cal.   作:オタクは末端冷え性

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感想、誤字報告等ありがとうございます。

つまらないものですが、ゆっくりしていってください。




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「おい、おい瞬木」

 

 

 登校してきてから不審な挙動をし続けている純一が、少し押さえ気味の声で必死に俺を呼ぶ。

 

 どうせ大したことでもないのは明白なので、読んでいる本から視線は逸らさず反応する。

 

 

「なんだ」

 

「お前は、お前もあそこに座っているクマが見えないのか?」

 

 

 本から視線を外して純一を見ると、まともな顔をして相当狂人じみたことを言っている。

 

 純一が指を差す先にいるのは紫和泉子という少女。

 

 あまり人に関わる子ではなく、たまに変なことを言うが、普通に会話できるし愛想もいい。

 

 

「お前はそこにクマがいると?」

 

「あぁ、ピンクのクマがあそこに座って本を読んでるんだ」

 

「……はぁ」

 

 

 ため息をつき、机に頬杖をついて純一に向き直る。

 

 

「気になるなら本人に聞いてみればいいんじゃないか?」

 

「いやいやいや、話しかけて襲われたらどうするんだ」

 

「……んな子じゃないよ」

 

 

 あとは自分で勝手にどうにかするだろう、本に視線を戻して続きを読む。

 

 もう俺から反応はもらえないと思った純一は、意を決したのか席を立って紫さんの方に向かっていった。

 

 

「ほら、背中にチャックがあるんだろ?中に人が入ってるんだろ?」

 

「ちょっと、朝倉!あんた紫さんになにしてんのよ!」

 

 

 …………。

 

 

「兄さんのやろうとしたことは、犯罪ですよ?」

 

「いや、そうじゃなくて、クマが……」

 

 

 ………………。

 

 

「襲ったんじゃない!服を脱がして、中を見てやろうと思っただけだ!」

 

「兄さん……せめて、人間としての尊厳だけは、捨てないでください……」

 

 

 …………はぁ。

 

 

「あいつ、どうしたんだろうな」

 

 

 少し視線を上げると、近くによってきた工藤が心配そうな声で純一を見ている。

 

 

「心配すんな」

 

「いや、でも……」

 

「男の子はな、自分だけ真実に気付いてる、みたいなことをやってみたくなる時期があるんだ」

 

「はぁ?」

 

 

 純一は音夢さんや眞子から非難を浴びせられ、杉並を含むクラス全体から冷ややかな目で見られている。

 

 

「まぁそういう男の子には、優しくしてやってくれ」

 

「わけわかんねえよ」

 

 

 ほどなくして教室に入ってきた暦先生がHRを始める。

 

 出席で紫さんの名前が呼ばれ、また騒ぎだした純一を暦先生が諌めて音夢さんが付き添い保健室へ。

 

 とぼとぼと教室を出ていくその背中があまりに不憫だったので、あとでジュースの一本でもおごってやろうと思う。

 

 

「難儀なこったね……」

 

 

 表情こそわからないが、気まずそうにする紫さんを見て、ため息をついた。

 

 

 

────────

 

 

 

 保健室から戻ってきた純一はどこか微妙な顔をしていた。

 

 気の毒に思ったのか保健室に様子を見に行った紫さんとその場で和解したらしい。

 

 クラス全体から生温い目で見られる純一に同情してジュースをくれてやったが、昼休みになれば皆忘れていた。

 

 

「さて」

 

 

 俺は鞄からいつもより一回り大きい弁当を持って屋上へ向かう。

 

 すると特別教室棟を通り抜けようとしたところで、目の前の廊下をなにかの缶が転がっていく。

 

 

「おーい、どこ行った~?」

 

 

 それを追う暦先生。

 普段かけてる眼鏡を頭にあげて、虚ろな目で缶を追いかけている。

 

 

「ちっ……眼鏡がないと見えん……」

 

「頭にありますよ」

 

 

 言いつつ足が止まった暦先生の代わりに缶、無糖の缶コーヒーを拾いあげる。

 

 

「まだそんな歳でもないでしょうに」

 

「ああ、どうも」

 

 

 缶コーヒーを暦先生に渡すと、ばつの悪そうな表情をして頭を掻いている。

 

 

「最近忘れっぽくてね。いや、かっこ悪いとこを見られたな」

 

「ドジっ子ってヤツですね。いや先生は子って呼べるような……」

 

「なにか言ったか、瞬木くん?」

 

