奇跡の代償は   作:kianos

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■概要 Version4のアフターストーリー、第13話。
舞台はV5.0終頃の岳都ガタラ。
主人公は魔界で行方不明扱い。

■13章『ガタラ食い逃げ事件と空飛ぶガラクタの城』の登場人物
少女:『盟友』の姉。時渡りの呪いで、さまざまな時代をさまよう。
ダストン:ガタラのガラクタ城城主。
デコリー:ガタラのカスタム屋。
メンメ:ガタラにいる研究員。
ペリポン:無職のプクリポ。
チュニグ:デコリーの弟。ドルワームの研究員。


13章 『ガタラ食い逃げ事件と空飛ぶガラクタの城』

(夢。かつては、人々に啓示をあたえるために使ったというわね。神も、魔も。……そのチカラをつかって人々を導いたり、操ったり、……果ては夢の中に現実さながらの別世界を構築したという、神話めいた話もきいたことがある)

 エテーネの式典がおこなわれる日の一週間前。その少女は、巨大な立方体のような昏い世界の中でひとり、あぐらをかいて瞑目し沈思黙考していた。

(あたしが、その神やら悪魔やらのマネごとをしてるなんておかしなことね)

 ふふん、と笑う。

 しかし、少女は内心ではあせっていた。

 この世界で目が覚めた時、この体は時渡りの力で満たされ、かの時獄の迷宮にいるように幾千のあるべき未来を見渡し、それをもとにどのようにすれば時を変えられるかがわかっていた。彼女はその万能感のおもむくがままに、いまだ残っていたほろびへの運命を察知して、それを修正するべく動いたのだ。

 とはいえ彼女は現実に関与できるような実体は持っていなかった。

 かわりに、彼女にはこの世界で意識をとりもどした時に特別な能力がそなわっていた。それは他人の夢への介入であった。なぜそれができるのかは自身にもわからなかった。

(時見は、予知夢の形をとることもあったといわれる。夢と時見には密接な関わりがあるのだろうか)

 そのように少女は自身を納得させていた。

 それを利用して、人々の夢の中で助言めいた事をいい、ちょっとした無意識の選択に介入して自分の望むべき未来へ、わずかずつ変えていき『歴史の修正力』との戦いを慎重に進めていった。

 入念に計画し、必要な人々を時の特異点ともいうべき式典が行われる日のパドレア邸に集めた。

 ほとんどすべては彼女の考えたとおりに進んだ。これで都の、国の、世界の、新たなほろびの運命からはのがれられる。

(これで、あいつの願いもかなえられる……)

 彼女はかつて十年をともにしてきた朋友をおもい、安堵したものであった。

 ……にも関わらず。

 この人物だけは、なぜだか変えられなかった。彼女の顔が苦悩にゆがむ。

(なぜよ?なぜ、まだ変えられていない!……まがいもののあたしでは、やはり限界があるというのか)

 諸王を含めたあらゆる重要人物が、かの地につどったというのに、彼だけは少女の思い通りにはならなかった。

 布石は打った。しかしその人物は、頑固で強固な岩盤のような強き強き意思で、彼女の作り出した流れにのることを否定するのだ。

 そうして、今日も彼女の掌握するその世界に、くだんの人物を呼びだす。

 そのずんぐりとした緑色の塊がキョロキョロとあたりを見渡す。

「ここは、……どこです!いったいなにがおこったというんです?」

 ガタラの変人、ガラクタ城のあるじ、ダストンその人であった。

「こんばんは。ダストンさん」

 少女は、すでに毎晩のように顔を合わせ、同じようなやりとりを繰り返しており、こなれた挨拶をする。しかし、向こうには夢の中で会った記憶はないようで、毎回自分を見てはおどろいている。

「……アンタは、緑赤の人じゃないですか!」

 かつてナドラガンドにて、紆余曲折をへた後に少しの期間ではあったが、ムストの町で行動をともにした仲間である少女を見て、ダストンは驚く。少女は、どうも~、と笑って気軽に返す。

(知り合いらしい、ってところもやりにくいのよね。あたしの持っているウルベア帝国時代までの記憶には、ダストンさんはいない。多分あたしを作ったあとに、本体が時渡りをしてダストンさんと会ったんだろうけど)

