麦野とルイズ、そしてワルドはアルビオン内戦の終結をその目で見ることはなかった。
というのも、貴族派がルイズ達の動向を把握していた以上、今回のアルビオン内戦の逆転勝利にルイズ達が関わっていると感づかれるのは少々拙いのだ。何故拙いかというと……、
「――御三方とも、お疲れ様でした。……なんと、なんと礼を申し上げればよいのやら」
「姫さま、礼なんていりませんわ。我々は臣下としての務めを果たしたまでです。当然のことなのです」
「臣下としての務めだなんて! ああ、ルイズ! 謙遜も過ぎれば白々しいわよ! 貴方達は『手紙を受け取る』という任務だけでは飽き足らず、ウェールズ様の御命まで救ったじゃない! ありがとう、本当にありがとう!」
――という話はさておいて、宮殿。
アルビオンを後にした麦野、ルイズ、ワルドはトリスタニアの王宮に戻り、事の次第をアンリエッタに報告していた。アンリエッタの他には誰もおらず、殆ど密会のような状態だ。だからなのか、アンリエッタは『王女という公人』ではなく、『恋人を救ってもらった少女』としての感情を滲ませていた。
ワルドが肩を竦め、麦野に視線を寄せて来る。まったく困った王女さまだ、とでも言いたいのだろう。麦野はふっと皮肉げな笑みを返すにとどまった。苦言を呈するほど麦野はアンリエッタに忠誠を抱いていないし、自覚の足りない王女様にいちいちつっかかるほど機嫌が悪いわけでもなかった。
「――それに、まだ問題は終わっていませんわ」
ルイズは、浮足立つアンリエッタを宥めるように声色を変えた。その雰囲気の変化に、アンリエッタも何かがあるのだと思って顔を引き締める。
「わたしは、あの戦いにおいて『虚無』に目覚めました」
「! ルイズ、それは……」
アンリエッタは動揺するが、否定はしなかった。彼女とて、不思議に思ってはいたのだ。スクウェアを倒すほどのメイジとはいえ、たった三人で負け戦を勝たせることなどふつうは(ふつうじゃない使い魔が此処に一人いるが)無理だ。だから、ルイズにはただのスクウェア以上の『何か』があるのかもしれない。そう考えてはいた。
「そして、『虚無』に目覚めたからこそ分かります。アレは……『偏りすぎている』」
これは、麦野からの進言がもとで気付いたことだ。
あの『生ける屍』は虚無ではない。それにしては、明らかに現象の『規模』が小さすぎる――とは、麦野の言葉だ。ルイズはその『規模』という考え方は分からなかったが、虚無に目覚めたからこそ分かる『魔法の質』については気付いていた。虚無が完全なるニュートラルだとしたら、『生ける屍』を操るあの魔法は幾分か『水』に偏っている。規格外ではあるが、虚無ではない。
「おそらく、先住魔法の力を封じ込めたマジックアイテムを使い、虚無を騙っていたのではないでしょうか」
「……で、でも。それはつまり……」
そこまで言われれば、アンリエッタもルイズの言いたいこと――危惧していることが分かる。
そして、最初の『内戦終結にルイズ達が関与しているとバレるのがマズイ理由』に繋がる。
つまり――『第三国』の存在だ。
ただの一介の聖職者でしかないオリヴァー=クロムウェルが、先住魔法の力を封じ込めたマジックアイテムを手に入れられた理由。そして、あれほどの兵士を手に入れることが出来ただけの理由。それは、そのバックに国が着いていたからだ。その財力を盾にしていたと考えれば、クロムウェルの台頭にも納得がいく。……納得がいってしまう。
そして第三国の目的は分からないが、これほど大掛かりな手を使っておきながらアルビオンの転覆を今さら諦めるということはしないだろう。これからもアルビオンへの攻撃を続けるはずだ。そこに『トリステイン』という異物があれば、当然排除しようとする。
