その蒼い宇宙を見て   作:丸亀導師

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役割

1年…、私は1年という間プラントに帰っていなかった。お父様が暗殺されてからというもの、ここが非常に恐ろしくプラントの人々を信頼する事が出来なかった。

私はいったいなんだろうかとそう思いながらも、私を愛し育ててくれた人を見殺しにしたここが、非常に恐ろしいものに見えた。

 

そんな私が外へと自由を求め、世直しと称して世界各地を周り、

私という存在のその意味を探すのは必然だった。

私は、戦後メンデルというコロニーで私の事が書いてある紙片を目にした。

 

ムルタ氏が今や保有しているそこにあった研究データに、存在したそれを下に、私は自分がシーゲルクラインの本当の娘ではないのではないかと、疑心暗鬼に陥っていた。

 

自分を見つめ直すための旅でもあったと思う。

それにパートナーとして着いてきたのは、ニコル・アマルフィという婚約者でもなければ、古くからの友人でもない。

ただ、共通の趣味趣向を持っていた人物だった。

 

恋だとかそういう物をしたというわけでもないのだけれど、そう言う面と向かって本音を言える相手というものは、今の私にはどうしても欲していた者だった。

 

そんな彼は、私がプラントに戻る決意をすると直ぐにそれを了承した。

私の身に危険が及ぶ可能性を諭しながらも、私の意見を尊重したのだ。

 

『良いですか?僕の事はなるべくクラウスと呼んでください、カーペンタリア基地の人事ファイルに侵入して、僕が一緒に行くことになっていますから、なるべくお願いしますね?』

 

と、言うように私に対してかなり積極的に、協力してくれる。反対などもして頂いても良いのにと、そう思いながら。

ですが、彼は彼で今のプラントの内部を見たいと思うのも頷けるもので、暗殺されてからと言うもの彼もまたプラントへの不信感が増していた筈ですから。

 

「このまま行けば、私がまた地球へと降りるのはかなり厳しいものになるかもしれません。

その時は、ミーア様に重荷を背負わせてしまうでしょうね。」

 

「それでも、彼女は率先して引き受けていたんだ。信じるしかないですよ。

それよりも、今は現状監視の目をどうにか他所へと逸らす必要がありますね。

プラントでは特に、貴女は有名人です。知ってました?プラントでは、僕と貴方が付き合っていたと思われている見たいですよ。」

 

それは、まあそう映ることもあるだろう。でも、決して私と彼は恋人等ではない。

互いに協力者であり、理解者であって依存対象ではない筈です。筈ですが、そう映るのですね。

 

「僕は悪い気はしません。素顔の貴女を知っていることを、誇りに思っています。

彼等の見ているものは、プラントのラクス・クラインですから、1人の人としての貴女を知っている数少ない一人として。」

 

「ありがとうございます。貴男の事も素顔を知っている者はそれ程多くはないはずです。

私も、それを知っていると言うことを誇りに思っていますわ。」

 

だからこそ、私は一人のラクスとして議長にお会いしなければなりません。

私を襲わせたのは何故か、私の何を知っているのか、アコードとはどういう存在なのか、それを問い詰める為に。

 

 

………

 

私達がデュランダルと出会う日取りは、着々と近付きそして今日それが叶う。

一介のアーティストと国家最高責任者の会談というものは、恐ろしく実現し辛いものであるけれど、彼はそんなものどうとでもなるようで、直ぐにそれは実現した。

 

客間に移され、そこで言葉を交わそうと向こうもそう考えていたのだろうか?それとも、ミーア・キャンベルに私という殻を預ける事で、それを利用しようとしていたのかもしれない。現に彼女を私の下へと送ったのは彼なのだから。

 

相対する二人、互いに護衛が一人づつ隣におり、それは互いの立場の違いというものを思わすように、鏡写しのようだった。

 

「始めまして、ラクス・クラインと申します。デュランダル議長閣下。」

 

「お噂は兼ね兼ね、クライン嬢。私は、ギルバート・デュランダル、プラントの議長をしています。

ところで、今日は内密に話がしたいと思っていましたので、今ここでお話できる事は光栄な事です。」

 

「はい、こちらもお話が出来ることを嬉しく思っています。それに、1つお聞きしたいことがあるのです。」

 

