【完結】ゼロの極点   作:家葉 テイク

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第七章

「どう、してかしら……?」

 

 絞り出すような声で、ロングビル――いや、フーケは麦野に問いかけていた。

 もはやこの場に至って、言い逃れをすることはできないだろう。確証を持っているからこそ、この女は自分に対してその台詞を突きつけてきたのだから。下手にしらを切っても無駄だ。むしろ、しびれを切れさせることは自らの死を意味するかもしれない。

 

「知りたいかしら?」

「ええ。自慢じゃあないけれど、わたしはこの手の潜入には自信があったのよ」

 

 じりじりと、言いながらフーケは麦野との間合いを測る。

 はっきり言って、この状況は絶望的だ。

 麦野の能力は既に見て知っている。彼女の身体の周辺から放たれる、冷徹な光。アレを浴びせられたら、おそらくフーケは跡形もなく消し飛んでしまうことだろう。

 だが、希望はゼロではない。

 もしも麦野の目的が自分の排除なのであれば、こうやって会話を続けようとはしまい。

 ――この考えは間違いで、麦野はこうしたときにまず相手に対して勝ち誇る悪癖があったのだが、少しでも希望を残したいフーケはそこには気付けなかった。そして結果的に彼女の推測は正しかった。

 

「ま、アンタの行動に落ち度があった訳じゃない。答えを導くだけの道筋はあったけど、私がそれに気付けたのは偶然だったしね」

 

 上機嫌そうに笑う麦野。

 そう、麦野がロングビルに対してある種の疑念を抱いていたことは事実だ。

 だが、それはあくまで『何かしらの事情を抱えている』程度であり、『ロングビルがフーケである』という事実には至っていなかった。

 では。

 何故、麦野はロングビルがフーケであると突き止められたのか?

 それは、今から数十分ほど前のことだ――。

 

***

 

第七章 真実に辿り着いたのは 1st_End.

 

***

 

 帰りの馬(タバサ達とは既に別れた)の上で、麦野は思考を纏めていた。

 先程の買い物で得た情報は、ロングビル(らしき人物)は酒場で働き、そして数か月前オスマンに雇われたらしい――というもの。そして、ロングビルは現在進行形で誰にも言えない程度には後ろめたいこと――おそらくは犯罪を、している。

 ロングビルは『土』のラインメイジということだが、これらの話を総合するに、彼女は自分の実力を隠している。少なくとも『土』のトライアングルからスクエア程度の実力はあると考えて良いだろう。

 

(『土』のトライアングル以上……『数か月前』)

 

 麦野は思う。

『土くれ』のフーケと、符合する部分が多い。

 お誂え向きにフーケは今学院の宝物庫の中身を狙っているという噂も出回っているくらいだ。フーケがロングビルとして学院に潜入し、宝物庫に忍び込む手筈を整えているとすれば、これまで麦野が得た情報のすべてに辻褄が合うことになる。

 しかし、これはあくまで推論だ。それらしく思考の道筋を整えただけで、確実な証拠は状況・物的含めてまだ何もない。勿論、原子崩し(メルトダウナー)を盾に脅して真偽を無理やり確認しても良いが……それは、スマートな解決法ではない。もっというと、学園都市の第四位に相応しい解決法ではない。

 

(とはいえ、私の持っている情報は此処で打ち止め……。これ以上の情報を得ることはできない、……いや、待てよ? そもそも、仮にロングビルがフーケだとしたら、何故わざわざ潜入なんてした? この業界で正体がバレるのは、致命的とまではいかないがかなり面倒臭い事態だってのは重々承知のはず。ツラが割れるリスクを負ってまで学院に潜入したのは……)

「ねえシズリ、さっきから黙ってるけど、どうかしたの?」

「……『土くれ』のフーケの二つ名の由来は、どんな堅牢な壁も土くれに変えて侵入してしまうところからきた。なら当然、本塔にも『錬金』を試したはずよね」

 

 麦野の言葉の意味していることが分からず、ルイズは首をかしげるが、麦野は気にせずに続けていく。

 

「でも、現に『土くれ』はまだ学院の宝物庫に忍び込んだりはしていない。ということは、『土くれ』は何らかの理由で『錬金』を失敗したってことになるわ。そして、だから潜入したのだとしたら、」

