「これより本艦はオーブを出港後、カーペンタリアへと帰港する。その後、本国への帰還する為に再度基地での調整に入りますが、厳重待機の元本艦よりの下船は最低限とすること。私からは以上よ。」
艦内に、そんな放送が流され俺はその事に関して少し意気消沈していた。
だってそうだろう?生き別れた妹とやっと再会できたと思えば、また離れ離れになってしまう。こんな悲劇的な事があって良いのだろうか、一応の作戦行動中だから除隊すら出来ない。
除隊する気は無いけれど、それでも離れてしまうのは嫌な事だ。
「よぉ、シン。どうしたんだよ、そんな辛気臭い顔してよ。何かあったか?現地妻が出来たとか。」
「そんなんじゃない、ルナから聞いてないのか?妹が生きてたんだよ。死に別れたと思ってたんだ…、そんな妹をまた置いていかなきゃならないんだ…、これが辛気臭くなくて何になる?!
……、ごめん。」
「良いって良いって、それよりもよ甲板に出てみようぜ。」
「はあ?」
どうして甲板に出る必要があるのか、それが俺にはいまいち良く分からなかった。
甲板に行くと、艦内乗員の2割程がいて港の方を見ている。
なんだかんだと思いながら、それを見てみると横断幕で
〘Thank You〙
と花と共にそう描かれた物が見えた。それと同時に、オーブ軍楽隊が何やら奏で始めた。
俺にとって聞き慣れた、オーブ国歌から始まり船出を祈る歌。
それを受け取るミネルバとドミニオンのクルーの姿。
実に対照的な見え方だった。
俺達と違い、ドミニオンのクルーは綺麗に整列していたのだ。しかも、見たこともない真っ白な服を着ている。
どちらとも狭い甲板、落ちないように簡易的な手摺があるものの向こうは、精一杯並んでいる。
そして、そのクルーの殆どが白い帽子を被り軍楽隊の音楽が鳴り止むとともに、大きな声を吐きながら帽子を振っている。
ミネルバのクルーである俺達プラントの人間からすれば、それがどういう意味を持っているのか知らないものも多い。
逆に言えば、オーブ出身者である俺はなんとなく知っている。
アレは、船出の礼儀作法みたいなものだ。
別れを惜しむという意味で、それを振るのだが殆どが教わることも無い。
「何やってんだろうな。」
そう隣から聞こえる声に、ああそう言う文化が無いからしょうが無いという事だろうな。
見様見真似の軍隊と、元とは言え正規軍から分裂した軍隊の違いなのだろう。
俺はそれをある意味冷ややかな目で見るしか無かった。
……
俺達と同時に出航したドミニオンが速度と高度をグングンとあげて、遥か宇宙の彼方へと吸い込まれるように昇っていくのと対照的に、俺達は海原を滑走した。
カーペンタリアへの道中、何事もなく進んでいくと思われた。しかし、そんな事あるはずもなく事態は急変した。
「これより本艦は全速行動によりカーペンタリアへと救援を開始する。
敵部隊の詳細は不明であるものの、敵主力は連合兵器であるダガーであると断定、目下迎撃戦闘中であるとの事です。」
「どういう事だよ!なんで今更カーペンタリアを襲撃しに来る、だいたい哨戒部隊は何やってたんだよ!」
「私に怒鳴ったって仕方ないでしょ、連合が本格的に侵攻してきたなら、もっと大々的だろうし…。レイはどう思うの?」
待機室で俺達パイロットは、そうやって駄弁っている。出撃距離になるまで、俺達は暇だったのだ。
しかも、突然のことでMSの出撃を出来る即応体制が出来ていなかった事もある。
「敵が何であれ、こちらの拠点を襲撃している事実は変わるまい。
だが、今の時期に連合が大手を振ってこちらを攻撃してくるとは考え辛いと思う。
だとすれば、連合を騙る何者かが我々に対して攻撃をしていると考えたほうが、寧ろしっくりくる。
あくまでも俺の予測ではな。」
だとしても、状況証拠としては限りなく連合は黒に近いグレー、第一、大西洋連邦ならこういう事をやりそうな感じがするだけに、否定出来ないのが逆に恐怖を煽る。
オーブを思い出す。あのとき、俺に戦える力があればとどれだけ思った事か。
今こそ、俺はこの力を奮う時。
ユニウスセブンでは、強い敵ばかりでなんとも無くなってしまっていたが、今度こそ。
今度こそ、俺は前に進む為にここで相手を叩かなきゃならないんだ!
