cal.   作:オタクは末端冷え性

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リチューン、発売してますね



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「えー!じゃあ今日は帰ってこないんですか?!」

 

「そうだな、明日の夜明けぐらいにはなると思う。ななこを連れてきた時より間違いなく遅くなるから、今度はちゃんと寝とけよ」

 

「それ朝帰りってやつじゃないですか!……もしかして」

 

「なんだ、もしかしてって。俺はただ、どうしてもやらなきゃいけないことがあるだけだ」

 

「あやしいですね。そんな夜遅くの学園で何するんです?」

 

「それはまあ、秘密かな」

 

「やっぱりあやしいじゃないですか!それじゃミハルは納得できませんよぅ!」

 

「悪いがそういうことだからさ、よろしく頼む」

 

「むぅぅ~……分かりましたよ。それで、先輩はさっきから制服に何してるんですか?」

 

「うーん、ちょっと細工」

 

 

 

────────

 

 

 

「珍しく物思いに耽ってんのか」

 

「……送り出される立場だと、こんな気持ちなんだな」

 

 

 午前中で卒業式が終わり、人の賑わう廊下を見て、どこか背中が哀愁漂う純一に声をかける。

 

 

「ちっとは感傷に浸れって?」

 

 

 隣に並び、肩を竦めてみせる。

 

 眼前の学生たちは先刻まで皆しんみりとしていたが、今はもう卒パへの期待で笑顔を浮かべている。

 

 そんな様子を眺め、純一はなにも言わず目を閉じて鼻を鳴らす。

 

 

「泣いて別れを惜しまれるよりか、よっぽどいいじゃないか」

 

 

 そもそも付属の卒業で、この島を離れる学生は数少ない。

 

 ほとんどはエスカレーター式で本校に上がり、なにか専門的なものを学ぶ場合、もしくは余程の家庭の事情とかでなければ、別れになることはない。

 

 卒業生でもなければ、この式で感傷に浸り続けるのは難しいのだ。

 

 

「それに、お前と杉並は毎年荒らしに荒らしまくってただろう。今年はよっぽどマシな方さ」

 

「ぐっ、返す言葉もない」

 

「せんぱーい!」

 

 

 聞き覚えしかない声に振り返ると、駆け寄る美春とその後ろから歩いてくる眞子。

 

 駆け寄ってきた美春が俺たちの前で止まり、息を整えて言う。

 

 

「瞬木先輩、朝倉先輩。卒業おめでとうございます」

 

 

 その言葉に、俺と純一は目を合わせた。

 

 ほら、お前の望んだやつじゃないのか?

 

 そんな感じで眉を上げる。

 

 純一は美春の首に手をやり、ガクガクと頭を揺らす。

 

 

「おぉ美春!お前は良い奴だ」

 

「朝倉先輩っ、そこ首です!揺らすなら肩にしてくださいよぅ~!」

 

 

 そんなバカなやり取りを眺めつつ、隣に立った眞子の横顔を見て、バカ達に視線を戻す。

 

 

「泣いたのか」

 

「えっ?」

 

「目、赤くなってる。あんま擦るなよ」

 

「あっ……うん。なんかさ、付属とはいえ最後なんだなって思ったら、ちょっとね」

 

「素直に涙を流せるのはいいことだよ」

 

 

 眞子が覗き込むように顔を寄せてくる。

 

 

「瞬木は泣いてないんだね」

 

「お生憎様、ドライな奴でして」

 

「瞬木が?まさか」

 

 

 眞子が柔らかく笑う。

 

 

「でもなんか、遠くを見てる感じがする」

 

「そう見えるか?」

 

「なんとなくね。こう、離れた場所から見てるみたいな」

 

「……よく見てるな」

 

 

 そう言うと眞子の顔は赤くなり、覗き込むのをやめた。

 

 

「わるい?」

 

「別に。悪い気はしない」

 

「……そ」

 

 

 あのバカどもは、いつの間にか帯回しの真似事をしている。

 

 そんな様子に呆れながら、眞子は一歩身を引いた。

 

 

「じゃあ、あたしそろそろ発表会の準備あるから、行くね」

 

「ああ、行ってこい。頑張れよ」

 

「ありがと。そうだ、音楽部の出し物で占いやっててさ。お姉ちゃんやってるから、時間あったら見に行ってあげて」

 

「分かった」

 

 

 そして背を向けて歩いていく眞子に声をかける。

 

 

「眞子」

 

「んっ、なに?」

 

「発表会、見に行って良いか?」

 

 

 聞くと一瞬驚いたような顔をして。

 

 

「うん。見にきて」

 

 

 頬を染め、明るい笑顔を見せて去っていった。

 

 随分と素直になったもんだな。

 

 そして奴らに視線を戻す。

 

 

「それで、なにしてんだお前らは」

 

「こいつがどうやら風紀委員の偵察だったみたいだから仕置きを」

 

「あ~れ~!」

 

 

 ホントにバカというかなんというか。

 

 

「それで、純一は少しは気が晴れたのか?」

 

「え?」

 

 

 今度は美春の頭を抱えてグリグリと拳を押し付けている純一が呆けた声を上げる。

 

 

「辛気臭いとまでは言わないが、どっか気難しい顔はしてたぞ。な、美春」

 

「そうですね。最近は音夢先輩もちょっと様子が変ですし」

 

「そうか」

 

 

 純一は考え込むように手を止め、難しい顔をしたり顔を赤くしたりと忙しそうにする。

 

 その隙に美春はするりと純一のヘッドロックから抜け出した。

 

 

「どうしたんですか、朝倉先輩」

 

「……いや、なんでもない。俺はそろそろ歩き回ってみるわ」

 

「そうか。それじゃまた始業式でな」

 

「家近いんだから、そんなに先にはならないだろ」

 

 

 純一は手をぶらぶらと振りながら、だるそうに歩いていった。

 

 

「大丈夫ですかね、朝倉先輩」

 

「ああ見えてやる時はやる奴だ。なんかあれば自分で助けを求めてくる」

 

 

 どことなく心配そうな様子で、美春は純一が去っていった方を見つめる。

 

 結構仲良いからな、コイツら。

 

 

「それで美春はこれからどうするんだ?」

 

「うーん……監視対象の朝倉先輩があの様子ならなにもしないでしょうし、月城さんと遊んじゃっても良いかもしれません」

 

「いいじゃん。じゃあ体育館裏行くか」

 

 

 俺が一緒に歩き始めると、期待した眼差しでこちらを見る美春。

 

 

「瞬木先輩も一緒に卒パ回ってくれるんですか?」

 

「あー、悪いがちょっと今日は立て込んでてな。色々顔出さなきゃいけないとこあるから、一緒には回れない」

 

 

 そう言うと、目に見えない耳と尻尾が垂れるように落ち込む。

 

 

「うぅ、そうですか……じゃあ体育館に用事が?」

 

「ちょっとだけね。ついでに月城さんの様子も見とこうかなって」

 

「じゃあ、そこまでは一緒にいきましょう!」

 

 

 気分を持ち直し、明るく振る舞う美春。

 

