奇跡の代償は   作:kianos

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■概要
Version4のアフターストーリー。第6話。
舞台はV5.0終頃のエテーネ王国首都キィンベル
並びにリンジャハル海岸、リンジャの塔。
主人公は魔界で行方不明扱い。14000字程度

■6章『素寒貧の猛者たちは』のおもな登場人物
JB:凄腕冒険者「JB一味」のリーダー。レンジャー。
ダン:凄腕冒険者「JB一味」のメンバー。魔法使い。
かげろう:凄腕冒険者「JB一味」のメンバー。バトルマスター。
トーラ:凄腕冒険者「JB一味」のメンバー。盗賊。
ヒストリカ:リンジャの塔を拠点にしている考古学者。
クロニコ:ヒストリカの助手。

※注「JB一味」は『蒼天のソウラ』に登場するキャラクターです。
『蒼天のソウラ』で起こっている事象は、この小説内の歴史でも概ね同じような経過をたどったとしていますが、『盟友』はソウラ作中の『ユルール』ではなく『あなた』だとお考えください。


6章『素寒貧の猛者たちは』

 時は少しさかのぼる。エテーネ王国と諸王国との間で条約締結の調印式がとりおこなわれる十日ほど前。場所はリンジャハル海岸地帯。ある冒険者の一団がぶらぶらと、気軽な調子ですすんでいた。

 ここは、ヘルカッチャやキラーデーモンといった、一般には強力とされるモンスターが跋扈している。

 とくに警戒するそぶりもない冒険者たちをみて「しめしめカモが来た」とキラーデーモンの数匹がいっせいに飛びかかろうとした。が、そのちょっかいをかけてきたキラーデーモンを認識するやいなや、冒険者のひとりである背の高いオーガが手早く長銃をかまえて撃つ。

 海賊が使うような銃かとおもわれたその弾丸は、キラーデーモンに到達する直前で光の魔法のように爆発する。

 

 パパパパン!

 

 いや、光の魔法そのものであった。キラーデーモンの苦手とされる光魔法が数発にもわたって爆発し、キラーデーモンは断末魔のさけび声とともに四散する。他のパーティメンバーはそちらの方を見ようともせずに歩きつづける。そのオーガ『早撃ちダン』はつぶやく。

「高く空を飛ぶモンスターは、誰彼かまわずに襲ってくるからいけねえな」

 そして何ごともなかったかのように、魔弾銃とでも言うべきその両手杖『マークマンズワンド』を肩にもどして、帽子をかるく整えてから少し足早に歩いて他の一行に追いついた。

 ふと見ると一方のヘルカッチャの一団の方は道を譲るように、そそくさと端のほうに逃げていた。

 オーガらしく長身で、オーガらしくなく痩せぎすだ。凄腕のハンター、いぶし銀の冒険者といった雰囲気を漂わせているが、れっきとした魔法使いである。

 つづけて、ダンはひとりごちる。

「……へっ、宮仕えはつらいねぇ。……いまさらリンジャハル遺跡の調査をなあ」

 それに反応したのはパーティリーダーのレンジャー、JBだ。ドワーフらしくずんぐりとはしているが、よく見るとドワーフらしくなく無駄な肉がない筋肉質。ムスっとしていう。

「お~い、聞こえてんぞ。しょうがねえだろうがよ、カネがねーんだから!今回の報酬三〇〇万ゴールド、受けたからにはしっかり稼ぐぞ」

 ナドラダイト鉱石の転売ビジネスにつぎこんだあげく、失敗してほぼ文無しになってしまった彼らはエテーネ王国に雇われの身となっていた。

 エルトナ風の具足に身を固めたエルフの女バトルマスター、かげろうが頭の後ろに手を組みながら苦笑しつつ言う。

 このような状況でもマイペースで気楽そうだ。

「商才ないのに、毎回懲りずにやっちゃうんだよねぇ。まあレグナードやら、メイヴやらと戦うための装備代を捻出しなきゃいけない、って思って乗っかっちゃったあたしらが悪いんだけどさ」

 彼らは冒険者稼業で続けていくなかで、ナドラガンドの竜守りの巫女プリネラに選ばれた『竜討士』でもあった。『常闇の竜レグナード』や『ダークキング』『海冥主メイヴ』といった人知を超越した神話時代の強大なモンスターを日々しりぞけ、少しでも力を弱めるための『常闇の聖戦』を戦いぬくために力を貸しているのだ。

「お金ほしい。装備さらに新調して、強くなったレグナードと再戦したい」

 パーティメンバー最後のひとり、このパーティの中でもっとも若いウェディの女盗賊トーラがいう。目下、彼女は盗賊として、何段階か強さがあるうちの最強状態のレグナードを倒すことに血道をあげている。

