cal.   作:オタクは末端冷え性

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五月病6:長考3:その他1



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「なにしてんのお前」

 

「んんぅ……」

 

 

 登校しようと玄関の扉を開けると、家の前にはなぜか美春がいた。

 制服ではなく私服を着ている美春は、門柱に寄りかかるようにして船を漕いでいる。

 

 

「おい起きろ、風邪引くぞ」

 

「ん……あぇ、せんぱい……なんでみはるのへやに……?」

 

「いつからここがお前の部屋になったんだ」

 

 

 しばらく肩を揺すってやると、まだ若干足元がおぼつかないようではあるが、徐々に目は開いてきた。

 

 美春は口元を手で隠しながら、大きなあくびをする。

 

 

「先輩、おはようございます……」

 

「おはよう。なんでこんなところで寝てんだ」

 

「瞬木先輩が登校するのを待ってて……そしたらいつの間にか」

 

「インターホンって知ってるか?」

 

「もしまだ寝ていたら申し訳ないじゃないですか」

 

「風邪引かれるよりか起こされた方がマシだ」

 

 

 変なところで気を遣っているが今まだ三月上旬、日中はともかく早朝はまだまだ冬の寒さをしている。

 

 

「それで、どうしたんだこんな時間に」

 

「そうです!美春は大丈夫でしたけど、先輩は脚の方は大丈夫なんですか?」

 

「脚?」

 

「はい、一昨日すごく痛そうにしていたので……」

 

「そんな痛そうにしてたか?」

 

 

 一応表情は作っていたし、美春には聞こえないように叫んだんだけど。

 

 

「どれだけ美春が先輩を見てきたと思ってるんですか。美春の目は誤魔化せませんよ!」

 

「ここ何年かの話だと思うんだが」

 

「……別に美春がそんなに瞬木先輩を意識してた訳じゃないですよ?」

 

「自分で言ってて照れるなよ」

 

 

 顔を赤く染めながら視線を横に泳がせる美春。

 

 

「そ、それでですね先輩」

 

「はい」

 

「唐突で申し訳ないんですけど」

 

「はい」

 

「先輩はその、美春のこと、どう思いますか?」

 

「えっ……どう、とは?」

 

「あ、ええっと、美春の容姿って、周りから見てどんな感じなのかなって意味ですよ?」

 

 

 ……容姿の話だけでいいんだよな?

 それ以上のこと聞かれてる訳じゃないよなこれ。

 

 

「可愛いんじゃないか?」

 

「……本当ですか?」

 

「いや世間一般の認識はわからないけど、俺的には十分可愛いと思うぞ」

 

「そうなんですね」

 

 

 美春が恥ずかしそうに俯くと、すぐに咳払いをして顔を上げ「わかりました!」と続ける。

 

 

「不肖ながら天枷美春、先輩への恩返しの為にも精一杯頑張ります!」

 

「お、おう」

 

「では瞬木先輩、学校まで気をつけて行ってくださいね!」

 

 

 美春はそう言い残すと、手を振りながら走り去っていった。

 

 結局なにをしに来たんだろうか。

 

 

 

────────

 

 

 

「朝元気そうだったんだがな」

 

 

 音夢さん曰く、今日は珍しく美春は学園を休んでるらしい。

 

 体調がどうこうと言っていたが、今朝の様子を見るに心配はしなくとも大丈夫だろう。

 

 

「おや、丁度呼びに行こうかと思ってたんだよ瞬木」

 

 

 物理教室での授業の帰りに、暦先生に見つかり呼び止められる。

 

 これから昼休みだというのになんという間の悪さか。

 

 

「これはこれは。先生みたいな美人にお声をかけていただくと、嬉しくて早く食堂行きたくなっちゃうんですけど」

 

「まあ待ちなよ、別に説教をしようと声をかけた訳じゃない。話しておきたいことがいくつかあるんだ」

 

 

 正直言って嫌な予感しかしないが、引き延ばしたところで時間の無駄だろう。

 

 

「わかりました、なんですか?」

 

「いや、ここじゃなんだからアッチで話そうか」

 

 

 先生は自身の後ろを指差している。

 生物準備室で、という事だろう。

 

 

「縄張りに誘い込んで逃げ道を……」

 

「説教の方がよかったのか?」

 