 最初に夢の中にてお願いした時には、空中に浮かび、高いところからダストンを見すえて大仰に手を広げて挨拶をしたり、夢の中であう神のごとき存在として上からの啓示のようにやるべきことを伝えたものだったが、ダストンにはこれが全くの逆効果であった。

 その時の事を少女はよく覚えている。

 自分がとうとうと、ダストンに対してやるべきこと語っていたところ、その途中でダストンは手のひらを突き出してさえぎったのだ。そしていった。

「……アンタ、わしの知っている緑赤の人じゃないですね」

 そういって、ダストンはさらにかぶせるように、まくしたてた。

「わしが知っている緑赤の人なら、わしがそういう事に興味がないことは知っているはずですからね。大事なこと?大切な人?……背筋が寒くなりますねッ!私が愛するのは誰も見向きもしないガラクタ、そしてポンコツな人間だけですよッ!」

 ダストンは、まいったかと言わんばかりに両手を腰にあてて胸をはったのだ。

(な……なによ、この天邪鬼な人!)

 そう思ったものであった。その時の事を思い出して、少女はこめかみをおさえる。

 さて、今日はどうやって切り出したものか……、と少女は悩んでいたが、特段に妙案もなかった。

「……ダストンさん。ビャン・ダオ皇子のピンチなんです。今日が間に合う最後の日なの。彼のためにエテーネ王都キィンベルに向かってもらえませんか?」

 今日はなにかが変わることを期待して、いつも通りに正直にいった。

「ビャン・ダオ……?」

 ダストンは、かつてウルベア魔神兵のコールドスリープから三〇〇〇年ぶりによみがえった、この世界の右も左もわからぬビャン・ダオ皇子を、ポツコン3号として連れまわしていた時のことをおもいだす。

 そして最後には、故国も仇敵もいなくなった未来の世界であることに絶望し、故国ガテリア皇国の廃墟にて命をたとうとしたビャン・ダオ。しかし育ての師ともいうべき、リウ老師の遺言めいたメッセージによって思いとどまり、ビャンはこの世界で『今』を生き抜くことを決めたのだ。そして、そのビャンに、ダストンは「自分の養子にならないか」とさそったことも。

 しかし、ビャン・ダオは感謝しつつもその申し出をことわり、ドルワーム王国で自分の過去についての知識を役立てることを選んだのであった。その彼がいま窮地にあるという。ダストンは首をふる。

「……あいつは、役に立つ人になりました。ドルワーム王国の精鋭調査隊を指揮して新しい遺跡を発見したり、そこでみつけた何に使うかわからぬモノを、腹立たしいことに、とても役に立つようにしたりしてるそうじゃないですか」

 いくぶんか、さびしそうに微笑みながらダストンはつづける。

「そんなあいつに、わしのたすけなど必要なはずがありません。諸王国のえらい、立派なひとたちが、あいつを助けてくれるでしょう」

 少女はここで退くわけにはいかないとばかりに、さけぶように説得を続ける。

「そんな生半可な事態じゃないんですよ。諸国の偉大な王様や、勇者や、賢者があつまるその宴で、ビャン皇子は……強力な怪物になって暴れまわってしまう!そうなってしまったら最後、その場にあつまった強者たちによって討伐される運命になる。それを助けられるのは、ダストンさん、あなたしかいない。あなたにはそのチカラがあるのです!」

 少女のその必死の説得も、ダストンはうろんげに見やる。

「ビャン・ダオが怪物に?うわははは!面白い冗談ですねッ。なかなかわし好みですよ、その突拍子もない感じは。たとえその話が本当だったとして、わしは役に立たねえ事には人後に落ちませんよッ!あんたは言いましたね。世界のえらい王様、勇者、賢者がそこにはいると。そんなえらい人達がそろってるってのに、わしひとりが行ってどうにかなるもんですかッ」

 辛抱強く、少女はダストンを説得する。

「あなたと、ビャン・ダオ皇子とのつながりが重要なんです。そのつながりこそがビャン・ダオ皇子を救うのです……」

 しかし、ダストンの心はかたくなであった。

 その後も少々話した後に、ダストンはもう興味をなくしたといわんばかりにうろつきながら大声でいう。

「もういいです。わしは帰るです。出口はどこですかッ!」

 ドスドスと、この異界めいた空間をこわがることもなくマイペースに進んでいく。

(ああ……。今日も変わらない。この人がいないとビャン皇子が……)

 少女はそう思って、うちひしがれて膝をつく。

 

 そうしたところに。

 

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……

 

 突然、夢の空間が揺れはじめた。ダストンは周囲を見渡しながらさけぶ。

「じ、地震ですか?!」

 少女もおどろく。

(まさかっ!あたしがつくった夢の世界よ!でも、わからない。一体何ごと!?)