「待って、待ちなさいシズリ。やっとわたしにも話が見えてきたわ。あんた、もしかして……ミス・ロングビルがフーケだと思ってるの?」

「ん? そうだけど」

「た、確かに……筋は通っていると思うわ。ミス・ロングビルのやって来た時期と、フーケの被害がやんだ時期は殆ど一致しているもの。でも、証拠がないわ! 確たる証拠がないのに追及したって、間違っているかもしれないし、嘘を吐いて罪を認めなかったらどうしようもなくなっちゃうじゃない」

「あのね『ご主人様』。人間の関節の数は手だけで二一個あるんだし、間違ってたらごめんなさいで良いじゃない」

「それって拷問して自白させるって意味じゃない!! 余計にダメよ! いくらなんでもダメ!! わたしは絶対に許さないわ!! ご主人様権限でそれは絶対にダメ―っ!!」

「冗談よ」

 

 目に見えて焦るルイズに麦野は笑いながら返した。からかわれていたことに気付いたルイズは憮然とするが、麦野は構わずに続けた。

 

「さっきも言ったように、ロングビルがフーケだと仮定して、秘書として潜入したのは『錬金』に失敗したから……つまり宝物庫の壁を破る方法を探る為だったとしたら」

「……当然ミス・ロングビルは、宝物庫の弱点を探るような活動をしていることになるわね」

「その通り。流石ね『ご主人様』。冴えてるわよ。でももう一歩」

 

 勿論、かといってロングビルがフーケだと確定するわけではない。ロングビルは秘書業を始めてから数か月程度。魔法学院が誇る宝物庫に興味を持ったとしてもおかしくはないし、そのことで話を聞きましたと言えばそれ以上の追及は難しくなる。

 だが、それだけではないのだ。

 ロングビルがフーケだとしたら。此処まで数多の貴族を騙して来た一流の盗賊なら、絶対に『ある』はずなのだ。

 

「私の推測通りなら、事態の流れはこんな感じになるわ。まずフーケは宝物庫に忍び込もうと『錬金』を試して失敗する。次に、宝物庫の情報を調べる為に学院に侵入しようと決める。それからオスマンに雇われて『ロングビル』の仮面を手に入れる」

「……? 確かにそうなるけど、それがどうかしたの?」

「間がなさすぎるのよ、あまりにもね」

 

 そう言われても、盗賊の事情になど詳しくないルイズはただただ疑問符を浮かべるばかりだった。

 

「銀行強盗なんかは、金を手に入れてもすぐには使わない。汚れた金っていうのはすぐに足がつくからね。どこかしらで資金洗浄をしないことにはまともに使い物にならない。その為の裏稼業なんかもあったりするわ。盗品なんかも似たようなものでね、実の所、物を盗むことそのものよりもそれを安全に売りさばく方が難易度が高いものなのよ」

「つまり、どういうこと?」

「多分、フーケはまだ手元に盗んだものを置いてあるはず」

「え!?」

「フーケが一流の盗賊なら、確実にそうしているわ。ロングビルの自室かどこか。おそらくもうじき売り捌こうとは考えているはずだけれど、確実に『ある』」

「じゃ、じゃあ……」

 

 ぽつりと呟くルイズに、麦野は我が意を得たりとばかりに頷く。

 

「ええ。ヤツの自室を探索すれば、『動かぬ証拠』ってヤツを見つけることができるでしょうね」

 

***

 

「あの後、念の為コッパゲのヤツにも確認をとってみたわ。アンタが宝物庫にかけてある『固定化』の弱点を聞いて来たことも調査済み。そして当然、」

「わたしの自室に関しても、調査済みって訳ね……」

 

 ロングビルと呼ばれていた女性は、唸るようにそう言った。

 確かに、彼女――フーケにも穴はあったかもしれない。フーケの足取りが途絶えたのとロングビルの赴任時期をずらさなかったのなどその最たる部分だ。『ロングビル』に関しては『フーケ討伐隊』を発足させ次第、討伐隊ごとぺしゃんこに潰れて死んだ扱いになってもらうつもりだったからあまり重要視していなかったのだが、それがまずかった。予定よりも学院に居座りすぎた。いや、というよりも……、

 

「あんたの手腕を褒め称えるべき場面かしらね、此処は」

「おや。そんな余裕がまだあるのね?」

 

 面白そうに言うと、フーケは肩を竦めるばかりだった。余裕なんてものはありはしない。フーケはこういった『どうしようもない』とき、諦めて気楽に振る舞うことのできる気性の人間なのだった。そのことに気付けたのは、たった今のことだが。

