【急募】TS美少女が呪術界で生き残る方法   作:うぇいうぇい

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おや、直哉くんがアップを始めたようです(恐怖)


禪院直哉は加速する

 

 

 直哉のやる気が焚きつけられたはいい。元々はその予定だった。

 

 だが、この実力を見せつけられて尚、手加減しようとは思えなかった。

 

「そこや」

 

 展開しておいた簡易領域に反応して、体が瞬時に回避の行動を取った。

 それでも、直哉の手が掠る。直撃はしていないので鬼ごっこの判定には含まれず、縛りの効力が発生していない。

 

 しかし、直哉がここまでのポテンシャルを持っていたとは、正直予想外ではあった。

 

 それ程までに、速すぎる。

 『天覚・越』による視覚強化を使用してなお、目が追い付かない。

 

「なんや、式那ちゃん。いつもよりトロいんとちゃう?」

「貴方が速くなったんでしょうが!」

 

 『肉骸』の連続消費。爆発的な力を生み出し、筋繊維が破壊された瞬間に術式で補填している。

 

 呪力効率が格段に良くなった今でしか使えない荒業だ。

 

 ここまでしてようやく逃げ切れる程度にはなるが、やはり直線のスピードで勝ち目は無い。触れそうになった身体の部位を術式で切り離し、その度に再生を繰り返す事で、触れるという判定を無効化しているに過ぎないためだ。

 

「甚爾さんバリアー!」

「てんめっ、何しやが──」

 

 呑気に屋敷の上で寛いでいた甚爾さんの身体を蹴り飛ばし、直哉の方にぶつける。

 

 直哉の術式は想定外には対処不可能。これで軌道が逸れて、術式が無効化できたなら良し。甚爾さんが捕まったなら尚良しだ。

 

 この鬼ごっこの終了要件は、私か甚爾さんか、どちらかが捕まること。

 

 とはいえ、直哉の標的は私のはず。どちらかを捕まえた時点で勝負が決まるので、甚爾さんは捕まえないだろう。

 

 蹴り飛ばした甚爾さんが体勢を持ち直す。そこへ、空気を固定して上空へと上がってきた直哉が交錯し……

 

「甚爾くん、思いっきりぶん投げてや」

「……ハッ、いいぜ」

 

 直哉の足を掴み、空中でフルスイング……ってやばくねこれ?

 

「──『骨晶・重』!」

 

 幾重にも張った骨の盾で、視界を遮る。

 

 投射呪法の致命的な弱点は、相手の行動を予測する必要があること。

 

 つまり、相手の姿が視えなかったり、囲いに覆われていたりして予測不能の場合、投射呪法はリスクだらけの博打打ちになる訳だ。

 

 だが、直哉はその博打打ちすらも、出目を自分で選ぶかの如き所業を見せつけてきた。

 

「うっそぉ」

「邪魔するで〜、式那ちゃ〜ん」

 

 既に回り込まれた。距離は十分に稼いだ筈だったが、一秒のうちに背後に回られるとは。

 

 甚爾の瞬発力に術式を乗せた、投射呪法の正しい使い方だった。

 

「でも残念、触れた方は皮だけの人形ですよ」

「は?」

 

 皮人形の後ろに隠れていた私が本体だ。

 

 拍手を合図に、風船の如く弾けた皮人形から血液の塊が炸裂した。

 

 私の血液は、調整次第で呪霊にも人間にも毒として作用する不思議な成分に変化させられる。

 

 この『血嘶・毒』が一度相手に命中すれば……反転術式でも無い限り、のたうち回る様な痛みと、半日は消えない痺れに襲われる。

 

 それを間近で喰らい、真っ赤に染まった直哉は……

 

「なんや、とんだ虚仮威しやな?」

「えぇ?」

 

 体中に血塗れになっておいて尚も、直哉は健在であった。

 

 まさか反転術式かと勘繰ったが、どうも違うようだ。

 

「俺の術式の原理を知っておいてそれかいな。身体さえあれば、脳から神経に命令が行かなくても、術式が動かしてくれるんや。こうして喋れるんも、投射呪法の応用やね」

「……バケモノですね」

「気付くのが遅すぎひんか? 俺も最強になる男なんやし、これくらい当然やと思うけどなあ」

 

 この動作一つ一つを脳で処理していると思うと、頭が下がる。

 

 だが、それは直哉が明確な脅威として立ちはだかってきたという事だ。

 