 揺れを耐えるため、ダストンは四つんばいになり、少女は空中に浮きあがる。

 そして、シュワシュワと、徐々に中央の床が裂けはじめ、光があふれでる。

 もし、ゼルメア遺跡に通う冒険者がそれを見たとしたら、まれに遭遇する次元の裂け目、だと思ったかもしれない。

 人の手が、その光り輝く裂け目から一本、ニョキっと生えたかと思うと、裂け目につかまって崖をよじ登るようにして、ひとりの人間がそこから這い出てきた。

「ふぃ~、出れた、出れた」

 その人物はパンパンと、ほこりをはらうように自分の服をはたく。そう、もの珍しいその緑赤の服をはたきながら二人に近づいてきたのだ。

「あ、あんたは……」

 少女は絶句する。

「み、緑赤の人2号!?」

 ダストンもおどろきをあらわにして言う。そう、出てきた少女は服装も含めてうりふたつだった。

「やあ、ダストンさん。おひさしぶり~。ムストの町以来だね」

 気軽に手を降ってダストンにこたえる。そして新たに出てきた緑赤の服の少女は、自分そのもののもうひとりの少女の首に、ガッと手を回して、なれなれしく顔を近づけて話す。

「あんたも久しぶり。お困りのようだね~」

「あ、あんた……あたしの、ほ、本体なの?」

 元からいた少女その1は、何がなんだかわからないとばかりに、うめくように言う。

「そうよ。あたしはほんの最近、時渡りの呪いでやってきた、あんたの本体。実はもう数日程度しか同じ時間軸にいられなくてね……。でも、あたしの世界が細切れになって終わりをむかえてしまう前に、これだけはやっておきたかった。はるか昔に時獄の迷宮で見た、最後のあたしの意味ある行為……。これは、ウルベア時代の……クオードのためでもあるし、あたし自身のつぐないでもある。……あんたがこの空間をつくってくれてよかった。夢の中だと現実の距離は関係ないからね。時間の猶予がないあたしにとっては助かったわ」

 少女その2は、この昏い、しかし母親の胎内のようなどことなく安心感のある世界を見渡す。

(そしてここは、あたしが外法でつくりだした試作型エテーネルキューブ……の中を夢で模したものか。いまならわかる。ここがキュルルの家……みたいなものね)

 少女その2は少女その1のロックしていた首を解放して、ポンポンと肩をたたく。

「あんたもここまで、本当によくやってくれたわね。あたしがいなくても、あと一歩というところまで用意を進めてくれた。でも、ダストンさんはああいうんじゃ駄目なのよ。あたしにまかせときなさい」

 そう言って少女2は、スッと前に進み出てダストンに呼びかける。

「……ダストンさん」

 ダストンは、不敵な笑みをうかべる少女2に、少したじろいで下がる。

「な、なんです」

 少女2はンンッと咳ばらいして、もったいぶってから言う。

「いますぐエテーネ王国首都キィンベルにむかってください。そうすれば……」

「そうすれば……?」

 少女1も、ダストンも、何をいいだすのかと息を呑む。

「とってもポンコツになったビャン・ダオ皇子が手に入っちゃいま~す!」

 満面の笑みで少女その2は言いはなった。

「な、なんですとー!」

 そして、パァァァと顔をかがやかせて、がぜん、やる気をみせはじめるダストン。

「そういうことなら、なんでもやるですぞ!」

 それを見て、少女1はあっけにとられる。

(いや、なんだったのよ、あたしのこれまでの苦労はさ……)

 いえーい、ポンコツー、と謎のハイタッチをしている少女2とダストンを見つつ、少女1は脱力する。

 そして少女2が戻ってきて、少女1に問う。

「そんで、ダストンさんは具体的にはどうすればいいのよ?」

(なんでも知ってるような顔して、そこはあたし任せなんだ……)