……排除しようとするのだ。『トリステイン』が反乱の鎮圧に一枚かんでいるとバレれば。だから、バレないうちに撤退した。これが、反乱終結の前にルイズ達がアルビオンを後にした理由である。
「戦争は、まだ終わっちゃいないわ」
そこで、黙っていた麦野が初めて口を開いた。
「この事実はアルビオンの王子様――もとい王様にも教えてある。『ありがとう、反乱の手引きをしてアルビオンの民をいたずらに傷つけた者たちを僕は絶対に許さない』だとよ。……そして当然、トリステインもそうなるよな?」
「勿論ですわ」
アンリエッタの私怨以外にも、トリステインがいつ反乱の鎮圧に加わっていたとバレるか分からない以上、先手を打って叩く戦略的必要性も発生する。――そういう意味で、無用な外交リスクを生み出したルイズの決断は一見迂闊にも見えるのだが、レコンキスタがアルビオンを統一してしまえばどのみちトリステインも遅かれ早かれ侵攻されていたと考えると、あながち迂闊とも言い難い、むずかしい状態だった。
「……下手人を調べるんなら、『指環の出所』と『場違いな工芸品』を調べな」
「……? 指輪の出所を調べる意図は分かりますが、何故場違いな工芸品を? あれはただの骨董品では……」
骨董品、と言った瞬間、ルイズとワルドの顔が強張る。まるで『何を言ってるんだお前は』とでも言いたげな反応だったが、無理もない。ハルケギニアに一般流通している『場違いな工芸品』は、あくまで場違いな『工芸品』でしかないのだ。
ともあれその表情の変化でアンリエッタも自分の言っていることがどこかピントのズレた指摘だと気付いたのか、
「もしかして、反乱軍は『場違いな工芸品』を用いて何かしたのでしょうか?」
「……機械で出来た蟲を操っておりました」
答えたのは、ルイズや麦野と違い一人戦争の行く末を見守っていたワルドだった。何もしていなかったワルドだが、彼はこれでも戦争のスペシャリストだ。見ているだけでも、分かっていることはたくさんあった。
「大地を割るかのような『弾丸の嵐』を放つ二つの鎌を持ち、軽快に空を飛び回ってこちらの攻撃を回避していたのです。……、
ワルドがルイズ、と言ったのは麦野の指示だった。今この時点で能力を国に晒すつもりはない。だから適当に上手いこと言って誤魔化してくれ。勿論言わなければ――と脅迫、もといお願いされ、ワルドは当然それを快諾した。
アンリエッタは大地を割るほどの弾丸の嵐、という言葉を聞き、俄かに想像力が追いつかないようだったが、それでも戦力の強大さは思い知ったのだろう。軽く顔を青褪めさせていた。
「……何より恐ろしいのは、敵国はそれを『ただの玩具』として扱っていたという事実です」
ワルドはゆっくりと語り出す。これは誰の受け売りでもない、彼自身のオリジナルの発想だった。
「軍属として活動しているから言えるのですが、軍隊というのは突出した戦力を好みません。ムラはあるが時と場合によって一〇〇%の力を出し切れる人間の集まりよりも、いつでもどこでも確実に八〇%の力を出す方が、軍隊としては信頼できるからです。……ですが、それでも突出した戦力を組み込んだ方が有益と判断された場合には、その突出した一を徹底的にサポートする形で軍隊を編成するのです」
「……凄い武器がある場合、それをただ軍隊に組み込むのではなく、それを中心に軍隊そのものを作り替える、ということですか?」
「左様でございます。姫様のご慧眼、御見それいたしました」
「おべっかは必要ありません。続きを」
ワルドは敬服したように頭を下げ、続きを話し始める。
「そのセオリーを前提に考えると、あの機械の蟲の運用はあまりに歪でした。まるで他の駒が全部とられてからクイーンを動かすような、あるいは出す予定のなかった出し物を急遽出したような登場の仕方でした。……たった一つしかない隠し玉の運用としては、あまりにも杜撰にすぎる」
