その蒼い宇宙を見て   作:丸亀導師

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Endless End

大海原を滑走するミネルバは、太平洋の大時化に突入していた。

船は揺れに揺れ、船体はきしみをあげることは無いものの、その揺れによって三半規管の比較的弱いクルー達は、一時の内にダウンした。

 

特に顕著な者は、プラント本国からあまり出たことのない若輩達は、その尽くがダウンしてしまい今頼りに出来るのは、パイロット達くらいなものだろう。

ワレながら情けないと思うものだが、逆に言えば地球という環境がいかに宇宙とは違うというの事なのだろう。

 

「アーサー、貴方がいてくれて助かったわ。」

 

勿論、艦橋要員もその例外でなく、もれなくダウンしているのだから始末に置けない。

これ程の人数が一挙に倒れるのなら、戦争など出来ようものではない。

 

「いえいえ、副長たるもの粗すべての業務をそつ無くこなす事が出来なければ務まりませんから。

それに、彼等はまだまだ新兵です。こんな事もありますよ、自分も前の戦争では苦労しましたから。」

 

「そうね、次々といなくなる人員。担当が変わっていく部署の説明、だんだんと練度が落ちていく乗員。

末期は酷いものだったわ。」

 

私達の会話は、実に年寄り臭いものであったがその実、戦争はつい2年程前まで本格的な戦闘を行っていたのだ。

それが今こうしている事だけ、奇跡的なものだということを改めて実感している。

 

「あの、アーサーさんは最初はどんなところを担当していたんですか?」

 

「自分は火器管制を担当していたんですよ、今こそ黒服を着ていますが最初は君と同じ様な位置だったんです。」

 

メイリン・ホーク、赤服とは行かずともCIC要員の中でトップの成績を誇る彼女。

まあ、とても酔いに強いのか私達の会話に入る事が出来るだけでも、それなりに良いのだろう。

 

他の要員が、いなくなるほどに今が戦争でなくてどれ程良かったかという事を、改めて実感する。

こんな大海原のど真ん中で、爆弾低気圧…確か台風だとかハリケーンか呼ばれていたはずね。

 

ミネルバ程の巨艦でも大いに揺れるのだから、これが小船であったのならどれだけの被害が出るのかしら。

今度、そういうデータを見るのも勉強ね。地球環境はコロニーのように安定しているわけではないから、色々と詰め込む事は沢山あるわね。

 

「航海日程は余裕を持って組んであるけれど、大丈夫かしら?」

 

「はい、まる三日どこかに停泊しても余裕はあります。このミネルバ、足はアークエンジェル級以上です。

早々遅れることは無いですよ。」

 

ゆっくりと波をかき分けながら、ミネルバの巨体は東へ東へと進んでいく、私達の目的。

対テロ戦争という、まるでノウハウの無い戦争の始まりを不安視しながら、私達は集結地。パナマへと向かった。

 

……

 

パナマに到着したのは、予定日の3日前。航海は思いの外順調で、〘太平洋〙の名前の通り何もなかった。

嵐に見舞われたあとは、驚く程に無風状態が続いた。正直に言って不気味なくらいに静かな船旅は、帆船時代であれば皆船上でミイラになっていた事だろう。

 

ブリッジクルーもだいぶ慣れてきたようで、そのまま海上で生活しても大丈夫なものだろう。

尤も、降りた場合今度は陸酔いになる可能性があるのだが、そこは黙っていようと思う。それも、経験なのだから。

 

「センサーに感有り、上空から大型飛行物体降下中……、ソナーにも感!海中から巨大な何かが浮上してきます!」

 

「総員、第一種戦闘配置。パイロットはMSで待機。」

 

上空のものは確実にドミニオンだろう、あの同盟の艦艇はもれなく大気圏内飛行航行能力があるらしいのだから、高高度と言わずとも、高度3000程を飛行してきたのだろう。

領空侵犯というものも無く、悠々と私達の前に現れたというわけだ。

 

逆に言えば、水中のものは良く解らないが、オーブと言う国の管轄上アークエンジェルには、水中航行能力があってもおかしくはない。

何より、でなければ我々は水中からの攻撃を警戒しなければならないのだ。

 