 頭をおさえつつ、少女1はパラパラと自分のメモを見ながらダストンにいう。

「えーっとですね、ダストンさん。あなたはこれから目覚めます。その後すぐに外に出たら、騒ぎを起こしているプクリポがいることでしょう。その彼を助けてあげてください。そして、その彼にガラクタ城の地下を見てもらってください。さすればあなたはエテーネ王国が開催する式典までにキィンベルに到着することができるでしょう」

 

 ……

 

 岳都ガタラの広場は今日も平和であった。そして、いつものように遠目から日がな一日ガラクタ城をながめている二人がいた。カスタム屋デコリーと研究員メンメである。

「なあ、メンメ先生よぉ。先日のあれ、どう思うよ?」

 ガタラ名物といってよい、ガラクタ城に持ち運びこまれる古代の遺物の事を思い出しながら、カスタム屋デコリーが隣に立つ研究員メンメへと語りかける。

「ウルベア帝国の巨大な反重力飛行装置……の残骸……。あれほど巨大なものは、みたことがないわ……」

 それがすっぽりおさまるだけのガラクタ城の広大な地下室に、そのバラバラになった残骸を運びいれていたのだ。

「いつものように、ポツコン氏をとおして売ってもらえないかなぁ。絶対いじると面白いと思うぜ」

 そもそも彼女らがここでいつもスタンバっているのは、城主ダストンとその部下ポツコンによる、ガラクタ城に持ち込まれる様々なウルベアの遺産目当てであった。

 ダストンとポツコンは日々、精力的にウルベア地下遺跡を中心に散策して役に立たぬものと彼らが判断したものをガラクタ城に運び込んでいる。しかしその実、熟練の発掘屋でもなかなかないような確率で、彼女ら垂涎の『役に立つ』物がまぎれていることがあった。そのため、彼女たちはいつもそのように搬入されているのを遠目でみながら、いざそういう掘り出し物を発見した時には、コミュニケーションが取りやすそうなポツコンに頼んで、ゆずってもらうのが常であった。

 なにせ交渉も楽である。「これは役に立つものなんです!」と力説すれば、あとはポツコンがダストンにうまいように言ってくれ、早晩ゆずってくれるのだ。そしてお代としていくらかのお金をポツコンに渡している。そのお金を元にポツコンは二人の生活費などを捻出しているようなのだ。そういった立ち回りからポツコンは、メンメやデコリーからは『意外と有能』と目されている。しかし、そのちょっとトロそう見た目や言動などでダストンからは不動の『ポツコン1号』として認識されていた。

 メンメは今回の巨大反重力飛行装置の件については否定的であった。

「さすがに今回のは大物すぎて、私達の手にはおえない……。動かせることを実証できなければ……、ダストンさんも役に立つものだとして私達にゆずってはくれないでしょう……」

 そう現実的な回答をする。

「やっぱ、そうなるか~」

 メンメとデコリーがそのように話していたところ、突然大きな声があがった。

 

「食い逃げだーッ!」

 

 ガタラ広場にその声が響きわたる。

 近くにいた人間はみな、なんだなんだといっせいにそちらの方をみやる。

「ひぃ~~、ご勘弁を!これは、無職ゆえのあやまち……!」

 などと、青い顔のプクリポが情けない声をあげつつ、全速力で逃げてきていた。

「天下のガタラ往来で食い逃げとは、ふてぇ野郎だ。逃がすな!」

「待てぇ!」

「無職が無銭飲食……うーっくっくっく」

 団結力の強いガタラの住人は呼びかけて、たちまち広場近くにいた人総出でつかまえる大捕物となった。

 

「きゅう」

 

 通りすがりのレンジャー協会幹部がいたこともあって、囲まれた食い逃げプクリポはすぐさまお縄となった。

 捕らえられていても、プクリポ特有の何を考えているのかわからない緊張感のない笑みの上に、ぐるぐるメガネをかけており、まったく何を考えているのかわからなかった。

 その食い逃げプクリポは縄で縛られたままドワーフたちに囲まれ、デコリーが代表してしゃがみこんで尋問する。

「……まったく、いったい、なんだって食い逃げなんかしたんだい。学もありそうだし、そんなことしたらどうなるか、わかりそうなもんだ」

 食い逃げプクリポは顔をあげて弁明する。

「ちがうんです、食い逃げするつもりはなかったんです!ちゃんと皿洗いして返すつもりだったんです……!」

(完全に故意犯だ……)

