「え?!そんな話聞いてないよ!」
いつもの家、いつもの朝食を食べながら世間一般の話をしつつ朝を迎えていた僕に、その言葉は突然過ぎて聞き返してしまった。
「う〜ん?言ってなかったっけ?というか、皆から聞いてないの?」
「聞いてないよ!だって、あの事件以来忙しくてカガリの警備だって相当煩くなったし、何よりパイロットとして以上の仕事をさせられているんだよ!?それで、そんな話聞いてる暇無かったって!」
僕が聞いた話、それは孤児院にいる子のうち。1人の少女、マユ・アスカという彼女がオーブ軍中等訓練科へと進学するという、寝耳に水な話だった。
彼女は、僕とフレイが戦ったオーブ侵攻作戦のおり両親を失ったこの1人で、戦争に巻き込まれた完全な被害者だ。
守りきれなかった僕は、彼女へそんな罪悪感を持ちながらも、ただ孤児院に住まう彼女達を応援することしか出来なかった。
ガタッと言う音とともに、僕はテーブルから立つと直ぐに行こうとする。
軍学校の入学式は9月、つまりもう日数もない。僕が守れなかった人が、どうして戦場に立たなくちゃならないのか、本当に僕は理解したくなかった。
「どこ行くの、行っても無駄よ。なにより、きちんと朝食は取る事!ね、
「そうよ、食べてから行っても遅くはないわ。それに、その子が何をしようとかそういうのは判らないわ。でも、その子がその子なりに考えたのなら、頭ごなしに否定しないであげて?」
「わ……判ってるよ。」
僕はそう言って再び席に座ると、朝食を食べ始めた。
少し慌てても、あまり騒がず食べ終われば直ぐにでも孤児院へと迎えるようにと。
食べ終わると直ぐ様迎えるように、1度部屋に戻って乱れたベッドの直ぐ側に懸けていた
身体に染付きもう後戻り出来ないところまで来てしまった、僕の軍人という生活基盤に僕は少し嫌悪を抱いた。
………
家から近い孤児院には休日手伝いに良く行く、勿論僕だけじゃなくフレイや両親も手伝いに来る。
そんなところに、何やら二人組の人影があった。
何をやっているのか嫌でも分かる、体術。僕があまりやりたくない事の1つ、そして其れが一番戦っているということを自覚出来てしまうが為に、嫌悪している行為。
「ニコル……、何をやってるんだい?」
「え?……、キラ今日は休みだったんですね、こんな朝早くからどうしたんですか、まだ孤児院も朝食前…。」
僕はそんな事を聞きたいわけじゃない、静かに佇む僕の拳はギリギリという音が鳴りそうな程に、強く握りしめられていた。
僕は、マユちゃんを止めること無くそれでいて寧ろ応援するかのように、そう振る舞っているニコルに頭が来ていた。
「ニコル…、どうして止めてくれなかったんだよ。」
「どうして…、ですか。いや、僕も止めようと思っていましたけど、それでもマユちゃんがその道を進みたいと言うなら、仕方が無いと思ったんです。僕がザフトに入ったときもそうでしたので。」
僕は静かに彼に近付くと彼の胸ぐらを掴もうとして、スカした。半身を後に下げるだけで、僕の手を避けたのだ。
格闘だとかそういうものを基礎くらいしかやっていない僕と、本格的にやっている彼の差は、きっと月とスッポンくらい違うのだろう。
「それでも!!それでも、彼女がもし…死んでしまったらとかそう考えないの?」
「そりゃ考えますよ、でももしまた戦争が起きればこのオーブで生きるとすれば、また荒らされるかもしれない。
正直に言わせてもらえば、プラントや連合が本気を出せばオーブは一溜りもありません。
なら、守りたいという願いを聞くのも先人として必要なことだと、僕はそう考えています。」
その言葉に対して、僕は言い返すことが出来なかった。覚悟の決まっていない僕と、覚悟が決まっている彼との差。
優しさだけでは誰も守ることなんて出来ない、あの日思い知った事だけどそれでも僕は反対したかった。
「キラ…さん、私の事で争わないでください。私は、自分の意志で決めたんです。今更、後戻りなんてできません、だから…お願いします。
私を許してください。」
許す…。彼女が僕にその言葉をいう必要が何処にあるというのか、結局のところ僕は、自己満足のためにそれをやっているだけに他ならなかった。
誰よりも戦争を憎んでいるとそう思い込んで、眼の前の人がどう思っているかも知ろうとせず、ただただそれを否定し剰え選択を壊そうとする。それがどれほどやってはならない事か、これじゃあ連合と同じで僕は誰かを締め付けている事に、そう代わりはないじゃないか。
僕はその結論へと行き着くと、スッとマユちゃんを見つめながらまだまだ小さい彼女の身長に手を伸ばし、頭をワシャワシャと撫でた。
今ここにいるということを確認するように。
「もし…パイロットになるというのなら、僕の前にはあまり出ないで欲しいな。君が死んじゃうところなんて見たくないから。」
それが僕の心からの願いであり、僕の行動原理。誰かを護るために戦うことが、僕という人間の望む生の形だと。
本当ならフレイにも戦ってほしくない、でも彼女は強いから僕が護るよりも寧ろ、戦っていた方が安心できる。
でも、マユちゃんは駄目だ。
この子はまだ10歳、いやもうすぐ誕生日らしいから11歳?でもそんな微差なんてどうでもいい。
だって僕等が戦って来られたのは、あくまでも戦うための身体が出来ていたからで、マユちゃんはそんな年齢にすら達していないんだ。
そんな彼女が中等部といえど、僕の部下になったら僕は守り切れるのか?