 最近は一緒にいる事が多いから必然的にミハルの相手ばかりしているが、こちらの美春にもちゃんと向き合わないとな。

 

 

 

 

 

 

「あっ、白河先輩」

 

 

 二人で体育館裏に向かう途中、廊下の曲がり角からことりが出てきて、美春がいち早く反応する。

 

 

「おっす」

 

 

 俺が手を上げて挨拶すると、ことりは手を敬礼のようにして返してくる。

 

 

「瞬木くん、天枷さん。こんちわっす」

 

「こんにちは、白河先輩!」

 

「どうだ、準備の方は」

 

 

 俺が様子を聞くと、ことりは自信満々……とまではいかないが、余裕がある笑みを浮かべる。

 

 

「演奏は夜頃なのでセッティングはまだだけど、事前準備はもうばっちぐーですよ」

 

「白河先輩の演奏、観に行きたいです!」

 

「じゃあ天枷さんも、時間に余裕があれば是非来てくださいね」

 

「はい!」

 

 

 まるで子どもを相手にするかのような、慈しみの笑顔で美春の相手をすることり。

 

 

「そうか。まあ俺が心配してるのはもう片方の準備なんだけど」

 

 

 俺の言葉に、ことりの笑みが引きつる。

 

 そしてゆっくりと溜め息を吐いた。

 

 

「ミスコンの方は……もう諦めの気持ちで参加しますよ。準備もまだ時間ありますから」

 

「白河先輩、ミスコン出るんですか?」

 

「うん。衣装を借りるのに身売りしろって瞬木くんたちに言われちゃって」

 

「人聞き悪すぎんだろ」

 

 

 よよよ、と泣くフリをすることりを見て、美春はじっとりとした目でこちらに視線を向ける。

 

 やめてください、俺はただ晴れ姿を見たいとしか言ってないです。

 

 

「今年は音夢さん参加しないだろうし、向かうとこ敵なしじゃないか?」

 

「勝つ勝たないが問題じゃないんですよ~」

 

「でも美春、白河先輩の素敵な姿見てみたいです!」

 

「うーん、そう言われちゃうと弱いかなぁ」

 

 

 美春のキラキラとした瞳に、流石のことりもことりも困ったような笑みを浮かべながら屈する。

 

 案外相性良いのかもな、この二人。

 

 

「それでその……」

 

「ん?」

 

 

 ことりが様子を伺うように、慎重に言葉を続ける。

 

 

「お二人はこれから一緒に……その、卒パを回るんですか?」

 

 

 その言葉に、隣の美春の瞼がぴくりと跳ね、頬が朱に染まる。

 

 美春は一瞬上目遣いでこちらをみると、すぐにことりに向き直って誤魔化すように手を振り否定する。

 

 

「違いますよ!先輩とは今から向かう場所が同じで、そこまでは一緒に、っていうだけです。ね、先輩?」

 

「ああ。色々とすることが多くてな」

 

「……そうなんですね」

 

 

 ふっと息を吐いて表情が軽くなることり。

 

 

「それじゃ俺たちは行くから、頑張れよミスコン」

 

「はい……見にきて、くれますよね?」

 

 

 そう尋ねる彼女の表情は、まだ不安と緊張を滲ませている。

 

 

「勿論。ちゃんと出番の時には見に行くから」

 

「……うん。見にきてね」

 

 

 そして美春を連れてことりと別れる。

 

 少し歩くと美春がぐいっと身体を寄せて小声で呟く。

 

 

「……もしかして、お付き合いされてます?」

 

「お前も聞くのかそれ。付き合ってないよ」

 

「でも、凄く仲良しって感じでしたよ?」

 

 

 隣の美春の頭に手を乗せ、わしゃわしゃと髪が乱れない程度に撫でる。

 

 

「お前とさして変わらねぇよ。なんならこんなふうに気軽に撫でるのはお前くらいだし」

 

「んぅ……なんか先輩、浮気を誤魔化す旦那さんみたいですね」

 

「今すぐお前の髪の毛むしりとっても良いんだぞ俺は」

 

 

 

 

 

 

「月城さーん!」

 

 

 体育館裏には、こんなイベント日にも関わらず、いつも通り例の植物の前でしゃがみこむ月城さんがいた。

 

 隣の美春は駆け出して、月城さんに体当たりをかます勢いでその手を取った。

 

 

「月城さん、さあ、遊びにいきましょう!」

 

「あっ……え?……え?」

 

「気が早すぎる」

 

 

 突然の美春の襲来で、月城さんは目を白黒させている。

 

 

「こんにちは、月城さん」

 

「ぁ……こんにちは……」

 

 

 こちらを見た月城さんは、一瞬なにかを言おうとしたように見えたが、挨拶だけを返してくる。

 

 

「ねっ、月城さん!温泉卓球部のバナナミルクサンデー食べに行きましょうよ!」

 

「あの……」

 

「いいですよね、月城さん!」

 

「……えっと」

 

「すっごく美味しいと評判なんですよ!」

 

「……あ、はい」

 

 

 美春の勢いに押され、月城さんはあれよあれよという間に流され返事をする。

 

 ……多分日常からこうなんだろうな。

 

 

「じゃあ行きましょう月城さん。バナナが美春を待ってるんです!」

 

「あっ……」

 

 

 そう言うと、美春は一人でびゅーんと駆け出していった。

 

 さっき俺とここまで来るときはのんびり話ながら来たのに、いきなりギア入れたな。

 

 

「追いかけなくていいの?あの犬はリード繋いでないとあっちこっちに駆け回るぞ」

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

「……瞬木先輩」

 

 

 恥ずかしそうな月城さんが、俯きがちだがちゃんとこちらに目線を向けて、小さな口を開く。

 

 

「卒業、おめでとうございます」

 

「……ん、ありがと」

 

 

 月城さんの頭に手を置く。

 

 瞬間きゅっと目を閉じた月島さんだったが、軽く撫でると目を開いて受け入れ、撫でるのに動く腕をじっと見つめている。

 

 ……違う、なんで撫でたんだ俺。

 

 さっきまで美春といたからスキンシップの距離感バグってるな。

 

 さっと手を引くと、引いた手を少し見つめて。

 

 

「……失礼します」

 

 

 一礼して彼女は、美春が去った方に走っていった。

 

 彼女が去り、体育館裏は俺とこの植物のみ。

 

 俺は近くのブロックに腰を掛けながら。

 

 

「お久しぶりです。つっても数日ぶりくらいか」

 

 

 後ろから音を立てず近づいてきた彼女に声をかける。

 

 

「はにゃっ、なんでわかったの?」

 

「雰囲気」

 

「ボク、オーラとか出てるのかな……」

 

 

 首を傾けて後ろを見ると、さくらさんがすぐそばにいた。

 

 

「それで、ご用件は?」

 

「……」

 

「用がなきゃこんなとこ来ないし、わざわざ俺が一人になるのを待ってたんでしょ」

 

 

 彼女は儚げな笑顔でこちらを見つめる。

 

 

「……桜の魔法、解くよ」

 

「そう」

 

「驚かないんだね」

 

「分かりきってたことだし」

 

 

 魔法使いとしても、記憶としても。

 

