cal.   作:オタクは末端冷え性

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「読みたい本ももうなくなってきたし、いよいよ自分で書いてみるか……?」

 

 

 貴重な日曜日。

 

 行きつけの本屋でいつものごとく適当な本を数冊買って商店街をふらつく。

 商店街には本を買うくらいしか目的もないため、次はどこに寄ろうかと考えていると。

 

 

「またたぎせんぱーーーい……」

 

 

 あぁ、きた。

 振り返ると同時に腹部に強い衝撃が走る。

 

 

「瞬木せんぱーい!!」

 

「ごふぅ」

 

 

 抱き付くとは名ばかりの強烈なタックルを食らい、折れそうな膝を辛うじて奮い立たせる。

 

 

「美春、急に走り出さないでよ」

 

「あ、すみません音夢先輩!」

 

 

 後ろからゆっくり歩いてくる音夢さんは呆れるようにタックルしてきたアホの子を見ている。

 

 

「おはようございます、瞬木くん」

 

「おはようございます、瞬木先輩!」

 

「おはよう……あぁおはよう音夢さん、そしてワンコ」

 

 

 未だに離れずに腹にしがみつくワンコ、天枷美春は今日も今日とて元気が有り余っている。

 

 まるで大型犬のようにじゃれてくるその姿は、尻尾でも生えていたらブンブンと振っているのが目に見える。

 

 

「ほら美春、瞬木くんも困ってるから離れなさい」

 

「はぁい……」

 

 

 音夢さんにとがめられ、渋々といった様子で離れる美春。

 

 

「お前は毎回これやらんと気が済まんのか」

 

「だって、先輩が見えたからつい……」

 

「前はもうちょい遠慮だってあったのにフルパワー過ぎんだろ」

 

「えへへ、そんなことないですよ」

 

「褒めてねぇんだわ」

 

 

 人懐っこく笑う美春の頬をぐにぐにと引っ張りつつ、音夢さんに視線を向ける。

 

 

「すみません、気付いた時にはもう美春を止められなくて」

 

「あぁ、いいよ。全部このワンコが本能で突っ込んで来るのが悪いだけだから」

 

「瞬木くん、凄く懐かれてますよね。何をしたんですか?」

 

「なにもした覚えはないんだけどなぁ」

 

「ひょこわららくえわひた」

 

「安いなお前」

 

 

 頬をぐにぐにされながらも嬉しそうにしている美春に、音夢さんは「まったくもう……」と呆れる。

 

 

「そういや音夢さん大丈夫なの?昨日体調崩してたみたいだけど」

 

「はい、変に動いたりしなければもう大丈夫です。瞬木くんも昨日肉じゃが届けてくれたみたいでありがとうございます」

 

「ん、いつものことでしょ」

 

「ええ、いつも助かってます。昨日はお粥で済ませてしまいましたから、今日の夜温めて頂きますね」

 

 

 話に反応して、されるがままだった美春が目をキラキラさせてこちらを見る。

 

 

「瞬木先輩、お料理得意なんですか?!」

 

「んー、そこそこかな」

 

「食べてみたいです!!」

 

「まぁ今度、機会があればね」

 

 

 「わーいやったー」と喜ぶ美春。

 まぁ今度弁当でも作ってやればいいだろう。

 

 

「それで、いいの?俺と時間潰してて」

 

「そうですね、この後映画を観に行くのでそろそろ失礼しますね」

 

 

 音夢さんがそう答えると、美春はハッとした表情で焦る。

 

 

「そうでした、この後映画を観に行くんです!でも折角瞬木先輩と会えたのに……」

 

「はいはい、また学校でな」

 

 

 若干葛藤している美春の頭を軽く撫で、それじゃあと二人に手を振って去る。

 軽く手を振る音夢さんと、手をブンブン振る美春に見送られて離れる。

 

 さて、そろそろお昼だし適当にサンドイッチでも買ってあっちに行くとしよう。

 

 

 

────────

 

 

 

 桜公園。

 

 永遠と桜が舞い散る公園で、一人ベンチに座りサンドイッチを食べながら本を読む。

 

 いい天気で日の光が暖かいとはいえ、風はまだ冷たく気温もそこまで高くはないため、多少厚着をしていないと冷える。

 本を支える指も冷えるので、冷たくなっては一度本を置いてポケットに入れたカイロで温める。

 

 サンドイッチを食べながら何とはなしに桜を眺める。

 

 すると、急に視界が真っ暗になった。

 目元には少し冷たい指の感触。

 

 

「だーれだ」

 

 

 とても綺麗な声。

 少しいたずらっぽく、でも目を隠すその手は優しく包むようで。

 

