カーペンタリアの修繕が進むとともに、俺たちにはある結果が通達された。
それは、易しい事でなく寧ろその報告に対して嫌悪を感じる程に、気持ちの悪いものだった。
「なんなんスカこれ、連合は!こんなもの使って!!」
「妙な早とちりは辞めなさい、敵は連合と決まったわけではないわ。」
そう言われるけれど、俺はその言葉とは裏腹に地球連合の蛮行を誰よりも知っていると思い、それを確信しているからそれを言葉に出そうとした。
「それよりも、報告をきちんと読んでおくこと。良い?」
そう言われて、言おうとした言葉を呑み込んでそれに目を通した。
病理解剖の結果、俺が倒したパイロットの肉体は前腕と下腿を損失していたという。
それだけなら、遺体の欠損という形で済みそうなものだけれど、話はそう単純なものじゃない。
まるでパイロットの欠損は意図的に行われたように、綺麗に縫合されていてその欠損部位にはニューロンリンクが行われていた形跡があると言う。
ニューロンリンク、ちょっとだけ聞き齧った知識しかないけれど、確か脳の神経に関係するものだった筈と。
「むごい、わね。」
むごいなんてもんじゃない、これは寧ろ人道から反しているというか、もはや外道というかそんなものだろう。
人が、人にやって良い事ではないと頭の中では叫びとなって言いたくなるのにも関わらず、それが現実のものとなっている事実に感覚が麻痺している。
「聞くところによると、前大戦時に地球連合はオーブ侵攻戦で今回と同様な兵器を使用していたという。」
レイの言う事を聞いて、俺がその当事者であった可能性が高い事を想像し、怒りに満ち溢れる感覚を覚えた。
「レイ…、それってどう言うことだよ。」
「戦場から逃れた、当時のオーブ残党軍が所持していたデータ上に、地球連合の一部パイロットに関するものがあるのだが、そこには脳を意図的に切除し、人間に恐怖という感情を外科的に抑制した形跡があったそうだ。」
そう言われて、俺は手渡されたものをさらに読み進めていくと、それにとあるものが書いてある事が判った。
脳の2割に及ぶ機械化、こうなったらもう確信するしかない。でも、どうしてこんな事をするのか。
戦争に使えば、誰だってこんなのを相手するのは大変な筈だ。たった一機でカーペンタリアの戦力を、数%削るなんて存在をこんな事に使うなんて。
何より、こんな事に人間だった物を使うなんて…。
「こんな事に使うには、あまりにも無駄が多すぎる。まるで、廃棄処分だな。」
「廃棄処分?それって、まるでこれが機械みたいじゃない!」
「機械なんだろうな、俺達の敵にとっては。」
人だったものを機械のように使い潰す、そんな存在がいて良いのか?良いはずがない。
「必ずまた現れる、その時俺達はこの彼等を殺さなければならない。躊躇なく、完璧に。それが、彼等にとっての弔いではないか?」
そう言うレイの言葉には何処か、怒りがあった様に思えた。
……
それから更に数日の時間が流れた。
あいも変わらずミネルバは、カーペンタリアで待機状態。おまけに、失った戦力の補充基地要員としてアグネスが所属になったらしい。
正直な話、好みなタイプかと言われればそうじゃないと言えると思う。まあ、悪い奴じゃないけど。
「で、なんでルナはそうカリカリしてるんだ?」
「シン、あまりそういう事は聞かないほうが良い、触れられたくない事は誰しもあるものだ。」
そう言うレイの言葉が正しいのか、ルナは俺のその言葉を聞くと眉間に怒りを滾らせながら振り向くと、なんというか般若のように見えた。
「シン、何か言った?」
「いえ、滅相もございません。」
腫れ物みたいに触らないほうが良いと、瞬時に判断してそそくさとその場をあとにする。
相変わらず本国からの命令がない以上、訓練訓練の毎日だけれどこうやって和気藹々とするのは悪くない。
そして、インパルスの調整等諸々をこなしながら過ごす日々は唐突に崩れた。
プラント本国からの命令が遂に俺達ミネルバ隊へと下ったのだ。事件から実に2週間、頭の片隅にあった出来事が鮮明となると同時に、それを聞いた。
「議長よりの直々の通達です。私達ミネルバは、カーペンタリアから出航後、即応態勢を維持しつつ大西洋連邦パナマ基地へと出航せよとの事です。」
パナマ、そこには何があるかと言えば連合のマスドライバーやパナマ運河がある場所でもある。観光に行くわけじゃないけれど、行ったことのない場所に一応の興奮がある。
「今時任務に際して、議長より私タリア・グラディスは臨時任官としてフェイスに任命されました。
本艦のクルーはくれぐれも現地の人々との衝突は避けるように、プラントの顔に泥を塗る行為だと思いなさい。」
パナマに行って何をするのか、それが判らないのだけれど誰から説明があるのか。
「世界同時多発的なテロが発生し、各国首脳の話し合いの結果。プラント、連合、中立問わず戦力を、即応態勢として集結させる。
完全中立条約である南極条約が締結され、即日発行となりました。
対テロ戦争が始まった事を、各員心しなさい。」
戦争…、でも想像していたそれよりも俺達のそれは、想定したものと違ったものだった。
ツカツカと、私の足音と共に聞こえてくるアスランの足音を聞きながら、私は国防本会議場へと歩みを進めていた。
そして、そこに到着すると
バンッ!
