テーブル席のある部屋から、貴賓室へと歩いていくと少し足がフラフラとし、体勢を崩しそうになる。
それを見兼ねたのかラウ・ラ少佐が私の肩を持つように、エスコートを始めた。
私は、その行動に少し頬が熱くなるのを感じつつ、気恥ずかしさを覚えた。
周囲の使節団の方々も、そんな私を見ないようにする為か目を逸らしながら歩いて行く。
暫く進むと貴賓室へと通され、長椅子へと皆が腰を掛けると
「ふぅ〜〜〜……、さてと…」
と言いながら座りつつ周囲の物を物色し始める使節の方々、私はそれを咎めようとして少佐に止められた。
まだ、肩に力を入れられ強制的に座らされているのだから、立ちようが無いのが、腹立たしい。
暫くすると、使節の面々は作業を終わらせてシートに腰をかけ始め、今度こそゆったりと寛ぎ始めた。
そして、それを見てからか少佐は私の肩から手を離し、そっと謝った。少し名残惜しく感じる自分に、羞恥心が見える。
「しかしなんだね…、彼の声は非常に落ち着いていてまるで催眠術でもかけてくるかのような、そんな男だね。」
「そうですなぁ、腹の探り合いと言うものを解っておる。あの年齢で良くやりますよ。しかし、何を焦っているのか…。ラウ・ラ少佐、君の感想を聞かせてくれるかな?」
「私のですか、発言しても?」
「その為に議会は君を我々と同乗させたのだ、でなければ本来なら准将が共に来る予定であったのだ。
彼は他に胸騒ぎがすると言ってね、地球圏での艦隊を早急に整備しなければと言っていたのでね。」
終始落ち着いた様子の少佐は、その話を聞くと少し顎に手を当て考える素振りをした後、話を始めた。
「まず大前提としまして、私は彼と面識があるという事を皆さん知っておりますでしょうか?
彼は私がプラントに住んでいた頃からの付合いで、多少彼の人となりを知っています。
そして、その根底にあるものを。」
「根底…、それが何かを聞きたいが教えてはくれるのかな?」
「今、この場では難しいでしょう。言えば最後、何が起こるか解らないといったところです。
せめて、ドミニオンに戻るまで話すことは出来ませんが、彼が私に再びあった時一瞬ですが心が透けて見えた気がします。
彼の根は昔から変化など無い、寧ろ悪化しているとすら思えると。
今はこの程度しか申し上げられません。」
それを聞いたあと、外交官達は各々協議内容のまとめに入った。軍人として、軍の会議というものに参加したことがあったとしても、眼の前のように様々な数字を下にした議事をまとめるという行為を目にする事は殆ど無い。
それこそ、将官と言われる者たちしか参列することの無い行為に、文官と武官の違いをまざまざと見せつけられる。
その話し合いを余所に、私の直ぐ側にはまだ少佐の姿があった。
「そろそろ落ち着きましたかな?」
「あ、あぁ。済まない、やはり慣れないことはする事じゃないと、そう実感したよ。」
疲れた様子もなく、私の事を心配する彼に少しだが心惹かれる自分がいることに、多少の蟠りを覚える。
確かに、私は嘗てムウ・ラ・フラガに憧れを持っていた。
だがそれはあくまでも1軍人としてであり、きっと眼の前の男に対しても同じ、私とは違う大きな力への憧れとして思っているに違いない。
それに、憧れというものは勝手な妄想であり我儘であるから、そんなものを外に発露していてはならない。
だというのに、私は私に持っていない物を持っているというだけで、この男に尊敬の眼差しを送ってしまっている。
例え今は仲間だと言えど、嘗ては殺し合った中である。そうそう、蟠りは消えるものではないのにも関わらず。
「中佐、最初から何まで全てが上手くいくものではない、という事は弁えてお出ででしょう?焦らなくても良いのです。」
「判っている…判っているがそれでも、これは恐ろしい。」
眼の前で繰り広げられる行為は、嘗て自分が嫌悪した政治的取り引きを、それを繰り出す為の思考の果ての行為だと、そう理解したとき、私は始めてそれを否定できなくなった。