「敵が何であれ、俺達は戦わなくちゃならないんだ。だから、二人共絶対に死なないでくれよ。」
「こんな下らない戦いで死ぬわけないでしょ、さぁ~行くわよ!」
ミネルバは全速力でカーペンタリアへと向かっている、その時が刻一刻と近付いていた。
私達はミネルバとドミニオンが出航する時を測りながら、船出する。
船体が沈みながらアークエンジェルのブリッジに、耐圧隔壁が展開されていく。
外部は映像でしか見ることが出来ない、そんな不安がよぎる展開に、私は緊張していた。
「これより本艦はオーブより離脱し、ザフト勢力圏であるカーペンタリアへと出航します。
皆さん、短い船旅ですが道中気がかりがあれば随時、報告願います。」
マリューさんの声が響く…。
ゆっくりと身体が後ろに引き付けられられる感覚は、この艦がゆっくりと前進していることを示していた。
私はと言えば、アークエンジェル内のブリーフィングルームにてラクスさんとニコルさんを前に、今回の目的を聞いていた。
「それでは、3人だけの秘密会議を始めましょう。」
「と言っても、やる事は非常に単純なんだけどね。」
どう単純なのか、2人がいったいどういう役回りをしているのか、いったい私は何故参加しなければならないのか。
「まず、カーペンタリア近郊部までアークエンジェルで赴き、そこからブリッツに乗り込み、隠密行動を取りながらカーペンタリア基地へと侵入します。ブリッツ背面には、私達を乗せるためのカーゴがありますから、私達二人はそれに乗りますわ。」
「あのぉ…、ブリッツの機能は知ってるんですけど、それにしたって防諜網とかそう言うのをどう掻い潜る気なんですか?」
「そこは僕の操縦センスによりますね。大丈夫、色々と修羅場はくぐり抜けていますから、安心して命を預けてください。」
安心しろって言ったって、ブリッツって第一世代の筈だからカタログスペック上だと、そこらの連合の量産機と変わらない筈だよね。核融合エンジンがどれだけすごいのか判らないけれど、それがいったいどう言うことなのだろうか。
「侵入した後に、皆様にはこのセキュリティカードと偽造パスポート。及び、ザフトの軍服を着てください。
大丈夫、既に内部の協力者の方が私達の情報を改竄している筈ですので。」
「それに、もしも駄目なら。僕がハッキングして、内部に侵入できるようにしているよ。」
そんな事が出来るなら、私は必要ないのでは?
「マユ様の役目は、私達のカモフラージュを完璧なものとする為ですので、よけいな事はしないでくださいまし。」
「あの…、それで私の役目ってなんですか?」
「カーペンタリア基地も良く言う在ザフト駐屯地だから、家族連れで入所している人もいるにはいるんだよ。
だから、まあ…もしもの時の人質役かなぁ。」
成る程、確かに低年齢の人間使った方が周囲からの同情を誘えるってことね。
でも、それでミネルバが先行していたら潜入するの大変なんじゃないかな。
「最終手段は、ブリッツによる強襲突破になるだろうね。その場合は、無謀な賭けになるよ。
尤も、アークエンジェルが指名手配されるという奥義があるんだけど、その方法だとキラとフレイさんも参加出来るかなぁ。」
そうならないように祈らなきゃいけないのか、そんな事をしてまでやらなきゃならない事って、どういう事なのだろうか?
……
アークエンジェルの艦橋から見えた光景は、今も忘れない戦火と同じ色に燃える、カーペンタリアの姿だった。緑色の閃光が走ると、たちまちジンが消し飛び忌々しい連合のダガーが、基地を破壊していく。
その動きはまるで、ニコルさんが搭乗するブリッツの様に繊細で力強く、そして大胆だった。
潜望カメラでモニターに映し出されたそれは、本当に戦争の光景だった。
ザフトの大規模な基地が襲撃されている。
しかも、たった1機のダガーの手によってだ。
その映像を見て、キラさんは拳を強く握りしめていた。今にも血が流れそうな程に、現状を見てなんとかしたいとそう思っているに違いない。
「駄目よ出撃は。」
「解ってます…、でも誰かがあそこで苦しんでいるのを見るのが…耐えられないんです。」
優しいのがキラさんの長所だと想うけれど、流石にこれは度が過ぎている様に思う。自分をなんだと思っているんだろうか、神様でもないのに全てを救う事なんて出来ないのに。
傲慢、そう言う言葉が頭にチラつく。
「今は静観するしか出来ないわ、仮にも私達はオーブ軍。もし、ここで出ていったら、何故カーペンタリアの領海近郊で潜航していたのか問いただされるのは、オーブよ。
今やろうとしている事だって、不味いことなのにこれ以上は望めないわ。」
そう言うラミアス艦長と、それを苦しく思っているキラさんと、ラクスさん。
対照的にニコルさんは、現状を冷静に分析しようとしていて、フレイさんとムウさんがダガーを訝しむように見ている…。
「なあ、フレイの嬢ちゃんもあれに違和感あんだろ?」
「奇遇ですね、確かに違和感を感じています。あれ、
そんな話をしているのだから、やっぱり二人の事が良く解らない。偶に会うにしても、こっちの事をあまりにも深く突いてくる話し方をされたりするし、やっぱりおかしいよねこの2人。
「二人はあれから何を感じているんですか?」
「うん?あぁ、アレなたぶん人じゃねぇんじゃねぇかって、そう言う話だよ。何かきな臭い匂いがプンプンするってね。」
MSの無人化、きっとそれは色々な国が行っているに違いないけれど、ウィルス等に弱いから敬遠されているって聞いたことがある。脆弱なのは良くないから、もしかしてそう言うことを言っているんだろうか?
