奇跡の代償は   作:kianos

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■概要 Version4のアフターストーリー、第8話。
舞台はV5.0終頃のエテーネ王国首都キィンベル。
主人公は魔界で行方不明扱い。2000字程度

■8章『因果は、時を越えて』のおもな登場人物
ラミザ王子:ドルワーム王国王子。今回の外遊で初めて王国使節団の団長を務める。
ドゥラ院長:ドルワーム王立研究所の若き院長。ドゥラ王子を支える。
ビャン・ダオ:王立研究所で最近名を上げている発掘調査部隊のリーダー。かつて滅んだガテリア皇国皇子


8章『因果は、時を越えて』

 学者先生たちがキィンベルの大通りで騒いでいる横を、茶・青・金の三色を基調としているドルワームの紋章旗を掲げた、贅を尽くした馬車が通り過ぎていった。これはエテーネ王国が各国代表にそれぞれ用意してくれたものだ。

 その中で、車窓から外を眺めているのはドルワーム王国のラミザ王子、向かいに座るのはドルワーム王立研究所のドゥラ院長だ。

 技術者としてのドゥラは、ここ数日の体験ですっかり心奪われているようで、感慨深げにラミザ王子に語る。

「いやあ!エテーネ王国の錬金術を基盤とした技術力は素晴らしいですな。わが国に眠る使いみちのわからない遺物のいくつかは、エテーネ王国に協力してもらうことによって解決するかもしれません。これは各国の使節団よりひと足早く来て、さまざまな驚くべき文物を見せていただいた甲斐がありましたなあ」

 

 ドルワーム以外の各種族の主要国首脳が、アラハギーロ王国が用意したレンダーシア内海用の大型船に乗って本日ようやく到着したと聞く。しかしドルワーム王国の使節団は、ドゥラ院長が復元した大型の反重力飛行装置に乗って、他国より一週間ばかりキィンベルにやってきており、様々な文物を目の当たりにしていたのだ。技術の民であることを自認するドワーフとして、この国の高い錬金技術は、とても興味深いものであり、特にドゥラ院長は大きな感銘を受けていた。

「うん、そうだね」

 といって技術者ドゥラよりはいささか低めなテンションでラミザ王子は生返事をしつつ、外を眺めていた。その騒がしい一団に気づいてつぶやく。

「あれっ、フィロソロス先生だ……。懐かしいなぁ」

「ほう、ラミザ王子は、あの大学者フィロソロスの教えを受けたことがあるのですか」

 対面のドゥラは、ラミザ王子が高名な学者の教えを受けていたことに驚いて問う。ラミザはうなずく。

「あ、知らなかったかな。うん、そうなんだ。昔、留学した時に歴史を教えてもらってたんだ。すごく偉い先生だったらしいんだけど、優しかった……。僕が周りと馴染めないでいるところを、模型部に入ったらどうかと勧めてくれてね。ウルベア魔神兵のミニチュアをたくさん集めたし、模型も、ペリポン君っていうプクリポの友達と一緒にたくさん作ったんだ。ペリポン君元気かなぁ。前手紙をもらった時には無職だと嘆いていたけど……」

 普段は茫洋とした、とらえどころのない表情をしているラミザだが、模型部の話をすると目をキラキラさせてうんうんと過去を懐かしんでいた。その様子を見たドゥラは内心落胆していた。

(あの音に聞こえる大学者フィロソロスの教えを受けて、最初に出てくる感想が模型の思い出とは……。ラミザ王子も、以前に比べて最近はしっかりしてきたと思ったが、やはりまだまだ頼りない。ここは私がしっかりとドルワームの屋台骨を支えていかねばな!)

 と気持ちを新たにするのだった。

 

 そして、もうひとり。その豪奢な客車部屋のすみにドワーフの青年がひっそりといた。

 それはドルワーム王立研究所の研究員、発掘調査部隊のリーダーとして、最近頭角をあらわしてきているビャン・ダオであった。しかしそのビャン・ダオは明らかに気分が優れない様子で、うつむいて首筋をおさえていた。

「どうしたの、ビャン君、大丈夫?馬車に酔ったの」

 ビャンの様子に気づいたラミザが声をかける。

「かたじけない、ラミザ殿。酔いではないのだが、アラハギーロで得体のしれない占い師に出会ってから、少々夢見が悪くてな……」

 ビャンはラミザの心づかいに無理をして笑顔をつくる。

「……少し横になったほうが良い?馬車だからまずいか。ちょっと降りた方が良いかな」

 あわあわと、ラミザは考えをめぐらす。

 

 自身を三〇〇〇年前のガテリア皇国第一皇子と吹聴するビャンは、ラミザに対しても対等な言葉遣いで話していた。ドゥラを筆頭とする王立研究所の人々には、ガテリアやウルベアの古代帝国の研究に没頭するあまり、自身もガテリアの人間と思い込んでしまっているのか、はたまたそういうキャラづくりであろう、などと思われていた。

 そうした、誰もが一笑に付す荒唐無稽なビャン・ダオの言い分を無条件に信じてくれたのはラミザだけであった。

 周りからビャン・ダオの事に聞かれた時、ラミザは芒洋と次のように言ったものであった。

「……だって、その方が自然だもの。ビャンくんは嘘を言っているとは思えなかった。ガテリア・ウルベア時代の知識もすごいし。本人が言う通りコールドスリープしてきた、って考えるほうが逆に無理がないんじゃないかな。目が真剣だもの」

 

「ははっ、さしものガテリアの皇子殿も、長期間の空中ドライブは堪えたかな」

 ドゥラがからかうように言う。それをラミザがたしなめるようんいフォローする。

「いや、あれは僕らもしんどかったよ……。アラハギーロで一泊してもなかなか大変だったのに……。よくも、マイユさんとダストンさんはドルワーム王国から『奈落の門』までの超長距離をノンストップで飛んでいったものだよ。それに僕らは後ろで風よけに守られて比較的快適に過ごしていたけど、ビャン君はずっと操縦していたんだしね」

 

 そのような、ラミザとドゥラの話し声がビャン・ダオには遠くに聞こえる。

 首はいっこうによくならず、ほんのりと熱いままだ。手を離したその首筋はほのかに黒ずんでいた。

 

 そしてビャン・ダオはアラハギーロで出会った、うろんな占い師から言われたことばを思い起こす。

 忘れられぬそのことば。ようやくこの世界に馴染み、日々の生活の中ではようやくそれにとらわれぬようになってきたという矢先。

 ビャン・ダオには、決して、決して、絶対に看過できぬ単語をその占い師は言い放ったのだった。

 

「キィンベルで『グルヤンラシュ』をさがすがよい……」

 

 そのように、占い師は悪魔がささやくようにビャン・ダオに告げたのであった。

「グルヤンラシュ……」

 ビャン・ダオは、一度は諦めかけたその仇敵の名前を、ラミザやドゥラにも聞かれぬように低くつぶやくと首筋がすこしうごめき、どす黒い感情が高まるのがわかった。

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