「キラ、君がどう考えているか解らないけれど、その人を見下した態度は辞めたほうが良いと思うよ。」
「見下してる?僕が、いつ人を見下したっていうんだ!」
「今もマユちゃんを足手纏が増えたくらいに思ってるじゃない。」
その言葉が僕の背後から聞こえてきた。
「フレイ…でも、皆僕より弱いから。強い人は弱い人を守っちゃ駄目なの?」
「別に駄目ってわけじゃないわよ、でもね!
アンタはいつも1人で背負い過ぎなのよ、だからもう少し気楽にしていかないと。
それに、マユちゃんが私達くらいになるまでに戦争が起こるって決まったわけじゃないんだから。」
僕はそう言って説得するフレイに、何も言い返せなかった。
カチカチと鳴るアナログ時計の音が響き、その狭い部屋の中で反響する。
この時計の音で心理的圧迫を行い、話をより円滑に進めさせるという、そういう目的があるらしいが果たしてそれは、俺に適用されるのか。
戦争犯罪人の収容施設という名目で造られたこの施設は、今やプラント出身者で溢れている。
降伏勧告を行わなかったり、それを無視して虐殺を行った者達がここには収容されている。
ユニウス条約によって各国が遵守しなければならない事柄の中で、特に議論が紛糾するこの〘戦争犯罪人〙の刑罰。
いったい何処からどこまでが重犯罪で、何処からどこまでが軽犯罪であるのか、プラントという出来たばかりの国家の枠組みの中で、それらを決める事ができる人間は当然の如く少なかった。
高々工員という待遇であった者達が、自分達を裁ける法律を創り出せるのかというところが最も大きな争点で、結局のところ理事国の法律に準ずる事でそれを行うという、なんとも皮肉な結果に当時のプラント評議会は苦労したという。
「アスラン・ザラ、入りなさい。会話時間は20分、物品の引き渡しは兼ね兼ね通達していただいたものしか出来ません。」
「はい、判っています。」
慣れたもので、もうこれで3回目になる。
古い映画の中にある、ガラス越しに映る犯人のようにまた父は俺の目の前にいた。
「ちょうど二月ぶりだなアスラン、どうだ?戦争のない平和な時代は。」
「ええ、貴方の成そうとした事や戦争への反動で、大混乱中と言ったところですよ。
それよりも、良いんですか?母上からの手紙を読みたくないのなら、別に良いのですが。」
父は戦争が終わって変わった。変わったというのは語弊があるかもしれない、戦争以前。それこそ血のバレンタイン以前の、ナチュラルに厳しいが心血を注ぐ程憎んではいない姿に戻っていた。
母が生きていることを知った時俺は、それを聞いた父がどのような判断を下すのか戦々恐々としながら、戦後を迎えた。
その後の父の判断は迅速だった。
あらゆる権限の移譲、プラントの重要なポストに着く重役達への根回しをさっさと行いつつ、シーゲル様と協議し戦後の立て直しを最大限政務を行った。
たった数ヶ月、たった数ヶ月の後にこの刑務所に収監されるまでの間に、プラント国内で起きた政変や内乱未遂の事件を淡々とこなした。
そして、プラント国内で戦争指導をしたものとして戦争責任、その全てを背負い収監された。
シーゲル様をヒーローとしたところのヴィランの役を買ったというのだろう。
「実は父上にお話がありまして……、婚約をしている相手がいるのです。」
「それは…、オーブの娘か?あからさまだったからな、それで式はいつ上げる?」
「そこまでの話はまだ…」
色恋話から始めるのは、場の空気を和ませるためでもある。しかし、説教から始まり恋愛というものに疎い俺へのアドバイスを中心に語り始めるとそれはもう止まらず、そのまま母からの手紙を見ていく。
「そうか…レノアも、目覚めてから少しずつ歩みを進めているのか…、それだけでも充分だ。
手紙には私に会いたいと書いてあったよ、リハビリが終わったらと、こんな姿を見せるのは嫌だと思うのだがな。」
母は今、オーブにて療養している。ハンザ同盟となる前のL1コロニーで目を覚ましたすぐ後に、俺は母を迎えそのまま影響の少ないオーブに連れて行った。
ちょうどその時、父と母は1度だけ会い互いの事を見つめあい、少しの間の幸せを享受した。