 それに、確実に此処で自分が死ぬと限らないのだから、慌てふためくよりも死なない為の方策を練る方がよっぽど重要である。

 

「で、あんたの力ならわたしを次の瞬間にでも消し炭にすることなんか難しくないでしょう? でも、そうしていない。理由は何? わたしに恐怖を味あわせたいとか?」

「そんな悪趣味に見えるかにゃーん?」

「とっても」

「何ならリクエストにお答えするけど」

「『全然』の間違いだったわ」

 

 肩をすくめて、フーケは麦野を見返す。何だかんだで適当に返していた麦野だったが、真面目な顔に戻って徐に話し始めた。

 

「別に無理難題を吹っかけるつもりはないわ。ただ、優秀な手足は欲しいと思っている」

 

 その申し出に、フーケは『やはりか』と思う。

 麦野はこの地においては『異端』だ。仲間は極端に少ないし、情報などメイドの噂話程度。情報はいつの世も最大の力になるということをよく理解しているフーケからしてみれば、そんな状況は非常に心もとないと思う。だから、麦野は『土くれ』のフーケという、裏街道に詳しい情報網に首輪をつけて利用したいと考えているのだろう。

 

「アンタの持っていた金品の一部は私が保管している。何やらマジックアイテムとかいうのが大量にあったからねえ。たとえばこの指環――『バーヴォルの指環』だっけ? つけると姿が見えなくなる効果があるらしいけど。何にせよ、これを然るべき場所に出せばアンタはおしまいよね?」

「……拒否なんて、最初からするつもりもないわよ」

 

 もう、フーケに出来るのは降参だけだった。

 

「そういえば、このことは他の連中には?」

「『ご主人様』には話してある。ただ、物的証拠については見せていないわ。やっぱりなかっただのと言えば適当にはぐらかせるでしょ」

 

 適当に言う麦野に、フーケは『そんな簡単に上手く事が運べるか?』と思ったが、あまり文句をつけて機嫌を損ねられても困るし、他でもない麦野がそう言うのだから、とりあえずその言葉を信じることにした。どうせこの時点で詰んでいるのだ。駄目でも元々というヤツである。

 

「アンタはこれまで通りに生活していれば良い。その過程で、裏街道の情報を仕入れて私に伝えてくれればね。話は終わりよ」

「……そうですね。分かりました。これからもよろしくお願いします、ミス・ムギノ」

「ええ。よろしくね、()()()()()

 

 ロングビルの仮面を新たに被り直したフーケに踵を返し、麦野はその場を後にする。

 

「……やれやれ。『土くれ』のフーケは今日限りで廃業ですかね」

 

 一人残されたフーケ……いや、ロングビルは、元の仮面を被り直してからその後に続いた。

 

***

 

 翌日は夕方くらいから慌ただしかった。

 休日が終わって新しい週の始まりだからかとも思ったが、先週はこれほど慌ただしくなかったので何事だろうか? と麦野は思う。

 

「ねえ、何でこんな騒がしいのかしら」

 

 ルイズも慌ただしそうにしている為、近くを歩いていたロングビルをつかまえて問いかける麦野。本当は彼女もまた秘書業務で忙しいのだが、先日の事情から麦野には頭が上がらないちう力関係を構築されてしまっている為、従わざるを得ないのだ。

 

「フリッグの舞踏会ですわ。一年に一回、この時期に行われるのです。フリッグの舞踏会で踊ったダンスパートナー同士は結ばれるという伝説がありますので、皆さんそれで準備をしていらっしゃるのでしょう」

 

 猫被り一〇〇%のロングビルに、麦野はふうんと気のない返事をした。ルイズはそんなことに興味がなさそうなものだが、あれで彼女も公爵家の三女ということらしいし、半端な格好では居られないのだろう。

 

「ま、使い魔の私には関係のないイベントか。適当にぶらついて時間でも潰していることにしようかしらね。メイド服ならいざ知らず、この格好だと少し目立ちすぎるだろうし」

 

 そんなことを言う麦野の格好は、やはり平民服を現代日本風に着こなしたものだった。服の質もそうだが、着こなしという意味でも著しく『浮いて』しまうことは想像に難くなかった。裏街道で生きてきた麦野としては、そういった注目に晒されるのは――意外に思うかもしれないが――あまり心の落ち着かない状態だったりするのだ。

 

