その蒼い宇宙を見て   作:丸亀導師

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誤算

戦闘は大雑把に言えば、俺達の大勝利で幕を閉じた。元々ミノフスキーテリトリーでの戦闘を前提に造られた俺達の艦隊は、ミサイルに対する絶対的なアドバンテージと、新型の対空パルス砲によってその尽くを撃ち落とせるからだ。

 

アウトレンジからの一方的なメガ粒子砲と、TMS(可変MS)の運用による高速度展開という、本来MAの強みであったそれらを応用し識別不能艦隊を一方的に破壊した。

どこの所属かもはっきりしない敵、それは逆に言えば俺達には好都合だった。

 

「いや〜、助かりましたよ。一時はどうなることかと思いましたが、皆さんの艦隊は充分強いですね。」

 

「数では勝てないからな、それこそMSを2000機だとか持って来られたら、目も当てられない。」

 

俺達の艦隊は小規模だ、と言っても俺の所属するハンザ同盟は人口1億6千万。

規模としては、連合よりも遥かに劣るがプラントより余裕がある、自前の軍も持てる規模だ。オーブよりも遥かに数は揃えられる。

 

「曲がりなりにもユニウス条約に批准しているからな。MSの保有制限はあるが、別に地球に基地が有るわけじゃないから、俺達の領域と外宇宙を護れればそれだけで良いとも言える。」

 

「それもそうですね、僕の事業も少しずつ軌道に乗ってきていますから、地球にも色々と分散させましたし。

これで思う存分、〘青き清浄なる世界のために〙活動が出来ますよ。

人はあまりに地球に長くいすぎました、戦争で荒廃していく姿は目にも耐えません。」

 

では勝手に戦争をするような組織を作るなと言いたいが、一応慈善団体という側面もあるからな。

一番上が一番まともというのは、それなりに多くある事例だったりもするからな。

 

「提督、先程の戦闘でのデルタプラスのフィードバックだ。

かなり良質なものだと思うが、やはり少し重いな。改善点を記入してある、やはりサイコミュというものの搭載を検討すべきだ。」

 

「おや、やはりアレはラウ君でしたか。いやはや良い動きでしたよ、ところでお薬の調子はいかがですか?」

 

ちょうど良いところにラウが現れた、彼は今回の戦闘でデルタプラスの本格量産の決め手を書いてくれているようだ。

ちょうど、生産部門の頭が眼の前にいるからな、是非とも突き付けておきたい。

 

「薬か、あのアンチエイジング薬を経口摂取させようとした物は、非常に効果的だよ。この通り、老化が止まったからね。

今は亡きアウラという学者には感謝してもしきれないな。」

 

「そうだな。

話は戻すが、サイコミュを使った操縦への補助があればより生存しやすいしな。どうです?現場からのダイレクトの要望ですよ。」

 

「検討はしておきましょう、ただし予算の許す範囲でというものが付きますが。」

 

俺達の戦力は決して大きくはない、常備兵力は連合から見れば大きく劣るし、プラントよりかは大きい組織だが、それにしてもまだ出来て日が浅い。

忠誠心という点で劣っている。

 

「空中分解しないように手綱はしっかりと握ってくださいよ、この国は出来て日が浅いんですから。」

 

表の地球との貿易に関して言えば、元々開発拠点のあったコペルニクスから全資材を根こそぎ移設したんだ。

こちらの技術で造られていた物を、仲介してくれるのはあそこしか無い。

その点、プラントとはそれなりの距離で貿易が成り立っている。

 

「プラントとも接近し過ぎないようにしませんと、内部のゴタゴタに巻き込まれたら洒落になりませんので。」

 

そう言うと、彼は貴賓室へと向かった。またワインでも飲むのか、それとも連れてきた家族の事が心配なのだろうな。

 

「さて、提督。手合わせ願いたい、色々と粗を出したからな。先程の戦闘では、物足りんしな。」

 

「何を見ても知らないぞ?」

 

俺は終わった指揮を参謀に任せ、格納庫へと向かった。MSパイロットとして、実戦という場に出るために、出来るだけ身体が鈍らないようにするにはこれが最適だろう。俺の相手を出来る数少ないパイロットなだけに、腕が鳴るな。

 

 

………

 