 あつまった面々はこれはアカンやつ、と顔を見合わせる。

 食い逃げされた料理店の店主が、進み出ていう。

「この野郎、料金を請求しようとすると堂々と金はないって言いやがってよ、皿洗いを食った分やるって言うんだよ。そんなん良いから代わりに金目のもんなんかないかよ、って探したらえれえ立派な本を持ってたもんで、それを置いてけば見逃してやるって言ったらよ。そしたらコイツすぐさま逃げ出しやがって……」

「なるほど」

 といってデコリーが、その食い逃げプクリポのカバンから立派な大判の書籍を探しだしてかかげる。

「……ほお、これかぁ。たしかに値うちものの気配がするね」

 食い逃げプクリポは「それを持っていくのだけはご勘弁をぉぉぉ」などとジタバタと騒いでいる。

「ちょっと……見せてもらって、いいかしら……」

 メンメが乗り出して、デコリーからその本をうけとる。

(ウルベア、式技術大系……?)

 表紙のタイトルを見てメンメはいぶかしむ。少し前に、これと対になる本を読んだような気がした。メンメが本のページをめくりだす。

 どんどんと、無言でページを読み進める。

(すごい……でも私には半分程度しかわからないわ)

「おい、メンメ先生よ……、どうなんだいその本の価値は」

 デコリーがしびれを切らして話しかける。

「これは……すごいわよ……。ウルベア関連のうしなわれた技術がこれほど体系的にまとめられてる本を、私は見たことがない……あなた、これ……どれくらいわかるの?」

 メンメは、その食い逃げプクリポに問いただす。食い逃げプクリポは、てらいもなくいった。

「まあ七、八割くらいは……?反重力飛行装置に限れば九割以上はわかります」

 メンメはそれを聞いてのけぞった。

「本当に……?あなた、一体何者……」

「私は、由緒正しき無職。ペリポンといいます」

 誇らしげに、その食い逃げ犯は言いはなった。

 

 バタン!

 

 と、そこにガラクタ城の扉があいた。

 城主ダストンがキョロキョロと広場の様子をうかがいつつ、騒ぎとなっているこちらを確認するや、一直線にやってきた。その後ろを何事かとポツコンもくっついてくる。

 広場に集まっていたドワーフたちは一様に、

(面倒くさい人がきたぞ)

 と思って離れていく。料理店の店主すらも「今日はついてねぇや」と言いつつ帰っていった。

 

 そこに残されたのはメンメ、デコリー、そしてペリポンだけになった。

「あんた、プクリポですねッ!」

 しばられたペリポンを指さして、ダストンは声をあげる。

「見ての通りですが……」

 ふーむ、といろんな角度からペリポンをみて、いい笑顔でそのしばられたプクリポの肩をたたく。

「どこからどうみても、使えなさの塊のようなプクリポですねッ!わしは大変気に入りましたですよッ。実は今日お告げがありましてね。外で騒いでいるプクリポを地下室に連れていけは良いことがあると言われましてねッ。すでに今の時点で良い感じですが、あんた、ちょっと地下室まで来てくだせえ」

 そういって、ペリポンを強引に連れて行く。

(地下室っていったらよ、)

(例の巨大飛行装置の残骸、ですね……)

 デコリーとメンメは顔をみあわせて、何気ない顔でダストン一行にくっついていった。

 ガラクタ城に入ると、ゴミの山に埋もれていて地下室の入り口などはないように思えたが、ポツコンが様々なゴミオブジェクトを脇にどけると地下室への入り口があらわれた。

 みんなでガラクタ城の地下室に入る。灯りをともすと、そこは地上部よりも広大な空間で、様々な機械群が散乱していた。そのなかでもひときわ巨大な塊にペリポンは近寄る。

「こ、これは!」

 ペリポンは驚愕して、そのバラバラになっている機械装置を見渡す。

 そして持っていた『ウルベア式技術大系』の本を開いて、見比べていった。ペリポンはたんねんに数々の装置をしらべていく。なにやら各所のボタンをあちこち押して装置がどんどんと光り輝いていくのをメンメやデコリーは信じられない思いでみまもる。