「いえいえ、先生はいつまでも若そうだなと」

 

 

 危うく足の下にあった地雷を踏み抜くところだったなと思いながら、笑顔で権力に屈する。

 

 

「よろしい……コーヒー拾ってくれたお礼に、何か飲み物でもおごろうか?」

 

「いいんですか?遠慮しませんけど」

 

「まぁコーヒーぐらいしかごちそうできないけど」

 

 

 

 

 

 

「てっきり自販機のをおごってもらえると思ったんですがね」

 

「自販機より、こうしてあたしが丹精こめたコーヒーの方が嬉しいだろ?」

 

 

 先生に着いてきて案内されたのは生物準備室、つまり暦先生の縄張りである。

 

 おそらくコーヒーを淹れるためにお湯を沸かしているポットの隣には、ずいぶんと擦り傷がついた年季が入ったビーカー。

 

 

「ご自分で淹れられるなら、お金の無駄では?」

 

「たまにはまともなコーヒーが飲みたくなるんだよ」

 

「おおっと、なんか腹の調子が悪くなってきた気が」

 

「待て、冗談だ。今淹れるから座って待っててよ」

 

 

 大人しくぼーっと待っていると、暇だと思われたのか暦先生が話を振ってくる。

 

 

「あんまり公私混同はしないようにしてるんだけどね。ほら、あたしには妹がいるでしょ」

 

「ピヨさんのことですか?」

 

 

 名前を聞くと、背中を向けていた暦先生が訝しげな顔でチラッと視線を向けてくる。

 

 

「なんだいその呼び方は。新手の嫌がらせかい?」

 

「滅相もない、親しくしてる上での愛称ですよ。まぁ本人はことり呼びをご所望ですが」

 

 

 「ほら、淹れたよ」とコーヒーが注がれたカップを、どうもと受けとる。

 

 ビーカーで出てこなかったのは幸いと言えばいいのか。

 

 

「まあ知ってるけどさ。ことりから瞬木の話はちょくちょく出てくるからね」

 

「お恥ずかしい限りで。砂糖とミルクないですか?」

 

「生憎あたしはブラックしか飲まないからないね。ブラックは飲めないかい?」

 

 

 もらったコーヒーに口をつける。

 あーにっが。

 

 

「飲めなくはないですが、甘い方が好きなんですよ」

 

「他の子よりは大人びてるが、まだまだ子どもだね」

 

「生意気過ぎるよりかはいいでしょう?」

 

 

 一度カップを机の空いてるところに置き、一息つく。

 

 

「それで、ことりからどんな話を聞いてるんです?」

 

「おや、興味あるのかい?」

 

「そりゃあ、あんだけ可愛い子に気にかけてもらえてるんですから、興味はありますよ」

 

 

 「へぇ……」と若干表情をにやけさせ、椅子に深く腰を落とす暦先生。

 

 

「ぶっちゃけ、ことりのことどう思ってるんだい?」

 

「友人ですよ」

 

 

 即答すると、暦先生は意外そうな顔をする。

 

 

「悩まないんだね?」

 

「まぁ、友人とは言いましたが一定以上の好意はありますし、幸せになってほしいとは思いますよ」

 

「イヤに客観的な物言いだね」

 

「彼女の幸せに、俺が含まれている必要はありませんから」

 

「……あんた年齢いくつだっけ?」

 

「ご想像の通りかと」

 

 

 カップのコーヒーを一気に飲み干し、本来の目的の屋上を目指すために椅子から立ち上がる。

 

 ごちそうさまでした、と部屋から出ようとすると、「瞬木」と先生から呼び止められる。

 

 

「あたしは別に、おまえがワンオブゼムじゃなくなるならそれでもいいと思ってるけど」

 

「……変なやつに泣かされるくらいなら支えてやりますよ」

 

 

 横開きのドアを開け、失礼しましたと生物準備室をあとにする。

 

 

 

 

 

「こりゃあことりも大変だねぇ」

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

「なにしてるんです?」

 

 

 屋上の扉をあけると、鍋の準備はしてあるのになぜか眞子にペコペコと頭を下げている萌先輩がいた。

 

 どうやら今日は南蛮鍋を作ろうとしていたらしいが、朝慌てて登校したために材料を家に全部置いてきてしまったとか。

 

 もぬけの殻になっているクーラーボックスが、哀しげに横たわっている。

 

 

「あたしの……鴨が……」

 

 

