オーブに滞在するのも暫く経った、皆そろそろ家族が恋しくなるだろう頃合いに、俺はギルバート・デュランダルに呼び出された。
公人、アムロ・レイ准将として赴く、直接的な対談は初めてであり、モニター越しからの俺からの一方的な通信くらいしか面識が無かった。
それというのも、ミネルバの地球降下時には互いに忙しく、艦内ですれ違うこともないという、神に操作でもされているかのように俺達は合うことが無かったのだ。
俺がミネルバへと乗艦する事で対談するという形が取られ、こうして面と向かって一対一で会談している。
「改めまして、アムロ・レイ准将です。本日はどういったご要件で?」
「こちらこそ、ギルバート・デュランダル、プラント最高議長だ。今日は、折り言って話したいことがあるので、こちら迄ご足労頂いた次第だ。」
この声はまさしく、あのシャアに似ている。だが、あの男とはまた違った精神構造のようで、どちらかと言えば草臥れていると言ったものだろうか?
「ラウ・ラ・フラガ…、彼との関係は私も承知している。だが、彼の寿命はとうに過ぎている筈だと、そう思ってね。
私は、彼の延命措置を行ってきたのだが、それが今や何事もなく過ごしている。貴方方のその技術を頂けないかと思ってね。」
「そうか、なるほど。では、貴方は嘗てメンデルにいた事があるのは事実なのか、だがあの技術我々の開発したものではないので。アウラ、アウラ・マハ・ハイバルと言う人物のメンデルの残された研究結果から、あの薬剤が開発された。彼女の事を知っているか?」
その名前を聞いたとき、彼は素面を装った。だが、同時に精神的な場所で大きく動揺していた。顔に出さないのは、流石に政治家なのだろう。
だが、同時に人の心を遥かに持ち傷付きやすい側面もある。
「……、君がラウと同類ならば私の事を見透かしているのだろう?ならば、言わずとも判るはずだ。」
「では、彼女が何処へ行ったのか知っているか?」
「知らぬよ、私がメンデルにいたとして、バイオハザードによって様々な物を彼処には置いてきた。
数々の研究結果が、今なお彼処には眠っている。」
嘘では無いようだ、そして同時に彼は彼女のやろうとしていた研究の、本来の物を知っている筈だ。
「今回、そういう事が有るかもと思いまして、これを持ってきました。」
俺は茶封筒から、紙面を取り出す。今なお、紙という媒体は諜報と言う観点から最も信頼されている情報媒体の1つだ。このような形ということは、物理的に破壊すれば瞬く間に再生することが出来ず、その隠匿性はコンピュータの比ではない。
「これは…、スーパーコーディネイター計画及び、それに関する研究と付随していた、アコード計画の断片か?」
「あぁ、復元出来たのはそれだけだ。スーパーコーディネイター、それは現在確認出来ている生存者を俺は知っている。生き残りと言われた人物が1人ではない事も、だがアコード。
これに関して一切の情報を持っていない。」
「何故これらを調べ上げるのか、君たちにその利益は無いだろう?あまりにも無意味だ。」
そうだとしても、この引っ掛かりを俺は不気味に感じている。俺がその事を聞こうとした理由はただ1つ、大戦期アークエンジェルへと始めて接触し、そこでラクス・クラインに違和感を覚えたからだ。
「私も最低限の事しか知らない、確かに私はメンデルにいたがアウラの提唱する、このアコードと言うものは私もあまり詳しくは知らない。だが、1人心当たりがある。「ラクス・クライン」!知っているのなら、何故聞く必要があるのか。」
「なんとなくの違和感だけだからだ、確証を得たかった。だから、彼女を狙ったのかともね。」
その言葉に対して彼の警戒心は急に上る、と同時に俺を見る目が変わった。
相当に恐れている、見透かされていると言ってもここ迄とは思っていないのだろうな。
「俺も多少彼女とは面識がある、画面に映る彼女は健気に振る舞っているように見えて、その実無感動。何より、本人ならばあんな姿しないだろうな。」
「それは、ノーコメントと言っておこう。本人が出てこない以上、彼女こそがラクス・クラインだよ。
それとも、君はそれを立証する術はあるのかな?」
「無い、が俺の個人的な見解だ。どう転んでところで、俺達には害は少なそうだからな。
それで、話はこれくらいかな?