私のその言葉に、彼は少し眉を動かした。僅かな機敏、ですが私に対して何か違和感を覚えたのでしょう。

もし、ここで私がミーア・キャンベルならば、私は話などしなかったでしょう。立場が向こうの方が上なのですから。

 

「ほう、私にですか。どのような事をお聞きしたいのかな?」

 

「はい、私は今まで自分が普通の一般的なコーディネイターの一人だと、そう思ってまいりました。

ですが、ある出来事によってそれが違う事だと言うに気が付き、それが遺伝子学者である貴方と、関係があるのではと思い今ここにいます。

デュランダル議長…、〘アコード〙と言う名称に聞き覚えはありますか?」

 

私のその言葉を、聞いた時彼の顔は更に硬化した。それは彼が、私の事をミーアではなく、本物のラクス・クラインだと確信したということでもあり、それ故にその警戒は必然だった。

 

自分がアコードと自覚した時、私はその力を制御出来ないかと考えた。

他者の精神への干渉という事象は、ニュータイプと呼ばれる方々が既に行っていた事から、彼等からその多くを学びそして人の弱みを使えば精神を圧迫することが出来る。

そういう物を理解した。

 

そして、それは今ここでデュランダル議長の側遣いへと矛先を向け、その意識を立ったまま失わせた。

それが、どんなに恐ろしい事か。これがもし、人工的に発現させられているのなら、その研究者はどう言う理由でそれを作ろうとしたのだろうか?

 

「ほう……、君は本物であったか。なるほど、確かによく見れば違いがあるな。と言うことは、そちらの彼はニコル・アマルフィと言う事かな?よもや生きていようとは。」

 

「ええ、また暗殺されるのは嫌でしたので、少しの間身を隠していました。ですが、ユニウスセブンを質量兵器として使われたところから、貴方への不信感を覚えてしまいました。

それから、世界中で同時多発敵に起こったテロ。一連の動きは誰の手引であるのか、貴方は知っているのですよね?」

 

彼は1度は面食らったようだが、至って冷静に物事を理解していた。きっと、私の事を捕縛しようとするのでしょうが、今はそれよりも自らの欲望である、様々な真実を知りたい。

 

「君が本物だとして、アコードであるラクス・クラインであるのならば、君はその力を使って無理矢理に私から物を引き出す事が可能なのだろう?

何故それを行わないのか?いや、行いたくないのか、それ程その力を嫌うか。」

 

「ええ、嫌いです。私の力の元となった人々は、私のような遺伝子を弄くる事なくこの力を発揮していました。あれこそが進化として、最も相応しいものであり私のような者は、紛い物に他なりません。

そんなものを使いたいなどと、口が裂けても言いたくありません。」

 

「だが、否応なしに君は私の側遣いを拘束している。矛盾も良いとこだな、だがそれを君は選んだ。やはり、運命とは皮肉なものだな。」

 

「だったら、そんな選択を彼女にしいた貴方こそが責められるべきですね。」

 

彼の言葉を聞いて、ニコルはそう返した。彼は私の盾になってくれる、彼がいるからこそ歌を歌っていられるのだろう。

 

「まあ良いだろう。どうせ、君とは仲違いに終わるだろうと思っていた。

アコードという存在がどういうものか、私はそれを論文でしか読んでいない。だが、君はコーディネイターを統べるものとして造られた、とだけ言っておこう。

彼女と君の母上が、そういう研究を行っていたという事実は変わらず、君はその為に造られたのだと胸に刻むと良い。」

 

コーディネイターを統べるもの、あまりにも傲慢な考えだ。自ら種を存続することの出来ない、紛い物の新人類を統べたところで世界がどうなるかなど、見えている。

そんな世界は滅ぶだろう、滅ぶべくして。種を存続出来ないと言うことは、そういうことなのだから。

 

「ユニウスセブンの一件は、私の預かりしらぬものだよ。ただ、誰かがそれを行おうとしていたのを、私は積極的に動かなかっただけだ。まさかあのようになろうとは思いもよらなかったが。

 

それと、現在世界中で行われているテロ行為は、私の預かりしらぬところだ。無差別に殺し合いを行い、世界を1つにしようとしている。

それが誰の仕掛けか解らぬが、人の争いを止めたいというそういう思いはあるのだろうな。」

 