 表情が絶望に伏してる眞子を見るに、よほど楽しみにしていたんだろう。

 そんな眞子を見て萌先輩は未だに「ごめんなさい」とペコペコし続けている。

 

 

「とにかく、お昼どうにかしなきゃ……」

 

「なら丁度よかった、今日多めに弁当作ってきたんだよ」

 

「え?」

 

 

 眞子は目を丸くして、そして徐々に瞳に輝きを取り戻しつつこちらを見る。

 

 ペコペコ。

 

 

「この前鍋ごちそうしてもらった時に言ったろ、お弁当作ってきますねって」

 

「ま、またたぎ~!あんたなんて都合のいい男なの~!」

 

「言い方???」

 

 

 あまりの感激からか、眞子の口から出てくる言葉が随分と鋭い切れ味をしている。

 

 ペコペコ。

 

 

「じゃあ時間も結構経ってるし、早速食べようか」

 

「そうね、確かあんたって料理得意なんでしょ?音夢も言ってたから期待してるわよ」

 

「ほどほどだよ。もしかしたら量が少ないかも知れないが、そこは我慢しろよ」

 

「むしろ食べれることに感謝してるから、安心して」

 

 

 ペコペコ。

 

 

「ほら萌さん、いつまで謝ってるんですか。こっち座って食べましょうよ」

 

「え?」

 

 

 ペコペコの無限ループから目を醒まさせ、現世に意識を戻した萌さんに弁当を見せて説明しなおす。

 

 すると萌さんは俺の右手をとり、両手で包むようにして感謝をしてくれる。

 

 

「ありがとうございます~。瞬木くんのお陰でお昼が食べられます」

 

「お、おお、いえいえ。喜んでいただけてなによりですけども」

 

 手、暖かいなぁ。

 

 そんな様子を見てか、既に座っている眞子が若干不機嫌そうにこっちを見ている。

 

 

「鼻の下伸ばしちゃって」

 

「お前が包んでくれても同じ反応するぞ」

 

「なぁっ……!」

 

 

 顔を赤くして言葉に詰まる眞子。

 所詮は態度がボーイッシュなだけの生娘よ、俺の敵ではない。

 

 

「箸はあるだろ?適当につついてくれ、ほら先輩も」

 

「はい、いただきます~」

 

「ふ、ふん、まあいいわ。あ、このカボチャ甘くておいしい」

 

「その煮物、はちみつを入れてだな……」

 

 

 こうして二人には鍋の義理は果たしたと言える。

 まぁ弁当作るのが面倒になったときにまた鍋をいただきに来るとしよう。

 

 

「おいしいです~」

 

「凄いじゃん、おいしいよ瞬木!」

 

 

 こんな笑顔で食ってくれるなら、また作ってもいいかもなぁ。

 

 

 

────────

 

 

 

『チョコバナナ食べて帰りませんか?噂ではチョコに新色が追加されたらしいですよ!』

 

 

 とは美春の談。

 

 放課後に桜公園をふらついていると、美春に捕まりバナナンボーに連れてこられる。

 

 バナナンボーとは俺がよく行く移動販売のクレープ屋で、美春にとってはチョコバナナの店である。

 

 特に用もないため、抵抗もせず引き摺られるように連れてこられた俺は自分の分のクレープと美春にチョコバナナを買う。

 

 

「まさかまだら模様とは想像がつきませんでしたよ、正直なところ」

 

「食欲をそそる色使いでないのは確かだな」

 

 

 マーブル模様ではなく、いろんな色が斑についているのはどうなのか。

 

 とはいえチョコバナナの味は変わらないため、美春はパクパクと食べている。

 

 

「先輩。あれ、先輩のクラスの方じゃないですか?」

 

「ん?……あぁ」

 

 

 美春の視線の先にいたのは、件の紫さんだった。

 

 

「確か、紫先輩でしたよね」

 

「よく知ってんな」

 

 

 どうやら以前風紀委員の仕事中に、音夢さんに教えてもらったらしい。

 

 美春は食べていたチョコバナナの残りを一気に平らげると満足げな表情を浮かべる。

 

 

「折角なんでご挨拶しに行きましょう!」

 

 

 返事を待たずに紫さんに突撃しにいく美春は、まさしくわんこのあだ名に相応しいムーヴである。

 

 

「紫せんぱーい!」

 

 

 呼ばれた紫さんは驚いたように振り返る。

 

 

「あや、瞬木さん。と、あなたは……」

 

