その蒼い宇宙を見て   作:丸亀導師

70 / 85
イモータルジャスティスってリ・ガズィ・カスタムに似てるなぁ


危機

ヒソヒソと声が聞こえる、この狭い部屋の中で上下がハッキリと判る構造に、真っ暗な地下空間という事が解るけれど、一度たりとも格納庫に入ったことが無い。

私が何故このようなところに連れてこられたのか…。

 

士官学校入学から暫くした後、基礎的な学習が始まるだろうと思ったのも束の間、国防省の士官学校から連れてこられ、目隠しされながら動いていく姿は、さながら誘拐に他ならない。

こんな事になるなんて、正直私なんか連れ出したところで一銭の価値もないというのに。

 

オーブ国内での派閥争いの結果か、はたまた趣味の悪いやつがいるのか。小児性愛者なんて異常性癖者など珍しいことじゃないのだろうが、軍の上にいるなんて思いもしない。

 

暫く歩かされていると、地下へと降りていく。

島を移動したという事で、私の三半規管は揺さぶられ本当に位置が判らなくなってしまった。

そして、幾つかの道を通って現在のこの変な狭い空間にいるのだ。

 

周辺機材の状況、ハンドルがありレーダースクリーンもある。確実に軍艦の中だけれど、こんな軍艦の中身は見たことがない。

だけど、確かアークエンジェルという艦がオーブにはあったはずだ。

この見覚えのないレイアウトの艦はきっとそれなのだろう、でも観艦式にはいなかったのに、除籍されていなかったという事なのだろうか?

 

「御免なさいね、こんなところに連れてきてしまって。」

 

私は声の聞こえた方を振り向く。目隠しを外されたところから動いていない、だからきっと廊下からなんだろう。

そう思って声の主を見る、なんとも豊満な女性が私の事を見下ろしていた。

 

「あの、誘拐するのは良いのですが私なんか誘拐しても、一銭の値打ちもありませんよ?所詮は何処にでもいる戦災孤児ですから、期待しないでください。」

 

「いえ……、そういうわけでつれて来た訳じゃないのだけれど…。」

 

「おいおい、こりゃあまた可愛いお子様だこと。どうしてこんな子がねぇ…。」

 

女性の後ろから更に男の人の声が聞こえる。

私が誰かをからかって言っていることを判っているのだろう、それでも私の年齢に不満があるのなら、当然というべきだ。

 

「艦長、我々も顔を見たいのですが…。」

 

ぞろぞろと現れる数に、私は少し後退りしつつ下へ下へと階段を降りていく。

全員がオーブの軍服を着ているけれど、観艦式のパンフレットには紹介が無かった人達ばかりだ。

 

やっぱりここはアークエンジェルの中なのだろう、でも彼女等はいったいどういう集まりなのだろうか?

 

「えっとね、はじめまして。私はマリュー・ラミアス、階級は…一応中佐と言ったところね。このアークエンジェルの艦長をやらせていただいているの。

で、この金髪の人がムウ・ラ・フラガ。」

 

「よろしくな嬢ちゃん、一応俺も中佐をやらせて貰ってる。この艦のMS隊、隊長と言ったところだ。」

 

そこから次々とこの艦橋員の説明が始まっていった。

状況を把握するのに正直意味のわからない状況で、いきなり自己紹介等をしているのだから、物凄く歪な感じ。

 

「あの、質問ですけど。私は、売られたのでしょうか?」

 

「売られたって……、何も聞いていないの?キラ君から……。

はぁ…、まったくあの子はもう少し自覚を持たないと、私達が引き入れたとは言え、もう軍人何だから。」

 

どうやら売られたわけではないらしい、というかキラさんが本来なら私に説明した上で、ここに連れてこられる予定だったようだ。

とことん私に軍人になって欲しくないみたいだね。でもさ、いくら私に軍人になって欲しくないって言ったってさ、こんな士官学校から離されるような、そんな場所に行かせるって無いよね…、本当にナンセンス。

 

「あの…、それでも私はこれからどうなっちゃうんですか?まさか、このまま幽閉なんてことないですよね?」

 

「いえ、そんな事はしないわ。

そうね……、マユちゃん?えっと、そうねぇ。まずは、私達の部隊について説明しなくちゃならないのだけど、良いかしら?」

 

私は、その言葉に肯定してその話を聞いた。

言うなればこの人達は、元連合兵なのだという。前大戦の折に、オーブへと亡命して、そのままオーブ軍に残った人達。

それでいて、その経歴と戦力を鑑みて通常戦力として置くのは難しいから、こうやって秘匿されていると。

 

