が来ることが予想されるそうだ、どうやって宣伝するのかわからないが。
「俺達の艦隊と第八艦隊が離反するなんて言ったら、連合も腰を抜かすだろうな。」
主力を成す一個艦隊の内の1つが完全に連合から離脱するのは、彼等にとってとても痛い事だろう。
そんな事を赦す事になったのは、他でもない連合の圧政を知ったからだから同情もしないが。
「宇宙軍の人たちの家族って大概月住みですからね、別に珍しくもありませんよ。逆に今まで良くこんな計画出て来ませんでしたよね。」
それだけ親父が用意周到だったのか、それとも月の連中が強かだったのか、両方かもしれないな。
そんな軽口ができるのも、比較的安定的な情勢になってきているからだろう。
「そう言えば、ユーラシアがアメノミハシラ・ステーションの攻撃を計画してるって情報ありましたけど、あれどうなったんですか?」
「大西洋連邦は関知しないというやつか?旧ウズミ派の残党がいるとかいう難癖のやつか、正直オーブは黙っちゃいないよ俺等は手を出せないが、単なる縄張り争いのようなものだ、何処からか噂は流れているさ。」
そうでなくては、俺達にここを任せるという命令が来るはずもない。
「ドミニオンに連絡、これよりコロニーへの臨検を開始する。MS部隊は各自展開し、有事以外は命令するまで待機せよ。」
俺達の苦難が始まるか、それとも終わるか。俺には親父のような力は無いからな、だからそうやすやすと全てを理解することはできない。だから、関係できることにはそれなりに関わるのも良いだろう。
復興が始まったオーブに帰ってきた僕等は、英雄の凱旋だとかそういうもので、やんややんやと騒がれたのも数日前。
今日から正式にオーブ軍に編入されるけれど、僕はそれに戸惑いを覚えていた。
正直、僕は軍人に成りたいなんて思った事無いし、この戦争だって元々は僕は関係のない立場だった。
それが、いつの間にか事態の真中で大立ち回りして、今や軍人に…、人生は何があるかわからないと言うけど、これはちょっと誰にも予想出来なかったんじゃないだろうか。
停戦が決まったその日に、アムロさ…准将から言われた言葉を思い出す。
〘戦争は忘れて、後は自由に生きていけば良い。君はまだ若いから、様々な選択肢があるはずだから。〙と。
僕はそんな言葉に、人生の岐路に立たされていることに気付かされて、結局あの現象の事を聞けなかった。
けど、今はそれどころじゃない。
どういう訳か、オーブの。それも用心のための化粧室に入れられている。どうやら、カガリが僕を肉親として呼んだらしいのだ。たかだか二尉の軍人が、こんな大っぴらに仮にも代表代行に招待されても良いのだろうか?
「キラ、どうだろうかこの格好…、正直に言ってくれ。私に似合ってるだろうか?」
薄いエメラルド色の控えめなロングドレスを身に纏った姿の彼女が眼の前に現れると、僕は息を呑んだ。本当に綺麗なのだ、年相応な幼さと成人への成長途中の彼女のその姿が。
「いや、カガリはガワはいいから似合ってるなぁなんて。もっとお淑やかにすれば…良いと」
「はぁ?!お前!それじゃあまるで!!」
とかそんな感じに怒ったように言われるけれど、化粧や服装が崩れるからと周囲の人が咎めながらも、目が笑っている。皆内心そう思っているのだ。
「なぁ、アスランは本当に来られないのか?」
アスランは、現在レノアさんの生存確認のためにプラントから直接L1コロニーへと向かっている最中だという。
最愛の家族が生きていたなんて話したら、きっと誰もがそういう事をするんだろう。
それに…パトリックさんの方でも色々とゴタゴタが続いているから、たぶん来られないんだろうなぁ。戦争とか、条約とかそういうもののすり合わせで。
一触即発なのに、こんな場所にいられること事態幸運だってアズラエルさんは言っていたし。
「アスランもアスランで忙しいから、ほら立場的に言えばアスランはカガリと同じ様なものでしょ?
だから色々とね。」
「そうか……、わかった。はぁ〜、緊張するな。公務なんて私には向いてない事をするのは。」
いつの間にアスランとカガリ仲良くなったんだろう、というかこの状況僕よりもアスランが来てくれたほうが良かったって思われてそうだ。もしかするのかな?
コンコン
と音が鳴り響く、そろそろ時間という事だ。
カガリはスクッと立ち上がると、真剣な顔で深呼吸して外へと出向いた。
僕はその後ろを護衛として、連れて行かれた。
……
ヤラファス島オーブ臨時行政府の談話室に、オーブに今残っている5大氏族のうちの二人、カガリとロンド・ミナと呼ばれる女性が出席するはずだったんだけど……
その件の人が来ていない、それどころか国防省の人も物凄くピリピリしているという。
僕のところに情報が来ていないけれど、カガリの目の前にある小冊子の中にその答えが載ってるんだろう。
「アズラエル理事はまだなのか…会合の時間は既に10分過ぎているんだぞ!」
カガリが怒り気味に言うのは、たぶんその冊子の内容が内容だからなんだろうけれど、一介の尉官の僕には良くわからない。
更に数分待っているとツカツカと廊下の方から、声と足音が聞こえてきた。
「いや、すいませんね遅れてしまって。こちらもゴタゴタが続いていまして、寝耳に水の出来事が起きてしまったんですよ…、代表代行もご存知かと思いますが。」
「連合はまたオーブを焼こうというのか!我々が一体何をしたと!」
「いやいや、ご尤もですよ。ですがね、我々としても連合内部での分裂は避けたいのです。ですが、このように情報は提供させていただいています。
それにですよ、ブルーコスモスとして言いますと、折角やっとの想いで重金属汚染を除染できたばかりだと言うのに、またもやそんな事をするユーラシアには頭に来ているところなんですよ。」
戦争の後でも世界はこうやって直ぐには平和にならない、それが世界なら僕は平和になるまで戦おう、カガリがそれを望むなら。
フレイもそう思うみたいに。
「フレイ・アルスター二尉はアメノミハシラにいるようですが、戦闘には参加するので?」
「このまま行けばそうなる。」
僕たちの戦いは始まったばかりだ、オーブが戦後生き残る為の。
これにて、SEED編終了となります。
次回は少し更新遅れます。
戦間期となりますので、物語の形を少し説明するものが必要と思いますので。
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