 一般的にレグナードに挑む構成の職種である魔法使いのダンはもちろんのこと、レンジャーのJB、バトルマスターのかげろうもそれぞれ個別のパーティ構成で、最近さらに強くなったと言われる、もっとも強力な状態のレグナードをもしりぞけている。しかし、盗賊であるトーラだけはまだ倒せていない。

 トーラは、ダンと『マークマンズワンド』をジト目で見ながらいう。

「ズルい……竜の咆哮の範囲外からメラゾーマ弾うちまくってとった称号なんて、あたしは認めない……チート」

 ぼそぼそとディスるトーラ。ダンの使用するメラゾーマ弾は一〇〇メートル以上先から撃てるという。それを聞いてダンは言い返す。

「おいぃ!聞き捨てならねえな。初討伐ン時はそりゃあ使えるもんはみな使ったけどよ、あいつ体力バカ高くて割に合わなさすぎるから、その後は普通のメラゾーマで戦って勝ってるぞ。咆哮もしっかりさがって避けた。……最初んときは確か、メラゾーマ弾を10ダース、いや1グロスか?使って大赤字だったんだぞ」

 とダンは反論しつつ愚痴る。

「というかダン、普通のメラゾーマ撃てたの?大体弾撃ってるか、抜撃呪文クイックドロウからのメラミ連打しか見たことないけど……」

「撃てるさ、そりゃ。そもそもメラゾーマ弾の魔力莢カートリッジにメラゾーマ込める時にも使う。……おめえは敵と相対した時には異様に観察眼がするどくなるけどよ、意外とそういうとこ抜けてんだよなァ」

 そのようなやり取りを微笑ましく、JBとかげろうはみまもる。

 JBの指令コマンドがなくとも、自身の意思ですすんでレグナードに挑んでいくようになったトーラをJBはうれしく思っていた。

「はっはっは、席がない中でがんばるのもまた一興じゃねえか。なあ、かげろう姐さん」

「おうとも。バト4たのしいよ?」

 JBが豪快に笑い、かげろうも晴れやかな笑顔で応じる。

 

 そう、彼らはアストルティアに稀によくいる、おもしろそげな強敵が出てくると突然どこからともなく集結してくる、普段金策をしない超強い冒険者たちなのである。気ままにいろんな職業の冒険者と、そのときどきでパーティを組んでは解散をくり返してはいるが、久しぶりに『JB一味』と界隈でよばれている古馴染みの四人がそろったのだ。

 そしてこのたび、レグナード用装備を整えたところで全員有り金がほぼ尽きてしまい、最強レグナードよりもさらに手強いといわれる最強メイヴにいどむための装備を新調するべく、トーラはレグナード戦をさらに試行錯誤するべく、なれぬ転売ビジネスにひさびさに手を出したところ大失敗してしまって更に困窮してしまったというわけであった。なお、最強ダークキングは初日討伐されている。

 その補填として、今回のエテーネ王国での超高額依頼を受けたのである。依頼元は、エテーネ王国軍ジャベリ参謀であった。

 基本的には五大陸を拠点としている彼らであったが、『盟友』が切りひらいた新世界ナドラガンドの発見により、冒険者の世界もおおきく様変わりしていた。さらには、つい数ヶ月前にもまたしても『盟友』が絡んでいると噂される、巨大な島が突然レンダーシア内海に出現したとの報が冒険者界にも駆けめぐった。そして一線級の冒険者たち、中でも『盟友の盟友フレンド』ともよばれる、よく『盟友』とパーティを組んだりして絡むことが多い冒険者たちは物見遊山がてらのぞきに来るものがトレンドになっていた。その『盟友の盟友フレンド』でもあるJB一味もその波にのってやってところ、実力のある冒険者を探していたジャベリの眼鏡にかなってJBがまずは単独で話を聞き、その後にこのような依頼を受けることになったのであった。

 

 受諾時にはパーティ内でもめた。

 ルーラストーンのひとつをジャべり参謀に一〇〇万ゴールドで売り払い、久しぶりに少しは羽振りが良くなったJBは、キィンベル、モッキンの宿屋に併設されている酒場にて、ご馳走をムシャムシャとほおばっていた。JBはジャベリから依頼された内容についてパーティメンバーに説明する。

