その蒼い宇宙を見て   作:丸亀導師

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海賊行為 (通商破壊戦)

老人は見ている、失明した青年のことを。

青年の動きには迷いが無い、目が見えているのかのように歩き、様々なものに触れ、何やら思案する姿に異様な雰囲気を感じていた。

 

「いつも俺の事を見ているだけで、質問も何もしないんですね。監視カメラが設置してある場所くらい、もっとキチンと置かないと直ぐにバレてしまいますよ?」

 

そう言い放つと、徐ろに部屋の中を物色してカーペットを一枚剥がすと、そこから集音マイクが出てくる。

 

「盗聴器も、こんな場所に置いていては長期間の監視には向かないんじゃないですか?」

 

「…………、1つ聞きたいのだが君には何が視えているんだ?」

 

「そうですね…、最近になって対象を絞れるようになってきまして、目が見えていたときよりも遥かに鮮明に物事を理解出来るんです。」

 

その一言に対して、老人は首を傾げ怪訝な顔をする。

 

「ほお、ではこれ等は何か解るか?」

 

そう言って老人は彼に赤リンゴを投げ渡す。

普通の人間ならば、音を出さないそれを探す事すら難しいだろう、しかし投げられたそれを見事に手で捕まえる。

 

「リンゴ、それに恐らくは赤色かな。産地は……日本列島の、北部地域。何と言ったか……確か、青森じゃないか?」

 

「産地まで解るのか、私はそれの産地など知りもしないが?」

 

「何と無くですよ、どうやって育ったのか。いつ収穫されたのかとか、何と無く解るんです。」

 

まるで超能力者を目の前にしているようで、何より恐ろしいのは似非超能力者達とは違い、彼は間違いなく。何の事前情報も持ち合わせていない、という事実が老人に漠然とした恐怖を抱かせた。

 

 

 


 


 

 

海の中を漂う塵のように、宇宙にもゴミというものが存在する。それは、例えば中世期においての宇宙開発過渡期の段階の人工衛星の破片だとか、今時大戦の宇宙船の残骸だとかだ。

それを、ジャンク屋と言う連中がかき集めて、リサイクルすることによって生計を立てていく。

 

その姿は、まるで地上の食物連鎖と似たようなものに見えて、地上というものが如何に、連鎖的な出来事でまかり通っているという事をつくづく思い知らされる。

 

エンデュミオン基地での1件、俺はあの戦いに於いて軍規違反を行った。

勝手に月面のMA用マスドライバーブースターを使用して更に、軍から支給されているゼロを改造し、ブースターを取り付けた事。

そして、無断出撃だ。

 

普通ならば軍事裁判所で、極刑と言ったところだろうが。英雄を処断できるほど、連合の懐事情というものは良くない。

事実、俺がいかなかった場合エンデュミオン基地は、地下採掘場に埋設されている、サイクロプスという兵器を使用する可能性すらあったという。

 

つまり第三艦隊は捨て石だったというわけだが、そこで俺が戦線を盛り返してしまった。

失う将兵の数よりも、サイクロプスで自爆に巻き込む敵の方が遥かに人数が多いことは、まあ明白な事実だろう。

 

戦術的には間違っていない、極悪非道という点以外において。

勿論、守備隊には何も知らされていないし、第三艦隊にも第八艦隊にも当然知らされていなかった。

それが、明るみに出たのだ。

 

軍としてはどちらを処分すべきだろうか、片や味方の窮地を自らの犠牲を厭わずに救った男。しかもそいつは、宣伝工作に良く利用されていて、将兵の士気の柱の1つである。

片や、命令権があるにも関わらず、部隊に一切の情報を与えなかった、一部高官達。

 

地球連合は腐っても、民主的な政治の上で成り立っている軍事組織だ。民衆の支持を失った政治家がたどる末路は決まっている、辞任に追い込まれるのだ。

そして、それは軍においては閑職に追いやられるということでもある。

 

だが待って欲しい、それだけでは閑職に追いやられた連中は暴徒と化し、反乱軍になる可能性がある。

だからこそ、無断出撃という違反行為が俺という身に降り掛かるのだ。少佐という位をあてがって、危険な仕事を与える。

駒として扱いづらい奴は、軍隊には不要なのだ。

 

新星の攻防戦では、政治的な問題とかで俺達は参戦するどころか、それを見ることすら出来なかった。

そんな事で結局負けているのだから、笑えない。

 

「次はこの書類か、今週に入って海賊の数が増えている?大方どっかの誰かが、横流しをしているんだろう?

それを海賊のせいだけにしたら、こんな数万トン規模になる筈無いだろうに。

こんなに多かったら、護衛艦隊を作るぞ?」

 

俺は手渡された書類を机に落とすと、その紙束はふわりと机へと降りていく。

あれから更に一ヶ月、地球では夏場真っ盛りだろう。

一応、月面都市では空調を切り替えて夏を再現しているが、地球の夏は、特に東南アジアの方はこんなものじゃないだろう。

それにしても、

 

「身体を動かしたいね、このままじゃ腕が鈍ってしまうよ。」

 

「少佐の腕が鈍る?そんな事無いと思いますけどね、この前だって1週間機材に指一本触れていないのに、毎日のように訓練してる連中を、10秒で片付けたじゃないですか。」

 

「最近質の低下が著しいからね、偶には絞ってやらなきゃ、連合はこの基地を失うわけにはいかないからな。」

 

俺に切り替えしたのはスターシャ中尉、俺に処分が降ると部下として赴任してきたというと、言葉が良いのかもしれ無いが…。

 

「私だって、本当なら前線勤務。もっと言えば教導隊行きだったんですよ?