MSを使用した無差別のテロの可能性がある以上、私達の反応は些か遅すぎた。

 

「皆、落ち着きなさい。この反応は味方で間違いないわ、けどね今最も重要な事は、先程の動きでは戦時下では撃沈されていたと言うことよ。

もっと気持ちを切り替えなさい、良いわね?」

 

戦後の部隊などこんなものだ、プラントは血を流し過ぎた。精鋭と言うのは聞こえは良いが、所詮は新兵の寄せ集めに過ぎない。この部隊で、本当に戦争に出たことがあるのはきっと一握りしかいないだろう。

 

一人だけになっていない、それだけでも私の心配事は減るのだ。頼りない頼りないと、そう思っていたアーサーであるが、そういう事が解っているからこそ戯けて見せているのかもしれない。

優秀である筈の黒服が、戯けて見せなければならない現状に、私は歯痒かった。

 

 

 


 

酷い嵐が過ぎ去って、俺達は絶賛常夏のパナマに到着した。

予定時刻よりも数日程早い事から、勇み足だったのだろうか港には出迎えもまばらで、正直歓迎ムードとは言えない状態だった。

 

そこから数日間何事もなく、ただ暇な時間が流れていく。

連合の港であるから、直ぐ様出ていくなんてことも出来ない。それでいて、ミネルバの内部に勾留されたようにされているのだから、少しずつ鬱憤も溜まっていくものだ。

 

次第に艦内の雰囲気が悪くなって、と言うか軽く惚けた時間が長くなっていく。

 

「なあ、本当は今日入港予定日何だろ?何で俺達ここで待たされてるんだよ、太平洋岸なんだからさ。オーブとか直ぐに来てもおかしく無いんじゃねぇの?」

 

なんていう愚痴も聞こえてくる、ひたすら待たされるという行動がどれ程苦痛なのだろうか。

戦争をするわけでもなくのんびり出来ている、という事実を受け入れている俺とは対照的に、クルーの血気盛んな戦場を知らないグループはそう不満を漏らす。

地上戦がどれ程血みどろで、泥臭いのか彼等は知らないから。

 

「総員、第一種戦闘配置。パイロットはMSで待機。」

 

たぶんもうそろそろ来るって事なんだろう、けど他の連中は慌ただしく動き出す。

戦闘なら直ぐに第3種なんだから、取り敢えずゆっくりと支度しても良いと思うんだ。

 

「シン、何やってんのよ。直ぐに支度しないと。」

 

「ルナ、今更だよ。どうせ敵じゃないし、なにより手遅れだ。」

 

そう言うが、早いか直ぐに艦内放送が、響いた。

 

「皆、落ち着きなさい。この反応は味方で間違いないわ、けどね今最も重要な事は、先程の動きでは戦時下では撃沈されていたと言うことよ。

もっと気持ちを切り替えなさい、良いわね?」

 

「ほらな、こういうこと。で、たぶんパイロット待機は出迎えとかそう言う意味合いもあると思う。」

 

頭は非常に冷静だ、マユが生きていたからだろうか。色々と物事を見ることが出来る。

もし、あの出来事が無かったら今頃血気盛んに出撃態勢に入って、今か今かと出撃を待っていただろう。

 

「何よ、急に冷静になっちゃって。腕白なシンは、何処に行っちゃったのよ。」

 

「オーブにいた頃はこんな感じだったんだよ。ほら、お兄ちゃんは妹に良い格好を見せたいから、だから大人に見えるようにさ。」

 

人って環境1つでこんなにも変わるんだなぁと、感慨深い。

それと同時に、アークエンジェルとドミニオンと言う、オーブを救おうとした人達が一同に介して、連合の基地に集結するという、珍事に胸が高鳴った。

 

 

 


 

そろそろ到着するだろうに、僕は今更ながらフリーダムの額に刻印されているナンバーを隠そうとしていた。

 

「やっぱり不味いって、これだけは見られちゃったら、フリーダムは行方不明になってる筈でしょ?額のナンバーでフリーダムって解るのは!」

 

「そうは言ってもなぁ…、しょうがねぇ額だけストライクの頭と交換するか?」

 

マードックさんがそう言うと、直ぐ様それに取り掛かる。

幸いなことに、フリーダムは他のGATシリーズが元になっているから、ストライクの装甲材もそれなりに使えるらしいから、なんとかそれが形になった。

 