「一番嫌なところは人の思念も混ざってる感じがするってところよね、機械と人間の混合物っていうか。
まるで、人を機械にした悪意の塊みたいな奴っていうか。
昔、オーブにいたのよりも質が悪いわよ。」
人を機械にする。そんな事が可能なのだろうか、それともそのままの意味でやる奴等がいるという事なのだろうか。
「せめて被害が最小になるように祈りましょう、どんなに強くても、単機で基地を制圧なんて出来ないでしょうから。」
それが、私が初めてこの肉眼で第三者として見た本格的な戦闘だった。
ズズンと響く音、それと同時にビリビリと伝わってるく振動に、私は恐怖していた。
ラクス様の影武者、私がそれになったのは戦争が終わってから数カ月後だった。
いつも、ラクス様の歌をダンスを参考に、動画をながしたりしていた私は、とある人に見初められてラクス様の下へと送られた。
ギルバート・デュランダル。現在のプラントの議長は、どうやってか私の歌唱力を武器にしようと画策して、私をラクス様に送ったのだと思う。
それが、私が影武者に抜擢された理由だった。
ラクス様は、当時戦後間もなくの大混乱する世情の中、様々な国へと赴き、非難や叱責を受けつつもコンサートを開き様々な人達を救済していった。
私は影武者として、歌を歌うときも時と場合によれば私が代わりにそれを肩代わりしていた。
その間だけでも観客は、私の事をラクス・クラインだと良い尊敬し募ってくれる。
そんな自分に満足していた。あの日迄は。
ラクス様は良く、共に各地を回るニコル様と共に過ごしていた。本当は婚約者であった、アスラン・ザラとの関係をもっと深くした方が良いのではと思っていたけれど、戦後のザラ派の荒れようから、徐々にそんな事を考えなくなった。
オーブに着くと時折、抜け出してはラクス様はニコル様と共に何処かへと消えてしまう。
残されるのは、私とニコル様の影武者だけ。
そんな日が続いていたある日のこと、私は事件に巻き込まれた。
ラクス様を狙ったテロが、オーブ国内で起こったのだ。
幸いなことに、私は異常なかったもののニコル様の影武者の方は、そのまま亡くなってしまった。
さて、そこで困ったのは私だ。
ラクス様は何処に行ったのか解らない、それどころかいつ帰ってくるかも解らない状況に、これはチャンスなのでは?と、下心を持ってしまった。
自分自身をラクス・クラインとして、周囲を欺いてそもそも何とも思っていなかった相手を失った、悲劇のヒロインを演じたのだ。
実際の彼女がどんな人なのか、プライベートなところまでは解らないけれど、想像以上にアクティブな人なのだ。
だから、彼女の事を良く知っている人にはきっと、物凄い違和感を齎せたのだろう。
そんな報いなのだろうか、今私はカーペンタリアでプラントへの帰還途中に、こんな戦闘に巻き込まれた。
あぁ、ラクス・クラインになんてなるんじゃなかったと、今更後悔してももう遅い。
何時誰が助けに来てくれるのだろうかと、私はこの轟音と振動が止むまで待ち続けた。
次に扉が開いた時、入ってきた軍服の人がこう言った。
「お久しぶりですね、ミーア・キャンベルさん。お待たせしてしまいました。
貴方を迎えに参りましたわ。」
と、そしてその横でもう一人が周囲の警備兵を蹴散らしつつ、気絶させて。
「あ、…えっと……、はじめまして。」
何故か中学生位の少女が二人に連れられて、私の前に現れた。
原作乖離が進んでいきます。
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