最初に話したアンチエイジング薬は、そちらにデータを渡す。
レイ・ザ・バレル、彼はクローンのようだからな。
見返りは後で貰うとするよ。」
俺と彼との話はそれで終了し、あとに残ったのは事実を知らない護衛官達であった。
あの日から数日経った、私は毎日のようにミネルバの近くに立ち寄ると、中から時間通りにお兄ちゃんが出てくる。
話す時間は少ないけれど、休みの時間を使って私に会いに来てくれる。
嬉しい反面、オーブ国民とプラント国民の差というものだろう。必ず検問所で停められてしまうから、私はその都度許可証を貰っている。
それでも、唯一の肉親。それも、死んだと思っていた相手同士その事に対して依存気味な程、集中を欠いてしまうのは仕方の無いことかもしれない。
「マユちゃん、ちょっと良いかしら?」
「え?は、はい?」
ぼーっとする日が増えた気がする。今お兄ちゃんは何をしているのか、とか早く会いたいなとかそんな事を暇さえあれば考えてしまうのだ。
「最近、何か悩み事でもあるの?ぼーっとしてる事が増えたようだけど、仕事に差し障り無いくらいには休んでも良いのよ?」
「え?あ、いや別に悩み事があるとかじゃなくて、寧ろ悩みの種が減ったと言うか、嬉しい事があったと言うか…。怒らないですか?」
私の事を心配する直属の上司に当たる、マリュー艦長は私の事を心配しているのだろう。なまじ、私は10代前半の子供。成人女性、特に優しい艦長さんには私の事が気になって仕方が無いのだろう。
「怒らないわよ、だってマユちゃんがそんなに喜んでいる事なんて、私見たことないもの。」
そう言われて、私はお兄ちゃんの事を話した。そして、それを聞いてマリューさんは泣いた。
彼女は本当に優しい人なんだろう、本当にどうしてこんなに優しい人を待たせるような事をさせるんだろうか?ムウさんは。
「じゃあ、ラクスさんとの約束は無しにした方が良いわね。彼女だって判ってくれるわ、だってこんな事があったんだもの。」
「え…、いやそれは駄目だよ!だって、ラクスさん結構大変な事になってるじゃない。だから、私は私の出来ることをしたい!」
困った顔をしている彼女を、私は少しモヤモヤとした心持ちで見上げた。
「でも、戻れないかもしれないのよ?これから、大切な家族と一緒に暮らすかもしれないのに、そんな事になったらお兄さん悲しむんじゃない?
それに、キラ君やフレイさんも手伝ってくれるって言っていたから、貴方が無理をしなくても大丈夫なのよ?」
またキラさんだ、確かに私を何処へとも知らない場所に送るような事を避けさせたいのは判ってる。
けど、それとこれとは話は別だ。私は、私の出来ることをしたいんだ。きっと、我儘なのかもしれない。それでも、皆の為に働きたいのだ。
「それは大丈夫だよ、お兄ちゃんはプラントに住んでるし、ザフトに所属してるから、またプラントに帰っちゃうから。
それに、5年待っててって言っておいたんだ。」
「5年?何故?」
「そしたら私だって、一応背格好も一人前だし。一緒に並んで仕事をしたいから。絶対お兄ちゃん過保護にするから、マユのしたい事させてもらえないだろうし。」
「本当の本当に良いのね?ふざけて言ってないのよね?」
私は、その言葉に対して大きく首を縦に振り、マリューさんを根負けさせた。
僕な自分のロッカーを目の前にして、最後のピースを片付け終えた。
今日から、このオーブ軍の軍人ではなくなる。
そう考えると、何処かホッとする自分がいるのと同時に、物凄く不安な気持ちになっていく。
もし、今ここで戦争が始まったりしたら、僕は再び戦場に出るだろう。
じゃあ、もし家にいる時に戦争が起きたら?眼の前の人を助けられないかもしれない、という恐怖が指を震わせる。
「あの、これ持っていてください。」
「少佐……、短い間でしたがご苦労さまでした。俺達、少佐の分も頑張ります。
少佐から教わったこと大切にしながら、やってきます!!」
そんな、僕なんてそんな事やって来た訳じゃないのに、だとしても。
今からやっぱりやめたなんて、言えるわけ無いし。何より、アークエンジェルが待っているから、僕も行かないといけない。
「キラ、遅いじゃない。約束時間に10分遅刻。」
「ごめんフレイ、ちょっと梃子摺っちゃって。じゃあ、準備は良い?」
「勿論よ、だいたいカガリがなんとかしてくれたと思うから。現に、アークエンジェルのドックは建前上閉鎖されるらしいけど、私達が自由に使えるようにしといてくれてるみたいだから。」