「みてください、このページを!ウルベア末期に開発された連結式超大型輸送タイプの反重力飛行装置。これは今までに見つかったことのないものですよ!しかもジョイント部などはいかれてますが、サブ・メインともに各出力機構は完全に近い形で残っています。これ、修理すれば使えますよ!」

 ペリポンはメンメやデコリーを心得者だと認識して、詳しく細部を説明しながらさししめす。細かくわかれている反重力飛行装置をつなぎ合わせ、中央部の大きなメインエンジン兼制御装置に組み込んでいけば巨大な飛行装置として運用可能だという。

 ダストンは嫌そうな顔をしていう。

「……そんな役に立ちそうな事はせんでいいですよッ。いや、でもそうしなければいけなかった何かがあったような……」

 うーん、とダストンが頭をひねっていると、思いだしてポンと手をたたいた。

「そうです!わしはエテーネ王国のキィンベルで開かれる式典とやらに行って、使えないやつを回収しにいかないといけないのです!」

 ペリポンは、それを聞いておどろく。

「なんと、私も学生時代の旧友、ラミザ王子に会いにキィンベルに行きたいと思っていたところなのです。実は、この『ウルベア式技術大系』が差出人不明でどこからか送られてきましてね……。私はこの内容に魅せられました。特に空を行きかう反重力飛行装置に。無職の私は暇にあかせてこの書物を調べつくしました。しかし、やはり古代ウルベアの技術研究の本場といったらドルワームになるでしょう。最近は新進気鋭のビャン・ダオ研究員が精力的に反重力飛行装置を発掘しているとも聞いていました。私はどうしても実物がみたい!と思い、全財産である片道だけの路銀をもってドルワームへむかったのです」

「アンタ、人生綱渡りだねぇ……」

 デコリーは腕を組んでニヤニヤと笑う。彼女はこの破天荒なプクリポを相当おもしろく思うようになっていた。

「しかし、ドルワームについたところ、ラミザ王子はすでにキィンベルに飛びたった後でした。なんと私が夢にまでみた反重力飛行装置にのって。私は彼の帰りを待とうと思いましたが当然宿代もありません。そこでラミザ王子との関係性をしめす当時の学生証をもとにドルワームの金貸し業者からいくばくかの金銭を借りようかと思ったのですが、なぜだか詐欺と疑われてしまい、ドルワームからはほうほうの体で逃げだして、いまここに至るというわけです」

「あなたほどの見識があれば……王立研究院での一時的な仕事もあったでしょうに……」

 とメンメが肩をすくめる。

「そう簡単に、わが無職の肩書きをなくすことはできません」

 と、なぜかペリポンは胸をはる。

「とにかくも、私は今お金がないので王子に会ってお金を少々工面していただきたいのです……。また、反重力飛行装置についても語り合いたい。ということでで私はぜひともラミザ王子に会いに行きたいのです。どうでしょうか、利害の一致ということで、この巨大装置を修理してキィンベルに向かいましょう」

 そのようにペリポンは提案する。

 メンメが『ウルベア式技術大系』のページをめくりつつ疑問を呈す。

「ちょっと待って……この飛行装置の燃料……、普通のドルセリンでも、航空用ドルセリンでもないわよ……。今まで発掘されたこともきいたことがないようなレアものよ……」

「そ、それは盲点でした。なんということでしょう。ここまでのお宝が埋もれたままになるとは……」

 といってペリポンは肩を落とす。

「……」

 そこで、ポツコンが何やらひらめいたらしく、巨大なツボをいくつかもってくる。

「これ、その機械を発掘したときに、横の密閉されたていた貯蔵庫に置いてあったものを詰めたものです。道具屋にみてもらったら、1Gにもならないクズ油だっていうんで喜んでもってかえってきたんですけど……もしや?」

「それです!」

 ペリポンがさっそく中央部のメインタンクを掃除したあとに、試しにその油をそそぎこみ、浮上の操作をすると、轟音とともに浮き上がっていく。メンメとデコリーからは歓声があがる。

