俺達にその情報が届いたのは、事件発生から2日後だった。
地球上での出来事、俺達の国民の地上への無関心。
それが、その事実を俺達に伝わるまでのタイムラグ、というものとなって現れた結果だった。
勿論、準連合加盟国とまで言われる立場のオーブだ、そのメディアは大戦の影響で体質が若干変化し、連合・オーブへの忖度という形で報道管制が行われたということもあるだろう。
要するに、俺達ハンザ同盟は連合から嫌われているということでもある。
軍人が政治に口出しをして良いものか?それは、長年のこの世界での戦争経験から導き出された結論の下、文民統制を成されている国が多いことから判るだろう。軍人の政治への介入というものは異端であり、そしてこのハンザ同盟においてもそれはそのままの意味を持っていた。唯一、国防以外では。
「今回の件で招集されました、アムロ・レイ准将です。質問があると言われましたが、実働部隊の長であるだけの一介の軍人でしか無い自分に、いったいどのようなご要件で?」
言うまでもないが、この議会は各都市の代表が参加しているものだ。月面都市1つに対して議員1人、コロニー1機に対して1人。
合計で32名の代表によって選出された議長がトップとなる間接民主主義というものだ。
プラントと良く似た形だが、違いがあるとすれば少数ではなく、各コロニーの内情を反映するために造られた組織である。といったところだろう。
無論、コロニーにはコロニー事に首長がいるからどちらかと言えば国会議員に近い。
大臣の任命権は彼等にあるが、閣僚が議員である必要は無いという面もある。
そんな連中のいる場に招集されるのだ、正直に言って心地良いものじゃない。
「准将、まずはこの映像を見てほしい。」
映し出されたのはラクス・クライン襲撃、それによって出た被害者数を集計したTV番組だった。
そして、襲撃を免れたラクス・クライン本人による今回の事件に対する非難声明というものも。
「君に聞きたいのは、この事件の被害にあった人物。ラクス・クラインと故ニコル・アマルフィの関係について聞きたい事があったからだね。」
つまり報道に出ているような、二人は男女の関係であるのか?というものに対する問いかけというものだ。
彼等はラクス・クラインと直接話したことのない人間が大半であり
「二人の関係…ですか。正直な話、ここ数ヶ月あっていません。その間に関係が深まった……、という可能性もありますが、これはあからさまですね。」
その言葉に議員達は内心納得行くのだろう、もしこの状況で自分であれば彼女を利用するのは当たり前の行為であり、そんな時にこのように世間一般に発信するのは、政情を煽るのにピッタリだと。
「それに、ニコル・アマルフィに関して、私は彼と共に戦ったこともありますが、情報の精査に長けており策略等の物事が上手い人物です。
こんな罠にかかるほど甘くはありません。
更に言えば、ここに映るラクス・クラインは本人では無い可能性があります。
非常に良くできていますが、彼女の性格を見誤っていますね。
彼女はああ見えて、激情家ではありますが冷静な分析ができる人間です。
こうなっても悲しみに暮れることなく、更なる悲劇を避けるために身を隠す様な手を行うのが彼女ですから、これではプラントを利する事しか考えていないように見えますよ。
大方ブルーコスモスの仕業に見せかけた、プラント側によるテロ…というのが自分の見解です。」
「それでは、暗殺者は体の良い神輿を欲していたということか、だとすれば何故彼女なのか。プラントには、未だにパトリック・ザラの息子がのさばっている。彼を利用したほうが手っ取り早いのではないか?」
各議員から各々質問が飛んでくる、互いの意見を尊重するのは良いことだが、かえって難しい。
「アスラン・ザラを使うのは非常に難しいと判断したのでしょう。ああ見えて大胆な性格です、襲おうにも彼は徒手格闘において1,2を争うような男です。そうそう殺られないでしょうから暗殺することも出来ない、なら大将首を先に取ったほうが懸命と判断したのでしょう。
現状、我々は流れに流されようとしています。このまま行けば、最悪の場合、プラント並びに連合・オーブから宣戦布告される可能性も出てきます。相当、我々が邪魔なのでしょうね。ですから、外交は気を付けてください。」
「なるほどな、デュランダルという男はそういう男か…、良し判った!参考にしよう、しかしもしだめな場合戦争をして勝てる見込みはあるか?」
勝てる見込みか…嫌な事を聞く。
「負けはしませんが、勝てるものでもありません。プラントに対しては、初手コロニーの破砕レーザーで攻撃すれば事足りますが、地球はそうは行きません。
最悪の場合、コロニーを地表に落とすしか勝てる見込みは無いかと。
そこまで行ったら最後、人類滅亡ルートまっしぐらですが。」
議場は静まり返る、嫌な想像をしたのだろう。議員たちはその言葉を念頭に俺への質問を続ける。