「…………、」
アンリエッタもまた、その意味を理解した。
「で、ではまさか……。ルイズがいなければ、それだけで王軍が壊滅していたかもしれない機械を、その敵国は……、」
「他にも持っているでしょうな。少なくとも一〇。最悪それ以上」
「………………………………………………………………」
絶望的な情報だった。
そんなもの、適当にトリステインに全部放ってしまえばそれだけで一夜にして国盗りがなされるだろう。
「ですが、アルビオンにその手を使わなかった以上、相手には迂闊に機械の蟲を動かせない理由があります」
「そ、その理由というのは?」
「それは――ミス・ムギノから説明してもらった方が早いでしょう」
麦野に話を向けると、アンリエッタは素直にそちらの方を向いた。
「――弾数の問題よ」
麦野はこの純粋な少女に言っている意味が分かるだろうか? と疑問に思いつつ、話し始める。
「『場違いな工芸品』は知っての通り東方から流れて来たもの。つまり、ハルケギニアには製造技術がない。……加えてあの弾丸は特別製だから、錬金で作ろうにもおそらく一人のスクウェアが一か月に一〇発程度が精々。……まあそれだけでも十分脅威だけど、後先考えずに連発していたらすぐに弾切れを起こすでしょうね」
もちろん敵国の方でも弾丸の備蓄は行っているだろうが、何せ一分間に四〇〇〇発だ。どれだけ作ろうが大量生産しない限り物の数ではない。だからこそ、最強の兵器のはずなのに敵国は『使いどころ』を慎重に見極めているのだ。逆にそれは、『ここぞ』というところで使って来るということだが、そこにルイズをぶつければ確実な勝利を手にすることができるということでもある。
「……ルイズ。貴方の『虚無』に、それらを打開できるかどうかが懸っている、ということなのね」
「その通りにございます、姫さま」
ルイズというジョーカーに頼らざるを得ない状況というのは、国としては不健全と言わざるを得ないが、そんなことを言っていられないのがこの状況だ。
――とはいえ、アンリエッタには迷いもあった。
大切な『おともだち』を、戦地に送り込むという決断をした後、アンリエッタは後悔した。それしか方法がなかったとはいえ、自分は友人を戦場に送り込んだのだ。王族としてなら『信頼でき、戦闘力の高い臣下』であるルイズを戦地に送り込む決断は決して間違っていない。だが、王族ではない、ただの少女アンリエッタはその決断を深く後悔した。
……この状況。
まるで誰かがそう
これ以上、ただの学生であるルイズを戦いの世界に巻き込みたくない、とアンリエッタは思う。こんな泥沼の政治世界の犠牲になるのは、自分だけで良い。ウェールズを助けてくれたこの『おともだち』に、これ以上汚いものを見せたくない。
……正史と違い、愛する人との悲劇なき『離別』を経験したアンリエッタは、そんなことを考えるようになっていた。
だが、そんなアンリエッタの変化などお構いなしに状況は進んでいく。現状、件の戦力に対抗できそうなトリステインの戦力は、今はどこにいるかも分からない『烈風』くらいのものだ。そうであればこそ、ルイズの虚無に頼らざるを得ない。
「……その時が来たら…………よろしく、お願いします」
「はい。私は必要な時が来れば、いつでもトリステインの為にこの『虚無』を捧げるつもりです」
憧れだった『貴族らしい義務』を背負い、杖を掲げるルイズ。そして、最愛の『おともだち』の献身をこの目で確認することが出来たアンリエッタ。
……しかし、二人の少女の表情は、いずれも明るいものではなかった。
***
第一五章 そして日常は始まる And_the_Dark_Wriggles.