「しかし残念なことに、ここにある燃料しかつかえないということになりますね。おそらく行って帰ってきたら、もう二度と浮上することはできないでしょう」

 しょんぼりとペリポンがいう。しかしそれを聞いて、ずっと苦々しい顔をしていたダストンが、突如ひかりかがやくような満面の笑みになった。

「なんですと!とんでもなく役に立つものなのかと思って、そんなものをひろった自分が恥ずかしかったんですが、行って帰ってきたらもう使えなくなるっていうんですかッ!そいつは最高に役に立たんやつですねッ。合格ですッ!」

 謎の採点がはいり、ご満悦で作業を進めてよいということになった。

 しかし、メンメが日にちを計算して暗澹となる。

「いったいどれくらいの期間で修理できるというの……?エテーネの式典開催日はたしか一週間後よ」

「これだけのパーツがそろっていれば、人手さえあれば三日程でいけるでしょう。そして、しっかりと速度がでれば四日もあれば十分キィンベルにはとどくでしょう」

「本気……?」

「……へっ、こいつは、おもしろい事になってきやがった!祭りだ、祭り!」

 デコリーが拳をてのひらにパンと打ちつけて立ち上がる。確かに雲をつかむような話ではあるが、なぜかこのプクリポがいうと実現できそうな気がしてきた。そも、失敗して当然の壮挙だ。デコリーは広場に戻って、早速六人ほど彼女の徒弟を引き連れて帰ってきた。さらにもうひとり、研究院の服をきた男ドワーフが最後に入ってくる。

「ちゅうす。久々の帰郷中、デコリー姉ちゃんに拉致されてきたチュニグっす。……なんだ、メンメもいるのかよ」

「……めずらしいわね、いつも研究院にこもっているのに」

「ちゃんとは覚えてないんだけどよ、こっちに来るとおもしろい事があるぞ、みたいなのを連日呼びかけられてる気がしたんだよな」

「非科学的……」

「ドルボードの声が聞こえるとかいう、メンメには言われたくねーけどな。でもまあ、こいつはマジで面白そうじゃねーか」

 チュニグはその地下室に置かれている、巨大な装置群に目をやってニヤリとわらう。

 デコリーが作業帽子をなおしながら、得意げにペリポンにいう。

「ペリポンの旦那、これで人手はたりるかい?」

 おお、とペリポンは快哉の声をあげる。

「ウルベア時代の技術エキスパートが私含め三人、デコリーさん以下エンジニアが七人、ポツコンさんも色々と雑用を手伝ってくれるようですし、これは十分といえるでしょう!」

「おーし、さあ、やるぜッ野郎どもお!」

 デコリーが鬨の声をあげ、徒弟たちが呼応する。

「うおおお!」

 そうやって、技術者たちの宴がはじまった。

 

「オーライ、オーライ」

 デコリーの徒弟たちが溶接した飛行装置群をくみあわせている。猛烈ないきおいで巨大飛行装置の修理がすすんでいた。

 一階の片隅ではダストンはあぐらをかいてポツコンといっしょに混ぜご飯をかきこみながら、ペリポンへの文句をいう。

「なんなんですか、あのプクリポはッ!とんだ見込み違いじゃねえですかッ!有能にも程があるでしょうッ!」

 ポツコン相手に激昂していた。ポツコンはポツコンで釈然としないものがあるようで、ペリポンに対して愚痴とも批判ともいいがたいコメントをする。

「いやぁ、なんなんですかねえ、ペリポンさん。あれだけすごい人なのに、まったくお金が儲からないというのは……。そもそもあの巨大装置を修理してラミザ王子にお金をせびりにいくってのが何かが間違っている……。どこででも稼げるでしょう、あの人は。あれがどこぞで流行っている縛りプレイというやつですかね……」

 自宅にもかかわらず、そのように二人は蚊帳の外でたそがれていた。

 しかし、このようなペリポン以下一丸となったエンジニアの奇跡的な活躍のおかげで、無事ダストンはビャン・ダオを救出するためにキィンベルへ飛びたつことができたのである。

 なお、地下室で連結作業をしていた結果、外に運び出せなくなってしまったため、そのままガラクタ城を乗せたまま向かうことになったのはご愛嬌であった。

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