「まあ、きな臭えな。報酬が高すぎる」

 JBの第一声はそのようなものであった。

 それに対して、キィンベルの高騰している麦酒をちびちびと飲みつつ、ダンがこたえる。

「じゃあ、受けなきゃいいじゃねーか」

 JBは豪快に酒をあおり、口をぬぐって言う。

「金がねえからな。それに、気になる依頼ではある。どうせ俺らが受けなきゃ他の金のためならなんでもやるような、俺たちのようなならず者冒険者に流れるだけだしな」

「ならず者って自分でいうかねえ」

 と、かげろう。

「ローストビーフおいしい」

 と、トーラ。

 久々のご馳走を皆でつまみながら、口々に言う。

 ダンはふーむう、と唸りながら話の先をうながす。

「まあ、そのジャベリとかいうこの国の偉いさんからの依頼の内容を聞こうじゃあねえか」

 JBはうなずいて話し始める。

「今回の依頼内容は二つだ」

「ひとつめ。数ヶ月前にエテーネ王国軍がおこなったリンジャハル第一次調査の続きを、俺らがやるということらしい。なんで今回も軍が直接やらないかというと、その後にメレアーデ姫が制定した王国軍規制法のため、軍隊を派遣できなくなったので冒険者に頼むことになった、という話だ。調査項目は測量や建物の強度の確認まで多岐にわたる。だがまあ、この辺は俺の分野なんで問題ない」

 こわもてな雰囲気に似合わず、考古学者としての顔も持つJBがそのように言う。

 ふむふむとうなずく一同。

「で、もうひとつはヒストリカ博士のエテーネ王国への招待だ」

「なにさ?その謎すぎる依頼」

 かげろうが笑ってツッコむ。頭をかきながらJBが話を続ける。

「……まあ一言で説明すると、第一次調査隊とヒストリカ博士との遭遇時のこじれた関係を修復したい、ということらしい」

「噂じゃ、そのヒストリカ博士ってのはけっこうな難物らしいじゃない」

「まぁな……」

 

 エテーネ王国軍第一次調査隊が、リンジャの塔を調査したときにヒストリカ博士と遭遇し、調査隊は友好的に話をすすめたかったようだが『エテーネ王国軍』だと名乗った途端、ヒストリカ博士はてのひらを突き出して言葉をさえぎり、

「ストッピット!エテーネ王国軍?ユー達が、だと……」

 と大声でとどめて、ゆっくりじろじろと一分ばかり兵士たちをながめた後に、徐々にワナワナと震えはじめ、ついにはさけびだして次のように言ったという。

「私が古代のエテーネ王国を研究しているのを知ってのイタズラか!ブラザーか?ロッサムか?ご丁寧に私の論文『エテーネ王国実在論』に書いた、『文献から予想したエテーネ兵士の武装予想図』まで完全再現してッ!バカにするのも大概にしろおおおおおぉ!ゴーバック!!」

 と泣きながらその軍人たちを追い返した、ということであった。

 

「うーん、ヤバいね」

「ヤバすぎんだろ」

「予想よりヤバかった、ヌフフ」

 三者三様に苦笑する。

「……まぁ、学者ってのは大抵が変人さ。うちの相棒はまだまともだったが……、いや、当時の俺なんかを引き込むあたりあいつもイカれてたかな」

 かつて自分を考古学の道に引き込んだエルフの相棒を思い起こして、JBは動じることなくいう。

「その、ヒストリカ博士ってのは考古学界では有名人なのか?」

 ダンが問う。

「まあ、良きにつけ悪しきにつけ、有名になりそうなオーラはあるな。いまのところはただのルーキーだが、一年ほど前かな、大論文を出したばかりで、それが『エテーネ王国実在論』だ。俺も読んだ。たぶん博士学位取得の後、一発目なのにえらい気合の入った研究だと思ったもんだよ」

「じゃあ、評判はよかったわけだ」

「いやぁ論文としては、けちょんけちょんにやられてた」

「……論文としては、って前置きがあるってことはなんかあるんだな?」

「まあ俺はフィールドワークの方主体だからよ、そんなに論文の良し悪しを見るのは専門じゃないんだが。えっと、歴史学と考古学の違いってわかるか?」

「文献調査か、遺物調査か、だろ。冒険者にゃどっちかというと考古学のが接点は多いよな。お前みたいな兼業も結構いるし」

「そうだ。で、考古学の論文ってのは一般的には、発見した素材があって、それに対する観察があって、所見があるわけよ」

「ふむ」

「ヒストリカ博士の研究論文には観察の段階で飛躍が多い。いきおい所見もかなり飛ばした結論になっている。また、一部からは古代人の手記が偽書ではないかとの指摘もあって、学会において論文としての有意性は認められなかったんだ」

「ダメってことじゃねえか」

「まあ、普通ならそうだ」

「へっ、もったいぶるねえ」

 酒のさかなには丁度いいと言わんばかりにダンはニヤつく。JBは床を指さして言う。

「……俺らは今どこにいる?」

 ダンはハッとする。

「レンダーシア内海に突如出現した謎の島、大エテーネ島。ここの住人いわく、エテーネ王国の首都キィンベル……などと言っている」

「そうだ。ヒストリカ博士がリンジャの塔を拠点に、五〇〇〇年前にエテーネ王国と交易があったとするリンジャハル遺跡にて調査した文物、そして古代エテーネ王国人が書いたとされる手記を元に、やたら躍動的に事細かに再現された『エテーネ王国実在論』そのままの世界だ。ここがヒストリカ博士が監修したテーマパークだと言われても信じられるくらいにな」