***
「ねえ、シズリ」
「なあにルイズ」
「ううん、なんでもない」
「……変なヤツね」
ワルドと別れ、無事に学院に戻って来たルイズと麦野は、事の顛末をオスマンに説明したのち、自室に戻って来ていた。それからしばらく、ルイズは不在の間の授業の課題をやりつつ、こうして麦野にときどき話しかけているのだが……やはり、麦野はルイズのことを『ルイズ』とちゃんと呼んでくれる。高圧的なのは変わらないが、親しみのようなものも感じられる。
麦野を自分達の世界に引き込む、と断言した時の様に、一時的なものではない。
「はぁ」
「溜息が多いわね。そんなに課題の数が憂鬱?」
「……そんなところよ」
普段は鋭い麦野なのだが、今に限ってはルイズの本心を見抜くことができない。――いや、既に見抜く必要すらないと、心の底からコミュニケーションをとる必要性がないと思われているのか。そう思って、ルイズはまた暗澹とした気持ちになった。
「……ねえルイズ。ちょっと辛気臭すぎるわよ。気分転換でもしたらどう?」
「気分転換、ね……」
「旅行にでも行けば良いわ。シエスタから聞いた話だけど、彼女の故郷、タルブってけっこう良い旅行地らしいわよ」
「授業を休んだばかりなのに、旅行なんていけないわよ……」
「あら、そう? この間のはノーカンみたいなモンだし、ちょっとくらい旅行に行ったところでどうにでもごまかしはきくと思うけど」
「……、」
ルイズは黙った。
基本的に悪いことのできない優等生タイプであるルイズは、学校を『サボる』ということに強い忌避感をおぼえる。だがここ最近の激動の日々で彼女自身常識が緩くなっている部分もあり、何よりこうしてひとつの場所に留まっていると、否が応でも思考が進んでしまい、考えたくないことを考えてしまう。
「じゃあ……タルブに旅行に行く?」
「そうしなさい。私は学院に残っているから。案内役にシエスタをつけておいてやるわ」
「え……何で? シズリは行かないの?」
「私は学院で調べたいことがあるから。それに、私がいたら気分転換にならないでしょう?」
麦野は興味なさげにそう言った。――が、ルイズはその言葉に思わずドキリとしていた。
……見透かされている。
ルイズが現状に不満を持っていることも、見透かされている。勿論麦野はルイズを気遣っているわけではない。これは――『管理』だ。人間が家畜や作物の状態を良好に保とうとするように、麦野はルイズから『〇次元の極点』という成果を摘み取る為に良好な状態を保とうとしているのだ。それが、麦野の無機質な態度から分かる。どうしようもなく分かってしまう。
もはや、全然対等ではない。気遣ってもらうどころの話じゃなかった。こんなのは、対等どころか、同じステージに立ってすらいない。生産者と生産物の関係。……人と物だ。
「…………っ」
できるはずだ、とルイズは思っていた。
ルイズが不敵に勝ち誇り、そして麦野が不機嫌そうに、それでいてどこか満足げに笑って、そして二人が一緒に歩いて行ける未来を、実現できると思っていた。
でも、そんなのはくだらない幻想だったのだ。もう、ルイズの心は完全に『折れて』しまった。最後の意地で、ルイズは涙を見せる前に部屋から飛び出す。
「……、……ま、あれくらいなら許容範囲か」
最後に聞こえた麦野の呟きで、ルイズの瞳は決壊した。
***
「……ミス・ヴァリエール?」
女子寮の裏庭で、一人座り込んでいたルイズに、少女の声がかけられる。
艶やかな黒髪に、温和そうな瞳。そばかすが愛らしいメイド。シエスタだ。
「……あんた、確か、シズリのお気に入りの……」
顔をあげたルイズは、ぼんやりとした口調でそんなことを言った。
目は赤く腫れ、可憐な顔は涙で髪が貼りついていたりと酷い有様になっていた。シエスタは何も言わずにルイズの髪を整えると、ハンカチで優しく涙を拭っていく。
「……シエスタでございます、ミス・ヴァリエール。……最近お見かけしないと思ったら、一体どうしたのですか?」
「…………ぅ、」
ささくれだった心に、シエスタの優しさが沁みる。彼女が麦野と縁の人物だったこともあったのだろう、ルイズはシエスタの胸に顔を押し当てて涙を流した。
「…………」
シエスタは、彼女が故郷の弟や妹にしたように無言で、背中を撫で続ける。
やがて、感情が落ち着いたのか、ルイズはゆっくりと顔をあげ、自分のハンカチで涙をぬぐった。泣きすぎて酷い顔だったが、小さく笑って言う。
「……ごめんね、シエスタ」
「いえ、そんな……。……ミス・ムギノのことですか?」