 

「ちゃんと伝えてくれるとは思ってなかったけど」

 

「あっきーも無関係じゃないんだよね?」

 

「まあね。とはいえ、あの桜について知ってることなんて、ほぼないんだけど」

 

 

 俺はあくまであのババアの知り合いってだけで、 桜自体の話は何一つ聞いてないし。

 

 知っているのは、あの桜が今暴走状態にあり、善悪関係なしにランダムで願いを叶える装置と化してしまっていること。

 

 なんにせよ誰かが止める必要がある。

 

 

「それで、さくらさんはしばらく準備を?」

 

「うん。少しずつだから、急に忙しくなったりはしないけど」

 

「手伝いが必要なら呼んでくれ」

 

「……ううん、大丈夫だよ。これは、ボク一人でやらなければいけないことだから」

 

 

 さくらさんの表情には、その歳や容姿にそぐわない、使命を背負う覚悟が垣間見える。

 

 俺はそんな彼女の表情を見たくなく、逃げるように目をそらし、例の植物を見る。

 

 彼女が俺の視線を追うと、それが目に入ったらしく。

 

 

「この花、もしかしてロスキルラベンダー?」

 

「ご明察。流石、博士号持ちなだけある」

 

「ありがとう。でもどうしてこんなところに?」

 

 

 さくらさんは興味深そうにロスキルラベンダーに近付き、しゃがみこんでじっくりと観察する。

 

 それは普段の可愛らしい彼女でも、先程の儚げな彼女でもなく、自身の興味を突き詰めた理知的な彼女の姿。

 

 そんな彼女の様子を後ろから見守る。

 

 

「さっき俺といた人形抱えた女の子いたでしょ。あの子が植えたものだよ」

 

「そうなんだ。でも、この花が日本でここまで育つなんて普通ないんだけどなぁ」

 

「絶対じゃない以上、育つ場合もあるでしょ?ただこの島で考えるなら、桜の奇跡が手を貸してる可能性はある」

 

 

 そこら辺のはっきりしたことは俺には分からないけど。

 

 

「ちなみに、咲いたらどうのこうのっていう話も知ってる?」

 

「わずかな時間しか咲かない花に願いをこめれば叶う、なんて言われてるね。でも温度差による病害がでてるから、花をつけるのは無理だと思うよ」

 

「無慈悲だな」

 

「植えた子が可哀想ではあるけど、葉っぱや茎の状態をみれば大体分かるんだ」

 

 

 伊達に博士号してないな。

 

 月城さんが聞いたら絶望してしまうだろう。

 

 

「でも、植物博士としては凄く興味をそそられるね。花をつけないとしても、ここまで育つなんてそうそうないもん」

 

「じゃあ、そんな君にお願いがある」

 

 

 さくらさんはロスキルラベンダーに向けていた視線をこちらに移す。

 

 

「うにゃ、お願い?」

 

「少しの間、一本持っていってほしい」

 

 

 彼女は一瞬驚いた素振りを見せた後、少し複雑そうな顔でこちらを見据える。

 

 

「それはボクからすれば願ったり叶ったりだし、一本程度なら影響もないだろうけど……」

 

「育ててる子のこと、気にしてる?」

 

「うん。問題はないとは言っても、大事に育ててるのは分かるから。勝手にいいの?」

 

「なにか問題があっても俺の責任にして良いから、一本だけ持っていってくれ。できれば彼女がいない今ね」

 

 

 成り行きに任せたいところではあるが、念の為にさくらさんには一本確保しておいてもらいたい。

 

 今後の展開のカバーはできるけど、正直運に頼りたくはないし。

 

 

「期間はさくらさんの方で研究が終わるまででいいよ。終わったらそっと植え直しといて」

 

「分かった。じゃあ、ちょっとだけ拝借させてもらうね」

 

 

 さくらさんが拝借する一本を吟味し始めた ので、俺は立ち上がる。

 

 それに気が付き、彼女はこちらに顔を向ける。

 

 

「もう行くの?」

 

「ああ。君とはゆっくり話していたいけど、今日はなにかと忙しくてね」

 

「卒パで?」

 

「諸々で」

 

 

  尻についた土埃を払い、表に向かって一歩踏み出して、振り返る。

 

 

「そうだ、一応俺からも言っておくことあった」

 

「うにゅ?」

 

「今日、何度か強い魔法の反応があるんだけど、それ全部俺だから気にしないで」

 

 

 そう言うと、彼女の眼差しは少し鋭くなる。

 

 

「……何をするつもりなの?」

 

「俺の目的の為の行動。今後のそちらの活動に悪影響を及ぼすものじゃないから、安心してほしい」

 

「誰かが怪我をしたりは?」

 

「しない。影響を受ける人はいるけど、その人の安全は俺が絶対に保証する」

 

 

 そこまではっきりと言うと、彼女は少しの思案の後、目に優しさが戻り頷いてくれる。

 

 

「あっきーが悪いことをするとも思えないし、そこまで言うなら分かったよ」

 

「悪いね。それともう一つ……まあアドバイスみたいなもんなんだけど」

 

 

 さくらさんは首をかしげ、無邪気な表情でこちらを見る。

 

 

「もう少し、我が儘になっていいよ」

 

 

 

────────

 

 

 

「よお色男。こんな日にベンチで日向ぼっこか?」

 

「タイミングが良いではないか、同士よ」

 

 

 体育館で眞子たち音楽部の演奏を堪能し、余韻に浸りながら中庭まで歩いてくると、ベンチには杉並の姿が。

 

 その手首にかけられた手錠は、彼とベンチに永遠の誓いを約束させている。

 

 人の伴侶に腰かけるつもりはないので、正面に立って話すとしよう。

 

 

「どこから見ていた?」

 

「本当に来たばかりだよ。お前にその素敵なアクセサリーを着けていった音夢さんの後ろ姿が見えただけ」

 

「そうか。まあ嘘であれ真実であれ、お前は既に知っていることだろうが」

 

「あの兄妹の話?」

 

 

 杉並はベンチに繋がれた手をそのままに、背もたれに寄りかかってこちらを見上げる。

 

 

「やはり知っていたか」

 

「まあ俺は本人から話聞いてるし」

 

 

 聞いたというか、脅して吐かせたみたいなところはあるけど。

 

 

「まったく、世話の焼ける兄妹だ」

 

「青春って感じでいいじゃんか。お前のことだし、背中押してやったんだろう?」

 

「なんだ、瞬木は俺をキューピッドかなにかだと思っているのか?」

 

「まさか。でもお前は本気で悩んでる友人の恋路を茶化すようなやつじゃない」

 

 

 お前がキューピッドなんてしようものなら、九割方デスゲームになるだろ。

 

 

「どうせ茶化すなら付き合った後に、だろ?」

 

「はっはっは!流石は同士だ、俺のことをよく分かっている。どうだ、俺と共に長官に仕えてみないか?」

 

「勘弁してくれ」

 

 

 誰がテメェのわけわからん組織に肩入れなんぞするか。

 

 

「お二人とも楽しそうですね」

 

 

 高笑いする杉並に引き寄せられたのか、ななこが校舎側からやってくる。

 