「ほな、やろか」

「っ……!!」

 

 直哉の姿が搔き消え、音速の圧が襲いかかる。

 

 直哉の加速度は、術式を何度も使うことで漸進的に、かつ青天井に増加していく。

 

 だが、投射呪法は一秒間の動きを規定するものだ。1秒毎にしか加速していかない筈なのに、今の直哉は初速からトップスピードに乗っていた。

 

 いや、まさか。

 そんな事があり得ていいのか。

 

「投射呪法の術式行使という動作(・・)を、投射呪法のフレーム内に組み込んでいる……?」

「何を当たり前の事言うとるん? 俺の『零絞天乗』も、術式効果中に発動可能や。自分に適用できても不思議やないやろ、普通」

 

 拡張術式『零絞天乗』とは、物体に投射呪法を用いて、その物体を一時的に固定するというものだ。

 

 直哉は、これを空気に適用して、空に一秒間浮かび続ける板を作り、それを蹴り上げる事で、投射呪法の弱みである二次元的な移動を脱却し、三次元的立体機動を可能とした。

 

 これを投射呪法の動作の一部に組み込む事で、瞬発力と機動力を兼ね合わせたのだが、いやはや、直哉の天才ぶりには脱帽する他に無い。

 

「おっ、もうすぐ追い付きそうやね。そろそろ観念しいや、式那ちゃあ〜ん♡」

「キモッ!?」

 

 絶対に捕まってなるものか。

 

 クソ、このまま逃げ切るには一体どうすれば…………

 

 …………いや、待てよ?

 

「『天覚・越』」

 

 ふと生じた疑問を解消すべく、術式で思考を加速させる。

 

 私、そもそも負けようとしてるんだよな?

 

 なのに何だろう、この感じ。

 

 負けたくないというより、ただ単純に、楽しさを求めている様な…………

 

 …………そうか。そうだったのか。

 

 私、負けたくないんだな。

 

「────アハッ」

 

 詠唱省略『天覚・〝六眼〟転』。まずは術式の精度を上昇させる。

 

 それから、外付けの肉体で強制的に成長させる『肉骸・成』。

 血流を活性化させ、身体能力を上昇する『血嘶・脊燐躍動』。

 骨格を変化させ、関節を増やしたり可動域を広くする『骨晶・変』。

 

 手の形状すら変わり、四足歩行になった私のスピードは、遂に直哉のトップスピードに並んだ。

 

「なんやその格好、キモいわ〜。メス猫にでも転職したんかいな」

「どうとでも言って下さい。私、負けませんから」

「そか。……なら、全力で負かして泣き顔拝んだるわ」

 

 それから、音すら超越した世界最速の追いかけっこが始まった。

 

 建物は吹き飛び、地面は裂け、私が足場や盾代わりにする骨が散弾のように吹き荒れる戦場は、如何なる呪術師であろうと立ち入れないだろう。

 

 まあ、甚爾さんだけは呑気にあぐらをかきながら、降り掛かる火の粉をささっと払い除けていたが。あの人やっぱりおかしいよ。

 

「愉しいなあ、式那ちゃん」

「生憎、複数の処理で脳がパンクしてますけどね!」

「その割に君も愉しそうやね。鏡見てみ、口角上がっとるから」

「ふふっ、否定はしませんよ……っと!」

 

 何で声が聞こえているのかも分からないが、私と直哉は、この時間に全力をぶつけ合った。

 

 時折、直哉が赤黒い光(黒閃)を放っていたのを見るに、もうとっくに私と同じステージに居るのだろう。

 

 だから、どこで勝敗が決まるのかなんて、きっと誰にも分からなかった。

 

「…………勝ち、やね」

「…………負けですね」

 

 身体に鞭を打ち過ぎた。

 

 ある時、再生を繰り返していた私の脚の骨が、ポッキリと折れたのだ。無茶な修復で、かなり脆くなっていたのだろう。

 

 それで転んだ瞬間、強い衝撃で、折れた所から更に砕けてしまった。

 それを一瞬で再生するのは、さしもの私とて無理があった。

 

 そうして天を仰いで、地面に這い蹲った私に、まさかあの直哉が手を差し伸べてこようとは。

 

 手を取ると、力強く引っ張り上げられて、直哉の胸にもたれかかった。

 

「はい、捕まえたで」

「捕まっちゃいましたね。」

 

 当初の予定通りではあった。

 