 現実的な冒険者であるはずのJBが、そこまでおおげさな言い回しをしたことにダンはおどろく。

「……そこまでなのか」

「そこまで、だよ。俺が思うに、ヒストリカ博士の論文に見られる文学的な行き過ぎた表現は、学者としてはマイナスであることは違いない。考古学というのは本来なかなか明快な答えには行きつかない。残された文物によって推し量ることしかできない。いろいろ考えることはできるよ。もしかしたら本当の真実ってのは、想像に想像を重ねた飛躍でたどり着くことができるのかもしれない。だが、それは通常は答え合わせをすることができないはずなんだ。……本来、そうであるはずなんだが、この街には答えがある。俺は、もしかしたら天才かもしれないヒストリカ博士に、じかにこの王国を見てもらいたいという思いが、同じ考古学者としてはある」

 ふうーむ、とダンはいぶかしげに問う。

「……俺もこんな稼業だからよ、この世界、なにが起こっても不思議じゃないとは常日頃から思ってはいるが。さすがにじゃねえか?おもしろおかしければいいと思ってる一部の冒険者界隈で言われている、この国が五〇〇〇年前の王国がよみがえった姿だという話をおめえは信じてるってことだな。……そして、それに『盟友』が関わっているという話も」

「『盟友』には最近会えてないからな、わかんねーけどよ。でも、この街の人びとの話を聞くと『盟友』らしき影はそこかしこにあるよな」

 そこでかげろうが愚痴る。

「『盟友』殿、盾島の会戦以降、音信不通なんだって?また手合わせしたいもんなんだけどなぁ」

「魔界にいるって説もあるけどな。どこまでいくのやら、あいつは」

 かげろうも、JBも、音信不通ながら『盟友』が死んでいるなどとはまったく思っていない。どうせ大変なこと巻き込まれてはいつつも、また現地で新しい『盟友の盟友フレンド』をつくったりなんかして、どでかい伝説を作りあげた上、ひょっこりと何くわぬ顔をして戻ってくるんだろうと皆おもっていた。

「……まあ、ヒストリカ先生の話はわかったよ。なるほど、おもしろそうな話ではある。だが、俺が気になってるのはそのジャベリって偉いさんが何を考えているか、だ。ヒストリカ先生をエテーネに呼んで、ジャベリにはなんの得がある?リンジャハルの廃墟をしらべて何をするつもりなんだ?高額の依頼だって、結局おれらを子飼いのなんでも屋にして、いいように使おうって考えているんじゃないのかよ」

 ダンが話をもどし、JBはうなずく。

「そうだろうな」

「だったらよぉ……!」

「まあ待てや。お前のいう通り、どうやってかは知らないが、俺はこの国を五〇〇〇年前のエテーネ王国が蘇ったものだと考えている。おそらくは、『盟友』が関わって、だ。見ての通り、活気にあふれたいい国のようだ。なんか食いもんは高いけどな」

 追加で頼んだローヌ風焼肉をもぐもぐと食べ、麦酒で流し込みながらJBは言う。

「これは俺のカンでしかないけどよ、ジャベリはなんかたくらんでる、と思う。わざわざ、おれらみたいなのを雇いたいってのは、それだけでなんかある。だが、今はそれがどういうものなのかはわからない。想像はいろいろできるけどよ、まだそのレベルだ。もうちょっと近くで様子をみたい」

「……らしくねぇんじゃねえのか。国の、そういう奥深いところに首をつっこむってのはよ」

「『盟友』には借りがあるしな。いま、『盟友』はのっぴきならない状態のようだし、こっちには手がまわらんだろう。『盟友』がせっかく苦労して救った国ひとつ、帰ってきたらとんでもないことになってました、なんて悲しすぎねえか。そこまで大事じゃなきゃ、それはそれでいいしよ」

「……借りってのは『ゼオルラの首』の調査の件でだろ。だったら借りがあるのはお前だけじゃねえか」

 JBはまたうなずく。

「そうだ。だからまあ、俺ひとりでもいい、とは思ってる。そういうわけで、ここから先はお願いになる。一緒に受けてもらえねえか」

 そういってJBは頭をさげ、ダンは嘆息する。

「……まあ、おめえの大体の『気持ち』のところはわかったよ。オーケーだ。だが面倒くさそうな情勢になったら、俺は機を見てさっさとずらかるぜ。それでいいなら、付きやってやる」

