大気圏に入った機体は風圧に押されて、幾度となく仰け反りそうになる。
宇宙空間での戦闘を考慮されていたOSは、お世辞にも重力に対応するのが早いとは言い辛く、俺みたいな中途半端。もしくは、殆ど遺伝子を弄くっていない、コーディネイターと言えるかすら怪しい奴にはちょっと荷が重い。
「機体の姿勢を低くしてみろ、それだけでだいぶ変わる。
君の機体のエンジンを使用しなくても、こいつは地球上なら基本無補給で飛び続けられるからな。
問題はパイロットである俺のスタミナだが、安定飛行なら手放しでも大丈夫だ。」
「あの…ありがとうございます。でも、貴方がいなくても俺は。」
そう言うが正直あの状況は絶望的だった、敵の腕が良く。寄りにもよって俺の癖を知り尽くした、元教官が俺の相手をするなんて考えもしなかったから。
「いや、俺が来ることが判っていたから君は生かされていた、これは否定できないだろう。
もう少し早く行けていれば良かったんだが、他の区域に手間取ってね。どうやら、俺の首には色々と掛けられているらしいからね…。
君の腕は決して悪くない、寧ろこれから君はエースとして成長していくだろう、君は今生きているから次に活かせば良いさ。」
俺を励ましているのか、貶しているのか判らないけど否定しようが無い。腕を褒めてもいるから、逆上しようもない。褒められて怒ったら、なんか駄目な気がするし。
「貶すんなら正直に貶してください、中途半端に言われるのが一番来ますよ?」
「そうかい?俺だったら嬉しくなるんだがな。」
人それぞれだと思うんですけど。
「もうそろそろでミネルバの方に到着できる筈だ、随分と離されてしまったが大丈夫だろう。
俺の方はドミニオンが回収するために大気圏に突入したばかりだから、少し厄介になると思う。」
「はい…、でも本当に良いんですか?誘導とかしなくても。」
どうやってドミニオンが降下し始めたのを知ったのか、どうしてミネルバの方向が判るのだろうか?とか、聞きたいことが多くでてきてしまったけれど、本当にどうしてだろう?
地球上ではNJのせいで無線もレーダーも聞き辛いと言う事だけど、でもその中でこれだけ自信満々何だから何か別の方法で飛んでいるのかも?
っと、言ってる間にミネルバが見えてきた。
「こちらシン・アスカ。ミネルバ聞こえるか?」
「こちらミネルバ、シン良かった〜。皆心配してたんだよ、まだ戻ってこない戻ってこないって、えっとマッハ0.8でこっちに近付いてる?みたいだけど、えっとIFFにもう一機えっとアムロ機で間違いない?」
「ああ、変わった方が良いか?」
やっとこさ、俺は母艦へと帰る事ができると安心すると、アムロ機がゆっくりと旋回行動を始める。
「こちらアムロだ、無線に割り込んで申し訳ない。着艦場所を指定してくれないだろうか?」
「はい、こちらミネルバのメイリン・ホークです。ガイドビーコンを出します。先に着艦しますか?」
「いや、シン君が先のほうが良いだろう、機体のバッテリー残量が心許ない筈だ、こちらは空中待機しておくから彼の機体を回収後そちらに着艦したい。」
「わかりました。シン、大丈夫そう?」
「ああ!各種オールチェック、シン・アスカインパルス着艦します。」
ちょうどミネルバの上を通り抜けるように飛び去ると同時に、機体上でジャンプをする要領でバーニアを吹かし、俺はミネルバへと帰投した。
………
「シン・大丈夫だった?」
レクリエーションルームに付くと開口一番にそう言われた、正直生きた心地がしない戦闘をしたけれど、結果的に大丈夫だったからまあ。
「かなり梃子摺ったようだな、それ程の手練れがいたのか?」
「ああ、いたよ。しかも、顔見知りというか…。俺達の教官やってた人いるだろ?その人がさ、搭乗してた。」
「嘘でしょ!じゃあ本当に…」
ザラ派の謀反と、言いかけたところで二人の人物が現れた。1人はクルーゼ、もう一人は映像でしか顔を知らない軍人が現れる。アムロ・レイ、天然パーマの年齢よりも少し若く見える、それでいて准将なのだから大した人物。
それなのに、MSに乗っているのだからおかしい。
「始めまして…と言った方が良いかな。アムロ・レイだ、暫く世話になる。」
驚いたのは格好だ、所謂白服という最上位の色の服を身に纏い俺達の前に来るのだから、やはりそれ相応の地位というのは確定している。
「しかし、ザフトの出迎えはいつも派手だな。正直、俺には緑とかで充分なんだが。」
「立場を弁えた方が良い、君の地位は決して低くはないからな。」
意外な程に普通な感性を持ってるんだろうな、俺だって白色とか着たらたぶん戸惑うと思う。
「白い悪魔ってあんな人なんだ」
そんな声が何処からか聞こえた。
白い悪魔がザフト、ひいてはプラントにとってどんな存在だったのか、俺にはてんで解らない。