なるほどと、そう思った。

つまり、孤児院の地下に置かれている機体の母艦はこの艦なのだ。

それで、どうして分離してあるのかと言えば、彼女達がMSを持ってオーブに仇なすかもしれない、という意味で離されているのだ。MSが無い母艦なんて、いつでも落とせるから。

 

有事の際は合流させる時間は沢山あるし、それなら別に問題にもならない。

 

「それで、貴女を私達が管理すると言う事になったのよ。せめて、16歳になるまでは士官学校に通わせないようにって、完全に職権乱用よ特にキラ君は、自分の立場すら使ってのね。」

 

「たかだか一介の少佐にそんな権限があるのは、おかしくないですか?」

 

少佐なんて、軍隊じゃ真ん中でそこまで権力なんて無いのだ、精々が現場大隊指揮官クラス何だから、正しく中間管理職というものだ。

 

「それは…」

 

「その説明は私がします、マユちゃん。」

 

更に女性の声が聞こえたと思った、良く聞こえてきた声だ。特に私に馴染み深いその声は、キラさんよりもよく聞く。

カリダ・ヤマトさん。キラさんのお母さん、彼女に軍隊の話等そういう物をさせても良いのだろうか?

 

そうして始まった話に、私は目を丸くさせ頭が痛くなる思いをした。

そう、キラ・ヤマトとカガリ・ユラ・アスハは、兄妹(姉弟?)だと言うことに。

 

そして納得した、確かにその権力は非常に強力だという事も。

 

 

 


 

晩餐会……、今頃パイロットの面々はそこに行っているのだろうか?この艦の管理をしている人員以外が列席するその場に、私達艦橋員は誰一人として参加すること無く、その時が過ぎるのをドミニオンで待っていた。

 

「艦長は行かなくても良かったのですかな?こういう場です、別に行っても誰も起こることは無いと思いますが。」

 

「そうも言ってられん、ミネルバの進水式がもう直ぐなのだ、少しでも模擬戦の相手として不足無いようにするのが、我々としては礼というものではないか?

それに、そういう少佐も行かなくて良かったのか?向こうには、知り合いもいるのだろう?」

 

この男はパイロットであるにも関わらず、その式典に参加することも無く、今ここで私とともに艦橋内で各種の確認作業を行っている。

手際も良く、手慣れていて初心者だらけのこの艦の中で一番頼りになるだろうことは明白だ。

 

「パイロット全てが参加しては、有事の際誰が戦うのかな?それに、少しでも慣れている奴がいなければ、取り乱した人というものを統率するのは非常に苦労するものだよ。」

 

「確かにそうだが…、いや素直にありがとうと、そう言った方が良いのかもしれませんね。」

 

年齢の近い人間がいない、最低でも私と5つは違う者たちが大半なこの状況下で、頼るべき人間が私だけの場合私が倒れれば最悪の場合もあり得るのだ。

やはり、この男は頼りになる。

 

「夜間勤務等戦時以来だが、こうしていると懐かしく感じる。つい1年程前の事なのにな。」

 

「あの時は君は足付き…アークエンジェルに乗っていたのだったな。よくよく、私を翻弄してくれたものだ。

あれで私のキャリアに傷がついたのだ、そういう意味では恨めしく思うよ。」

 

「あの時は我々も必死だったからな、形振りなど構っていられる状況ではなかった。

だが、本当にあの時は運が良かっただけなのだよな。」

 

戦中、実戦に出向いた人間は心に何処か傷をつけると言うが、私はどうなのだろうな。

連合から逃げ出し、こんな場所でハンザ同盟という新興勢力に加わり、こうやって過ごす…。

平時というものが恐ろしいのかもしれないな、こういうある程度の緊張感を求めてしまっているのかもしれない。

 

「戦場を常と感じてしまうのは、それは軽度のPTSDを患っていると思うが、精神科の受診をオススメするが?」

 

「解ってはいる、だが今私が抜けてこの艦の運用に差し障る事態は避けたい。

最低でも、この艦の運用を任せられる人員が育つまでは、私は軍から離れる訳にはいかないからな。」

 

そう言う強がりを言いつつも、戦争を求める自分がいる事を簡単に見抜いてくるこの男。

やはり、ニュータイプ等には私はなれないのだろう、どうしても不安を抱くだけになってしまうから。

 

「君は強いが、強がりばかり言うのは良い傾向ではないな。」

 

「良い傾向ではないが、今の私にそれしか出来ないのも事実だ…、さてこれを終わらせたら就寝に入ろう。」

 

そうして夜は深けていく。

 

 

………

 

そして、次の日事態は一変した。

 

ズズズンと響く音、コロニーの外壁を伝って聞こえてくるそれは、コロニーの異常事態を知らせるには非常にわかりやすい事は明白だった。

 

「無線手、コロニー側からの返答は!状況知らせ!」

 

「は、えっと!現在問い合わせていますが、状況が錯綜しているらしく、手元にまで来ません。

貴艦は大人しくしていろと言う事は確かですが…。」

 

「コロニーの外壁強度はどの程度だ、如何に技術力が高いと言ったところで、自己再生ガラスの強度は通常コロニーと同様に脆い部分がある。最悪の場合を想定しろ!