 こんなやりとり、端から見れば恋人のように見えることに気付いているのだろうか。

 気付いてないんだろうなぁ、そういうところが人気の所以でもあるんだろうから。

 

 

「あのー、もしかして眠ってます?」

 

「この甘い空気に浸ってたところだよ」

 

「うーん、相変わらず読めないなぁ」

 

 

 このままでもいいかなーと反応しないでいると、焦れたように話しかけてきた彼女に答える。

 

 

「んで何してんのピヨさん」

 

「違いまーす、ピヨさんではありません」

 

「いやピヨさんでしょ」

 

「ちゃんと名前でどうぞ」

 

「……ことりさん、何してんすか」

 

「はい、正解です」

 

 

 目元から指が離れ視界が明るくなる。

 ベンチに座ったまま首を後ろに反らすと、犯人は美春のような人懐っこい笑顔でこちらを眺めている。

 

 

「ちわっす、瞬木君」

 

「ちわ、ピヨさん」

 

「もう、折角ことりって呼んでくれたのにすぐ直しちゃうんですから」

 

「ピヨさんの方が呼びやすいの」

 

 

 ちょっと不満げな表情ですら絵になるような美少女。

 件のアイドル白河ことりとは、それなりの仲。

 

 初めは警戒されていたが、今では名前で呼ばせてくれるくらいには仲がいい。

 

 とはいえ学園でことりなんて呼ぼうものなら、どこから矢やら槍やらが飛んでくるか分かったものじゃない。

 

 それゆえにピヨさんと呼んでいるが、本人はいつも不服そうにしている。

 

 

「それで、瞬木君はいつも通り読書ですか?」

 

「ん、まぁね。休日は予定でもなけりゃこれがルーチンみたいなもんだから」

 

「ふふ、そんな瞬木君を見るのも私のルーチンですね」

 

「そんなピヨさんは今日も歌いにきたの?」

 

「はい、いつものところでこれから」

 

 

 桜公園の奥には一際目立つ桜の木がある。

 一目見ればわかる、明らかに他の桜とは違う雰囲気を持つ大きな桜の木。

 

 人目につかず、それでいて落ち着ける場所なのでたまにそちらで本を読むこともある。

 

 ことりと出会ったのもそこが初めてだった。

 

 

「瞬木君はまだしばらくここに居るんですか?」

 

「いや、もう少し本読んだらクレープ買って帰るかな」

 

「あ、最近学園で話題になってるやつですか?いいなぁ、私も食べたいけど今日は歌いたいし……」

 

「別に逃げはしないし、また今度にすればいいんじゃない?」

 

「……そう、ですね。また今度、瞬木君に奢ってもらうとします」

 

「えぇ?まぁ、いいけども」

 

 

 ことりが「やった」と小さく喜ぶ。

 仕草の端々が可愛いんだからまったくもって油断ならない。

 

 

「では、読書のお邪魔をしてはいけないのでそろそろ行きますね」

 

「ん」

 

 

 そう言ってことりはベンチから離れて公園の奥へ向かっていった。

 

 あ。

 

 

 

*────────*

 

 

 

「ことり」

 

 

 瞬木君と話し終えて私がいつもの場所に向かおうと離れると、彼から呼び止められる。

 

 

「はい?」

 

 

 こちらに視線を向けず、前を向いたまま彼は続ける。

 

 

「ちょっと帽子外して、受け皿みたいにして両手で持ってくれる?」

 

「?」

 

 

 彼の言う通りに帽子をとって両手で持つと、そのままの姿勢の彼からポーンと放物線を描いてなにかが飛んで来る。

 

 そのまま帽子にポスッと入り、何かと触ってみると温かい。

 

 これは、カイロ?

 

 

「身体冷えるから、ほどほどにしなよ」

 

 

 そっか、目隠しした時に。

 

 

「ありがとう、瞬木君」

 

 

 彼は手をひらひらと数回振って反応を返してくれる。

 

 なんで見てもいないのに私が帽子を構えたタイミングで投げたのか。

 

 なんで見て投げた訳でもないカイロがちゃんと帽子に入るのか。

 

 考えれば不思議なことだらけだけど。

 

 

『ことり』

 

 

「ズルいなぁ」

 

 

 手に握ったカイロは、心から温めてくれた。

 

 

 

*────────*

 

 

 

「散歩か?純一じいさん」

 

「誰がじいさんだ。そういう瞬木も散歩だろ」

 

「両手に華でな 」

 

「クレープは華じゃないだろ」

 

「は?」

 

 

 





甘くないクレープもいいと思いませんか?

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