と言う勢いの良い音と共に、扉を開き周囲の目を引いた。
「お前達、アークエンジェルの件聞いた。どう言うことだ、あれ程の戦力を理由もなく解体させようとするなんて、馬鹿の考える事か!」
「恐れながら、アレは外交上の汚点でありまして、アレがあるだけで大西洋連邦との関係は冷え切って行きます。
思い切って、モスボール保管しようかと思っていたのですが…。」
会議場の連中は概ねその意見で統一しているのか、それとも私の私兵を解体出来たとでも思っているのか知らないが、その目線に腹が立つ。
「良いか、現在外交上の風景が変わったんだ。
対テロ戦争、それが始まろうとしている時にああいう戦力こそ遊兵にしておくのは勿体無いじゃないか。」
「ですが、アレはそう言う使い勝手が良いものではないので…。」
「良いか!!我々は、今世界中からどういう目で見られているか解っているのか?
被害の無かった中立国ほど、非難の目があるんだ。こういう時に、積極的に動かなければ私達は完全に孤立するんだぞ!」
決してキラを嫌いだから何処かへと追いやるとか、そんな気を起こしてやっているわけではない。
私に無断で、二人の軍籍を剥奪しようとする連中への意趣返しというべきだろう。
「既にハンザ同盟も動き出し、再びドミニオンを地上へと降下させるという。蜻蛉返りさせてまでやらせているのだ、我々オーブがそれを見せなければ、益々嫌な目でみられるぞ!」
私の言っていること等、当の昔に話し合ったと言わんばかりの反応をするのだが、余計にそれに腹が立つ。
どうせ、国力であの国と張り合う事など難しいのだから、こういう時くらい存在感を出さなければ。
「ですがね、1度決めた事を変えるなどということは。」
「前例主義なんてどうでもいい、そんなんだから連合に足元を見られるのだ!!」
その私の反応を記者達がどう見ていたのかは判らないが、兎も角としてアークエンジェルの除隊という事は無くなり、彼女達は再びオーブ軍の外郭部隊として、その存在を示していってもらいたい。
と、思って行動したもののいざ終わってみれば自分が行った事の意味を理解するのに、今少し時間が掛かった。
「やってしまった。これでは、周囲の人間を無視した独裁ではないか…。」
自分の行いがどういった結果を齎すのか、それを良く理解している。お父様が行ったものの結果、オーブが焼土と化したのと同じように、今度はオーブ国内に無差別にテロが起こる可能性が出てくる。
傍観し、静観する事だって方法としては別に悪いことでは無い、だがそれがどうしても私には似合っていないようで、先走ってしまう。
「なあ、アスラン。私のやり方は正しいのだろうか。」
「カガリのやり方が正しいかどうか、それを俺に聞くってことは迷っているのだろう?」
アスランは自分の事となると察しが良くない、だが逆に言えばそうやって聞き返してきてくれる事で、こっちは少しだがゆっくりと話を纏められる。
「あぁ、迷っている。オーブは一応は開かれた議会のある、議会制民主主義と権威主義の2つの側面を持っている。
今の私のやり方は、これにあっているのだろうかとそう思ってしまった。
判るだろう?私はまだ18だ、何かをするにも経験不足で誰かを先導しようにも説明不足で、感情に流されやすい。
「だから感情で訴えてしまったのではないか…、とそう思っていると?」
そう、感情で動いてしまっているのではないか。
キラは、私の弟だ。だが、議会はそんな弟の職を奪いあまつさえ恋人を私の友人すら奪おうとした。
果たして、そんな事を1人の私という存在が許せるだろうか?