「さ、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

「そういえば瞬木、今回のテストはどういう風の吹き回しだ?」

 

 

 いつかのようにコーヒーを淹れてもらい腰を据える。

 

 

「なんのことでしょう」

 

 

 俺が適当にとぼけると、暦先生は胡散臭いとでもいうような表情で訝しむ 。

 

 

「普段70点しかとらないお前にしては随分と点数がいいみたいじゃないか」

 

「杉並に勝負を吹っ掛けられまして。負けたら命と尊厳が危ういんですよ」

 

 

 あいつに命令権なんて与えようものなら、何をさせられるか分かったもんじゃない。

 

 

「おまえたちの勝負はどうでもいいが、できるんだったら最初からやりなよ」

 

「変に目立つのはイヤなんですよね」

 

 

 この前の図書室にいた男子生徒たちの様子を鑑みるに、既に手遅れな気もするが。

 

 先生は呆れたような溜め息をつきながら椅子の背もたれに寄りかかる。

 

 

「まあテストのことはそんなに重要じゃないんだ。本題は……」

 

 

 コンコン

 

 先生が本腰を入れようとしていた矢先、扉がノックされる。

 

 

「……はーい、空いてるよ」

 

 

 ガラガラと扉が開き、入ってきたのは人形を抱えた少女。

 

 

「おや、月城じゃないか。どうしたんだい?」

 

「……呼ばれたので」

 

「え、ああそうか。いつでもいいからおいでって言ったんだっけ」

 

 

 準備室に入ってきた月城さんに小さく手を振ると、小さくお辞儀が帰ってくる。

 

 「ごめんごめん」と先生はだらしなく座っていた姿勢を正して、月城さんに向かう。

 

 

「これは……あたしが言うことじゃないかもしれないけど、ちょっと気になったからさ」

 

 

 そう言ってから先生は咳払いをいれて、「あのさ」と始める。

 

 

「お前が大切に持ってるその人形な、大切なのはわかるけど、授業中もずっと持ったままってのはどうかと思うよ」

 

「……大切なんです」

 

「いや、わかるけどさ……」

 

 

 先生にしては比較的に優しい言葉を使って諭してはいるが、月城さんは大切だからの一点張りで中々譲ろうとしない。

 

 悲しそうな月城さんの表情に先生も気分は良くなさそうだが、いくら本人が大事だと言っても注意しなければならないのが講師の務め。

 

 先生は一度目を閉じて息を吐くと、厳しい表情で口を開こうとする。

 

 

「月城、あのな」

 

「まあまあ今回はこのくらいにしときましょうよ先生」

 

 

 ここらが止め時だろう。

 

 

「はあ?瞬木は」

 

「月城さんだって先生の言い分は理解してますよ」

 

 

 俺は椅子から立ち上がり、俯く月城さんの前で膝をついて視線を合わせる。

 

 

「月城さんも、自分が一番よく分かってるもんな」

 

「…………」

 

 

 こくん、と。

 

 少しの沈黙の後に首を縦に振る彼女を見て立ち上がり、少しだけ頭を撫でる。

 

 

「月城さんって別に普段の授業態度が悪いというわけじゃないんでしょう?ほら、今回いい点取った俺に免じてくださいよ」

 

「……はぁ」

 

 

 先生はため息を吐いて椅子に深く座り直し、懐からタバコを取り出す。

 

 

「月城、もういい。ちゃんと気をつけるんだよ。お前もいつまでも子どもじゃないんだから」

 

「はい……気を、つけます……」

 

 

 深くお辞儀をして、月城さんは扉を静かに開けて準備室の外に出る。

 そして扉を閉めずそのまま、じっと俺の顔を見つめてくる。

 

 

「ん?」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 

 小さく呟いた彼女は、静かに扉を閉めていった。

 

 

「随分と懐かれてるじゃないか」

 

「放っておくには、少し心配でしょう?」

 

 

 カチリ、と音がして振り向けば、先生の指に挟まれたタバコの先が赤くなっている。

 

 俺は先程まで座っていた椅子にまた腰を下ろす。

 

 

「大変そうですね、教職というのは」

 

「教員があたしだけなら別に気にもしないんだけどさ」

 

「先生は言うことさえ聞けば後は好きにしろって感じですもんね。貫禄ある姉御って感じしますよ」

 

