「あれで……本当に良かったんですかねぇ…。」
暗い会議室の中、1人の壮年の男が口を開きそう言った。周囲には同じくらいの男女がおり、ここに集められた者達が階級章をチラつかせながら、それを聞いていた。
「仕方なかろう、我々にはそれだけしか軍備がない。次に、連合から襲われれば一方的に蹂躙されるのは目に見えている。少しでも、可能性をばら撒く方が勝算があるのだよ。
たとえそれが、カガリ様の意思に背くことだとも。」
「この事は議事録には残せませんな、我々だけの秘密です。このオーブで育った子供達に、今カガリ様がなんと言われているか……。我々の選択によって苦しい思いをさせてしまっているのだ。」
時代に似つかわしくもなく、葉巻を口につける老人がそう言うが、それには火がついていることもない。
彼等はその言葉を聞き、再び沈黙に没する。
「願わくば、真なる平和が訪れることを願おう。カガリ様の為に。」
「「カガリ様の為に。」」
そう復唱し合うと、彼等は離席しそれぞれがバラバラと歩き始めた。
地球に降下して、一昼夜過ぎたくらいかな?ちょうど展示飛行が終わって直ぐくらいに、ちょうど良いからと甲板上でそのまま射撃訓練が始まった。
空はユニウスセブンの蒸発したものが地球に降り注いでいるからか、分厚い雲を形成している。
数週間はこんな感じなんだろうなぁと、昔どっかで見た科学雑誌の事を思い出している。
そんな中でも俺達は訓練をしなければならない、そこでせっかくだからと、甲板上で拳銃を使用した射撃訓練をしていた。
ちょうど、展示飛行を終えたクルーゼ達と、アスハ代表達がそれを見学する形で見ていると、俺はレイやルナと比べて低い点数に顔を顰めている。
戦闘調整されてないとは言え、俺だって第2世代だからそれなりに出来ると思ったんだけど、所詮は免疫系統の強化だからかあまり上手くはない。
それでも、アカデミーで上位を取れたんだから誇りに思ってる。
「どうです?皆さんもおやりになりますか?」
というルナの発言で、アスランと准将が立候補しクルーゼは、
「そろそろドミニオンと連絡を取らねばならないからな。」
といい、その場を後にした。
そして、二人による射撃試験が始まったんだけど……
「嘘でしょ…」
正直ドン引きする成績だった。
アスランに関して言えば、嘗てはザフトのアカデミーの首席と言うんだから当然と言えたけど、純ナチュラルである筈の准将が、アスランに勝るとも劣らない成績を示したのが、驚愕を呼んだ。
「なる程な、次やればアスラン君に負けることは無いと思うんだが……、これは負け惜しみだな。
次はどうする?フィールド・ストリッピングでもやるかい?
俺は目隠しでも良いぞ?」
その発言に違和感を覚えた。眼の前の人はザフトに所属したとか、そういう事もなく。それでいて
「流石に目隠しだと、俺も貴方には勝てないかもしれませんね。」
「言うな、見えるなら俺に勝てるという事かい?」
「はいはい、お二人共凄いですね。特に准将は、私達と違ってナチュラルなのに。」
「伊達に戦争をやっていないだけだよ。
それとだ、シン君ちょっと良いかな?」
俺に声がかかった、何を聞かれるのか俺に答えられることは少ない。それどころか、ナチュラルに成績で負けてるだけに言うことすら無い。
「ちょっとアドバイスをね、君はどちらかと言うと直感型だと思ったから。どう考えながら撃ってるのかなぁと。
思考のプロセスを挟む分、君にはあまりその撃ち方は向いていないと思ったからね。」
「直感ですか?でも、弾道の高さとかある程度計算しないと、当たるものも当たりませんよ?」
コソコソと皆と離れたところで何を離すのかと言えば、直感だ。そういう物はお伽話で基本コーディネイターは計算づくな事が多い。俺もその例に漏れずにそうやっている。
「ナチュラルには盲撃ちだとか、そういうものもあるが例えば猟師等は勘で標的を撃つこともある。