ドミニオン各部状況知らせ、1秒でも早く出港できるようにしろ!!

MSパイロットは全員いるんだろうな!」

 

昨日、平時の不満を言ったばかりにこうなったか?言霊と言うものは恐ろしいものだ。だがそれはさておき、この状況をどう打破すべきか。

 

「パイロット各員確認取れました、全員艦に乗艦しております!」

 

「良し!パイロット各員はパイロットスーツ着用の後、直ちに出撃体制をとっておけ、万が一の場合プラントが我々を巻き沿いにして崩壊する事もありえる。

迎撃戦闘を覚悟しておけ。」

 

緊張感が走る艦橋乗員の面々の顔には恐怖の色があるものの、それに対して私の言葉には平時のようなダラけたものではない、張りが出てきた。

やはり私は何処かおかしくなっているのだろう、もはや人として失ったものは大きいか。

 

「ええと…、コロニー防衛司令部から連絡!現在我々のいる前面の隔壁が襲撃の影響で動作に支障が出ているとのことで、修復まで多少……二日はかかると…。いえ、ちょっと待ってください!」

 

艦橋内から見える外の光景が、通常照明から非常照明に切り替わる。

もはや、待っていられんな。

 

「副長……、この艦は一応内部で方向を転換してあったな…。」

 

「はい、180度回頭しております。しかし、何をするつもりで…?」

 

出るのならば手段など数える程しかあるまいて。

このままおめおめと、港の中で沈む訳にはいかないからな。

 

「砲雷長、ゴッドフリートをメガ粒子砲へ換装するのに何分掛かる。」

 

「ええと、回路系統を少々入れ替えますので、5分はかかりますが…。」

 

5分、戦闘状態になった場合は致命的な時間だ。特にこの艦の主砲は2門しか無いのだから、それが止められれば我々に戦う術は無くなるわけか…。ならばよかろう。

 

「本艦の保全を最優先とし、緊急行動に入る。ゴッドフリート、バリアント展開、ローエングリーン射撃用意!」

 

一同が私に対してギョッとした表情を浮かべる、昔の私ならば同様の表情をしたのだろう。

 

「貴様ら、何をしているさっさとしろ!」

 

大丈夫、この外は宇宙空間。それに今この港は完全に密閉されていて、幸いなことに真空状態だ。

ならば、この手を使ったとしても港の隔壁に穴が開く程度、応急処置さえ出来れば、それだけで良いだろう。

 

「ゴットフリート、バリアント標準できました。ローエングリン、いつでも射撃できます!」

 

「一斉射後、最大船速で港を脱出する!

斉射用意!撃てーー!!!!

 

私の声と共に眩い光が港湾を駆け巡り、隔壁に巨大な穴を開けると、そこにドミニオンは突っ込んでいく。

 

総員衝撃に備えよー!

 

流石に完全に大きさ通りには空いてくれないだろうが、それでもやらないよりは遥かにマシだ。

 

「ゴットフリート、さらに斉射!撃て!バリアント、ゴットフリートそのまま、ローエングリンは収容!このまま突っ込む!!」

 

迅速かつ丁寧な作業、日々の訓練の成果が今ここで見られた。

 

残った残骸が艦を滑るように当たっていく、ギリギリとした振動が艦を揺さぶるが、そんなことよりも我々はこの状況を直ぐに確認しなければならないのだ。

 

艦橋の風景が外部へと切り替わると、この振動の正体が何なのか直ぐに判った。

 

「熱紋承認!地球連合のガーティ・ルー級です!」

 

そんな物、言われずとも解っている。散々鑑別を読んだからな!

 

「MS隊発進!!ゴットフリート照準、ガーティ・ルー級を敵と判断、ピッチ角40度5秒のち右ロール角180!到達後直ちに撃ち方始め!!

射撃後更に艦を水平に戻せ!

スレッジハマー装填!撃て!ヘルダート対空戦闘初め!」

 

この瞬間に私は血湧き肉躍る戦いに、生を感じていた。

 

 

 

 

 




誤字、感想、評価等よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。