「では、職員が集まるホールがあります。そちらで時間を潰すのはどうでしょう? わたくしもお付き合いしますよ」

「んじゃ、お願いするとしますかね」

「もうすぐ始まります。わたくしは仕事がありますので、先にパーティ会場に行っていてください。場所は分かりますか?」

「ええ。心配いらないわ。コッパゲから聞いてる」

 

 麦野は軽く手を振り、ロングビルと別れた。

 生活水準的にも現代日本とあまり変わらないので、外国にバカンスに来ているくらいの気分だった麦野だが、こういうイベントに直面すると、やはり此処が異世界なのだという気持ちになってくる。だからといって望郷の念を覚えるほど麦野は世界に対して愛着がなかったが、やはり『遠くまできたものだ』という感慨深さに似たようなものはあった。

 

***

 

 気がつけば、フリッグの舞踏会も終わりに近づいていた。

 職員の集まるホールで悠々とワインを飲みロングビルと話していた麦野だったが、ロングビルが席を外したのでぼうっと階下のホール――生徒達が踊っている――を眺めていた。

 キュルケは相変わらず男をとっかえひっかえしているし、タバサは黙々と料理に舌鼓を打っている。薔薇をくわえた金髪の少年は、同じく金髪の縦ロールに何やらアピールをしているようだが、交渉は難航しているらしい。

 ではルイズは――と思い一通り眺めてみるが、それらしい人影は見られなかった。

 

「…………そこにいたのね」

 

 背後からの声に振り返ると、そこにはドレスを着たルイズの姿があった。

 桃色がかったブロンドをバレッタに纏め、胸元の開いた白いパーティドレスに身を包んだ姿。肘までを覆う白いドレスグローブが、彼女の高貴さをいや増ししているように見えた。

 

「馬子にも衣裳とはまさにこのことね」

「うるさいわね」

 

 ルイズは麦野を睨むと、軽く腕を組んだ。パーティももう終わりに近い。普通ならば二、三曲は踊っているところだが、ルイズは汗一つ掻いていなかった。

 

「アンタ、結局誰とも踊らなかったの? もしかして誘われなかったとか?」

「わたしは、普段ゼロゼロと馬鹿にするくせにドレスの一着くらいで簡単になびく馬鹿はお断りなの。だから全員振ってやったわ」

「なるほど、それなら納得だ」

 

 バッサリと切り捨てたルイズに、くっくと麦野は喉を鳴らすようにして笑った。

 そんな麦野に呆れたような視線をやり、ルイズは本題を切り出した。

 

「ミス・ロングビル…………フーケだったわね?」

「さあ、何の事かしら?」

 

 ルイズにしては珍しく――鋭い雰囲気で切り込むが、麦野はあっさりとそれを受け流した。

 しかし、ルイズは諦めない。

 

「昨日、あんたは『自分の推理は間違いだった、慣れない環境で神経質になっていたのかもしれない』って言っていたけど、わたしの知るシズリはそんな人間じゃないわ。仮に間違ってたとしても、間違いを認めずに道理を引っ込ませる。腕の一本を消し飛ばしてでも無理やりミス・ロングビルに自白させるようなタイプよ」

「……」

 

 明確に罵倒され、麦野の視線の『質』が変わる。だが、ルイズはめげなかった。

 

「あんたの目的は分からない。でも、盗賊を匿うっていうんならわたしはあんたの所業を止めなくっちゃならないわ。悪い事を見過ごすことなんてできない。それがあんたのご主人様であり、貴族であるわたしの務めなんだから!」

 

 なけなしの勇気を振り絞って、ルイズは麦野の目を睨み返して言い切る。

 

「たとえばフーケが私利私欲の為じゃなく、弱いものを守るために盗みを働いていたとしてもか?」

「……っ!?」

 

 しかし、麦野の切り返しに、その意思に揺らぎが生じた。

 ……此処で一つ断っておくが、これは麦野のデタラメだ。彼女はフーケが……マチルダ・オブ・サウスゴータが故郷に残して来た子供達を養うために盗賊をやっていることなど知らない。ただ、『こういう正義感に突き動かされる人間』に対してはこの手の問いをぶつけるのが一番有効だと知っているだけだ。

 貴族の『正義』を順守して顔も名前も知らない子供達を不幸にするか? 子どもたちの幸福の為に貴族の『正義』を捨てるか?