「ええ……。ちょっと、自分があまりにも情けなくて」
そう、ルイズは静かに自嘲した。ルイズとの関わりは薄いシエスタだったが、それだけでルイズが何か大きな困難に直面しているということだけは分かった。
「それでね……旅行に行こうと、思ってるの」
「旅行、ですか?」
「ええ。勘違いしないでね。旅行と言いつつどこかに逃げるとかじゃないから」
逃げる、という言葉を意図的に使ったのは、自分の心を抉る為だ。気分転換と麦野は言っていたが、あのあとのやりとりで完璧にルイズは麦野から『逃げて』いた。そんな自分がたまらなく腹立たしいのに、麦野と向かい合うことが怖くて怖くて仕方がない。
「……あんたの故郷。タルブに行こうと思ってるの。良かったら、案内役、してくれないかしら」
「ええ、良いですが……。……ミス・ムギノは?」
「あいつは、良いって。学院で、調べ物をしたいんだって」
「そうですか……。……ううん、それでいいのかもしれませんね。私はお二人の関係をよく存じ上げてないのですけれど……きっと、ミス・ヴァリエールはミス・ムギノと近づきすぎちゃったんだと思うんです。それで、今そうやって悲しい思いをなさってる」
「…………、」
「近づくだけじゃ、押し続けるだけじゃ分からないことだってありますよ。ひいおじいちゃんが言っていたそうです。『押してダメなら引いてみろ』って」
「『押してダメなら引いてみろ』……」
神妙な顔をして呟くルイズに、シエスタは軽く笑って続ける。
「ふふっ、まあ、それは恋愛の格言らしいですけどね。……ミス・ヴァリエール、今の顔、恋する乙女みたいでしたよ?」
「ばっ!! そ、そそそ、そんなんじゃないわよ!!」
ぼふっ、とルイズは顔を赤らめて、必死になってシエスタの言葉を否定した。確かにワルドには恋愛感情を全くと言っていいほど感じていなかったが、それは別に『そう』だからではない。ルイズはきちんと男性に魅力を感じる感性を持っているし、彼氏がいないのは『ゼロ』の醜聞と、あと学院に魅力的な男性がいないからだ。決して、そう、女性が好きとかいうわけではない。
「あはは、冗談です。申し訳ありません、ミス・ヴァリエール」
「……もうっ。本当にそんなんじゃないんだからね」
――そんなんじゃないなら、何なんだろう?
確かに、ルイズは麦野に懸想している訳ではなかった。だが、自分で言うのもなんだが麦野への感情は一介の主従関係を超えていると思う。それこそ、シエスタにこうやってからかわれるほどには。ムキになっているから? 意地になっているから? ……そんなプライドは、今しがた残らずへし折られたはずではなかったのか? では何故?
「…………、」
「その様子ですと、どうやらミス・ヴァリエールはまだご自分の感情に気付けていないようですね」
考え込んでしまったルイズを愛おしいものを見るような目で見つめたシエスタは、そう言ってにっこりとほほ笑んだ。ルイズはその真意が分からず、首を傾げる。
「……? シエスタ、それどういうこと?」
「では、この旅行で見つけましょう。私も不肖ながらお手伝いさせていただきます」
分からないルイズを放って、シエスタは話をどんどんと進めて行ってしまう。
「タルブは良い所です。きっと、ルイズ様の探し物も見つかることでしょう。……ルイズ様は既にそれをお持ちのはず。きっと、どうやって手に入れたかお忘れになられているのです。……それを思い出すことができれば、きっと何かが変わるはずですよ」
「??? だから、あんた何言ってるのよ?」
肝心なところをぼかしたような説明に首を傾げ続けるルイズだったが、シエスタはついぞ答えを言おうとしなかった。むすっとしつつも、とりあえず旅行に行く話が立ち上がったので学院長に取り合おうと立ち上がった、ちょうどその時――、
「話は、聞かせてもらったわよ!!」
物陰の向こうから、ルイズにとっては久々に聞く声が聞こえて来た。
嫌そうにそちらを見ると、そこには見ただけで顔を顰めたくなるほど赤い紅の髪がたなびいていた。
「旅行ですって? しばらくいなくなったと思ったら面白そうな話をしているじゃない。その話――――このキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・ツェルプストーも乗ったわあッ!!」
今、一番聞かれたくない相手の登場に、ルイズはこの上なく嫌そうな表情を浮かべ……、
反対に、キュルケはにやりと、不敵な笑みを浮かべた。