 ただ、こう、何と言うのか。

 わざと負けていたら、こんなにも晴れやかな気持ちにはなれなかっただろう。

 

 忘れない内に術式を完全に解いて、血液の毒性を完全に無効化してやる。

 

「では約束通り、一つだけ、何でもしてあげます。えっちな事でも受け入れる覚悟はありますよ」

「なんでエッチな事に絞るん? いやー無い無い、まだ寸胴やないか」

「ぶちますよ。というか貴方も同い年でしょうが」

 

 まだ小学校低学年レベルの身体だ。第二次性徴すら始まっていなければ、欲情もクソも無いか。

 

「うーん、せやなぁ……」

 

 うんうんと唸り、数分後。

 

「これって保留できる?」

「直哉くんサイテーです」

 

 真正のクズだ。その場で決めてくれよ。

 時間経ってから、なんかあくどい事考えそうで怖いんだけど。

 

「今はちょっと思いつかんわ。保留できないんなら、もう俺の奴隷になれ言うしかあらへん……」

「マジでサイテーですね。それって、お願いで叶えられるお願いを増やすのとやってる事同じですよ?」

「俺も鬼やないんやで? 式那ちゃんを奴隷にする気は更々無いんやけどなぁ……」

「する気が無いなら、まずそのニタニタ顔やめてくれません?」

「おっと、ごめんちゃい♡」

 

 最悪だよコイツ。

 

「……まぁ良いですよ、保留でも。ただし、今日から二十年以内のリミットを設けます」

「へぇ〜、随分と長いんやね?」

「それくらいしたら、ワンチャン忘れてるかなと」

「絶対忘れへんから安心しぃや」

「…………直哉くんのドブカス」

「ん? 喧嘩売ってるなら買うたるで? ん〜?」

 

 至近距離でガン飛ばされるのは怖いわ。

 

 そこへ、瓦礫を吹き飛ばしながら甚爾さんがやって来た。

 

「おい、お前ら。イチャイチャしてないでさっさと片付けろ」

「イチャイチャしとらんわ。……あーあ、にしても酷い有り様やなぁ。どないしよ」

 

 立派な屋敷は形無しだ。

 たまにお手伝いに来てもらって掃除してもらっているそうだが、これは驚かれるに違いない。

 

「軽く億は飛びそうですね」

「金はええんやけど、これじゃ甚爾くんとしばらく訓練できひんわ」

 

 大問題だ。未だに、体術で甚爾さんに勝てたことは一度も無い。

 一度くらいは勝利をもぎ取ってみせたいものだが。

 

「加茂家は訓練場のある別荘とか無いん?」

「無いです。加茂家の所有する別荘は、上層部のおじいちゃん達専用リゾートですし」

 

 加茂家というより、総監部の為にあると言ってもいい。

 総監部の多くが加茂の血筋である弊害のようなものだ。

 

「アホか。これだから加茂はいつまでもクソ雑魚なんや……はー、すまんね甚爾くん。一年近くはお小遣いあげれそうに無いわ」

「気にしねぇよ。そろそろ、東京あたりで本腰入れて稼ぐつもりでいたしな」

 

 それは初耳だ。

 月給何百万で尚足りないとは、この人一体何に金使ってるんだか。

 

「…………えっ、甚爾くん東京行くん?」

「俺の知り合いが、そっちに活動拠点を移したもんでな。当分はこっちに帰らねぇ」

「そ、そうなんやな。うん、まあ、気ぃつけてや…………」

「あぁ」

 

 甚爾さんが立ち去ろうとしたので、慌てて私も直哉から離れた。

 

「それでは、私も失礼します。お元気で」

「うん、元気でな……」

 

 えぇ、ちょっと、いくら何でも気落ち過ぎじゃない?

 

 脚を念入りに作り直し、本来の強度に戻ったことを確認してから、甚爾さんの背中を追いかける。

 

「あぁ? 何だお前、付いてくる気か?」

「私も今、東京に住んでいるので。……それより、良いんですか? 直哉くん、いっそ哀れなまでにしょんぼりしてますけど」

「いいんだよ。俺みてぇのがアイツの近くに居るのが、そもそもの間違いだ。俺の事なんざ忘れた方が、直哉にとっても良いだろ」

 

 そんな事は無い。直哉は、いつも甚爾さんに憧れていた。

 斯く言う私も、甚爾さんが目標だった。甚爾さんを倒せて、ようやく悟と肩を並べられると、そう思っていたぐらいには。

 