汚いものがなければ、前に進めることすら出来ない。そんな世界だからこそ、彼等は率先して汚く薄汚れ最後には黒々とした存在になるのだと。
今だからこそ、あの未熟であった自分に言い聞かせたい、世界は様々な色で出来ていると。
「中佐、しっかりして頂かなければ困りますよ、私は貴方よりも歳下なのですよ?」
「歳下……!?そう言えば今貴官は幾つなのだ?」
「今年25になります。」
私よりも1つ下で、尚且つこういう場に慣れているのか……、甘えてばかりはいられんな。
「判った。しかし歳下か、すまないな色々と経験が無くて。」
「良い事ですよ、素直に解らないことを解らないと言う事は、それを自覚出来ている証ですからな。」
そうやって話し込んでいる間にも会議は進む、されど決まらず。その日、プラント内部での協定等の決定は出来ず仕舞いで、次の日を迎える事となった。
………
二度目、今度は私はギルバート・デュランダルという男をマジマジと見るように心がけた。と言っても、あまりジロジロと見ることもマナーが悪いので彼の語る一字一句に対して、感情的にならずより冷静に事の次第を覚えていく。
今回は前回と違い、プラント側も閣僚を伴っている事に、本腰を入れて来た事を暗示している。
一見すると平和主義とも聞き取れる発言と、物腰の柔らかさがあるものの、やはりというか我々の同盟の内にいる政治家たちと同じく、何かしらの野心を目に宿しているように思えた。
だが、その目はどちらかと言えば少佐の方へと向いているらしい。それ程互いに理解し合っていた中なのか、それともただ似ている人物だと思っているのか。
「それでは、新規生産ラインのMSを我々は数機購入という事で、よろしいですかな?」
「ええ、我々としても食料の供給源は出来るだけ多いほうが良いので、実に有意義な話でありました。
どうか、これ以後も良い商談が出来ることを願っております。」
そう言いながら互いに見る目が笑っていない、それでも調印というものをするあたり、政治というものが益々解らない。
「どうでしょうか、寄港期間を伸ばしてみては。我々としては、友好国とのレクリエーション観閲という、またとない機会となります。」
「そうですなぁ、しかし我々も
不愉快極まりないのだろうが、それすらも顔に出さない私には到底無理な仕事だろうな。
その後、我々は少しだけだが〘ニューミレニアムシリーズ〙と銘打って量産されていく機体の、生産工場の見学をしていくことになった。
俺は今、猛烈に悔しい思いをしながら眼の前のサブナック大尉を睨みつけている。
徒手格闘の成績は確かに悪かったけど、彼だって俺と同じような物のはずだ、コーディネイターとしてのシン・アスカというよりも、
「ホラホラどうしたよ、掛かってこないならこっちから行くぜ!」
余裕を見せる彼の姿に、全く刃が立たない自分に腹が立つ。
事の発端は彼等の案内をした次の日の事、交流試合と言うことで流石に本物の機体は使えないからと、データ上での模擬戦が行われた。
俺はこのザフトの中でも、かなり強い方だと自信を持って彼等ドミニオン隊と戦闘を行ったのだ。
ドミニオンのパイロット達は確かに腕は良かったし、射撃のセンスも抜群で正直本当にナチュラルで構成されているのか、疑い用がある戦闘をされた。
でも、接近戦は異様に弱くビームアックスに至っては盾で受けようとすらしない。もっと言えばアックスで受け止めようとする、素人丸出しの戦闘だったが為に、俺達赤服には手も足も出なかった。たった一人を除いて。
その時、緑服は元よりルナやレイすらも歯牙にもかけず、同等スペックの機体を想定したシミュレーションに、コテンパンにやられたのだ。
確かに、ドミニオンのパイロットの腕は悪くないし格闘戦が不慣れでもなんとかやっていたけれど、彼だけは例外だったのだ。
反射神経は俺やルナよりも遥かに早く、レイは理論的な戦術で負けるという、その結果に絶望した。
それだけじゃない、他のテストパイロット達もやって来たけれどそれすら圧倒されてしまったのだ。
そして吐かれた言葉が
「赤服ったってこの程度かよ、質落ちたんじゃねぇの?