軍学校は月面にある、1度の出撃の後に休暇を貰った俺は、たまにそこに立ち寄る。

急速な軍備の拡張という物を達成できた、最大の理由がそこにあるのだ。

 

体力を作る施設には一般的に1G下が最も効率良く。月面重力下に、更に遠心力でそれを作り出している。

そして、体力を取り戻す間の就寝は月面重力での睡眠とすることで、肉体への負荷軽減を行っている。

 

勿論、最後の一ヶ月はコロニー内部での訓練だから1G下での就寝も可能なようにしているが、この睡眠こそがもっとも重要なものだ。

 

「いつ見てもこの景色には慣れないものだ。」

 

学生寮には一機ずつ、とても大きな揺り籠がおかれている。それも、士官等の高等教育から兵卒迄に至るまで、その装置は置かれている。

俺が言った通りその装置は、〘揺り籠〙と言う名のもので元々はエクステンデッドの研究データにあった洗脳装置だ。

 

それを一般に常識範囲の教育まで行う、これによってコーディネイター、ナチュラル問わず同等の速度で学習が可能となる。

管理されたディストピアのようで、やはり良い気はしないがそれで軍を維持する為のコストは大幅に減る。なにせ、体力造りが主になるからな。

 

戦力が整う間はこれを使って、促成的に軍の拡張をするらしいが、果たしてそれは今のところ上手く機能している。

負荷の軽いものだからこそ可能だとか、ブーステッドマン程ではない、一般パイロット程度ならこれで良いわけだからな。

 

そんなものを見た足で俺は帰宅する。

ちょうど、月面へと居住地を移した訳だが心配の種があるからだ。

 

「あら、おかえりなさい。帰ってくるなら帰って来るで連絡してくださいよ、私だって準備があるんだから。」

 

そういう彼女、スターシャのお腹は少し大きくなっており、順調な成長を感じられた。

 

「すまないな、急な帰還だったから連絡が遅れたんだ。

数日はこちらにいられる、だからね。」

 

「フフ、わかりました。腕によりをかけて作っちゃうんだから。」

 

彼女の料理の腕は中の上程度、一流のレストランだとかそういうところの方が味は良いが、一般的な食事に親しみがあるから彼女の腕が一番いい。

それに…、料理をする姿は可愛いしな。

 

「そろそろ、お腹が出て来たね?あまり無理はしないでくれよ?勿論、ベビーシッターとかそういうのも。」

 

「判ってます!だけど、ほらこうやって二人の食事なんて今くらいのものよ?だから、最低限楽しみましょう?」

 

日常というこれ以上ないスパイスは、非常に辛く俺には効く。これを護るために、今こうして身体を貼っていることを自覚できるからだ。

 

 


 

 

CE73年6月15日……、私にとって悪夢のような日付。

記憶に深い傷をつけた、最悪の日と同じ時間同じ時に。私は、TVクルーも見に来るような慰霊碑を前にして、深く深く黙祷する。

 

それが終わると、赤い翼のアカツキというMSと青い翼のアカツキが、互いに僚機を連れて、四機で1個小隊。

2つの編隊を形成しながら、互いにヘッドオンの状態で向かっていく。

 

2つの編隊がある程度近づくと、赤と青の機体が急上昇を始める。

所謂ミッシングマン・フォーメーション、という追悼の際に行われる編隊飛行、それをヘッドオン状態から行い互いがぶつかるかぶつからないかのギリギリで、互いに機体の下部を平行にし合う。

それから見るだけで、どれだけ高い練度を持った2人なのかというのが容易に想像がついた。

 

私の目には他の人には見えない、その機体にあるエンブレムが見えた。

互いに右翼に側に、青い機体には天使の羽を象ったのだろうそれが、赤い機体には狼がそれぞれ描かれていて、そのパイロットが誰かというのがすぐに分かった。

 

赤い方の左翼側には緑色のF.A

【挿絵表示】

と十字のようなものが、青い方には桜の花弁にK.Y

【挿絵表示】

が描かれたものが、それぞれそのパイロットを主張していた。

 

オーブ軍の中でしかもパイロットで、その文字使ってる人なんてすぐに分かる。

オーブの人口はお世辞に言って多いとは言えない、その中でも腕利きのパイロットでその色が似合いそうで、何より息がピッタリといえばあの2人だろうことは、想像に難しくなかった。