「そのような、人の可能性を歪めるような方法で世界を1つとしたとして、それが歪な形であれば数年内に崩壊するものです。だから私はその行いに、反対します。」

 

「ラクス…そろそろ」

 

時間が来たのだろう、これ以上の長居は身の危険を意味するでしょう。

 

「強制的な繁栄は受け入れ難いという事か、では私の提唱するディスティニープランもまた受け入れ難いのだろうな。」

 

その言葉と共に、私達は部屋を飛び出した。

追っ手が放たれるだろう、私達はプラント中を逃走する羽目になった。

 

 

 


 

忙しなく動き回る整備員の皆さんを見ながら、私はこれからどうなってしまうのだろうかと、少し考えながらも私に出来ることは無いか、そう思っていた。

 

「あぁ〜〜、ミーア?のお嬢ちゃん?そんな事しなくても良いから、取り敢えず食堂に行ってくれないか?」

 

どうやらお邪魔虫らしい、特に整備員のような技量も無い私だ。いたとして、何が出来るのやら。

そう思いながら、今度は食堂へと行く。この艦の乗組員全員分の食事を提供する食堂。

建造当時は作り置きが多かったらしいけど、きちんと調理台が造られて、しっかりとした調理担当員までいるのだから、良い食堂なのだろう。

 

「ミーアちゃん…暇か?」

 

「暇…ですね、どうかしましたか?」

 

「それがね、今日の調理担当員俺だけなのよ。理由解る?」

 

理由…、食事は大切なものだから粗末にするとは考え辛い、というか一番必要なものだろうからそんな事しないと思うんだけど。

 

「この艦はもともと地球軍のものだったでしょう、そのせいでやっかみを受けていてね、担当が割り振られないままだったりしているんだよ。

おかげで見てみなさい、限界状態で回しているんだよ。

これでも、戦時体制下じゃないからゆっくりとしているんだけど、猫の手も借りたいんだよねぇ…。」

 

「はぁ、それで手を借りたいと。でも良いんですか?私、オーブ軍じゃないですし、大人数の料理なんてしたこと無いですよ?」

 

「そこは心配無用、ここではね。」

 

私の目の前に置かれたのは、調理マニュアル。どうやら私は本格的に、調理台に立たされるようだ。

 

「それじゃあ、包丁とかそう言うのは殆ど使わないで、調理の切断とかは機械化されているから、そんなに気にせずね。

歌でも歌いながら、ゆっくりとやれば良いよ。」

 

と言われたからには、やらなければならないだろう。どうせ、私は根無し草のようなものなのだ、それに公に顔を出せばきっと世界中から色々と襲われるに決まってる。

あぁ、どうして影武者なんかやってしまったんだろう。

でも、やりたい事もやれない様なそんなプラントの生活だけじゃ歌も歌えなかっただろうなぁ。

 

 


 

机の上に置かれた鉄仮面を手に取り、私はただ一人部隊の人員に関する記憶を脳へとインプットする。

ファントム・ペイン、その名を借りたもはや我々という粗大ごみの為の依代。

それが何を示すのか、私という自我を持ってしてもその全てを知る由もない。

 

人を人類を導き、幸福のもとに暮らすことが出来るようにと、我々はこの世界を管理運営し、人々は初めてそれによって興福を享受することが出来るようにと。

だが、そのあまりにも傲慢なその意志は、マティスというもはや我々の主では無い者の死によって、全ては還元された。

 

「まさにマッチポンプというものだな。」

 

それぞれがそれぞれの意思で行動し、一つの指針の下行動するその動きはまさに、蟻や蜂に良く似ている。

私の中枢がどの様な見た目をしているのか、それを知るすべはない。所詮は末端に過ぎないのだ。

 

「さて、私の仕事は今から始まる。手配者であるあの女を捕縛するには、俄に難しいものもあるだろうが、どれ程コーディネイターが強くとも…、我々には勝てない。」

 

「その通りだ、我々はその上を行く。統べるものも、概して強くはない。それらを抹殺するために我々はいるのだ。」

 

「では表での動きは頼むぞ?Mr.スミス」

 

Mr.スミス、私の別称。

ありふれた名前だ、階級は大佐。ネオ・ロアノークとも違う、私は私なのだ。

 

 




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