 ダンはそのように言い、杯をかかげる。ずっとふたりの話を横で、興味深く聞いていたかげろうも口を開く。

「……あたしも、ダンと同意見ってことで」

 かげろうも軽く手を挙げて同意した。

「おうよ、それでいい。ありがとうよ。なに、俺だって最後までねばる気はねえよ。面倒になったらトンズラするさ」

 JBは笑って礼を言う。

「スヤァ……」

 ふと、横を見るとトーラはすでに寝ていた。

「おいおい、こいつは……。そんな格好で寝るやつがあるかよ。せっかく一人で主体的にいろいろやるようになったと思ってきたのに」

 と、そういって自身の外套をかける。

 こうしてJB一味はジャベリを依頼を受けることになり、リンジャハル遺跡の調査に向かったのであった。

 

 リンジャハル遺跡も近づいてきたところで、かげろうが問う。

「そんで、そろそろリンジャハル遺跡につくけど、まだあたしらは何もしなくていいんだよね?」

「おう、まずはな。キャンプの設営でもしててくれ。依頼を再確認すると、クライアント……ジャベリのおっさんからの依頼条項のひとつめ、一週間のリンジャハル遺跡調査。これは俺が主体でやる。なにか必要なことがあったら俺が指示をだすから、そのとおり動いてくれよ」

「ヌフフ、楽ちん」

 無表情でなぜかダブルピースのトーラに、心配しなくてもすぐにこき使ってやるから、とJBは言う。

 さらに、しばらく歩いてた一行だったが、不意にトーラがJBにそっと顔をよせてささやく。

「……ついてきてるよ」

「わかってる」

 ぴくりとも表情を動かさずにJBはこたえる。

「本当に来たねえ」

 かげろうが、そうは言いつつも全く驚いていない様子で、自分の刀の研ぎ具合などを再確認している。

 このパーティは、バトルマスターかげろうが剣気を、魔法使いダンが魔力を、レンジャーJBが自然の罠や危険な動物を、盗賊トーラが人工の罠や人間の不自然な動きを検知でき、あらゆる障害を早期に発見し、さらにその脅威の度合いまで推しはかることができた。

 JBはかげろうに問う。

「どうみるよ?用心棒さん」

 ここでJBが問うているのは敵の強さだ。この戦闘狂の女エルフに聞くことと言ったらそれだ。

 かげろうはひそひそと、軽い調子でこたえる。

「JBも大体わかってるんだろうけどさあ。……数は一〇人。アストルティアの冒険者二パーティ風に擬装しているけど実態はエテーネ王国軍の十人隊だね。王国軍団兵六、軍属の錬金術師三、指揮官の十人隊長。キィンベルで確認した典型的な王国軍の部隊だ。手練だとは思うよ。……今のエテーネ王国軍の中ではね」

 言外に、あたしらには敵すべくもない、との含みを匂わせつつ、かげろうは続ける。

「錬金術師三の戦闘における能力は未知数だ。錬金術師は一般的に、僧侶、魔法使い、賢者、どうぐ使いあたりのどれかの素養を持つものが多いとは聞くが、魔法的な能力は私にはわからないから、ダンにでも聞きな」

 あくびをしながら、かげろうはこたえる。そのしぐさが、すでにものたりぬと言わんばかりだ。

「噂に聞いた、かつての王弟パドレや、その守護者・剣豪ファラス……ならなぁ」

 かげろうは新しい土地に着くと、その地域の軍隊や猛者を調べることを趣味としていた。その成果である過去のエテーネ王国にいたらしい伝説級の猛者たちの名前をあげて、かげろうはぼやく。

「軍隊でっていうならせめて、エテーネ王国軍の背骨ともいわれる、百人隊センチュリアくらいもってきて欲しいもんだねぇ。筆頭百人隊長のレセミナちゃんあたりいないかな」

 JBはニヤリと、かげろうの軽口に軽口でこたえる。

「おいおい、いにしえの『剣聖ガーニハンの百人斬り』の伝説にでも並ぼうとするつもりかよ。それに筆頭百人隊長クラスがかんでいるとなると、いよいよ面倒くさい話になってくるから、それも勘弁してくれ」

 それに、かげろうは不敵に笑ってこたえる。

「ふふふ。まぁこのご時世に大量殺人犯になるつもりはないよ。……で、どうするつもりなんだいボス?」

 JBは、あごをさすりながらこたえる。

「まあ、ぶっ倒すわけにもいかねぇが。俺らがちゃんと働くかどうかの様子見、とかの穏当な理由だったらいいんだけどなあ。まぁ、予想通りだな。三〇〇万ゴールドの高額な依頼だ。なんかしらの裏はあると思ってたよ。ジャベリのおっさん、何が狙いかな?」