 

元連合のエースパイロットである、キラ・ヤマトとフレイ・アルスター両名のその名は今でも轟いている。

孤軍奮闘のアークエンジェルにおいて、正しく獅子奮迅の戦いを演じた2人の伝説には毎回驚かされるからだ。

しかも…、キラ・ヤマトにはフリーダムのパイロットという、ある種プラントの汚名もある。

 

そんな2人なのだ、このフォーメーションだって朝飯前に違いない。

 

それが終わるとカガリ様の演説が始まる。

夢見がちな理想主義者な内容の演説は、正直言って現実主義の私にとってそれ程心に響くものじゃない。

どんなに理想を掲げても、それを実行するための力がなければ、オーブはまた戦場になるしかないから

 

追悼式が終わると周囲の人達は各々のしごとに帰っていく、それと同時に子ども達は周囲の屋台を見に行ったりと忙しなく動くのだ。

なんとも、この国らしいといえばらしい。何か大きなイベントが起これば、それを祭りにしてしまう良くも悪くもここはおおらかだ。

周辺国からは不謹慎と言われるかもしれない、でもそれがこの国なのだ。

 

 

………

 

追悼式も終わり普通に学校が始まる。課外授業の一環として参加しているけれど、実際に被害にあった私から見れば滑稽な光景だった。だって、皆には殆ど関係ないから。

 

学校…私はまだ初等科、所謂小学生なわけだけど正直この時間が退屈だ。中等科から、オーブは軍事関連の学校に行ける。ここ数ヶ月の間に可決された法案に、即時発行されたらしい。

所謂、連合の言いなり法案とでも言おう。

 

家にいれば子ども達と過ごせるし、授業内容は定期的に来るキラさんやフレイさんが教えてくれる。

それだけに、私にとって唯一興味の出る私の知らない教科である、社会だとかそういうもののために通っているようなものだ。

 

学校にも勿論孤児の子達がいて、そういう子は必ずどこかしら暗い顔をしている。

親類というものを無くした人間がケロッとしているのは、ある意味でおかしい事なのだけど、しょうがないじゃないか今の私はこうなのだから。

 

「マユちゃん、進路決まりましたか?」

 

学校の教員だ、私は周囲と違い受け答えが出来るからだろう、出来るだけ希望を反映する為に、教員がそれを聞くのだ。成績優秀者は2年だけ飛び級が許される、私は10歳だけど来年からは中学に上がれる。

 

「いえ、ですが。私、軍に入ろうかなって思っています。」

 

それを聞くと先生は渋い顔をする。まだ小学生のくせにそんな事を言っているのだ、正直異常だろう。

このくらいの子供なら、もっと色んな職業に就きたいだとかそういう事をいうのに、私はそんな事を言っている。

 

「他には…無いんですか?例えば、お医者様になりたいとかパイロットだって色々ありますし。」

 

「私は軍人になりたいと言いました。別に、誰かに復讐したいとかそういう事を言っているわけじゃないですし、別に先生が悲しい顔をする必要はないですよ?

それに、孤児にお金はないんですから、それが私にとって一番コストパフォーマンスが良いというだけです。」

 

就業しながらタダで資格を取れて、尚且つ給料も貰えるのだ孤児で身寄りがない人間にはうってつけだ。

それでもこの人は嫌なのだろう、自分よりも若い人がそんな事を考えるなんてと、そう思っているに違いない。

 

「でも、貴方の成績ならもっと良い選択肢も。」

 

「選択肢…ですか?中等過程から入れるものだってあるじゃないですか、どうせ徴兵制があるんですから。それに孤児院の子たちにも良い格好つけさせてください。」

 

残念だけど、私は折れない。非力な私が誰かを守るために出来ることなんて、パイロットくらいしかないもの。

医者になるにも良いけど、どんなに人を治したところで、人は簡単にそれを踏み潰していく(殺していく)から。

 

そういう言葉を聞いた先生の顔が引き攣っている、おかしなところなんてないのに。

 

「先生…どうかしましたか?」

 

「い……いえ、わかりました。それでは、その目標に向けて頑張ってください。」

 

廊下の鏡を横切ると、私の口は吊り上がっていた。

 