「貫禄ある、ねぇ?」

 

「例えですよ例え」

 

 

 タバコの先を俺に向けるのはやめてもらえますかね。

 

 

「あんた、あの子のことで何か知ってるのかい?」

 

「いいえ何も。彼女のことは美春……天枷から紹介されたくらいなので」

 

「そうか。最近天枷がちょっかい出してるのをよく見るから、うまくやってくれるといいんだけどね」

 

 

 灰皿にタバコを押しつけられ、火が消える。

 

 

「でも、あの子のことで何かあったら瞬木が責任をとってくれるんだろう?」

 

「よしてくださいよ、責任なら先生がとってあげればいいじゃないですか」

 

「そりゃあ講師としての範囲なら責任はとるさ。あたしが言ってるのは日常的な話だよ」

 

 

 先生は窓の外に視線をやって、校庭をみている。

 

 

「あたしだってなんとかしてやりたいとは思ってたが、講師という立場のあたしを、あの子は受け入れてくれなくてね」

 

 

 そう語る横顔はどこか憂いを帯びていて。

 

 

「だから瞬木でも天枷でも、あの子の欠けたモノを埋めて欲しいんだ」

 

「大したことはできませんよ、見守ってやるくらいが関の山です」

 

「それでいいよ。ただあんたにできることを、気が向いたらでいいからしてあげてほしいんだ」

 

「先生はいい人ですね」

 

「よしなよ」

 

 

 誤魔化すように先生は二本目のタバコを取り出そうとするが、その手が途中で止まる。

 

 

「ことりには黙っておきますよ?」

 

「いや、そろそろ本数を減らすところから始めないと、と思ってさ」

 

「殊勝な心掛けですね。ことりも喜びますよ」

 

「あたしとしては、自分の身体の心配をして欲しいんだけどね」

 

 

 タバコを胸に仕舞って再び椅子にもたれる先生。

 

 

「さっき早退の連絡があってさ。あの子の身体の弱さは瞬木も知ってるだろう?」

 

「昨日会った時は大丈夫そうだと思ったんですけどねぇ」

 

「ああ、昨日買い物に付き合ってくれたんだってね。ことりがえらく機嫌良く話してくれたよ」

 

 

 全部筒抜けなの怖いんですけど。

 

 

「……ふむ」

 

「なんです、その値踏みするような視線は」

 

「いやあ、月城のことを気にかけて欲しいとは言ったけど、妹のことも気にかけて欲しいんだよ」

 

「俺の身体って一つしかないんですけど」

 

「この前のクローン禁止法がなければ良かったんだが」

 

「やめろマッドサイエンティスト」

 

 

 心の底からやめてほしい。

 

 機械工学に加えて生物工学もやってるこの人が言うと、まったくもって洒落になっていない。

 

 

「でもことりのことに関しても、冗談で言ってるつもりはないよ」

 

「ことりの何を気にしろって言うんです?」

 

「もちろん身体のこともそうだが、なにより心の部分も支えてやって欲しいんだよ」

 

「男子学生になにを言ってるんですか。女の子の心とかどう扱えと」

 

 

 うら若き乙女の考えなんて野郎に理解できると思わないで欲しい。

 下手に傷つけようものなら杉並辺りに介錯を頼まなくてはならない。

 

 

「別に誰でもいいって訳じゃない。ことりからの信頼もあるし、あたしとしても瞬木なら任せられるしさ」

 

「過大評価ってヤツだと思いますよ。俺がことりに下心を抱かないと思ってるんですか?」

 

「お互いの了承の上なら、あたしは何も言わないよ」

 

「男子学生になに言ってんですか」

 

「避妊はしっかりな」

 

「なに言ってんだあんた」

 

 

 どこにネジ落としてきたんだこの人。

 

 

「それに、義弟が優秀だと仕事の手伝いも頼めそうじゃないか」

 

「はぁ……それで、話しはもう終わりですか?そろそろお昼行かないと午後の授業に間に合わないんですけど」

 

「いいや、むしろ本題はこれからだ」

 

「ここまで全部前置きですか……」

 

 

 なるほど、今日は昼飯を食うことができないらしい。

 

 