 

「よっす」

 

「おお、ななこ嬢。式中はぐっすりと眠っていたが、お目覚めかな?」

 

「あはは、バレてましたか」

 

 

 ななこは苦笑を浮かべながら、人差し指で頬を掻く。

 

 恐らくまた寝不足だったんだろう。

 

 

「それで、杉並くんのその手錠はいったい……?」

 

「気にしないでやってくれ。趣味みたいなもんだから」

 

「しゅ、趣味なんですか?」

 

「おいおい。こんなオモチャ程度が俺の趣味になり得るとでも?」

 

 

 「こんなものいつでも抜け出せるぞ」と、杉並はわざとらしくカチャカチャと手錠の音を鳴らす。

 

 ほら見ろ、ななこがどんな顔していいのか分からなくて愛想笑いしてんぞ。

 

 

「ななこは卒パ見て回るのか?」

 

「うーん……一応ひと回りはしてみようかなと思ってましたけど、ちょっと眠気が強くて悩んでます」

 

 

 彼女の目元は赤く、恐らく擦ったのであろうことが窺える。

 

 俺がしっかりとななこの目元を見つめると、彼女は少し視線を外してほんのり頬を染めた。

 

 

「瞬木くんは、どうされるんですか?」

 

「俺はちょっとな……やることだったり顔出すところが多くて。余裕があれば一緒に回ってもよかったんだが」

 

「……やっぱり、そうですよね」

 

 

 なにがやっぱりなのか分からないが、ななこの笑顔は寂しさを感じさせる。

 

 そんな寂しげに笑うななこを見て、杉並は溜め息を吐く。

 

 

「お前もなかなか罪な男だな、瞬木」

 

「へぁっ?!ちょ、杉並くん?!」

 

「ななこ嬢。この男にはストレートに言ってやらんと伝わらんぞ」

 

 

 ななこが顔を真っ赤にして杉並とこちらを交互に見て首をぶんぶんと振っている。

 

 ……別に。

 

 別に、分かってねえ訳じゃねぇよ。

 

 

「悪いな。今日だからこそっていうのは分かるけど、今日だけは全部やり遂げなきゃいけないんだ」

 

 

 俺の言葉に杉並が眉をひそめる。

 

 

「ほう、お前も俺のようになにかミッションがあると?」

 

「侵略者から地球守ってるとぬかすお前ほど、大それた使命はないけどな」

 

 

 目を閉じてわざとらしく肩を竦める杉並を放っておき、ななこを真っ直ぐ見つめる。

 

 

「だから悪いな、ななこ。埋め合わせといっちゃなんだが、またウチに本を読みに来てくれ」

 

「あっ……はい」

 

 

 沸騰しそうなほどに顔を赤くし、小さく頷くななこ。

 

 さて、そろそろ次の場所に行こう。

 

 

「じゃあ、俺は行くよ。帰って寝るにせよ卒パを荒らすにせよ、今日を楽しめよ」

 

 

 手を少し挙げて二人に背を向け、校舎に歩き出す。

 

 ついでに挙げた手で指を鳴らした。

 

 

 

*────────*

 

 

 

 カチリ、と。

 

 彼が指を鳴らすと、杉並くんの手錠が開いた。

 

 

「やはり、なんとしてもアイツは組織に引き込みたいな」

 

 

 杉並くんは手錠が繋がれていた手首を軽く撫でる。

 

 マジックなんだろうか。

 

 先程まで確実に鍵がかかっていた筈なのに。

 

 

「……杉並くんは瞬木くんのこと、どれくらいご存知なんですか?」

 

「分からん」

 

「えっ?」

 

「性格や趣味などは見ていれば分かる。だが本来軌跡として残っているはずの過去が何一つ分からん」

 

 

 いまいち杉並くんが言っている言葉が、漠然としすぎていて理解できない。

 

 

「えっと、それはつまりどういう……?」

 

 

 おずおずと聞くと、杉並くんは彼が去っていった方を目を細めて見つめる。

 

 

「例えば学歴。この学園の前にヤツがいた学校の情報が一切ない。この島のみならず、本島のどこを調べても出てくることはなかった」

 

「その……海外に行ってたとかでは?」

 

「ここ十年間で瞬木が海外に行った経歴はない。まあそれより以前やそもそも生まれが海外ならそれで済む話なんだが……」

 

 

 杉並くんの話を聞いてますます混乱してくるが、ふと思い出すことがある。

 

 

「……イギリス」

 

「なに?」

 

「あっ、あの……この前ちょっと瞬木くんのお家にお邪魔させてもらったことがあって。書斎に凄いたくさんの本があって色々見せてもらったんですけど……」

 

 

 あの日の夜更け。

 

 彼の家に招かれたとき、まるで夢のようなたくさんの蔵書に囲まれて夜を明かしたけれど。

 

 

「瞬木くんが言ってたんです。イギリス英語の本があるって。あたしも興味があって何冊か手に取ったんですけど、結局読めなくて」

 

「……イギリス英語の本がどのくらいあったかは分かるか?」

 

「片端から調べたわけじゃないのでハッキリとは分かりませんけど、背表紙を見た限り本棚四つ分くらいはあったと思います」

 

 

 あたしの話を聞くと、顎に手を当てて黙ってしまう杉並くん。

 

 深く考え込んでいるようで、いつもの杉並くんらしい飄々とした雰囲気がない。

 

 

「ななこ嬢は、瞬木のことが好きなのだろう?」

 

 

 杉並くんの突然の言葉に身体が跳ね、頬どころか耳や首元まで熱が伝わる感覚が奔る。

 

 

「別に答えなくていい。ななこ嬢がどうであれ、俺は誰かにアイツを繋ぎ止めてほしいと思っている」

 

「繋ぎ、止める?」

 

 

 杉並くんが頷き、続ける。

 

 

「自分からは踏み越える割りに、他人には跨がせない。そんな線をアイツは一本引いているように見える」

 

 

 彼は外れた手錠を手に取り、鍵穴を覗く。

 

 

「本人は無色透明のような人間なのに、まるで何かに塗り潰されているかのように奥が見えない。全く、面白いやつだ」

 

「不思議な人ですよね、瞬木くん」

 

「掴みどころのなさは俺以上だろう。誰かが繋ぎ止めておかねば、いつの間にかどこかへ消えていくかもしれん」

 

 

 瞬木くんの存在がどこか遠くに感じることは、あたし自身思い当たる節はあるけれど。

 

 杉並くんの大袈裟な言葉に、少しだけ冷たい感覚が背中を伝う。

 

 

「そうですか?流石に考えすぎじゃ……」

 

「そうであるといいんだがな」

 

 

 杉並くんはベンチから立ち上がり、手錠を近くのゴミ箱に捨てる。

 

 

「ではな、ななこ嬢。健闘を祈る」

 

 

 それだけ言って彼は去る。

 

 残るはベンチの前に佇むあたし一人。

 

 

「……」

 

 

 瞬木くんの周りには可愛い女の子がいっぱいいる。

 

 白河さんとの噂もあるし、そうでなくとも眞子さんや萌先輩と仲が良いのも知っている。

 