「それよりお前こそ良いのかよ。直哉のヤツ、お前に惚れてるぜ」

「……はぁ!?」

 

 うせやろ。

 

「いやいや、ないですって。あの人男尊女卑の権現ですよ? 女の子を物扱いはすれど、好きになるなんてあり得ないですって」

「……お前も俺と大して変わんねぇな」

「何だか酷い風評被害を受けてる気が……」

 

 まるで私をタラシみたいに。

 女性を引っ掛けてヒモになって暮らしてた甚爾さんは、正真正銘のタラシだと思うが。

 

「それで、どうするんです? これから」

「また暗殺業に戻んだよ。稼げる内に稼がねぇとな」

「なら、また会うこともあるかもしれませんね」

「ハッ……お前も苦労してんな」

「お互い様でしょう」

 

 その日の内に新幹線に乗り込み、二人で東京に戻った。

 

 

 

 

 

 それから甚爾さんと再会したのは、およそ一年後。

 

 季節が一巡りして、夏休みが終わろうとしていた、ある日だった。

 

「あ……?」

「えっ……」

 

 傑と一緒に、都心の方へ遊びに行った帰りに、彼は居た。

 

 ……お腹の膨れた、ツンツンヘアーの女性を連れて。

 

「……まさか、ご結婚なされたんです?」

「婿入りだ。それよりお前こそ、知らねぇ男誑し込んでやがるじゃねぇか」

「誑し込んでません!」

 

 嘘である。

 まあ、目的あっての事だが。

 

 それより、あのヒモで生きていたという甚爾さんの姿は欠片も見当たらない。なんだか真っ当に生きているように見えた。

 

 しかも、婿入りとは。よっぽど溺愛しているようだ。

 

「あれあれ? 甚爾くんの親戚の子?」

「親戚っつうか、従兄弟の友達みてぇなもんだな。よく遊んでやってたんだ」

「はぇー……てか、すっごい可愛い!! お人形さんみたい!」

「ええと、どうも初めまして……」

 

 随分な美人さんを射止めたものだ。是非とも馴れ初めを窺いたい所だが、生憎と傑とのデート中だ。

 

「今はデート中なので、詳しい事は後日お聞きしますね。甚爾さん、電話番号持ってます?」

「あぁん? そんなん教える訳ねぇだ────」

「はい、これ私と甚爾くんの番号」

「なっ、夏織……」

「それぐらいいいでしょー? 昔の甚爾くんの事も知りたいしね〜」

「ったく……それ、直哉には教えんなよ」

「多分教えません」

「信頼が欠片もねぇ〝教えません〟だな」

「まあ、最近は全然会ってませんし」

 

 それでは、と甚爾さん達を見送ると、後ろで待ちぼうけを食らっていた傑に手を合わせる。

 

「ごめんなさい、待たせてしまって」

「構わないよ。……それより、あの大柄の男の人が気になっていたんだ」

「甚爾くん?」

「ああ。体捌きで分かったよ。彼はどうも、武術の心得があるみたいだね。是非とも一度、手合わせをしてみたいな……」

「……あー、やめといた方がいいですよ。軽く死ねるので」

「それは、益々興味が湧いてきたよ……天狗になる前に痛い目を見ておきたいんだ。さっきもらった番号、僕にもくれないかい?」

「ちょっと傑く〜ん? まだデートは終わってないんですが?」

 

 やっぱ男子は馬鹿ばっかだ。

 こんな大和撫子美少女との都会デートより、甚爾くんとのイチャイチャに興味津々とか、あり得ないでしょうが。

 

「ふーんです。女の子とちゃんとデートもできないのに、甚爾さんとデートしようだなんて百年早いですよ」

「ごめんごめん。……それではお嬢様、お手をどうぞ?」

「うむ、苦しゅうないです」

「そこはこう、お嬢様っぽい反応を期待してたんだけど……」

「一応、平安から続く歴史だけはある家の出ですからね、私」

「ハハッ! ……張っ倒しますよ、おひいさま」

「急に怖い!?」

 

 旧家に恨みでもあるのか……!?

 

 




恋も術式も加速する……!! TS呪術 √直哉、近日公開!(大嘘)

攻略したい子を選んでねっ♡

  • 王道?:五条悟
  • 邪道:禪院直哉
  • 外道:夏油傑
  • 覇道:羂索
  • 非道:宿儺
  • 寡夫:伏黒甚爾
  • 百合:庵歌姫
  • 呪霊:真人
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