【急募】TS美少女が呪術界で生き残る方法 作:うぇいうぇい
「私、傑くんの所に行ってきます」
そう言って、アイツは帰ってこなかった。
加茂家次期当主が呪詛師に堕ちた事は、総監部の手により秘匿された。情報が回らなくなるのは一瞬で、口にする事すら憚られた。
「……加茂さんまでも、ですか……そうですか」
灰原が死んで、式那がいなくなって、七海だけが一年に取り残された。
平静を装っていたものの、その顔はやつれているとしか言えない。
「……式那も馬鹿だよね。あんな馬鹿についてっちゃうんだから」
「その内帰ってくんじゃねえの? ケロッと、傑の首根っこ掴んで引き摺ってさ」
「だといいけどね……」
騒がしい声はどこからも聞こえてこない。
廊下を歩くと、後ろからアイツが歩いてくる気がして、何度振り返ったのか。
昼にマッ缶を二つ買って、一本を完全に持て余した時もそうだった。
『情けないですね〜、悟くん。ざ〜こざ〜こ』
『あ、ちょっと! 私のマッ缶返して下さい! 殴りますよ!?』
『いいじゃないですか。ね、一緒に抜け出しません?』
付き合いは、それこそ傑より長かった。
子供の頃からだ。
自分の無下限が効かない人間が居る事は恐ろしかったが、次第に、アイツがただの生意気でお調子者のバカだと分かると、それからは弄りがいのある友人になった。
親父の葬式の時のことは、今でも忘れていない。
『私が悟を守る。悟が私を守る。これで最強です。だから、約束してください』
「……二人で最強、ね」
一人で最強になったつもりはない。
だが、二人は自分の下を去った。それが全てだ。
「……それじゃ、僕も頑張るとしますか」
未練を断ち切る。
永遠に忘れられない日々を、青いまま残しておく為に。
○ ✕ △ □
新宿・京都百鬼夜行。
そう呼ばれる戦いの終わりに、俺はついに、親友に手を掛ける事になった。
「……はっ。最後くらい呪いの言葉を吐けよ」
そう罵倒されたが、心は晴れやかだった。
だが、まだ、俺の中に心残りは一つ……
「……逝ったんですね、傑くん」
横に振り向くと、夕陽を背に彼女はいた。
十年ぶりに相まみえたその姿は、まるで変わっていない。
それどころか、高専の制服を着て、当時そのままの出で立ちをしている。
「……アラサーで制服はちょいキツくない?」
「そういう事言う所、変わってないですね。クソ失礼ですよ」
「いやぁ、よく言われるよ」
「うわ、悟くんの言動がフニャってしてる。キモいです」
「ハハッ、君も失礼だね……殺すよ?」
「気が早いですね……早漏ですか?」
とはいえ、俺も式那も構える事は無い。
昔をなぞったような遣り取りを交わして、クスと笑い合う。
「……貴方を殺しに来ました、五条悟」
「ほーん……できるの? 僕、最強だけど」
「悟くんを殴れるのは私と夜蛾先生だけなんですよ? それに、知ってるでしょう」
式那の手から、刀が生えてくる。
血肉と皮の鞘、そして骨の刀身を持つ、式那の術式で生み出された呪具。
「この刀は、私の身体の一部……領域展延を纏わせて、術式を食い破りながら、切り飛ばして見せますよ」
「その上、シン・陰流の使い手。俺には見せた事無いけど、日下部さん直伝の、持ってんでしょ?」
「……そういうのは私から言わせて下さいよ。開示にならないでしょうが」
「僕が知ってるなら開示にならないっしょ。モーマンタイモーマンタイ」
式那が不満げにむくれたが、次には、気配を変えた。
足を大股に広げ、腰を落とす。
シン・陰の、抜刀の構え。
「悟くん。私は、たくさん人を殺しました」
「……うん」
「その上で、言います」
赤に染まる、昏い瞳。
待ち切れない、とばかりに唇が弧を描く。
俺も、きっと笑っていることだろう。
これまで感じた事の無い興奮が、体を衝き動かそうとしている。
「……ずっと、貴方を倒したかった」
「……そっか」
「全ての決着を付けましょう。泣いても笑っても、これが最後です」
式那が間合いに入り込み、修羅の目で刃を振るった────。
・
・
・
「出鱈目、ですね……」
「言ったでしょ? 俺、最強だから」
「……大事な目と両手喪って、何言ってんですか」
右眼と、両腕が無くなった。
何回も領域を展開したから、そっちに反転術式を回す余裕は無かった。
まあ、腕は良いとして、流石に目は治せないだろう。
六眼なんて、特別製の目だ。自分でも、呪力がよく見えるぐらいの認識しかなかったのが悪かった。
「奪った本人がそれ言う?」
「そう……ですね」
腕を生やして、式那に寄り添う。
トドメの茈で、彼女の半身は消し飛んだ。
彼女も、もう長くはない。
「一番……愉しかった。私、思ったより戦闘狂だったかもしれません」
「並ぶべき者無き最強に許された特権だよ、それは」
「悟くんもですか?」
「……ああ。俺も愉しかった。傑じゃこうはいかなかっただろうし」
「うわ、地獄で傑くんに何て言われるか。妬けるね、とか言われるんですかね……」
そういえば、と、いつか再会した時に、聞きたいことを思い出した。
ずっと顔を出さなかったから、傑に付いていった理由すら、全然分からなかった。
「……お前って、傑の事好きなの?」
「え、全然。タイプじゃないです」
「じゃあ、なんで」
「一人のまま、放ってはおけなくて。……友達ですし」
思わずカチンと来たのは、仕方ないよね?