だけど、白い悪魔なんて言われようはそれこそ駄目じゃないのかと、そう思う。
「白い悪魔か、懐かしいな。連合でもそう言う奴はいた、気にしてないから。
寧ろ、その方が相手から恐れられるから、良い諱だよ。」
そんな解答が空気の中に消えていった。
白い悪魔…、それはきっとプラントで生まれ育った人間なら誰もが知っている。
プラント・連合大戦の初戦から参加し、多くのMSパイロットを葬り去った元MAパイロット。
エンデュミオンの鷹だとかそう言う類の、連合のエースの中で一番恐れられていた人物…。でも、その仇名は私達が勝手に呼んで恐れた存在、それが今眼の前にいる。
私の父は、戦争でこの男の部隊と交戦して撃墜された。
戦後になって公開された、当時の連合・プラント双方の戦時資料から出された連合の所謂〘通商破壊戦〙
それを迎撃する為に送り出された部隊を率いていた…。
ホーク隊という部隊は、その手の戦闘での経験は豊富で家に帰れば自慢していたのだ。
そんな親に憧れない子供はいない、そう思っていた。
父の死という訃報を目に耳にするまで。
メイリンも私も突然降って湧いてきた出来事に、唖然とし呆然とした。
そして、それを聞いた母は泣き崩れ次第に復讐に傾倒していった。そうでもしなければ、自分を保てなかったんだと思う。
かく言う私も、年齢という制限がなければたぶん当時からザフトに入隊を希望しただろうから、当時の私も復讐に燃えていたんだと思う。
でも、戦争が終わって気がついたらその、白い悪魔も今度は連合から抜け出して独立勢力を作り出す。
連合を恨めば良いのか、それとも白い悪魔を恨めば良いのか。それによって、ぐちゃぐちゃになった私の頭はそれを忘れてしまった。それがどれだけ幸せだったのだろうか、母も妹も前を向いて歩いている。
でも、そんな眼の前にいるのが白い悪魔なのだ。
そうしたら勝手に口が開いた。
「白い悪魔ってあんな人なんだ」
自分の言葉に一瞬驚きつつも、同時に怒りと悲しみが込み上げ同時に恐怖が体を支配する。
眼の前にいる人が、そんな恐ろしそうに見えないのにも関わらず、人の形をした悪魔のように見える。
それがたまらず、憎たらしい。人の親を殺しておいて、その遺族の前に知らずとしてもノコノコと現れる事が。
「白い悪魔か、懐かしいな。連合でもそう言う奴はいた、気にしてないから。
寧ろ、その方が相手から恐れられるから、良い諱だよ。」
そんな言葉に場が微妙な空気に染まり、それを執成そうと少佐さんが前に出た。
……
暫くしたら二人は議長に呼び出され、出ていった。ホッとしたのも束の間に、ミネルバクルーに艦長から展望デッキに出ろと、そう言う命令が来た。
「何なんです?」
「地球への無事の到着に対して、デモンストレーション飛行するらしい。
古い戦技飛行も行われるそうだから、君達は良く見ておいた方が良いんじゃないか?」
既にいたアスランさん達からそんな話をされるけれど、そんな気分じゃないのは確かだ。
だって、歓迎とかそういうものを受けるような事はやってない、外から見れば単なるマッチポンプだ。
「これより、展示飛行を始めます。パイロットを務めるのは、1番機デルタガンダム、アムロ・レイ准将、2番機ラウ・ラ・フラガ少佐。
空技説明は、メイリン・ホークが行います。」
メイリンは凄いなあって、父親の仇かもしれない相手に普通に接して、尚且つ普通に仕事が出来てるから。
スイッチの切り替えが上手いと言うか、昔から何処か変わってたものね。気がついたら1人でパソコン弄るくらいには。
ミネルバから2機のMSが飛び立つと、直ぐ様変形して空高くへと機体を上げていく。
急加速していく機体は直ぐに霧に包まれる現象に見舞われ、そこからは音よりも速く動きをしていく。
アクロバット飛行は、宇宙空間でのそれを見たことがあるけれど、地球という大気と重力。そして巨大な空間を利用したその動きには、惚れ惚れとするものがある。
2機は互いを交互に入れ替えながら、様々な動きをやっていく。いちいちメイリンがその動きを実況している。
「ああいった物を見るのは俺でも初めてだ、戦争は生き残ってみるものだな。」
「アスランさんは出来ないんですか?」
「出来る出来ない以前に、プラントでは練習すら出来ないだろう?こういう環境があればこそだ。まあ、練習すればできなくは無いかもな。」
「いや、アスランならきっと出来るさ。」
「そうですか…。」
私が話を振るとそれに答えてくれるのは嬉しいが、眼の前で腕を組んで互いにその光景を見ていることに、〘あぁ、入る余地無いか〙とも思えた。
アレに乗ってるのは親の仇…、私もそろそろそう言うのを忘れた方が良いのかなぁ…なんて。