 あの夜抱いてしまったこの想いは、無謀なものだったのかもしれない。

 

 でももし。

 

 もし彼の隣に立つことができたなら。

 

 それはどれだけ──────

 

 

 

*────────*

 

 

 

「凄い格好ですね」

 

「あ、瞬木くん。いらっしゃいませ~」

 

 

 彼女に向かい合う形で置かれた、テーブルの前の椅子に腰を掛ける。

 

 いつも通り間延びした声で話す萌さんの姿は、巫女服に数珠ネックレスを首からさげ、頭に着けた鉢巻きにろうそく型の電飾をくくりつけている。

 

 ここは音楽部の出し物である『占いの館』。

 

 眞子が言っていた、文字通りの占いの出店であり、教室だった部屋に入ると暗幕で光が遮られて雰囲気作りがされている。

 

 何人か占い師役がいるらしく、入り口で萌さんのをお願いしたところ快く通された。

 

 通常、占いといえば誕生日やタロット、手相なんかが思い当たるが。

 

 

「萌さんはどんな占いなんですか?」

 

「木琴占いです」

 

 

 随分と聞き馴染みのない組み合わせだこと。

 

 

「えっと、どうやって占うものなんでしょうか」

 

「木琴を叩いて、音の違いで占うんです」

 

「……同じところ叩いたら同じ音が出るはずでは?」

 

「そんなことないんですよ~。私、同じ音を出せることってあまりありませんから」

 

 

 木琴って楽器だよな?

 

 俺の知ってる木琴でいいんだよな?

 

 

「……分かりました。ちなみに何が占われるんでしょうか」

 

「運勢占いです。今日の運勢と五十年後、百年後の運勢を占いますね」

 

 

 今日はともかく来月と一年後くらいにしとこうよ。

 

 そう言いたい気持ちを喉元で止める。

 

 そうこうしている間に、先輩は手元の木琴をマレットで叩き、奏で始める。

 

 すごいね、同じところ叩いてる時、本当に違う音が鳴ってるや。

 

 世界がバグってるのか……いや、この人がバグらせているんだろうか。

 

 

「は~い、でました~」

 

 

 しばらくして彼女の演奏……演奏でよかったんだよな?が終わり、マレットが置かれる。

 

 

「まず、今日瞬木くんの運勢は……大凶です。すごく悲しいことがあるみたいなので、心を強く持ってくださいね」

 

 

 ……。

 

 

「五十年後も大凶です。あれ~?でも長年の夢が叶うみたいですよ。不思議ですね」

 

 

 …………。

 

 

「百年後は……ありますね、大吉です。嬉しいサプライズが待っているそうです。瞬木くんは長生きですね~」

 

 

 ………………。

 

 なんと、まあ。

 

 

「百年後ってあるんですかね」

 

「分かりませんけど、占いはそう出てますよ」

 

 

 世界をバグらせている萌さんの言うことだ、きっとそうなのだろう。

 

 

「ありがとうございます、すごく励みになりました。二つ大凶だったけど」

 

「ごめんなさい、良い結果にならなくて」

 

「占いはあくまで占いですから」

 

 

 申し訳なさそうにする彼女のテーブルに置いた手を見て、安堵する。

 

 

「それ、ちゃんと着けてくれてるんですね。安心しました」

 

「ブレスレットですか?勿論です。瞬木くんから頂いた大事なものですから」

 

 

 言われて彼女は慈しむように手首に着けているブレスレットを撫でる。

 

 

「それに、着けているととっても安心するんです。眠っているときも、温かいんですよ」

 

 

 ブレスレットを見る彼女の瞳の奥が暗く揺れている。

 

 

「……萌さん」

 

「はい?」

 

「怖くて、辛くて、苦しくなったら、誰かを頼ってください」

 

 

 萌さんの手を取り、いつかされたように彼女の手を両手で包む。

 

 

「誰でも良い。親御さんでも、眞子でも……俺でも。自分一人で抱え込むことだけはしないと、約束してください」

 

「……瞬木くん?」

 

「話すだけでいいんです。それだけでもきっと、優しい貴方なら理解できるから」

 

 

 彼女の瞳がじっと俺を見つめる。

 

 何かを確かめるように。

 

 

「約束、してください。萌さん」

 

 

 少しして、彼女は頷いた。

 

 

「……はい。分かりました」

 

 

 萌さんの返事を聞き、包んでいた手をそっと離す。

 

 離された彼女の手は一瞬指先が伸び、すぐに軽く握られて元の位置に戻る。

 

 俺は席を立ち、椅子を元の位置に戻す。

 

 

「今日は早めに眞子と帰って、ゆっくり休んでください」

 

「それも、約束ですか?」

 

「いいえ。これはただのお願いです」

 

 

 それだけ伝え、一礼して教室を出る。

 

 俺にできることはここまでで、後は萌さん次第。

 

 さて、それじゃあ向かいますか、ビッグイベントを見に。

 

 

 

────────

 

 

 

 体育館に戻ってくると、既にイベントは終盤に差し掛かっていた。

 

 照明が消され、暗幕で外からの光が遮られた今、唯一照らされるのはステージの上。

 

 手芸部の司会によって進行され、ステージ上に一人ずつ登壇する様々な衣装の女の子。

 

 そう、ミスコンだ。

 

 館内を二分割にして、ステージ側は人で溢れかえっており、正面入り口側はまばらに人がステージを眺めている。

 

 溢れかえる学生の約七割ほどは男子たちで、美少女をより近くで見ようと前の方で詰め合っており、その後ろでイベント見たさで来た女子も混じっている形。

 

 体育館に来る途中、校舎の方のひと気がかなり薄くなった辺り、風見学園の学生の半数以上が見に来ているのだろう。

 

 

『続きましてエントリーNo18。付属三年一組、無所属、紫和泉子さん!』

 

 

 紹介とともに壇上に上がった少女の姿が照らされる。

 

 ああ、参加してるんだ、紫さん。

 

 壇上の彼女の姿は、いつものピンクのクマの着ぐるみではなく、また他の人が普段見ている痩せ形で黒髪の彼女の姿でもない。

 

 桃色の髪にパッチリと開いた大きな瞼。

 

 可愛らしい洋服にクマのフードを被った彼女の姿は、小学生と見紛うほどに小さく、幼い少女だった。

 

 その姿に男子のみならず、女子も歓声をあげている。

 

 その勢いに押され、紫さんは若干困惑している。

 

 

「あやや……えっと、紫和泉子です」

 

 

 司会に次々と質問され、緊張しながらも答える紫さん。

 

 地球上で生身で過ごす事が難しい彼女は、クマの着ぐるみ型のスーツにもう1つ、簡易スーツというものを所持している。

 

 本来の容姿をそのままにただ服を着るように着脱でき、着ぐるみ型より遥かに優れた性能のものが簡易スーツ。

 

 しかし簡易スーツは故障しており、性能を引き出すのにエネルギーが大量に使用されるため、それを補える宇宙船が故障している彼女は使用できなかった。

 

 それが今こうして着れているあたり、宇宙船の修復が順調に進んでいる証だろう。

 

 そろそろお願いを伝える頃合いも近いか。

 

 

「あっ」

 

 

 質問が終わり降壇する間際、紫さんが大振りで手を振る。

 

 観客はファンサービスのようなものだと思っているが、目線は明らかにこちらに向けられている。

 

 凄いな、明るい壇上から暗い館内、それもステージから随分と離れている俺を見つけるとは。

 

 単純に目が良いのか、それとも簡易スーツにそんな機能あったっけか?