俺はそれに対して、答えていく。
ニュータイプの議会での発言権という面倒臭い制度、これが有効に動けば良いのだがな。
上官からの軍事命令と言う、俄にザフトでは信じられない制度はこのハンザ同盟だけでなく、連合という組織にもまた存在する事に、ザフトという組織の異常さというものを痛感する。
嘗て私は、戦争において敗軍の将となった私には、いったいどんな待遇を迫られるのか、と考えていた。
ヤキンで目を覚ました時、私は自我を取り戻したと直ぐに直感し周囲を見渡した。
私は頭に包帯を巻き付けられ、顔に深い傷を負った。奇しくも、私が仮面をつけていた場所に。
言霊というものがあるのなら、まさにこの事というだろう、その奇跡的な行いに。
直ぐ様尋問が始まるかと思ったが、捕虜というザフトでは教わることのない者への好待遇。なまじ将官であったが故に、私の待遇は良かった。
しかし、事態としてあまり良いものでもなかったのは事実だ。
プラントは事実上の敗北を喫し、突き付けられたナイフに従って戦力を削られ要塞を放棄した時、私の道は決まったのだ。
亡命するしか無い、私の存在はザフトにとってあまり好ましくないものだった。
洗脳を受けていたとは言え、シャアの腰巾着としてパトリックを幽閉し剰え多くの友軍を殺す事も厭わないものに、手を貸したのだ。
相応の報いと、戦争犯罪に問われる覚悟をしていたのだが、それがあっけなく1人の男の言葉で覆った。
「実にもったいないですよねぇ、貴方は被害者であるにも関わらず、それをナチュラルだからと糾弾する……。新人類が聞いて呆れますよ。
どうでしょうか、私達と一緒により高みを目指してみませんか?」
そう言われ、私はこのハンザ同盟という者達に入れられ少佐という、破格の待遇を受けている。
そして今日、そんな階級に見合う仕事を割り振られた。
「まあ、そこには座ってくれ。」
私を呼んだアムロ・レイが執務室にて、待っていた。一対一の話し合い、話などせずともある程度は判るだろうに、この男はいつもそうやって話をしたがる。生の感触というものを大切にしたいというのも、判らなくはないが。
「ラウ・ラ少佐、他でもない君にしか出来ない命令がある。今日は、准将として君に命令させてもらう。
君に拒否権はあるし、質問にも応えよう。」
「どのような内容か……なんとなく判るさ、私にギルとあって来いと、そう言っているのだな議会は。」
そう言うと、彼は首を縦に振る。それを見て私は思った。遂にこの時が来たかと、私という人間は先の大戦で死んだものとされている。
そんな奴が、得体の知れない新組織のそれなりの地位にいる軍人として現れた時、人はそれを裏切り者という。
「その通りだ、お前は話が早くて助かるよ。
評議の日程は未だに決まっていないが、現在建造中のザフト新造戦艦。それの進水式に必ず現れる予定となっている。
日程が確認出来次第、君を現場へと送る予定だ。」
「随分と嫌そうな顔をするな、そんなに嫌か?」
彼の顔は非常に硬く強張っていて、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「正直な話、本当ならば俺が行きたい。だが、残念ながら今の俺は自由に動ける身じゃないからな、将校というものはつくづく厄介な階級だよ。」
「フッ、自業自得だな。手柄を上げすぎたのだ、良いペナルティと思ってくれ。
しかし1つ問題がある、レイ・ザ・バレルという私と同じ、アルのクローンがいるのだが、彼が私に感ずくかもしれない。」
それを聞いてもなお、私に対して頼む姿には頭を縦に振らずにはいられない。
諦めた顔と、くたびれた仕草が彼の心理を見せる。
行きたくてうずうずしているのだろう、議長の顔を一目見ればその思想も簡単に理解できると、そう踏んでいるとも言える。
「では、期待して待っていてくれ。これでも元ラウ・ル・クルーゼ、プラントのことは任せてくれ。」
「じゃあ頼むぞ、もしもの事があれば直ぐに連絡をくれ、艦隊は直ぐ近くに展開しておくからな。」
それだけ聞くと、私は退出した。プラントに残してきた、レイの事を思いつつも未練がましい自分を、鼻で笑った。
「おんなじ番組でつまんなぁ〜い!!」
というのが、5,6歳の子たちの感想で確かに連日のように、ラクス・クライン暗殺未遂事件。
ニコル・アマルフィの死と、その真相は?とか言う番組ばかりやっていて、言って悪が私も退屈だ。
「ごめんねぇ〜、本当につまらないよね。じゃあさ、僕がピアノを弾くから皆で歌でも歌おうよ!」
というのが、今ニュースになっている当事者でなければ、好青年が孤児院でボランティアしているという、なんとも非常に言い絵図何だけど。
「ニコル様、私も合わせて歌いますわ。」
そういう女性も合いの手で歌を歌う、その顔がニュースで悲痛な顔をしながら会見している人物でなければ、どれ程美しいと思っただろうか。
なんだ?この世界はこんなにもおかしなものだったのか?