まるで、俺が友達じゃないみたいな口ぶりじゃん?
「……俺は、放っておいて良かったってのかよ」
「そんな訳、無いです。ただ、悟くんと傑くんを仲直りさせたくて……でも、良かった。仲直り、できましたよね」
「……ああ。間違いなくな」
最後まで、あいつは親友を否定しなかった。
皮肉っていたが、スッキリした顔で死んでいった。
「じゃあ、私とも仲直りしましょっか」
「は──?」
だが、音信不通だった式那と仲違いしたつもりはなく、仲直りの意味が分からなかった俺に、それはあまりに不意打ちが過ぎた。
……血液の味。
だが、俺のではなかった。
「んっ……」
「んぐ……!?」
違う体温を、舌で、口腔で感じる。
「……ぷぁ……ぇ……」
「……んくっ、はっ……」
反転術式で治しまくり、酷使した脳は、突然の情報量を処理しきれなかった。
ただ、そうしているから、そうするという、ごく単純な反応で舌を絡ませる。
息の吸い方も覚えるくらいになって、頭が冷静になる。
ゆっくりと口を離し、目蓋を持ち上げると、右の視界が開けていた。
そのそばに、式那の手が添えられている。
「悟くんのファーストキス……頂きました」
「……お前、まさか」
「それはお礼です。術式と……反転術式のアウトプットの重ね技で、六眼を造りました」
そんな余裕があるのなら、どうして自分の身体を治さなかった。
反転術式のアウトプットは、本来の半分以下の効果しかない。
目を治すだけの呪力があれば、自分の身体を治すのだって訳無い。
だが、声には出なかった。
何も言えない俺に、式那は微笑んだ。
「好きな人に……元気でいて欲しいと思うのは、当たり前でしょう……?」
「キャッ……言っちゃった」と、わざとらしく照れている。
……笑えないだろ、そんなの。
「お前……」
「……こんな、意地悪……なぁんで、好きになったんでしょうね……ただ、穏便な人生が、欲しかっただけなのに……ほんと恨みますよ、悟くん……」
手を、温かなものが伝っていく。
反転術式のアウトプットができない事を、今以上に悔いた事は無い。
血が流れきる前に、なんとか、硝子の下に……
「折角、なので……呪術師らしく、呪ってあげます」
背中から手を回されて、抱き締められる。
気の抜けたところに、彼女は囁くように呪いを掛けた。
「愛して、います……悟くん。……できる事なら、来世で……平穏な世界で、また、会いま……ょ……────」
僅かな息遣いが、途絶える。
……。
…………。
「…………ああ。俺も、式那を愛してる」
俺は、初恋を自覚したと同時に、失恋した。
大人になって初めての、親友の前ですら見せなかった涙を溢した。
後悔ばかりが浮かぶ。
もっと早く、この気持ちに気付いていればよかったものを。
「はは……正しく、呪いだね」
式那を、路地裏の壁に凭れかけさせる。
隣には、同じく息絶えたばかりの傑が、仄かな笑みを湛えていた。
「……どいつもこいつも、満足げにいきやがって」
呪術師に、悔いなき死は無い。
だが、落としどころを付けることはできる。
……俺もいつか、二人の様に逝ける日が来るのだろうか。
それなら最低、俺を殺せる人間が要るけど、その筆頭は眼の前にいる。
暫くは、満足なんて得られないだろう。
「……さーて、俺はちょっと、可愛い可愛い教え子達の様子を見てくるよ。また迎えに来るから、待っていてくれ」
……二人を迎えに行ったのは、憂太が無事に折本里香を解呪した後になった。
硝子に二人を見せると、予期していなかった式那の死体に、酷く動揺した。
俺が殺した事を説明すると、硝子は俺に掴みかかってきて、力無く、叩いてきた。
「式那は……ずっとアンタを好いてたのに……クソ鈍感、クソ野郎。今更気づいても、もう意味無いっての……」
式那を妹分のように可愛がっていた硝子だからか。
随分と前から知っていたようだ。
俺から見た時は、そんな素振りは無かったというのに。
…………クソ。
○ ✕ △ □
二人の死体の解剖や処理は、ウチではない別の所でやらせる事にした。
硝子にやらせるのは、あまりに心苦しかった。
「おはようございます、五条先生」
「おっ、来たね憂太。おはよう」
昨日の今日だが、憂太は元気そうだった。
うんうん、無事で本当に何よりだ。