 

 そんな事をぼーっと考えていると、いよいよミスコンもラストの参加者となる。

 

 

『それではエントリーNo20。手芸部推薦の本命!風見学園付属三年三組、白河ことりさんです!』

 

 

 そう紹介され登壇することりに、館内のボルテージが一層上がる。

 

 男子たち野郎共の歓声が、体育館を震わせるほどに響き渡る。

 

 壇上に立った彼女が館内を見渡すと、一瞬こちらを見て視線が止まったような気がした。

 

 

『えー、白河さん。ラストを飾るお気分はいかがですか?』

 

「そうですね、なんだか待ちくたびれちゃった感じがします」

 

『何やら余裕のある発言ですね。自信の表れでしょうか?』

 

「ち、違いますよー。今だってドキドキして胸が痛いくらいなんですから」

 

 

 ことりが胸を押さえる仕草に、館内の男たちが一喜一憂する。

 

 まあめちゃくちゃ綺麗だし。

 

 いつかことりの家で見たそのドレス衣装は、実際に身に纏えば想像の何倍も美しく、ことりが元来持つ麗人さを際立たせている。

 

 見たいと伝えた甲斐はあったなぁ。

 

 

『では質問に入る前に、なにかコメントやアピールポイントがあればどうぞ』

 

「えっと、時間は大分遅いんですけど、友達と一緒に楽曲の演奏をするんです。良かったら皆さん、聴きに来てくださいね」

 

 

 しっかり宣伝もしている辺り、それほど緊張していないのかもしれない。

 

 それからしばらく司会のくだらない質問が続き、徐々に空気が張り詰めていく。

 

 そして。

 

 

『では、最後にしてとっておきの質問をさせていただきたいと思います』

 

 

 喉を鳴らす音が、そこら中から微かに聞こえる。

 

 

『ずばり、好きな人の名前は?』

 

 

 シンと静まりかえった体育館。

 

 ことりの様子は落ち着いていた。

 

 

「……実は、その質問を待っていたんです」

 

 

 ことりの言葉に館内がざわめく。

 

 遠目から、彼女の手がぐっと握られるのが見える。

 

 その手の中には……。

 

 

『えーっと……待っていた、と言いますと?』

 

「衣装を借りるのにミスコンに参加したのは勿論ですけど、もう1つ。その人に想いを伝えたくて、参加したんです」

 

 

 よりざわめきが強くなる。

 

 

『……失礼、あまりの衝撃に固まってしまいました。それではお訊ねしましょう』

 

 

 司会の言葉に、一瞬にして館内から音が消える。

 

 

『ずばり、その人の名前は?』

 

 

 俺は体育館の壁に手をつける。

 

 

「それは……」

 

 

 ことりが口を開いたその直後。

 

 

 

 ガキンッ!

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 鋭い金属音が館内に響く。

 

 壇上のことりを真上から照らしていたスポットライトが、彼女に向かって一直線に落下する。

 

 音を聞いたことりは、呆然と頭上を見上げた。

 

 彼女の足は動かない。

 

 既に落下物と彼女の距離は避けられるようなものではない。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

*────────*

 

 

 

 特にすることもなく卒パを一人で見て回っていると、不意に未来が見えた。

 

 ミスコンの会場で白河さんに降りかかる不幸。

 

 命が関わるその予知に、私は巫女服姿で弓を携え体育館に駆け出す。

 

 そして体育館に近づいたとき。

 

 

「……あれ」

 

 

 無性に、入りたくないと頭が拒否している。

 

 ぐずぐずしていたら白河さんが危ないと分かっているのに、体育館への一歩が踏み出せない。

 

 しかし私は首をぶんぶんと左右に振り、雑念を払って体育館の正面口の扉を開けて。

 

 そして絶句した。

 

 

「やあ。遅かったね、胡ノ宮さん」

 

「……瞬木、様」

 

 

 館内に入ってすぐの入口脇、彼が壁に手をついて立っていた。

 

 

「あの、瞬木様……これは……」

 

 

 彼から視線を外し、再び館内全体を見る。

 

 

 

 

 時が、止まっている。

 

 

 

 

 比喩ではない。

 

 大勢いる学生たちの後ろ姿は凍りついているかのように動かず、音が何一つ聞こえてこない。

 

 そして壇上。

 

 スポットライトが空中で止まっている。

 

 吊られている訳ではない。

 

 明らかに落下している最中のそれは、空中で固定されたかのように止まっている。

 

 そしてその下では白河さんが上を向いて固まっている。

 

 一先ず白河さんが無事なのを見て安堵し、彼に尋ねる。

 

 

「あの、瞬木様。これは一体……」

 

「ご想像の通り、俺の仕業」

 

「これは、なんなのでしょうか?」

 

「魔法。君も以前体感したものだよ」

 

「以前……?」

 

 

 ……図書室の時だ。

 

 あの時間違いなく、瞬木様とあの女学生は本棚に潰されるはずだった。

 

 しかし気が付けば目の前に彼の姿があり、その側に女学生もいた。

 

 あの時、私は止められていた側だったのだろう。

 

 だからこそあの時、まるで時間が飛んだかのように目の前に彼が現れたのだろう。

 

 

「さて、あとは胡ノ宮さんの出番だ」

 

「えっ?」

 

「その弓であのスポットライトを撃ち抜いてくれ」

 

「えっ……えっと、それは構わないのですが……」

 

「なんでそんなまどろっこしいことをって?」

 

 

 そう。

 

 こんな凄いことが出来るなら、別に瞬木様が自身で何とでもできたはず。

 

 なのになぜ私に?

 

 

「まあ、君の立場の改善かな」

 

「私、の?」

 

「今のままでは、胡ノ宮さんは白い目で見続けられることになる。本校に上がってもそれでは、君が苦しいだけだろう」

 

「それは……そうかもしれませんが……」

 

「だから、君が白河ことりを助けたとなれば話は変わる。間違いなく胡ノ宮環の評価は反転するだろうね」

 

 

 彼の気遣いに嬉しさがある反面、一歩間違えれば白河さんに危険が及ぶ行動に素直に喜ぶこともできない。

 

 

「というより、俺がなにもしなければ、本来そうなるはずなんだ。ただ俺の存在と行動がどれだけ影響を与えるか分からない以上、こんな手の込んだ形にさせてもらった」

 

「本来の……?影響……?」

 

「まあその辺の話はともかく、万が一ことりにスポットライトが当たったとしてもことりは無傷だし、むしろスポットライトの方が木っ端微塵になる。そういう保険もかけてあるからね」

 

 

 彼の話をうまく飲み込むことは出来ないが、つまり安全が保証された上での行動だったのだろう。

 

 ならば問題はない……のだろうか。

 