それが上の連中に、

〘君は確かリシュリュー家の出だったね、ならば話は早い、是非とも広報の宣伝担当として英雄と共に働いてくれないか〙

って言われましたから、実態は私がコーディネイターだから親の沽券に関わるんでしょうねって。」

 

彼女が俺の部下になった理由、それは彼女がコーディネイターだからという部分が多分にあるだろう。

この1ヶ月、俺の部隊に回されてくる人員の大凡4割は、コーディネイター。

残り6割は爪弾き者、暴力沙汰を起こした者だとかだ。

 

「それで、この資料が事実だとして私達には船が無いじゃないですか。どうやって、この仕事をやれと?」

 

「今、このプトレマイオス基地で実験艦を建造中という建前で俺等が使う艦を建造中なんだそうだ。

俺等の本当の仕事は海賊退治じゃないがね。」

 

俺はそう言って航路図面を彼女に見せる。

 

「コイツは連合の航路図じゃない、ザフトのもっと言えばプラントの輸送艦の航路図だ。

何を意味するかは、君なら簡単だろ?」

 

「敵の航路図と、私達の艦が実験艦という意味合い…。

私達には海賊行為を、もっと言えば通商破壊戦を行えとそう言う事ですか?」

 

「あぁ、連中は俺達ならそれが出来るとそう思っているらしい。

健気にも、艦データまで送ってきたからな。」

 

まだ、カタログ評にも満たないそんな物だが、それでもそれが何を意味するかは簡単だ。

 

「コロイド粒子を使用した、ステルス多機能艦…。コロイド粒子って、あのゴットフリートとかに使われている?」

 

「あぁ、アレに特殊な電荷を加えると透過する事がある。それを利用した艦らしい、尤も隠密行動をしろと言うんだ。船体は大きく見積もっても300メートルはいかないだろうな。船体を大きくすれば、速力も出し辛いし小さ過ぎれば、第一次世界大戦頃のUボートよろしく逆襲に遭う。どっちみち危険な仕事だという事は変わらないがね。」

 

もし捕まれば軍人としてではなく、それこそ賊として軍にも見放され処刑されること間違いないだろう。

そういう意味でも、やはり軍隊という中での厄介払いと言うことだ。

 

「来月あたり竣工するとして、最低でも後2ヶ月はこのままだろうな。

そういう意味では、他の連中はいい思いをしてるな。」

 

「輸送部隊の護衛ですものね。」

 

俺とは違い、命令通りにエンデュミオン基地を守護し、生き残った四羽の猛禽は、勇ましく宣伝されて戦力の損失を恐れる彼等は、安全な場所へと送られた。

 

さて、そろそろ定期訓練だったか、一度部隊員を集めて見るのも悪くないか、顔合わせも含めてな。

 

 


 

私達の部隊は逸れものばかりだ、戦争によって部隊の中にいられなくなったコーディネイター、軍規違反者、元マフィア、優秀だが薬剤投与で人体実験をしたという軍医、等々私のようなコーディネイターならば兎も角として、ヤバい身分や犯罪者まで入れられていると思うと、笑えてくる。

おまけに、

 

「姐さん、今日はやけにごきげんじゃねぇか。」

 

これである。

 

「その呼び方辞めていただけますか?伍長。」

 

「ハハ、そうはいいますがね?頭は満更でもねぇみたいだぜ?」

 

キッと少佐を睨む、まるでどこ吹く風というようにこちらの殺気など、小首にも掛けない。

戦闘員、非戦闘員合わせて総勢140名の立派な海賊達だ。

海賊映画にありがちな美人な女全員に、人相が悪い男連中をここまで集める少佐の手腕は、ある意味では良いのかも知れない。

 

「ここまで来ると壮観だろ?使用する機体はメビウスに、以前ヴィクトリアで捕獲された〘ジン〙そいつは俺が乗るが、全部が全部軍からの登録を抹消してある。第三国経由の輸送艦を襲うんだ、このくらいはやらないとね。」

 

「変なところで凝り性なもの出さないで下さいよ。後、なんですかその変な髑髏マーク、完全に海賊じゃないですか。」

 

良いだろうって、どこがですか。

ああ、パパママどうか家を飛び出した事をお許しください。私は軍人ではなく、海賊になってしまう様です。

 

「あの、補給とかってどうするんですか?」

 

「基地でするわけには行かないからね、デブリ帯で補給艦を手配してある。必要な人員や設備も随時送られてくるさ。

さて、皆解っている通り俺達は2ヶ月後9月迄には、長期間の特務に入る。その前に、済ませたい用事は終わらせて置いてくれ。

君も会いたい相手が、いるのなら済ませたほうが良いぞ?」

 

会いたい人ね…、そんなの両親くらいだけれど。軍の上層部にいるからたぶん私の安否はいつでも解ってるだろうし、家出したままだから今更帰ったらたぶん、家から今度こそ出られなくなるかも。なら、一人だけ会いたいなぁ。

 

ナタル、元気にしてるかなぁ。家の付き合いで、私のかわいい妹分。1歳しか違わないけれど、元気にしてるかなぁ。

 

 

 




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