その後俺とともに、オーブに行くと少しずつリハビリをしている。1年間という時間は、彼女の肉体を衰えさせるのには充分な時間で、重力化に置くことによって脳や筋肉の活性化を促すという方法が最も効果的だと、言われたからでもある。
そんな母が今牢獄にいる父に会う。正直に言うのは嫌だが、父は痩せた。収監されてから合うたびに痩けて行く頬を見ると、収容所の内部は相当食糧事情がまずいのだろう。
それか、父の獄中死を望んでいる誰かがいるのかわからないが、父はそんな事を望んでいない。
寧ろ自らが死んだ後、神輿として担ぎ上げられるのを警戒するほどにその事に気にかけている。
「収容所の待遇改善を進言しています、それでもその顔は酷いですよ。」
「フフ、そうだろうな……。ところで、シーゲルはどうした?奴は私とは違って英雄と祀り上げれているだろう?だとすれば、政治の指導を。」
収容所の内部に、外部の情報が入っていないのだろう。そうだとすれば、これはあまりにも酷な事ではないだろうか。
「シーゲル様は…、殺されました。」
「殺された?私が暗殺者をけしかけても生き延びたあの男がか?いったいどうして……、いやそうかそういう事かだとしたら…。」
父は何かを知っているのか、一体何を知ったのか?
「時間だ、アスラン・ザラ。」
「アスラン……、用心しろよ。お前は純粋すぎる、もっと搦め手を覚えろ。」
それが、俺と父との最後の会話になるとは露とも思わなかった。
それから俺はカガリがアーモリー・ワンへと向かう準備をすべく、プラント内で身辺整理を始めた。
「これより本艦は2ヶ月間の訓練航海へと出港する。総員帽触れ!」
コロニー軍港を出ていくと、辺り一面の星空に目を盗まれるのが新兵というものだ。
シミュレータと現実の違いは、この息苦しさのない。何も無い空間を切り裂きながら進む軍艦ならではの感覚に、私は悪い気がしない。
「ドミニオン、IFFをロック。これより、速力増加していきます。」
私の乗艦ドミニオン、このハンザ同盟の中で数少ない宇宙戦艦の1つであり、今は練習艦としての役目も担う艦である。
半自動化された操艦システムに、未だ不慣れな素人共が操るのに充分な難易度で、あのアークエンジェルと同様に少人数での運用も出来るこの艦は最適だった。
変わるがわるの乗員に、この艦のシステムを並列化し様々な問答を答えていく私は、この光景が好きだった。
「武器システムロック解除、いつでも撃てます!」
まだまだ拙い彼らは、その操艦速度はお世辞にも速いとは言えないが、あの時よりかは遥かに気が楽だ。彼等は正規の軍人だからな。
「操舵手、まだ反応が遅いなノイマンならあの程度避けていたぞ。」
「は…はい!」
今まであった中で、ノイマンを上回る操舵手に出会ったことがない。
今思えば、彼はニュータイプとか言う存在だったのではないか、コーディネイター等よりも遥かに早く反応し、無理無茶を可能に転換する操舵技術。もはや芸術の領域に到達した彼の腕は、今では懐かしい。
彼は今、地球のオーブでよろしくやっているのだろうかと、たまにふとそう思うことがある。
別に興味があるというわけではないが、しかしどうやっても比べてしまうのだ。
この手のやり方は良くないと思うが、自惚れを防止するには確実な方法だろう。世の中上には上がいるということだ。
「さて、ここからどう動くべきか…。」
ここまでは表向きの練習航海、我々はこのままアーモリー・ワンというプラントの新造コロニーへと向かう。
一応の入港をすることになるだろう、向こうも新造艦に新兵が乗り込んだ部隊となる。
私の横で新兵たちの動きを見守る、ラウ・ラという男の重要任務も兼ねているのだ。
こんな手の込んだカモフラージュしなくとも、堂々と行ってもらえれば良い。
ゆっくりと進むドミニオンの行く末は、どうなってしまうのか今日に限って胃が痛い。
この前画像を乗せたアステロイド級を改めて描き直し中、直したらまた、乗せます。
10代のMSパイロットの中で10歳っていたかなぁ…、なんて思っていたけど前例がいました。エル・ピー・プルという存在が。
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