 

「それじゃアレ、撃ち抜いてくれる?」

 

「……はい。分かりました」

 

 

 彼に言われ、弓を握り直して呼吸を整える。

 

 そして弓を構えて矢を引き、狙いを定めて矢を放つ。

 

 放たれた矢が風を切り、スポットライトに当たると、その瞬間に矢の時間も止まってしまう。

 

 

「これで大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫。俺が魔法を解いた瞬間にエネルギーが戻って、矢がスポットライト吹っ飛ばすから」

 

 

 瞬木様は壁から手を離し、私が入ってきた正面口から彼が出ていこうとする。

 

 

「それじゃあ、俺は先生にトラブルがあったって伝えてくる。あと数分もすれば勝手に動き出すから、胡ノ宮さんはそのまま居てね」

 

「あの、瞬木様っ」

 

「ん?」

 

 

 私の呼び止めに応え、瞬木様は振り向いてこちらを見る。

 

 思わず彼を引き留めたが、何を言えばいいか分からない。

 

 そんな私の様子を見てか、彼は目を閉じ短く息を吐く。

 

 彼はポケットからメモ帳とペンを取り出すと、さっと何かを書いてそれを切り取りこちらに渡してくる。

 

 広げてみると、それは携帯の電話番号。

 

 

「これは……」

 

「俺の。今日は無理だけど、用があったら明日辺りにでも連絡して。それじゃ」

 

 

 彼は正面口から出ていった。

 

 貰ったメモを見つめ、大事に仕舞って振り返る。

 

 丁度その瞬間に時が動きだし、矢がスポットライトを弾くと、弾かれたそれが床に叩きつけられると同時に金属音が館内に轟く。

 

 見上げていた白河さんに怪我はなく、彼女は何が起きたかまだ理解できていない。

 

 観客の学生たちが皆こちらに振り向く。

 

 次の瞬間、館内に歓声が沸き起こった。

 

 

 

*────────*

 

 

 

 日も落ち始め、空の端が赤みがかってきた。

 

 先生を送り込んだところ、ミスコンは投票前に中止になったらしい。

 

 その後に体育館を使用する学生の為にと急遽点検が入り、主に多く男子からブーイングがあったそうだが、点検は当然の対応だろう。

 

 さて、無事ミスコンの件は済んだわけだが、個人的にはここが一番の問題だ。

 

 ことりと並んで有名人だし、聞き込みでもしてみるとしよう。

 

 

「ごめん、ちょっといいかな?」

 

「はい?」

 

 

 一人でいた銀髪の女子に話しかける。

 

 

「工藤って見てない?」

 

「いえ、見ていませんけど……」

 

 

 話を聞いていると、「李、いくよー!」と離れたところから呼ぶ女子の声に彼女が反応し、一礼して去っていった。

 

 どうしたものか。

 

 移動して探しつつ、工藤の目撃情報を集めるしかないな。

 

 

 

 

 

 

「工藤め、マジでどこにいるんだ?」

 

 

 見かけないどころか目撃の話すらない。

 

 いや目撃者がいないわけではないのだが、ミスコン後に見かけたという話がほとんど出てこない。

 

 一度考えるとしよう。

 

 直近の目撃者がいないということは、ひと気がない場所にいるか、帰ったかの二択。

 

 後者はまずないだろう。

 

 十中八九、友人であることりの演奏を聞くために残ってるはず。

 

 ということは、ひと気がない場所にいるわけだが、工藤が行きそうなところで思い当たる場所は……あそこかな。

 

 

 

 

 

 

「何してるんだ、こんなところで」

 

 

 屋上の重い扉を開くと、フェンスに手をかけて行き交う学生たちを眺める工藤がいた。

 

 俺は隣に立ち、フェンスに背中を預ける。

 

 

「瞬木はなんで屋上に?」

 

「ちょっと人混みに酔ったから、一旦休もうかなって」

 

 

 人混みに酔いつつあったのは嘘じゃない。

 

 

「お前は忙しかったんじゃないのか?どうせ山ほど来てたんだろ、ラブレター」

 

「……ああ。全部ちゃんと断ってきたよ」

 

 

 工藤の視線は、そのまま下を見つめている。

 

 

「オレ、今までたくさんラブレターもらってきたんだよ」

 

「自慢か?」

 

「いいから聞けって」

 

「はいはい」

 

 

 どうやら真面目に話したいらしい。

 

 黙って聞くとしよう。

 

 

「貰ったラブレターはさ、全部ちゃんと目を通してるんだ。それが、オレが取らなきゃいけない責任だと思うから」

 

 

 工藤から視線を外し、空を見上げる。

 

 

「ここまで男としてよく偽ってこれたなって。自分の苦労をそう称える気持ちがあるのと同時に、思うんだよ。何人の女の子たちを悲しませてきたんだろうって」

 

「……それは」

 

「分かってる。オレにも事情があってこうしてる以上、責任を感じる必要は多分ないんだって」

 

 

 ギリッと、フェンスが軋む音がする。

 

 

「でもさ、こんな偽物のオレに、みんな本物の想いをぶつけてくるんだ。それがどれだけ勇気が必要なことか……」

 

 

 赤らんだ空を見上げた視界の端で、工藤がこちらを向いているのが分かる。

 

 

「ミスコン、見てたんだろ?」

 

「ああ」

 

「瞬木なら分かるんじゃないのか。ことりが何を言おうとしたのか」

 

「……」

 

 

 何も語らず、瞼を閉じて蒼を黒に染める。

 

 しばらく沈黙が続き、ゆっくり目を開けると、工藤は胸に手を当てて正面に立っている。

 

 

「なあ瞬木」

 

「ん?」

 

「とある女の子がさ、お前の制服の第2ボタンが欲しいだって」

 

「……どんな子だ」

 

「そうだな……ショートカットで、和服が似合う女の子。引っ込み思案の臆病者で、とてもじゃないが自分の口からくださいだなんて言えない」

 

「美人そうだな」

 

「っ……。どうかな、本人は自分のことをそんな風に思ってないみたいだけど」

 

 

 工藤は一度目を閉じ、短く息を吐いて再び目を開く。

 

 

「その子の思い出の為に、第2ボタンを渡してほしい」

 

「……」

 

「お願い、瞬木君」

 

 

 彼女の真っ直ぐ見つめるその瞳は潤み、縋るかのような弱さを滲ませる。

 

 

「手を出せ」

 

 

 俺の言葉におずおずと伸ばしてきた工藤の手を掴む。

 

 手が触れた瞬間、彼女の肩が小さく震えた。

 

 そのまま掴んだ手を、俺の制服の第2ボタンまで引き寄せる。

 

 

「……あの」

 

「引っ張れ」

 

「えっ?でも」

 

「引っ張れ」

 

 

 言われた通りに工藤は第2ボタンを握って軽く引くと、ボタンを留めていた糸が簡単に解けた。

 

 彼女の手には、くすみがかった第2ボタンが。

 

 

「どうしてこんな簡単に……」

 

 

 呆然とボタンを見つめる工藤の手からそれを取り上げると、彼女は慌てる。

 

 