「そういやぁ肝心なことを聞いてなかったがよ、ジャベリの人物像ってどんな感じなんだ」

 ダンが帽子をなおしながら問う。

「……冷静沈着な、なかなかの傑物のようにも見えた。少なくとも悪党にゃ見えなかったが」

 会った時のことを思い返しながら、JBはこたえる。

「まあ仮に、おめえの危惧が国の内部での抗争かなんかだとして、正義と正義のぶつかり合いにしかならんわな。ま、正義だろうが悪だろうが、俺らみたいな外様の雇われはいずれ無惨に切り捨ててられるのは変わりねえが」

 ダンは皮肉げにいう。

「多分」

 そこに、トーラがJBとダンの話に口をはさむ。

「正義だと信じてる人の方が、どんな非道なことでもやってのけるよ」

 かつて自身が所属していた、暗殺組織の長でも思い起こしているのかもしれない。

 ダンとJBは、それを聞いて

「ちがいねえ」

「たしかにな」

 と首肯した。

「……あたしはさぁ、なんとなく読めてきたよ」

 そこでかげろうが、ふふんと得意げにつぶやく。JBが振り返って問う。

「ほう、姐さん。聞こうじゃないか」

「これってさあ。地上げ、じゃないかなぁと思ってるんだけど」

 とかげろうは言った。ほーう、とJBは考える。

「なるほど。ヒストリカ博士に居座ってもらってはこまる、リンジャハル地域は無人。そういうことにしておきたいってことか。……確かにそう考えれば理屈はとおるな。姐さん、鋭いじゃないか」

 そうかもしれないと納得する。

「うちの実家の剣術道場でもよくあったんでね。身を持ち崩した剣客のなれのはてとして、ヤクザな地上げ屋や借金取りになってしまう、なんてことがさ。そういうのをカミハルムイの町人から頼まれて、成敗したもんだよ」

 かげろうはかつての経験談を語る。

「おし、その方向性で考えてみるか。とすると俺らがつつがなくヒストリカ博士をキィンベルにご招待したら、留守にしてる間にさっきの十人隊の連中がここの博士の拠点をきれいさっぱり片付ける……って感じかね。もしかしたら、おれらにその罪をなすりつけたりすることまで考えてるかもしれん。さて、どうしたもんか……。まあとりあえずは、ご当人に会ってからか」

 

 そうしてJB一味がうしろを気にしつつも、リンジャの塔を登っていくと、はたして塔四階にヒストリカその人はいた。

 ゆかに四つん這いの状態で、固まってうなだれている。

(……その体勢はヒザを悪くしますよぉ、博士)

 などと、JB一味が部屋の入口のかげから生暖かくヒストリカ博士の奇行をうかがっていると、ヒストリカ博士は突然ムクリと起き上がり、クワっと目を見開いて叫びはじめる。

「スウウウウウランプッ!!」

 ヒストリカ博士は頭をかきむしり、決死の形相でさけぶ。

「何をしたらいいかわからない!!前の論文にまだ書いていない武器として、リンジャーラのブリリアントな手記はあるにはあるのだが、どうせあのクソアス◎ール野郎に古代人が書いた事の証明がうんたらと嫌味をいわれるに違いない!ブゥラザーにあんな大見得をきってしまったのに年単位でなにもできていない!……ああ、最近会いに来てくれないマイフレン……、あなたは今どこにいるのか……。こんな私を導いてくれ…‥」

 最終的にはそのようにロマンチックな表情になりながら手をかかげ、あらぬ方向を見つめていた。

 ウオッホン、とJBが存在をしめすかのように咳をして、ヒストリカにかたりかける。

「あ~マイフレンじゃあなくてすまんが……、あんたが、ヒストリカ博士で間違いないか?」

 後ろでダンがボソボソと「こんな変人がふたりもいてたまるかよ」などといって、かげろうに足を踏まれている。

「ふぁっつ!!!???」

 ひとに見られてはいけないところを見られてしまい、片足をあげて硬直するヒストリカ。

 そこに少年がヒストリカのかげからあらわれて、固まっているヒストリカのかわりに声をかける。

「冒険者さん?」

「そうだ。少年、お前は?」

「ぼくはクロニコ。そこの学者先生の助手みたいなもんかな」

 そういって、その少年は無愛想な表情ながら訪問してきた冒険者たちに挨拶をした。

 

 JB一味は、ヒストリカとクロニコに経緯を説明する。ヒストリカは腕を組んでつっけんどんにいう。

「エテーネ王国が五〇〇〇年の時を超えて復活した?また、数ヶ月前にきた謎の兵士たちのドッキリの続きか?どこの誰の差し金かしらないが、ずいぶんと暇とお金があるじゃないか。こんな辺境の若手学者をいじめるためにそこまで労力をつかうとは。そんなやつらはドッグフードになって食われてしまえ!」