TVの向こう側で起きている出来事がまるでコメディのように、流れていく。
本人達がこんなにも幸せそうに子供たちと遊んでいる姿を見ると、もしかして呪縛とか?お互い、自分達の名前のせいで自由に生きられないのを嫌だと思ってる?
「嬉しそうですね。」
はからずも本音が漏れてしまった、その言葉に対してラクスさんが答えた。
「嬉しそう……ですか…。私は、嬉しそうにしていますか?」
まったく気がついていないという事だろう、政治利用されて嬉しいと思う年齢かと言えば、私ならNOと言う。
逆に今の彼女はそれを内に秘めて、自分を騙して周囲と接していたということになるから、本当に哀れな生まれなんだろう。
「僕は正直に言って嬉しいですよ、尤も僕の変わりに死んでしまった方には申し訳ないという気持ちはあります。
ですが、一時の休息と考えて動き始めるのはもう少し後でも別に構いません。」
この人はこの人で少し薄情だ、でも同時に別の事を考えている。彼の言った言葉に、ラクスさんは首を少し縦に振ると歌を続けた。
その声はまさしく彼女の声で、周囲の人に安らぎを与えるような、そんな力を持っていそうだった。
……
そんな日も過ぎていき、私は7月の入隊試験を受ける。
身長体重はなんとか規定値を突破して、筆記試験も合格。身体能力は、年齢としては良い方だったけれど、順番としては真ん中くらい。
私がいくらコーディネイターだと言っても、所詮は免疫系のみの調整で済まされた存在だ。
周囲にいる、身体能力を上げたコーディネイターや反射神経に優れたナチュラルには、到底及ぶことが出来ない。
結果として、私は入隊許可は得たものの9月の入隊までの間に、その、改善をしていくことに奔走した。
その相手になったのが、他でもない今や居候となり孤児院の色々な作業を手伝っているニコルさんだった。
元は赤服という、ザフトのエリートで出世コースだったという彼の教えは、苛烈だった。
射撃は勿論のこと、体格において勝てない相手との戦闘訓練、何よりも大切にと言われた体力作り。
短期間の間に出来る限りを私に叩き込むと良いつつ、たぶん気晴らしをしていたとも言えるし、今の自分の実力を確かめる為にやっていたようにも見える。
正直、シミュレーションデータで見たフォログラムよりも、遥かに動きが早いし、何より関節技が凄まじい。
「これくらい、練習すれば簡単に出来るようになりますよ。流石にイザークやアスラン程ではありませんが、義足を上手く使えば、格闘でならアスランと対等くらいには戦える自負はあります。」
というのが、彼の口癖だ。
アスランさん、数回顔を見たことがあるだけで殆ど私達に対して関わりのない人、だけどあの何か少し暗そうで何考えてるのかわからない人が、ニコルさんより強いのが信じられない。
「後はMSの操縦ですけど…、良いか。マユちゃんになら、この孤児院の秘密を喋っても。
キラもフレイも知っていますし、協力者は一人でも多いほうが良いですから。」
私は最初、何を行っているのかわからなかった。
孤児院は孤児院だ。何があろうとも変な所は無いと、時折何か物音がするけれど別にそのくらいで、それ以外は何とも無いそんなところだと思ってた。
ラクスさんとニコルさん、二人に連れられてやって来たのは孤児院の地下。
そこには、3機のMSの姿があった。
「一応メンテナンスも兼ねて、ここには時折寄っているんです。幻滅しました?」
「全然、それよりもどうしてこんなところに隠しているんですか?」
私の記憶の通りなら、この機体は嘗てオーブが戦場になった時、私の頭上で戦闘をやっていた機体だった。
でも、私の記憶が正しければ其れ等は既に返還したはずなんだ、でもそれがどうしてこんなところにあるのか。
「動力は13艦隊が解体される前に頂いた、核融合炉を使用しています。
機体自体は部品を少し横領しました、犯罪ですけどやらないよりはマシかと思いまして。
念の為、平和だからいらないとそう思っていたんですけどね、まさか本当に使いそうになっているなんて、思いも寄りませんでした。」
「ニコル……様、本当に何かあった時だけです。ですから、まだその時ではありませんよ?早とちりで出撃なんて笑い話にもなりませんし、何より…あまり貴方には戦って欲しくありませんので。」
そんな言葉を交わす2人には何処となく、信頼感というものが見える。恋人というか、夫婦みたいなんだとこの時合点がいった。
「ストライクはやっぱり、フレイさんのなんですね。
フリーダム…は、キラさんで。黒いのが…ニコルさんの?でも、見たこと無い。」
連合が作ったMSは一応一通り頭に入れている、どんな奴が来ても良いように。
「これは僕のブリッツに、エールストライカーを取り付けた形ですね。ストライカーパックが使える訳じゃないですが、機動性を上げるためにエールをつけられるよう、改設計したんです。苦労しましたよ。」
にこやかに言うその顔には、何処か影があった。
「マユ様?これは他言無用ですよ。軍に入っても、そこでご友人が出来ても絶対に言わないでくださいね?」
誤字、反応、評価等よろしくお願いします。