「な、なんで?くれるんじゃ」

 

「明日まで取っといてやるから、その子に伝えておけ。欲しけりゃ自分で取りに来いって」

 

「そんなっ」

 

「ちゃんと自分の口からボタンをくれと言えたなら、渡してやるってな」

 

 

 その言葉に彼女は俯き、瞳を揺らしながら自嘲するように口を歪める。

 

 

「そんな……無理だよ。だってそれは……」

 

 

 そんな工藤の姿を見て、手のひらの第2ボタンを握りしめる。

 

 

 

「なにを覚悟して、なんのけじめをつけるつもりだったのかは、この際どうでもいい」

 

 

 

「逃げる言い訳として欲しがるヤツに、俺はこのボタンを渡すつもりはない」

 

 

 

「これは思い出でなく、誓いであるべきだから」

 

 

 

 俯いた彼女の瞳が大きく揺れ、瞼が閉ざされる。

 

 ゆっくりと顔を上げた彼女は、柔らかい笑みを浮かべていた。

 

 

「ひどいな、瞬木君。私、凄く苦しくて、悩んでるのに」

 

「今更気付いたのか?俺は優しくないんだぞ」

 

「……ううん、優しいよ。これで終わっていたら、ずっと後悔することになってたと思うから」

 

 

 彼女の表情から笑みが消え、真剣な表情へと変わった。

 

 こちらを見るその眼差しには、決意のようなものが感じられる。

 

 

「瞬木。明日の昼、桜公園に来てほしい」

 

「分かった」

 

 

 弾みをつけてフェンスから離れ、工藤の側を通る。

 

 

「そろそろことりの演奏が始まるぞ」

 

「あ、あのさ瞬木っ」

 

「んー?」

 

 

 振り返ると、沈みかけた太陽が工藤に重なり、その表情は見えづらい。

 

 だけど。

 

 

「ありがとう」

 

 

 その声は、確かに彼女自身の声だった。

 

 

 

────────

 

 

 

「じゃあ、ことりのこと、ちゃんと送ってくださいね」

 

「二人とも、ばいばーい!」

 

 

 ともちゃんとみっくんとは校門で別れ、残ったのは俺とことりだけ。

 

 

「打ち上げでもすればいいのに、また余計な気を回されたな」

 

「あはは、二人とも優しいから」

 

 

 ことりたちの演奏はつつがなく行われ、演奏が止むと割れんばかりの拍手と喝采が会場に湧き起こった。

 

 そんなわけで結果として大成功を収めた演奏も終わり、卒パは幕を閉じた。

 

 

「いくか」

 

「うん」

 

 

 既に日が完全に沈み、外灯と月明かりのみが道を照らす。

 

 片付けで最後まで残っていたこともあり、周りに学生の姿はなく、音もなく、完全に二人だけの世界と化している。

 

 そんな二人きりの世界、桜並木をゆっくりと歩く。

 

 会話はない。

 

 ただ寄り添うように隣を歩くことりを、俺もなにも言わず受け入れる。

 

 桜公園まで歩いてくると、ことりの歩みが止まる。

 

 

「瞬木くん」

 

「ん」

 

「寄り道、しませんか」

 

 

 言わずとも分かる。

 

 向かう場所はいつものところ。

 

 

 

 

 

 

 一際大きく、異彩を放つ桜の大樹。

 

 春の風に揺られ、木々の音がひそかにこの場を包んでいる。

 

 

「……」

 

 

 ことりは幹に手を当てている。

 

 後ろからそれを見ている俺には、彼女の表情は見えない。

 

 

「瞬木くん。ここで最初に出逢ったときのこと、覚えてますか?」

 

「……」

 

 

 ことりが言うそれは、付属一年の時のバレンタイン。

 

 授業が終わり、一人のんびりと桜公園を散歩していた途中、珍しく眠くなってこの木の上でうたた寝をしていた。

 

 少しして目を覚ますと、裏側の木の下で今まさに告白されていることりの姿。

 

 バッサリと断られた男子が離れていき、彼女は深く息を吐く。

 

 「さすがは学園一の美少女」と。

 

 俺がそう呟くと、彼女はその場を飛び退く程に驚いて、こちらを見上げた。

 

 そんなロマンもなにもない、妙な出会い。

 

 

「……ああ、覚えてる」

 

「私も、よく覚えています。私の人生でも指折りでビックリした出来事でした」

 

「あんなに驚かれると思ってなかった」

 

「あの頃は……まだ怖かったし、まさか先客がいるなんて、思っていませんでしたから」

 

 

 ことりが幹に当てていた手を下ろす。

 

 

「ここでどれくらいの時間一緒に過ごしたか、覚えてますか?」

 

「……それは覚えていないな。ほとんどの日曜日はここで会っていたし、なにもない放課後も、よくことりの歌を聞いて眠っていたから」

 

「そうですね、私もはっきりとは分かりません。それだけ瞬木くんとここで過ごした時間が、たくさんあったんだなって思うと……嬉しくて」

 

 

 短くない付き合いである自覚はある。

 

 少し贔屓をしてしまっている自覚も、ある。

 

 

「ミスコン、見に来てくれてましたよね」

 

「よく分かったな」

 

「分かりますよ。探したんですから」

 

 

 やはり、あの時の視線は俺を見ていたのだろう。

 

 

「どうでしたか、ドレス」

 

「綺麗だった。見とれるほどに」

 

 

 ほんの少し、彼女の肩が跳ねる。

 

 

「……ずるいよ」

 

 

 独り言のように、消え入るような声。

 

 彼女は大きく深呼吸をする。

 

 

「ミスコン、あんなことがあって中止になって……瞬木くんもいなくなってて」

 

「……」

 

「胡ノ宮さんが矢で助けてくれて、その場は盛り上がりましたけど……私はステージにいたから、分かるんです」

 

 

 なにも言わず、ただことりの言葉を聞く。

 

 

「あの瞬間、胡ノ宮さんはまだ体育館にいなかった。絶対に、矢が間に合うはずないって」

 

「……」

 

「胡ノ宮さんが助けてくれたのは確かかもしれないけど、本当に助けてくれたのは、瞬木くんなんですよね?」

 

「……」

 

「……いいんです、なにも言ってくれなくても。私の都合のいいように考えちゃいますから」

 

 

 彼女は何かを取り出し、それを大事そうに両手で握って胸に当てている。

 

 

「本当はあの場で言うつもりだったんです。瞬木くんの周りには可愛い子がたくさんいて……誰にも負けたくなかったから」

 

 

 ことりが振り向く。

 

 赤みが差した頬。

 

 潤んだ瞳。

 

 小さく震える肩。

 

 ぎゅっと握られたお守り。

 

 

 

 

 

「瞬木くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと、瞬木くんがことが好きでした」

 

 

 

 

 

 答えなければならない。

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

 ことりは俺の言葉を待っている。

 

 

 

「凄く、嬉しいよ」

 

 

 

 期待と不安が入り交じったその瞳に。

 

 

 

「でも」

 

 

 

 伝えなければならない。

 

 

 

「ごめん」

 

 

 

 応えられないことを。

 

 

 





15日は続きます

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