「見ろよ、ストライクヘッドフリーダム。略してストライクフリーダムだ。

センサー系統は同じオーブ製だから、違いは無いからな。

むしろ、整備性は良くなるかもな。」

 

そう言いながら、格納庫の隅にフリーダムの頭が転がっているのを横目に、今度はフレイのストライクの整備に取り掛かって行った。

 

「アハハ、慌てて変えたのね。

あ〜あ、ストライクの予備パーツ無くなっちゃうじゃない。」

 

「しょうが無いだろ、僕が置いていこって言って持って行こうって言ったのフレイじゃないか。」

 

ニヘラと笑う彼女は、からかいがいの有る僕という獲物を前にしてそう言う。

それでも、内心何処か満足する僕がいる。

僕達は同じストライクで、砂漠を駆け海を渡り手を取り合った中だ。それがこうやって、頭だけでもストライクになれば、仮にでも当時の面影が見える。

 

「ストライクフリーダムじゃ捻りがないから、〘Liberty〙なんてどう?

選択した自由だけど、今の私達にピッタリだから。」

 

「そうだね、フリーダムは選択の自由だからね。」

 

リバティという名前は、今のフレイに縛られた僕にはぴったりなのかもしれない。

 

「これより本艦は浮上を開始します。艦内気圧の変動に注意してください。」

 

艦内アナウンスと共に僕たちは、パイロットスーツを着るために更衣室へと向かう。一端に兵隊なんだから、少しは気を利かせないと。

 

「それじゃあ、また後でねフレイ」

 

「ええ、フラガ中佐も用意してるだろうから、あんまり遅れるのは駄目よね。」

 

それが僕達の進む道、敷かれたレールは何処へと繋がっているのか。

テロの世の中は僕たちの行く先を照らす灯りをどう消そうとするのか、これからが僕たちの望んだ世界の始まりだと。

何処からかそう言う声が聞こえてくる気がする。

 

 


 

宇宙空間の岩塊が飛び交うこの、スペースデブリ帯は戦争の影響により、地球の赤道直上へとリング場に施設されて行く。

それを隠れ蓑に、様々な犯罪組織が勃興しそれを狩るために、宇宙コロニーは独自の最低限の武力を持たなければならない。

 

しかし、それでも足りない場合は何処かの勢力の傘下へと落ち延びて、其れ等を代替しなければならない。

 

「ここもあらかた掃討したな、だが妙だな。ここ数週間の間で、もう4箇所だぞ。どれだけいるんだ?」

 

ここL3宙域は、他のラグランジュポイントから離れている。そのせいで、相互に監視しているコロニー群は少なく、何処かの勢力が力を誇示する事も出来ない。

地球軍も、プラントも、どちらも遠すぎるからハンザ同盟も正反対のここまでは艦を送ることを戸惑う。

 

「こちらパンサー1、敵の掃討を確認これより帰投する……?

こちらパンサー1!どうした!!応答しろ!」

 

どれだけ腕が良くとも、MSは作業ポッドの強化版。それが何を意味するのか、解らないものでも無い。

母艦を失えば、数時間の内に窒息は免れない。

 

テロリストは根城を欲する。それは何処から現れ、何処へ向かうのか勢力は1つとは限らない。

ならば、それを掃討するのはどれだけ難しい事なのか、世界を見れば解るだろう。

 

一生終わらぬ戦争は、国家間の諍いに紛れながら細々と続いていく。

それが終わらない間に、テロ戦争というものを巨大な勢力が無視できない程度に勃興するのならば、世界大戦規模の戦争は起こり辛い。

即ち、世界を平和にするための僅かな生贄を世界は欲するのだ。

 

 

 




と言うことで、完結です。

テロ戦争という永遠に終わらない戦争の始まり、それを以てして世界を平和にする。
まあ、ビターエンドですかね?
色々な事が積み重なって、最終的には地球圏統一国家構想が出来上がっていきますが、それは20年30年後位になりそうです。 



次回作は本格的にフレイをパイロットとしつつ主人公に1つ書きたいなぁ。


最後に、誤字、感想、評価等よろしくお願いします。
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