 どちらに転んでも『正義』はない。

 この世の中には、そんなことがたくさんある。

 

「甘ちゃんだな。テメェにはそのあたりがお似合いだよ」

「……『世界』が違う、って?」

「その通りだ。私とテメェじゃ、そもそも住んでいた世界が違う。たまたま交差しているだけよ。だから深入りしすぎるな。それはお互いの為にならないからね」

「……そうね。確かに、わたしとあんたじゃ『文字通り』住んでいた世界が違うものね」

「……?」

 

 ルイズの台詞から感じられる雰囲気の違いに、麦野は軽く首を傾げた。

 

「『異世界』だものね、あんたがやって来た場所は」

「……情報源はどこだ? あのコッパゲか?」

()()()()()()

 

 ルイズは、はっきりと断言した。

 誰かから正解を教えてもらったのではない。

 目の前にいる麦野沈利という少女から、一つ一つ情報を受けとり、吟味し、そして『理解』したのだ、と。

 

「その『能力』。わたし、魔法が使えないから人一倍魔法のことは調べたわ。系統魔法も、先住魔法も……でも、シズリの能力はどんな魔法にも該当しなかった」

「……、」

「その『知識』。この間の鳥の話なんて、アカデミーで働いている姉さまだって知らないはずよ。いつも良く分からない実験をしているミスタ・コルベールだって」

「……、」

「その『言動』。好きなものはシャケ弁、住んでいた場所は学園都市。……どれも聞いたことのない場所よ。それでいて、とても辺境の大田舎とは思えない。東の果てにあるっていう東方ロバ・アルカリ・イエにだってあるとは思えない。あるんなら、きっとハルケギニア中にその名がとどろいているはずだもの」

「…………、」

「学園都市の頂点、超能力者(レベル5)の第四位――原子崩し(メルトダウナー)。それが、『異世界』でのあんたの立ち位置『だった』。そう言っていたわよね」

「……そうね」

 

 静かに、麦野は頷いた。

 ルイズの視線は、先程の意思を打ち砕かれる前よりも強い眼差しだった。

 すべての言葉は麦野の口から出てきたものだ。別に麦野は自分の出身を隠し立てするつもりはなかったし、こんなものは麦野が行った推理に比べれば子供だまし程度のものだろう。

 だが、ルイズは確かに辿り着いた。

 誰に教えられたわけでもないのに、真実に辿り着いた。

 分かる訳がないと、頭でっかちな甘ちゃんには到底理解できないと思って麦野があえて言っていなかった事実に、自力で辿り着いた。

 

「住んでた世界が違うとか、わたしが甘ちゃんってことは、認めるわ。確かに今のわたしは未熟者で、あんたから見ればちゃんちゃらおかしいでしょうね」

 

 でも、とルイズは言う。

 

「偶然でもただ交差しただけでも、今、わたしとあんたの世界は重なっているのよ。なら、わたしは諦めない。ただあんたの世界がわたしの世界から遠ざかって行くのを見ているだけじゃない。手繰り寄せて、あんたをわたしの世界に引きずり込んでやるわ!」

 

 ルイズは、その白い手袋に包まれた手で、本来なら紳士に手を差し出して掴んでもらう側の手で、麦野の手を荒々しく掴みとった。

 

「あんたの意見は聞かない。だってあんただってわたしの言うこと全然聞かないもの! それで対等! いいわね!?」

「……くっ、はは。あはは」

「なっ、何笑ってるのよ」

「面白いわ。『ゼロ』の癖に、この私を『引きずり込む』と来たか。ま、既に物理的には引きずりこまれているわけだしねえ……」

 

 ぱっと、麦野は手を振るう。

 それだけで、ルイズの手はあっけなく払われてしまう。

 そのまま、麦野はルイズの頭に手を載せた。

 

「どうせ目的を達するまでは暇なんだ。精々期待して待っていてやるわよ、()()()

 

 そう言って、麦野は歩き去っていく。

 

「……っ! 今、あんた……!」

 

 振り返るが、麦野は二度と同じことを言わなかった。途中ですれ違ったロングビルに手を振り、パーティ会場へ出ていく。呆然とそれを見ていたルイズだったが、はっとするとすぐに麦野を追ってパーティ会場を出て行った。

 後に残るのは、ワイングラスを持ったロングビルのみ。

 近くに誰もいなくなったので、ロングビルはその仮面を外して素に戻って呟いた。

 

「……驚いた。あのヴァリエールの小娘が『踊りに誘った』のが、まさか使い魔のムギノとはね。……手を掴むっていう行為の意味、夢中になってたあの子に理解できてたとは思わないけど、こりゃ驚いた」

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