答えは〘否〙だ。
許せる筈もない。
だからこそ、私は先程の選択としてアークエンジェルを
対テロ国際戦略軍
International Strategic Forces Against Terrorism
ISFAT
へと派遣して、逃げ道を創り出そうとしたのではないか?
とも、自己猜疑心に陥っていた。
「キラも君も、物事一点だけを見過ぎていて、1人で抱え込みすぎる。
俺はなんの為に、君の直ぐ傍らにいるんだ?君を1人にさせないためだろう?」
私は、その言葉を聞いて彼。アスランの顔を見る。
心配そうにしながらも、私に微笑みかけているその姿に私は虜になっているのだろう。
もし、今ここで戦中全く事情を知らない人物が入ってきたらどう見えるだろうか?
オーブのアスハがプラントのザラに籠絡されている。
そう見えるものだろうな。だが、今は違う。私は、1人の女として、彼を見ている。
感情的な私は、感情的に彼を好きになりそして、その言葉に有無を言わせず心を寄り掛けている。
それだけで、私は自分の選択を少しは自信を持ってやっていけると、そう思えた。
私の休日は短い期間で消化されてしまった。
ドミニオンの修復と、燃料等の補給を行いハンザ本国であるL3宙域コロニー群の、コロニー改造型超大型ドッグにてエンジン等各種のオーバーホールを行う予定となっていたのだが、急遽私は呼び戻された。
「ここに来る前に概要のみ説明したと思うが、先刻程前に地球圏で度重なるテロ行為が起こった。
これに伴い、各国政府は対テロ部隊の創設を行ったのだが、抽出する戦力は大気圏内外問わない存在でなければならない。
従って、我々からは貴官の指揮するドミニオンが抜擢された。」
「済まないと思っている。こちらとしても、長期勤務を明けた貴官には充分な休養をと考えていたのだが、連合との事も踏まえて連中のやり方を知っている人物が適任と、議会は判断した。
本当ならば、俺が艦を率いて行きたいが、最近暗礁空域で海賊が動きを活発化させている。それの討伐を怠ると、通商線が破壊される危険があるから、俺はその任務から離れられない。
と、同時に艦隊を動かす身だ。俺がいなくなれば、表月面の連中がどう出るかわからないものがある。」
私の前にいるのは、アムロ・レイ准将とハルバートン大将だ。
二人共将官であり、私に対して何ら忖度をする必要は無いにも関わらず、腰を低くしてくれるだけで嬉しいことである。
少ない将官で回さざるをえない現在、彼等の仕事量は多い。
せめて、コロニー群の防衛システムの構築が終了すれば、ジェネシス等も心配いらず彼等も出られるのだが。
「人員の配置だが、君の意見を取り入れ新人達の中から人員を選別し、乗員へと組み込んだ。
正規クルーとの軋轢も少なからずあるだろうから、そこには充分に注視して欲しい。」
「だが、最も注意すべきは…、派遣されてくる連合の陸戦隊だ。」
機動性を重点に置くこの対テロ部隊において、地上宇宙空間問わず戦闘参加可能な艦艇は、地球軍には存在しない。
唯一いたものは、私やラミアス艦長が強奪し今や別の国のものとなっているのだから、当たり前といえば当たり前だ。
だからこそ、他国の軍艦へと特別陸戦隊を送り込み内部を制圧可能なようにしつつ、対テロという名目で配置するという姑息な方法を取れるのだから、連合も中々にくえない。
「以上になるが、他に何か要望があれば最大限要望を聞こう。」
「では……、1つだけ。参加乗員にサブナック大尉がいます。彼は現在肉体的に、既に限界へと達しているとドクターからの指示がありました。
何故、ドミニオンからの退艦命令をお出しにならないのですか?」
オルガ・サブナック。
連合にいた頃からのドミニオンのクルーの1人、そしてブーステッドマン唯一の生き残り。
彼は度重なる投薬の結果、肉体的にその生命活動に限界が来ているのにも関わらず、今の今まで私と共にドミニオンにいたのだ。
心配にならない訳が無い。
「それは…」
「それは本人たっての希望ですよ、バジルール特務中佐。」
その言葉を言ったのは、いつの間にか入って来ていたラウ・ラ少佐だった。
「彼は地球上で死にたがっているのだよ。今回の任務できっと最後になる、ならば最後くらい故郷である地球でとね。
私もクローンという身だからね、色々と思うところがある。だから、今は彼の意思を尊重してくれまいか?」