「大丈夫だ、あたしから瞬木は午後の一限目は面談で欠席すると伝えてある。食堂も教員の為にあと一時間は開いているから問題ない」

 

「随分と準備がいいんですね」

 

「それだけ重要な話ってことだ」

 

 

 先生は立ち上がり、準備室の扉を開けて左右を確認すると、扉を閉めて鍵をかける。

 

 

「人に聞かれちゃ不味いんですか?」

 

「機密事項だからね、立場もあって情報が漏れると困るんだよ」

 

 

 再び椅子に腰を掛けた先生は、こちらに分厚い紙束を渡してくる。

 

 表紙に書かれた文字は『HM-A05型』。

 

 

「瞬木はさ、人間みたいなロボットって信じる?」

 

 

 

────────

 

 

 

「秋の田のーー」

 

 

 パァン!

 

 

「ーーかりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ」

 

 

 

 

「瞬木、お前さっきの時間何してたんだ?」

 

「暦先生と秘密の個人面談」

 

 

 

 

「奥山にーー」

 

 

 パンッ!

 

 

「ーー紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋はかなしき」

 

 

 

 

「あの人と面談なんてろくなことじゃないだろ」

 

「ろくな話でなかったのは事実なんだけどさ」

 

 

 

 

「天の原ーー」

 

 

 パンッ!

 

 

「ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」

 

 

 

 

「俺んちにメイドロボットが襲来するんだそうだ」

 

「青いタヌキじゃなくてか?」

 

 

 

 

「君がためーー」

 

 

 パァン!

 

 

「ーー春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ」

 

 

 

 

「メイド服って杉並に言えば貰えるかな」

 

「ああ、持ってそうではある」

 

 

 

 

「あふことのーー」

 

 

「おっ、すまんな純一」

 

 

 パン

 

 

「あ、お前裏切ったな」

 

 

「ーー絶えてしなくば なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし」

 

 

 

 

 眞子学級委員の読みと、同グループの杉並と音夢さんによる炸裂音が響く午後の授業。

 

 

 

────────

 

 

 

 放課後。

 

 もはや芸術とも呼べる、不規則な木琴の音が階段から響いてくる。

 見れば下から萌さんが階段を上がってきていた。

 

 声をかけようと思った次の瞬間、萌さんは上りかけた階段を踏み外し、鈍い音をたててうつ伏せで倒れる。

 

 

「……大丈夫ですか萌さん」

 

 

 倒れてなかなか動かない萌さんを階段を下りて抱き起こすと、薄く開いた目がぼんやりとこちらを見ている。

 

 寝てたなこの人。

 

 

「階段を上がるときくらいは起きてましょうよ」

 

「ぅぅ……ん……あれ、瞬木くん、おはよう……っ!?」

 

 

 萌さんは痛そうに顔をしかめて、言いかけた言葉が途中で止まる。

 見れば萌さんの脚、すねと膝の部分が赤紫に腫れている。

 

 

「痛いです……捻ってはないみたいですが、私、転んでしまったんですね」

 

「そりゃ寝ながら歩いてるんですから転びもしますよ。はいこれ、幸い無事でしたよ」

 

「あ、木琴……壊れてなくてよかったです」

 

 

 俺から木琴を受け取った萌さんは大事そうにそれを抱き締める。

 

 その手首にも少し擦りむいたような赤みが見え隠れしている。

 

 

「とりあえず保健室に行きましょうか」

 

「それほど大したことではないのですが……」

 

「念のためですよ。立てますか?」

 

「はい、ありがとうございーーぅっ」

 

 

 俺が差し伸べた手を掴んでかろうじて立ち上がった萌さんだが、足はふらついており表情が苦痛で歪んでいる。

 このまま歩かせるのは少々いたたまれない。

 

 放課後になってそんなに時間も経っていないこともあり人もまばらにはいるが、幸いここから保健室はそこまで離れておらずあまり人が通るような場所でもない。

 

 ……やるならさっさとしよう。

 

 

「失礼、先に謝っときますよっ」

 

「はい?きゃっ……」

 

 

 所謂お姫様抱っこ。

 萌さんがスカートなこともあって人目につく場所ではできないが、今ならできる。

 

 というか案の定この人もスタイルかなり良いのにびっくりするくらい軽い。

 昼に鍋食べてるくらいだから普通もっと重くなるだろ。

 