君にはそれが向いているよと、理屈は抜きだが鍛えて見るのも悪く無いとおもうよ?そうすれば…。」
「ルナやレイに勝てる?と?」
チラリと二人の方を見ても俺にサムズアップする、戦闘者としてのアドバイスなのだろうか、確かにナチュラルである准将ならそれもある意味あっているのかもしれない。
「じゃあ、これからはそう言うのをなるべく意識してやる事だ。MSの戦闘もそう言うのを意識すれば、自ずと強くなれるさ。」
そう言うと、准将はクルーゼと同じ事を言って去っていった。
「シン、何か言われた?ニヤニヤしちゃってるけど。」
俺がニヤニヤしている?本当だ、どうしてだろうか?まあいいや。
「なんでもないよ、それよりももう一度勝負だ。」
アドバイスが適切かどうか解らないけれど、やらないよりはマシになるのなら、やってみせるさ。
……
射撃訓練をしていると、上空からドミニオンが降ってきた。
いや、降ってくるというのは語弊があって、どちらかと言うとフワフワと浮かびつつ、徐々に着水した。
凄くゆったりとしたその情景に、目を丸くした。
ミネルバの着水はかなり大掛かりな事になっていたのに、ドミニオンのそれは本当にその名の通り天使のように、重力を感じさせない動きだったからだ。
「アレが話に聞く、ミノフスキークラフトというものか。」
というレイの言葉を、耳にしつつその姿に圧巻された。
ミネルバとは違うけれど、特異な形状をしている連合のアークエンジェル級2番艦の姿を肉眼で目にする。
宇宙空間とはまた違った魅力が見えてくるという、ある意味で男心をくすぐる性能に少し興奮した。
「ドミニオンもオーブに入港することになっている、突然の申し出だったが君たちと共に功労者なんだ、私の権力を使わせてもらったよ。」
アスハ代表のその言葉を聞いて、呆れる。
本当に、オーブを私物化して。これで、連合の傀儡だなんて言うんだから、正直恐ろしい。
どうして、こんな大胆な事をしようとする人が、連合の傀儡なんてやっているのか、もしかすると俺は彼女を勘違いしているかもしれない。
「とりあえず、中に入りましょう。そろそろ、オーブも近付いて来て領海も見えてくる頃ですし、一応私達はザフトですので臨戦態勢は取りますよ?」
「いや、問題ない。エスコートに私の知り合いが出てくるんだ、それを見て欲しいんだ。
特に、シン・アスカ。君が良く知ってる人物たちが来る、見てみたいだろ?」
その言葉にいったい誰が来るのか、俺が良く知っている。MSパイロットだと、なんとなくそう思えてだとすれば、俺を救ってくれた人達の誰かだとそう思った。
曇り空を切り裂くように僕の青いムラサメと、翼と機種を朱色に染めたフレイの機体と共に、海の上をたった2機で飛んでいく。
僕たちの最後の任務になるだろう、この空を飛ぶ行為は僕等にある意味で未練を見せる。
僕は、いや僕という人間がやれる事は人を殺すだけじゃない。元々は、カレッジに通っていたんだからきっとモルゲンレーテでも上手くやって行けるだろうとそう思いながら、やっぱり力を手放すのが怖い。
だからこそ、アークエンジェルをどうにかしてオーブから離れさせようかと、そう考えてしまう自分が普通じゃないと思えてしまう。
「キラ、何か色々と考えてるみたいだけど、大丈夫よ。上手くやれるから、たぶん。この平和も長くは持たないだろうし。」
「それは、勘?それとも、フレイの願望?」
「勘よ、少なくとも数カ月後に何かが起きる、その時にはアークエンジェルが無いと困る事になるかもしれないわ。」
だったら、余計にアークエンジェルを引き渡す訳にはいかないじゃないか。
「ふふ〜ん、そう思って。私、モルゲンレーテの株式の2%持ってるのよ?凄いでしょ。因みに元手は給料からだから、心配要らないで?」
僕の知らない間にフレイは凄いことをしていたようだ、だからこそなんだろうか。
もしかして、孤児院のあそこもフレイのおかげで秘匿されていたりするのだろうか?