 そのようにヒストリカ博士がたけだけしくいうが、さっきの四つん這いからの奇行を見てしまった一同からすると微笑ましい。チワワが吠えているようである。

「叫んでるところ見られちゃったしねぇ」

 半目でクロニコがかすかに笑う。

「やめろおお、恥ずか死ぬううう」

 顔をおおって下を向く。その様子を、ニヤニヤとかげろうが見つめる。どうやらかげろうのお眼鏡にかなって、ヒストリカも彼女の中のお気に入り女子フォルダに入ったようだ。

 JBは、想定したとおりのヒストリカの否定的な反応を聞いてニヤリと笑い、ごそごそと自分のカバンをあさる。

「そういうと思ってよ。いろいろと持ってきたぜ。まあ、見てくれよ」

 そういってJBが広げたのはエテーネ王国キィンベルを撮影した写真群であった。

 ヒストリカはそれら手にとって、目を見開く。

「こ、これは!リンジャハルでも出土した錬金釜!わたしが超古代エテーネ式錬金釜と命名した……」

「ほら、これも」

 次々と写真を見せていく。

「こ、これは!リンジャハルとの貿易で主要交易品とされていた茶葉!そしてそれを利用した『紅茶の文化』の写真……」

「ほらほら」

「こ、これは!大陸から出土して偽書だとされているエテーネ王国関連の古文書には多数記載がある、錬金術の宗匠ユマテルが作りあげ、中央広場にあるとされる、エテーネ王国の象徴。巨大なオブジェ『永久時環』!?」

「あとこれ」

 もう使われなくなった指針書をキィンベル市民有志からもらってきたものだ。実物を見せてパカッと開ける。

 ヒストリカはそれをひったくるようにとって、パラパラと中の文面を食い入るように見る。

「こ、こ、これは、まさか、もしや、エテーネ王国国民を導いたとされる『時の指針書』か!?」

 得意げにJBはうなずく。

「ただ、これはもう使われてないそうだ。現女王?王女?のメレアーデ姫が時見による国の運営は禁忌としたらしい。なんでかはわからんけどな。まあ俺たちはそのエテーネ王国の人たちから、あんた、ヒストリカ博士を招待してほしいという依頼をうけて来たんだ」

 ヒストリカは自分が詳細に調査した、エテーネ王国の文化文物がこのようにみずみずしく眼の前に提示されているのを見て、興奮の極致にいた。しかし、自分の理性がストップをかける。

「ヒストリカ イズ エキサイト!……いやいや、まてまて、ウェイトウェイト。おちつけ~、私。五〇〇〇年前の王国が復活?そんなことありえるわけがない……。写真はトリックに違いない。私が騙しやすそうだから、ホイホイと着いていってキッドナップされて実家に身代金を要求しにいくんだ、そうに違いない……。そんなことになったらブラザーにまたどんな罵倒の言葉をあびせられるか……!」

「いってきなよ、ヒストリカ」

 クロニコは無表情でいう。

「イエス、クロニコ!やっぱり騙されてるよね。こんな話あるわけない……って、えええええええ?」

 まさか、このしっかりした少年のお許しが出るとは思わなかったヒストリカは、思わずクロニコを二度見する。

「最近スランプだって言ってたじゃないか。この話が本当であるにせよ、そうでないにせよ、少し外の世界で羽根をのばしてもいいんじゃないかな?」

 クロニコ少年はそのように、たんたんと語る。

「……う、いやでも」

 ヒストリカはちらちらと、熟練の冒険者然としたJB一味をみる。

(これは、こわがられてる……かねぇ)

 JBは苦笑する。どのように見ても、ひとくせもふたくせもありそうなJB一味。対して、いかにも人見知りの癖をかかえていそうなヒストリカ博士。ホイホイと着いていくのには抵抗があるようであった。

 だが、ヒストリカ博士は見せてもらった写真群のなかから一枚の写真を発見する。

「これは……!」

 『盟友』ほか、JBを含め計八名の『王者』とともに『真・災厄の王』と戦っている写真であった。JBが『真・災厄の王』のアギトにはさみこまれて、危機一髪という絵面だ。JBが「あー、あんときの」といって写真をしまおうとするが、ヒストリカがとめる。

「あ、あなたたちはマイベストフレンの知り合いなのか!」

「ん、ああこいつか?最近は会えてないけどよ。ちまたで言われる『盟友の盟友フレンド』ってやつだよ、俺らは。なんだよ、さっき言ってた『マイフレン』ってのは『盟友』のことかよ。ったく、あいつはどこにでも顔をだすねえ」

 といってJBはニヤリとする。ヒストリカはそれを聞いて、途端にしおらしくなり、顔をあからめつつ

「……それなら、ぜひ、連れていってください。マイフレンの友達なら悪い人のはずがない……」

 などといい、ヒストリカはJB一味に同行してキィンベルに行くことになったのであった。

((((……ちょろい!))))