特にガンダム乗り達はなんだよ、期待させやがって。」
と、あんまりの言葉を吐かれたものだからもう俺は頭にきた。
何度も何度も何度もやり合うに従い、動きを覚えても次々と変えていく動きにまるで、壁のようだと感じた。
流石に時間制限があるから、今度は肉体を使った徒手格闘でと言ったら、なんとこのサブナックという人はそれも強い。
いや、ナチュラルなのにコーディネイターよりも強いとかそれこそ、連合の良く聞く強化兵のようだった。
総じてレイが一番食い下がっている事実に、ある種の恐怖を感じる。こんなに強いナチュラルがいるなら、コーディネイターは型無しだなと。
外から見ている時は冷静でいられて、たぶんあの言葉は俺達を誘うために態と言ってるんだろうと、そう思える。
普通のパイロット同士はそんなに仲悪くない感じになってきたのに…。
「大尉、アレ結構無理してるんですよ。」
横からそんな言葉を、何も聞いていないにも関わらず言ってくるパイロットがいる。
確か、アルファ・アルマージュって言う少尉。
たぶん俺と同期だろう少年が、そう語った。
変な名前だと思う、どうしてギリシャ文字で最初を意味して、アルマージュなんてアラビア語で波だから、α線なんて名前だぞ?
「名前のことなんてどうでも良いですよ、それよりも苦しそうに見えませんか?」
そう言われて見てみる、解らない。でも、確かに最初よりかは眉間に皺が寄ってるような…。
「次、レイさん勝ちますよ。」
そして、その宣言通りにレイは大尉に勝利した。
………
俺はさっきの話が耳から離れなかった。どうしてレイが勝つのが解ったのか、何故あの隊長のが無理をしているのだとか、そういう諸々のところが引っ掛かったのだ。
夜になると、各々の兵舎に戻って休息する。
悶々とする意識の中、レイが怪訝そうな顔で俺を見てくるから、あの模擬戦の時の話をすると、レイ自身も納得行く答えが欲しかったらしく、次の日に聞くことになった。
ちょうど、互いの趣味や体力を競ったりと年相応に遊び学ぶと、それと同時に昨日話をした〘アル〙とばったりであった。
いや、ばったりじゃないたぶん。
「で、僕に聞きたいことってアレかい?隊長の体調の事。」
「そんなダジャレ言ってる場合かよ、と言うかそうだよ。」
それを聞くと、今度は俺ともう一度格闘で勝負しようと言ってきた。どんな手を使ってでも勝ったら教えると言われて、正面からぶつかり合う。
けれど、スルスルと避けていく。
俺の身体能力はナチュラル並だから、たぶん互角になってしまうのだろう。それでも、努力はした。
数回の内に勝てるようになる、正直筋力で彼は俺よりも弱い。
「僕の負けだね、良しじゃあ話すことにしよっか。
ねぇ、君オーブ出身なんだってね。じゃあさ、青緑色の機体って見たことある?」
青緑色の機体、そう言われて思い出せるのは一機だけ。
俺が避難する時、避難船の直ぐ近くで港を連合の攻撃から守っていた機体、確か名前は…カラミティって奴だったと思う。
「隊長はその機体のパイロットだったんだってさ、それでちょっと嬉しかったみたいなんだよ、折角守った命がこうして生きていてくれたことが。」
命の恩人、そういう事が言えるかもしれない。
ウズミ様を、あの
「それと、何で負けるとか関係ないだろ。」
「関係大有りさ。ねぇ、連合はさ今でも強化兵の計画してるって知ってる?当時はブーステッドマン計画っていうものがあったらしいよ、それでね隊長はそれの生き残りなんだって。」
ブーステッドマン、連合の強化兵の噂。それが、彼だと知った時当時の戦争の異常な部分を知った。
「隊長はさ、ずっとブーステッドマンとして戦って寿命を削ってる。それでさ、僕らのコロニーが移動するときも守っていてくれたんだよ。
それだけに身体を酷使してさ、三人組も最後の一人なんだって。そういう話。」
えげつない、戦争の裏話をこんなところで言われても、俺の頭は理解できなかった。
宇宙の中を行き交うそれは、あまりにも不自然に岩塊を行ったり来たりしている。
それはいったい何をしているのだろうか、巨大な岩塊であるその墓標はあまりにもお粗末に管理されており、今に祟りが起きてもおかしくはないだろう。
誰がいったいそんな場所で作業をするのか、ジャンク屋かはたまた連合かそれともザフトか、その姿は大きな人形。
互いの理念は合わずとも、その復讐の対象は互いに1つ。
地上にいる
そしてそれは、彼等以外にも例外なく利用する対象となるだろう。
〘不幸を体験した人間だけが、幸福を実感することが出来る。毎日の食事に困っていない者は、食べられるという根元的な幸せを理解することは出来ないだろう。したがって、幸福を与えるためには、同量の不幸を作らなくてはならない。〙
不変なものなど何もなく、変わっていく世に文せることが出来ない者たちというものが、いつの世にも存在するのだ。
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