「……ところで、その包丁みたいなの、何ですか? ずっと眺めてたみたいですけど」
「これかい?」
純白の小刀を掲げると、憂太は頷いた。
「端的に言ったら、僕の好きな人の骨で作られた呪具だよ。興味ある?」
「ご、五条先生に好きな人……!? そんな人、居たんですか!?」
「失礼だなぁ、僕だってキュンキュンするんだよ?」
憂太が気持ち悪そうな目で見てくる。
ちょっとちょっと、半年で皆に影響され過ぎじゃない?
「……彼女は、自分の身体から武器を作れる。それがコレ。今となっては、唯一の形見だよ」
「……形見って、ことは、もう」
「ああ。死んだんだ。……僕が、殺した」
「殺したって……どうして」
「呪詛師だったからね。高専から離反したんだ」
憂太に重い話を聞かせてしまうが、呪詛師に堕ちた元仲間と戦う事は珍しくはない。
「散々君ら二人の恋バナを聞かされたし、折角だから、彼女……式那との馴れ初めでも聞かせてあげるよ。ちなみに強制ね」
「そ、そんな、悲恋が決まってる恋バナなんて、聞きたくないですよ……先生に同情して泣く自信ありますよ、僕」
「遠慮しない遠慮しない。ほら見てよ、この刃の滑らかさといったら……」
すると、憂太が食い入るように式那の小刀を見だした。
お、やっぱり他人の恋路は気になっちゃうタイプかな?
よーし、これ見よがしにからかってやろっと……
「……これ、刀身に何か彫られてませんか?」
「ん? いやいや、そんなのあったら、僕の六眼アイが見逃すはずが────」
包帯をズラしてよく見ると、非常に浅く小さく、三行に渡って文字が彫られている。
『六才のときのホネをもってるなんて ヘンタイですね
でも 大事にしてくれていて うれしかったです
これは両想いって受けとっても いいですよね?』
……書いてある。マジだ。
でも、ずっと俺は肌見離さず持ってたし、タイミングなんか……
「…………あの時かよ。馬鹿だろ、お前」
一体どれくらいの間、口付けを交わしたのだろうか。
一分か、二分か。十分な時間は確かにあった。
俺の目を治すと同時に、こんな小細工まで。
六眼無しで虚式やってるようなもんだと思うと、死に際に何やってんだと言いたい。
「告白、してなかったんですか」
「硝子にも怒られた。俺も若かったんだよ」
でも、そうか。
俺の気持ちは、最期に伝わっていたのか。
「……先生、包帯が」
「おっと、雪が溶けたのかな? いやー、困っちゃうね。俺傘なんて持ってないんだけど」
「無下限発動してるのに何言ってるんですか……!?」
流石に苦し過ぎたかー。
まあ、包帯は替えがあるし、今は外しちゃおうか。
……しかしまあ、粋な事をしてくれるよ。
「良い人だったんですね、式那さん」
「……ああ。俺の自慢の恋人だよ」
恋人、というのも変かもしれないが、俺はそう言いたかった。
……だから、渋谷で彼女の声が聞こえてくるとは、思いもしなかった。
「悟くん」
確かに死んだはずの、彼女を見るまでは。
ほんへではありません()
多分、今日中に二話目が……来る!(多分)
攻略したい子を選んでねっ♡
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王道?:五条悟
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邪道:禪院直哉
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外道:夏油傑
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覇道:羂索
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非道:宿儺
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寡夫:伏黒甚爾
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百合:庵歌姫
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呪霊:真人