 JB一味は全員が、悪い顔でそのように思った。

 

 JBは、リンジャハル遺跡調査の合間にクロニコを塔の外縁部に呼び出した。

「お前に言っておかないといけないことがあるんだけどよ。ヒストリカ博士には話すと、ややこしくなりそうだからお前だけに話しとく」

 クロニコは塔の縁から、外の様子を見ながらいう。

「外で様子をうかがってる、2つの冒険者パーティらしき集団のこと?」

「……なんだよ、察しがいいじゃねえか」

 JBは、その少年の利発さを感心しつつも、少し気味悪く思いながらつづける。

「おれらが博士と一緒にキィンベルに向かったら、もしかしたらあの冒険者たちは塔に乗り込んできて、ヒストリカ博士の拠点を破壊したり、お前にもなんかしらの接触をしてくるかもしれん、と思ってる」

「うん」

 なんの感慨もなさそうに少年はうなずく。

「だから、念のためにかげろう姐さんをボディガードとして置いておこうと思う」

 クロニコはそれには直接こたえずに、いう。

「あの人達は……多分、あとからもっと大勢の仲間を連れてきたりするんじゃない?」

「まあ、可能性としてはあるかもな」

「かげろうさんも、もちろん心強いんだけどさ。たぶんあの人達、理不尽な、ちょっと怖い目にあった方がもう来なくなると思うんだ」

(……?)

 この少年が何を言いたいのか、見定めるように眉をしかめる。

「JBさんはさ、無限回廊ってトラップ知ってるかな?先に進んでるつもりになってるけど、実は同じ箇所をぐるぐるまわって進んでるってやつなんだけど」

 JBは首をふってこたえる。

「伝説に伝えられし冒険譚では聞くことはある。だが実際にアストルティアでは見たことはないな」

「それが、実はこのリンジャの塔にはあるんだ」

 JBはおどろく。

「まじかよ!?ていうかこの四層もそうだが、この塔は外に出るとこがあるじゃねえか。一体、どことどこが繋がって無限ループになるっていうんだ?」

「この第四階層から第五階層へいくところだよ。本来ならそうなるんだけど、五層側でしかけを操作すると四層から一層……、つまりこのリンジャの塔の入り口にもどるんだ」

(でかいニードルマンがでたりしたとこだっけか)

 そのようにJBは思いおこし、クロニコに質問する。

「もしかして、その一層から外に出ようとすると……?」

「四層側にもどるよ。僕が解除しないと、外には出られない。たぶん昔に、戦争で攻められた時とかに使ったんじゃないかな」

「そりゃ、……地味にえげつない罠だな。ハマったら永久に出られずに餓死するんじゃねえか?」

「そうかもね。でも、そこまで頑張った人はいないよ。大抵は二、三日くらいで三階から飛びおりて、帰ってく。そういう目に遭った人で、もう一回登ろうってひとはほとんどいないかな」

「いままでに何度も利用してるのか」

「うん、あぶなそうな人が来たときにはね。僕とヒストリカ、それに下のシスターさんと一緒に五層まで行ってやり過ごすんだ。だから、残ってもらわなくても大丈夫だよ」

 JBはちょっと自虐的な笑みを浮かべて尋ねる。

「……俺たちには、しかけようとは思わなかったのかい?」

 クロニコは薄く笑ってこたえた。

「JBさんたちは平気さ。……それよりも、ヒストリカのこと、キィンベルで頼むよ。あんな人だからさ。はしゃぎすぎて怪我でもしたりしないか心配だ。ヒストリカにとっては研究対象であり、あこがれのエテーネ王国だ。……もしかして、いい出会いがありそうならフォローしてあげてよ」

 JBは顔をしかめて言う。

「なんだそりゃ。お前は占い師かなんかかよ」

 ま、そのようなものかな、とクロニコははぐらかすように言った。

 

 そういったやり取りがあり、その後JBたちはリンジャハル遺跡を規定どおり調査しおわって、ヒストリカ博士を連れてキィンベルに帰還することになった。

 出立するときには、JBは塔の方を見上げ、フン、と軽く鼻をならした。

(『助手のようなもの』『占い師のようなもの』ねぇ。……いいよ、のせられてやるよ、クロニコ少年。そのかわりエテーネ王国軍、しっかりさばけよ)

 そうして、JBは踵をかえした。

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