 

「あの、瞬木くん?」

 

「少しだけ我慢しててください」

 

「……はい」

 

 

 短く答えた萌さんは、不思議そうな表情で赤みがかった顔のままをこちらを見上げている。

 

 なんか気まずい。

 

 

 

 

 

 

「痛くないですか?」

 

「はい。少し染みるだけですので」

 

 

 半ば駆け足気味に訪れた保健室は無人だった為、仕方なくできる範囲での応急処置を済ませる。

 

 なぜか保健室のベッドに腰を下ろした萌さんの脚にしゃがんで処置してる関係上、アングルが非常によろしくない。

 視線を少しずらせば中が覗けそうな神秘から目をそらしていると、ガラガラと保健室の扉が開かれる。

 

 

「先生、おでこに薬を……ってあれ?瞬木くん」

 

「ん……ななこ?」

 

 

 振り向くと、額に手を当てているななこがいた。

 

 

「なにをされて……あ、萌先輩こんにちは」

 

「彩珠さんですね。お久しぶりです」

 

「二人は顔見知りで?」

 

「小学生の時、水越さん……眞子さんと同じクラスで遊びに行ったことがあるので」

 

 

 眞子と友達か、性格的に随分と真逆なタイプだと思う。

 よく物理型に育たなかったな。

 

 

「それで、ななこはどうしたんだ?」

 

「たはは……考え事しながらボーッと歩いてたら、廊下で壁にぶつかっちゃって」

 

 

 ななこが額の髪をかき上げると、そこには赤いアザが。

 よほど勢いよくぶつけたんだろう。

 

 俺は萌さんが座っている隣をポンポンと叩く。

 

 

「なら丁度いい、こっち座って」

 

「えっ?」

 

「今、保健の先生がいなくて私も瞬木くんに薬を塗ってもらったところなんです」

 

「そんなわけで、ほら」

 

「な、なんだか恥ずかしいですが……お願いします」

 

 

 おずおずとベッドに座ったななこに向き合う。

 

 

「消毒液垂れるかもしれないから、眼鏡は外して髪抑えててくれる?」

 

「あ、はい。今外し……」

 

 

 ななこの眼鏡を外しかけた手が急に止まり固まると、徐々に顔が赤くなっていく。

 

 

「どうした?」

 

「あ、あの……やっぱり自分でやるというのは……?」

 

「今更でしょ。ほら」

 

 

 観念したのか、髪をあげ眼鏡を外して全力で目をつむっている。

 

 なにを気にしているかは分からないが、まあ問題ないだろう。

 

 

「じゃあ少し我慢してろよ」

 

「は、はいぃ……」

 

 

 少し染みるのか時折顔をしかめるが、おおむね消毒も無事に終わる。

 

 

「ありがとうございます」

 

「あ、待って」

 

 

 最後に軽く拭き取ろうと思ったが、ななこが髪を抑えてた手を離してしまったので、髪が張りつかないように慌てて押さえる。

 

 

「わ、わわわわ……」

 

「まだ少し湿ってるから、ちょっとだけ拭き取らせて」

 

「は、はい!!」

 

 

 ななこは行き場を失った手をなぜかブンブンと振っているが、気にせず拭き取る。

 

 処置が終わり額から手を離す頃には、ななこの顔は真っ赤だった。

 

 

「はい終わり」

 

「あ、あいがとうございまひゅ……」

 

 

 そんなに恥ずかしかったのか、目がどこか虚ろになっているが返事ができるなら平気か。

 

 

「瞬木くんは悪い男の子ですね」

 

「善行を否定されてる?」

 

 

 隣で見てた萌さんがいつもの笑顔で非難してくるが、納得いかない。

 

 

「それでは先生が来る前に退散しましょう」

 

「そうですね、薬品勝手に使ったわけですし。足は動かせそうですか?」

 

「はい。少し痛みますが、瞬木くんのお陰です」

 

「そうですか、じゃあ行きましょう。ほらななこ、一緒に帰るぞ」

 

「ひゃい……」

 

 

 若干正気を失っているななこに眼鏡をかけてやり、いつも通りニコニコの萌さんと共にななこを連れて、保健室を後にした。

 

 





もしお待たせしていた方おりましたら申し訳ありませんでした。

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