「あそこはカガリと、後はラクス・クライン信奉者の会で有名な、ターミナルの保有している施設だから私とは関係無いわよ?」
だとしても、それだけ影響力が有ることを黙っていたのは頂けないと思いつつ、僕はレーダーを目にした。
「ミネルバとドミニオンが映ったね、それじゃあ任務開始するよ。」
「了解しました、エスコートリーダー!」
元気な声でそう応答するフレイは、喜びに満ち溢れている。互いに昔から着けている指輪を首から下げながら、今眼の前の事に集中する。
「こちら、オーブ軍MS隊所属のキラ・ヤマトです。ミネルバ、並びにドミニオンの寄港を歓迎します。」
これから始まることは、これから考えよう。だからせめて、今はこの平和な光景を、敵味方無いこの姿を目に焼き付けよう。
……
2隻が港まで辿り着くと、僕たちはその直ぐ側に機体を着陸させて、軍艦から降りてくる人達を出迎える。
外から見ていて、2隻ともだいぶ傷んでいるからそれの修復にモルゲーレーテが動き出すようで、整備員がせせこましく動き始めた。
「アスランにカガリ、それとアムロさんラウさんナタルさんもいるね。」
「久々にアークエンジェルクルーも揃うし、アムロさん達も誘って何処か食べに誘ってみる?」
私語を慎めという声が聞こえるけど、もう僕たちにはそんな事関係ない。
だって暫くの間、オーブ軍を離れる事になるのだ。ここで懲戒処分を食らったところで、痛くも痒くもない。
「終わったら孤児院に行かなきゃならないし、引き継ぎとか色々とあるからねそれにマユちゃんと慰霊碑の掃除をしに行くから、ちょっと行けないね。」
「う〜ん、そうよねぇ。まあ、ドミニオンの出港前日くらいで良いんじゃない?そうすれば、皆ゆっくり出来るだろうし。
修理が完了するまでは、半舷どころか完全に退艦命令が出てるから、もっと盛大にやりましょ。カガリに場所は取らせるから。」
アハハと乾いた笑いが出てくる、カガリが大変になりそうで困るよ。
ラミアス艦長達、説得するのにも手伝ってもらうのが一番早いから、ごめんねカガリ。
アレがザフトの新造艦なんだ、結構奇抜なデザインだなぁ…。
私は、災害が起きなかったと言うことで良い意味で暇になった。モルゲンレーテのテストパイロットとしての仕事も、そう頻繁にある訳じゃないし、何より私の年齢がいけないのだ。
「何が『未成年者の労働時間は、厳格に決められてるから』よ、どうせ私みたいな年齢の人はお邪魔虫ですよ。」
ここまで船を乗り継ぎ、自転車で来る事になるなんて思いもしなかった。
軍人の筈なのに、車も運転させてもらえず。官庁職員用の車すら借りられない。全ては年齢のせいだ。
「あ〜ぁ、やんなっちゃうなぁ〜。こんな事ならもっと早く生まれてくればよかった、そうすればこんな事になって無いのに。」
「こらこら、こんなところに子供1人で来ちゃ駄目だよ。」
モルゲンレーテのドックに入ろうとすると止められる。しかも、社員証着けた人だ。私だって同じようなものなのに。
「これ!私も部外者じゃないんだけど!」
「お嬢ちゃん…、良く出来てるけど偽造は駄目だよ。入れないからね!」
あぁ〜もぉ〜、どうすれば良いのよ。
もう良いや、気分転換にサイクリングでもしていよっと。
と、言う訳で私は島を一周する旅へと出たのであった。
暫く走ると、随分と見覚えのある光景が見えてくる。
新しくなっているけれど、嘗て私がいた野戦病院があった場所には多くの、墓地がある。
勿論そこは慰霊碑があるわけじゃないけれど、数多くある野戦墓地のうちの1つでしかないから。
でも、もしあそこで死んでしまっていたら私は、そこに埋葬されていたかもしれないと、そう思いながら。私は、そこには手を合わせる。
私の代わりに死んでしまった人もいるのだろう、そう思いながら。
………
暫く走ると雨が降ってくる。
大気中の特に、今回起こった出来事で大気圏に流入した塵が、雲の役割を果たして空気中の水分を含んだ塵と共に降ってくる。
私の義手との相性はあまり良くない、もし機械に入れば誤作動もするから。
「そろそろなんだけど、こんなところで雨かぁ…。」
私の家、私達の家があった場所に行く。折角だからと私はそこまで足を伸ばしに来たのに、雨なんてなぁ。ツイてない。
「ここらへんだったなぁ、お父さんの上半身が私を庇っていたの。それで、お母さんの身体が3つに別れてて……お兄ちゃんの身体がどこかに行っちゃってて……、遺体も見つからなかった。
蒸発しちゃったのかもしれないって、そう言われたっけなぁ。」
あの時、あの盾が降ってこなければ私は死んでたのは確かなのに、もしもアレのせいで攻撃が飛んできたとしたらとか、そんな事を考えてしまう自分が怖い。
誰のせいでもない、戦争のせいだと言うのに。
「あと少し、頑張ろう。」
あと少し、実家はもうすぐだ。
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