離れたところでレイと一緒にそれを覗いているシンに私は近付いた。
「ねぇシン、ちょっと相談があるんだけど。」
「うん?なんだよいきなり、一応見なきゃ駄目じゃないか?」
「見ながらで良いから聞いて欲しいの。」
目をキラキラと輝かせて、まるで少年みたいにいる彼は無邪気に答えた。ま、どうせ独り言みたいなものだし。
「ねぇ、もしも。もしもよ?眼の前に戦争の時に親を殺したとか、そう言う噂を持った人がいたら、シンならどうする?」
「う〜ん、そうだな。とりあえず殴りに行く、それで色々と吐いて後は…その時の状況によるだろうな。
後は…、格納庫でやったみたいなもんだよ。」
アスハ代表に対する気持ちは、私には判らない。ただ、個人的な恨みと言うよりかは今のオーブの事を、良くない方向に導こうとする彼女が嫌いなんだろうな。
それ以外は、嫌ってなさそうな。
「ふぅ〜ん、レイはどう思う?」
「そんな事を聞いてどうする、まさかと思うがあの男を殺そうと考えている訳では無いだろうな。」
「まさか…、そんな事は無いはずよ。やったところで、お父さんは帰ってこないから。」
そう言いながら私は、空を飛ぶ機体を見上げて、下唇を弱く噛んだ。
嘗て壊れ果てていた場所は見事に復興し、外見的には昔とそっくりに作り込まれている。でも、中で働いている人達は様変わりしてしまった。
軍部の半数は連合寄りとなり、もう半分はそれを抑える力すら無い。決してオーブを蔑ろにしているとかでは無く、カガリの事も決して貶している訳では無い。
ただ、皆が連合を恐れているんだ。
そんなところ、僕とフレイは国防本部に出頭命令を出された。
「キラ・ヤマト、フレイ・アルスター両名は本日付けで、軍からの退役を命ずる事とする。
これは国防本部からの命令であり、議会を通過したものである。
また、アークエンジェルは武装解除の上解体命令となった。」
突然の出来事に耳を疑った、アークエンジェルは今しっかりと機能を果たして、オーブの国防を担う戦力としてそこにある。
それを手放すと言うことはつまり、連合からの圧力があったという事だろう。
「突然の命令に戸惑うだろうが…、我々としては連合と事を構えたくないのだよ。
アレが地上に落ちてこなかったから良かったもの、経済的な打撃によりプラントへの中立を謳ってきた、我々オーブも選択の岐路に立たされているのだ。」
「僕の退役に疑問はありません、ですが!フレイは関係のない事でしょう?」
フレイのお父さんは未だに大西洋連邦の要職についている、そしてフレイがオーブに移住する事を大々的に反対していたという。もしかしたら、それが良くなかったのかもしれない。
「アルスター少佐、君は軍を退役後順次大西洋連邦への移動となる。」
その言葉に物凄く嫌そうな顔をする彼女は、怒りに満ちている。グッと堪えているけれど、爆発すればたぶん彼等を躊躇なく殴りに行くだろう。
「直ぐ様という訳では無い、このオーブへミネルバが寄港する事となった。そのエスコートリーダーを二人に努めてもらいたい、勿論アスハ代表も乗艦していると言うことだ。
必ず成功させよ、その後貴君らは退役準備となる。一週間じっくりと考えろ休暇をくれてやる、以上だ!」
そんな一方的な言い草に、僕等は従うしか無いのか…。
僕は彼女と共にバイクに跨り、ツーリングをしながら帰ることになる。
物思いに耽りたい気分を抑えながら、海を眺めながら。
………
途中休憩を挟み、島間輸送船を待ちながらいると彼女が話しかけてきた。
「ねぇ、キラ。私ね、大西洋連邦になんか帰りたくない、貴方と離れたくない。」
「僕もだよ、でも国からそういうものを否定されるなんて正直びっくりしたよ。」
彼女は海を憂いながら眺める、きっと僕が何を考えているのかなんて、お見通しなんだろうけれど。
「キラ、良いの?」
「良くなんて無いよ…、でももう遅いくらいだけど。言うよ。」
僕は片膝を付き、彼女の左手を掴んでそこにキスをする。
「指輪を待ちたかったけど、もう駄目みたいだから…。ごめんねこんな形になっちゃって。
フレイ、僕と結婚してください。」
「うん、喜んで。」
奪われたくないもの、眼の前の取りこぼしたくないものが僕の眼の前からいなくなるくらいなら、僕は国とだって戦ってみせる。
だから…。
「じゃあ、私からも。
私、フレイ・アルスター改めフレイ・ヤマトはキラ・ヤマトの事を永久に愛する事を誓います。だから、私は貴方を護る。私達がどうなろうとも、必ず。」
二人で誓った決意は、きっとこれから危ない方向へと向かっていくだろう。けど、僕等は止まらない。決して、眼の前の事実を受け入れない。
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