「天枷美春です!風紀委員の活動の時に校門でお話したの覚えてませんか?」

 

「ああ、あの時音夢さんと一緒にいた」

 

 

 「はい!」と元気よく返事をする美春。

 紫さんが美春の勢いに若干気圧されているので、美春の頭に手を置きつつ飛び付かないように抑える。

 

 犬か。

 

 

「紫さんは今帰り?」

 

「あい……、まあそんなところです」

 

 

 若干含みのある言い方だが、特に気にとめない。

 

 

「紫先輩の家はこちらなんですか?」

 

「あい、公園の敷地内にあります」

 

 

 その後他愛もない会話をしつつ、途中で俺に話題を振られる。

 

 

「そういえば、瞬木さんはいつもお早い登校ですが、何をされてるんですか?」

 

 

 あっ、と美春が気まずそうな顔をするが紫さんは少し不思議に思うだけで気にはしていない。

 

 

「特に何かしてるわけじゃないよ。家にいても暇だし、登校しても大抵本読んでるだけだから」

 

「あや、朝倉さんじゃありませんがギリギリまでお布団に入ったりはしないんですか?」

 

 

 

 

「ああ、俺両親もう居なくてさ。ひとり暮らしだから二度寝とかできないんだわ」

 

 

 

 

 途端に二人とも気まずそうな雰囲気を出すが、俺はなんてことないように続ける。

 

 

「もう随分と前の話だから、そんな辛気くさい雰囲気出さなくていいよ」

 

「あやや……ごめんなさい、そうとは知らず……」

 

「さっき言ってたけど、紫さんもひとり暮らしなんでしょ?前にも言ったけど、なんか困ったら全然声かけてくれていいからね」

 

「あい、ありがとうございます。……私も、故郷に……」

 

 

 後半、急に声のボリュームが下がって聞き取れなかったが、その姿はどこか悲しげに見えた。

 

 

「瞬木さん、天枷さん、私はこれからやることもありますので、これで失礼しますね」

 

「紫先輩、気を付けて帰ってくださいね」

 

「あい、お二人もお気を付けて」

 

「また明日ね」

 

 

 ぺこりと頭を下げて、紫さんは去っていった。

 

 紫さんが見えなくなると、美春はこちらを向いて頬を膨らませている。

 

 

「もう、ダメじゃないですか先輩!」

 

「ごめんって」

 

 

 美春はその手の空気感が滅茶苦茶に苦手なので、美春にしては強めに叱ってくる。

 とはいえ一度謝れば許してくれるあたりいい子だと心底思う。

 

 

「でも、紫先輩って綺麗な人ですよねぇ」

 

 

 美春は今一度、紫さんが去っていった方を見つめている。

 

 

「そうか?俺はかわいい路線だと思うぞ」

 

「えぇー!絶対綺麗寄りですよぉ!」

 

 

 違うそうじゃないと議論しながらもう一本おごってやるとバナナンボーに向かうと、途中美春は歩みを止めて服の裾を掴んでくる。

 

 

「どうした?」

 

「……先輩は、寂しくないんですか?」

 

「……」

 

 

 仕方ない後輩だな。

 

 

「美春みたいな後輩がいるからな」

 

 

 ポンポンと、美春の頭に手を置いて、軽く叩いてやる。

 美春は目をつむって大人しく受け入れているが、その表情は珍しく曇っている。

 

 

「いつもありがとうな」

 

「……はい」

 

 

 もう一本のチョコバナナを食べ終わった頃には、局所的な曇りは快晴に変わっていた。

 

 

 

────────

 

 

 

「にゃ」

 

 美春と桜公園で別れ、家に着くとポストの上に例の猫が乗っている。

 

 手足が見当たらない身体で、ふらふらと左右に揺れてしっぽを振ってる猫を見ているとポストの扉が若干浮いてることに気付く。

 

 中にあったのは、仰々しくも汚い筆文字で果たし状とかかれた文字。

 

 あけて要約すれば、今夜あの一番でかい桜の木に来いとのこと。

 

 『ちりん』と。

 

 顔をあげたときには例の猫は居なかった。

 

 そしたらさっさと夜飯を作らないとなぁと思いながら玄関を開けて、ふと、今はもう使われていないゴルフクラブをみる。

 

 

「……一応、果たし状だしな」

 

 

 取り出したクラブを、ちょっとだけ磨いておいた。

 

 

 






そういえばコロナにかかりました。

暇なので投稿頻度増やせるように頑張ってみます。
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