 


 

慣れないパレード、慣れない歓声の中からやっとの想いで離れた僕たちは、一路いつもの孤児院へと向かっていった。

オーブでも数少ない孤児院の内の1つであるそこには、僕たちが家族を守れなかった子どもたちがいる。

 

「皆久しぶりだね、元気してたかな?」

 

「ハァ〜イ、ねぇ今日の飛行皆見てくれたかな?結構上手くやれたと思うんだけど、楽しんでくれた?」

 

無邪気に笑う子ども達を見ると、僕たちの戦いは決して無駄じゃなかったと、そう思える一方で僕らの力のなさを実感できる。

初心を忘れちゃ駄目というのはこういう事だと思う、自分で手にした剣の斬れ味が鈍らないように、僕達は切磋琢磨しなくちゃならない。

 

「あっ、お久しぶりですねキラ!」

 

追悼式に参加していた要人の中に、見知った顔がいたと思ったらいつも通りラクスがここにいた。

セットでニコルも来てるけど、僕がラクスと何か話しているときはいつも、渋い顔をしている。

 

いい加減ラクスも気が付いて挙げれば良いのに、彼はまだ告白もしていないんだから、どうして大胆な作戦は建てられるのに、こうも臆病なんだろう。

 

いつも通りフレイもそれに参加して、いつキャットファイトが始まるかヒヤヒヤしている。二人が睨み合っている間に、ニコルは僕の近くに来て互いに挨拶する。

 

「展示飛行見事でしたよ、元ザフトのパイロットとして嫉妬してしまうくらいには。」

 

「そう、ありがとう。アスランとカガリはまだ来てないんだね。」

 

それを聞いたニコルはキョトンとして、僕に問いかけた。

 

「知らないんですか?最近、オーブとプラントの間が冷えてきているって事、なんとなくわかっていると思いますけど。」

 

「判ってるよ、でもまさかそれ程とはね。このままだと、今度こそなにか有りそうだね。」

 

戦争なんて真っ平ごめんだ、それでも起きたら起きたでなんとかしないと。

 

「カガリとアスラン。表面上は凄く硬く見えるんだけど、時折カガリが弱音を吐いている時に、励ましてるのよく見てたからさ、でもそうだね。見ている分には、あまり良くないように見える。ぎこちなさ過ぎるというか、」

 

「そうなんですよね、二人共感情的な部分はあるんですけど、立場が邪魔して心を打ち明けられないってところもあるし、やっぱり迷ってるんですよね。

特にアスランは犯罪者の息子という立ち位置ですし。」

 

そう言うと、彼は僕のポケットの中に何かをいれるとすぐ横に来る、その眼差しは真剣そのものだった。

 

「僕とラクスに何かあればそれを見てください。流石に有名になりすぎましたから、標的には持って来いなので。」

 

その言葉が何を含んでいるかなんて、考えるまでもない。

でも誰に、今のプラントの議長はクライン派と言うし、ザラ派はパトリックさんが終身刑を食らっているから、もしかするとそうなの?

 

僕はそう思って2人を交互に見る、ラクスは気高く振る舞っているけれど、ユニウス条約後にシーゲルさんを亡くしている。

調印式の数日後に襲撃されて、それが誰の差し金だったかなんて判らないけれど、それ以来彼女はプラントには帰っていないそうだ。

 

「今年、僕たちはプラントに行ってみようと思っています。正直言って、今の議長も胡散臭いとは思っています。

声がシャアに似ているという、先入観からかもしれませんが…ですからもしものときは、頼みますね?」

 

「気をつけてよ、障害者なんだから。」

 

「これでも元赤服です。アスランには負けますが、キラ。貴方には腕っぷしなら負ける気がしませんので。」

 

そう言うとニコルは笑い、強がる。彼の手は強く握りしめられて、血管が浮いていた。

 

その日、二人がお忍びで孤児院に泊まると、彼等の影武者が何者かに襲撃されたというニュースが流れた。

首謀者が何者であったのかはわからない、でも数日間は二人に身を隠すように言うと、その間に信じられない光景があった。

 

TVの中にはラクスにそっくりな〘ラクス・クライン〙がいて、ニコルを失った悲しみと、苦しみに悶えながら歌を歌っていたのだ。

 

 




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