いつもカガリには世話になっている。兄妹なのに、僕は彼女を大手を振って護る事さえ出来なくなった。
それなら、公に出来ない方法で護っていくしかないじゃないか。
それから二人でアークエンジェルへと向かった。
……
「マユちゃん…なんで、マリューさんには言っておいた筈なのに。」
「フフ〜ン、私を外に出そうだなんて嫌なこと考えないでくださいよ。」
たぶんフレイは知っていたんだと思う。本当に、こんな小さな子まで戦争になんて巻き込みたくないのに。
僕は少しでも、自分の守れる範囲を小さくする事しか出来ないから、あの戦争で学んだんだ。
身の程を知るってことを。
「ミネルバもドミニオンも、今日出港するらしいからそれに合わせてアークエンジェルは出港します。出来るだけ目立たずに迅速丁寧に。」
始まってしまうのは仕方がないけれど、せめてMSにだけは乗って欲しくない。
だって、怖いじゃないか。確かに操縦技能は高いけど、実践経験少ないいや、無いんだから。
「キラ、また変な事考えてるんじゃないの?ほら、うじうじ考えていても仕方ないんだから、行くわよ。」
僕はフレイに背中を押されながら、アークエンジェルの格納庫へと足を伸ばした。
俺はミネルバに帰ると持っていた、マユの携帯の事を思い出す。
アレを形見として、必死に持っていた事が馬鹿馬鹿しく思える程に嬉しい反面、またマユを置いて行かなければならないというジレンマに、頭を抱えている。
もう出港の日は明日だと言うのに、未だに未練がましくマユに合えば合うだけ、一緒にプラントで暮らそうと言ってしまいそうになる。
それは、俺のわがままなのだろうか?それとも、一緒に行かないのはマユのわがままなのだろうか?どちらにせよ、マユだって直ぐに国籍を移せるわけでもなく、プラントに入植したとしても俺は殆ど家にはいない。
結局淋しい思いをさせてしまうという事だ。
やっぱりだったら、マユはオーブにいて今の友人達と一緒に成長したほうが良いんじゃないだろうか。
いや、絶対に良いに決まっている。
プラントにも、虐めと言うものがある。特に顕著なのは、きっとザフトという特殊な環境だからだと思うけれど。
ザフトでの俺は落ちこぼれだった。特別な強化を受けていないという事から、俺は殆ど下から数えたほうが良いとすら言えるような成績だった。
首席であるレイが、諦らめない俺を応援してくれたから今ここにいられるんだ。
「だったらやっぱり、一緒に暮らさない方が良いよな……。」
俺と一緒に暮らしてしまうと、今度はマユは完全に1人孤立した世界に取り残されてしまう。しかも、今度は全く見知らぬ土地で、頼れるものも無くただ同族意識という村社会の中で虐められるかもしれない。
そんな事を考えていると、気が付けば休憩室にいた。
考えながら誰かの助けを求めて歩いてしまったのだろうか、無意識にせよどうしてそんな高等技術が出来てしまったのだろうか。
「シン、どうした。そんな深刻な顔をして、悩みがあるのなら聞いてやるが。」
「レイ…、いや個人的な話なんだけどさ。もしも、もしもだぞ?死んだと思っていた肉親がいて、それがいきなり生きていた事が判ったんだけれど。
一緒に暮らしたいんだけど、環境がそれを拒むんだったらどうすれば良いと思う?」
レイはそれを少し考えると、俺に1つ答えを提示した。
「環境を変えるしか無い、お前の周囲の人間だけでなくプラントの悪癖を変えるしか無い。
だが、今のプラントでお前は言うなれば厄介者の1人だ。プラントの外部から来た移民、元々プラントに住んでいた者達は、お前のことを良く思っていない奴もいる。
それを前にして、其れ等を抑制すること目的に動くのが好ましい。」
「だけど、俺にそんな事できるかな?」
何か、物凄く仰々しく難しい事をやらなければならないのかと、自信が無い。
でも、マユの為ならと頑張れる気がする。
「その為にはザフトで出世して行くのが、一番手っ取り早いと俺は思うが?」
「判ったよ…よ〜しやるぞ〜!!」
気分が乗ってきた、本当にいつもいつも
「レイ、ありがとうな。」
「問題ない、俺とお前の仲だろう?」
俺は更に訓練に励んで行こうと決意した。
最近色々と立て込みいつの間にか眠っている。
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