その甘い言葉はあのラウ・ル・クルーゼと同一人物か疑うような言葉であったが、同時に人の心とはそういうものなのだろうかと、少し得心があった。
「それではそれで合意したという事で良いかな?」
ハルバートン提督のその言葉で、その議は解散となった。
……
出港の数日前には皆艦内へと入り、各々が家族と別れを告げる中ただ一人私は艦長室に籠もっていた。
地球には勿論のこと、宇宙にももはや私の両親はいない。戦争のせいという他力によって私は家族を失い、屋敷も地球から引き上げた。
未練のようなものもなければ、誰かに何かを綴るということもない。
そんな私は、一人寂しく部屋にいた。
そこへノック音が響くと、私はそれに入室の許可を出した。
「一人寂しく艦内でワインとは、豪胆になったものだな。」
「あぁ、これか?これは、アズラエルから教わったものだな。艦隊任務中でなければ、何をやっても良い。
昔の自分が聞いたら殴りかかってくるだろうな。」
ほろ酔い気分の私は、入室してきたラウ・ラ特務少佐にそう答えた。
「私も付き合いたいところだが、案の定薬と酒は飲み合わせが悪くてね、ここで見ておくとするよ。」
「勝手にしろ。ところで、私には女としての魅力は無いのだろうか?」
何を聞いているのだと思うが、酔った勢いと言うものは恐ろしいもので、勝手に休暇であるにも関わらず艦内にいる私は、勤務中かどうかわからない彼にそう説いた。
「私の主観ではあるが、君は充分に魅力的な女性だと思う。まあ、飾りっ気が無いという欠点もあるが、誠実で真面目な君は嫌いではないよ。」
「そうか…、嬉しいが、私はそんなに飾りっ気がないか。」
確かに何かしらのアクセサリーをつけることもせず、化粧も最低限誰かを誘惑したことすら無い。
確かに飾り気が無い、真面目だけが取り柄…。そんな私が艦内で酒を嗜む。長所の否定だな。
「そんなにも自信が無いのかな?それでは試しに私と付き合ってみるかね?」
「それで変わるのならば、それでも良いのだろな。」
私はその発言に今更後悔している。どうして、艦内で酒などを飲んだのだろうか。だとか、そう言う思いと共に。
僕たちアークエンジェルがオーブへと帰還した頃、一つの事例が僕たち宛に届いていた。
1つは僕とフレイに対する復隊届け。
もう一つは、アークエンジェルのモスボール化延期という、朗報?と言うべきものだった。
「また、アークエンジェルからフリーダムとか降ろさなきゃならないのかぁ…。あれって大変な作業なんだよね。」
「別に降ろさなくても良いんじゃない?ほら!ストライクルージュだって、未だにカガリの専用機で尚且つ、連合のデータパクって建造されたじゃない?
フリーダムもさ、マユちゃんがテストしてた機体って事にしとけば、フリーダムを元に造った別の機体ってことにできるでしょ?」
そう軽々しく言うのはフレイだ。突拍子な発想は、砂漠でも色々とあったけれどこれは特に大変な事なんだけれど。
「色合いとかちょっと変えれば意外といいかもしれないわよ?広域殲滅用MSなんだから、その性質を取り外すようにバラエーナ使えなくするとか。」
「それこそ大気圏内での戦闘に支障が出そうだから嫌なんだけど。」
そう思ったけれど、少し考えてみれば意外な程にその考えが嵌った。
νガンダムとか言う機体と似たような配色にすれば、一見するとフリーダムに見えなくなる、雰囲気がガラリと変わってるな。
「う〜ん、まあ色々と頑張ってみるよ。」
「じゃあ、私の機体もこの子降ろさなくて良いわよね。
ムウさんだけはムラサメだけど。」
「ブリッツはどうする?誰が乗るんだ?」
1人しか該当者はいない、だけどそれは正直僕には得策じゃないと想うけれど。
「本人次第ね、誰かを護るために乗りたいんだってさ。どこかの誰かさんと一緒ね。」
たぶん僕の事を言っているんだろうけど、あまりそう言うのを傍からみたくない気持ちがある。
「そういやぁ、クラインの嬢ちゃんの件どうするんです?」
「う〜ん、あんまり急がないって結論は出たけど。
たぶん、途中で寄ることになるんじゃないかなぁと、ユーラシア連邦って内戦が絶えない地域だから、パトロールと称してやりそうだなって。」
その言葉が現実になるなんてこの時の僕には想像も出来なかった。
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