『ルイズ』は――追われていた。
『待ちなさいッ、待ちなさい『ルイズ』! お説教はまだ終わっていませんよ!!』
「(はぁー、はぁー……!)」
冷や汗を流し、物陰に隠れた『ルイズ』のすぐそばを、同じ桃色の髪を持つ女性が通り過ぎていく。『ルイズ』はそれを、ただ身を縮めて待っていた。
『ルイズ』の身体は、一六歳のそれではなく、もっと幼い、六歳くらいの身体になっていた。しかし、『ルイズ』はそのことに疑問を抱いたりしない。それどころか、現状――実家であるラ・ヴァリエールの屋敷で実の母親に追いかけられている状況にすら、疑問を挟まない。
夢だからだ。
夢だから、夢の中の『ルイズ』は現状に違和感を挟まない。ただ必死になって、母親から逃げる。
――そんなんじゃ駄目だ、と誰かが呟いた。
いつの間にか、『ルイズ』は中庭の中心にある湖にぽつんとある船の中にいた。
『ルイズ』は嫌なことがあると、この船の中に隠れ潜む癖があった。静かな中庭は外の世界のような喧騒がない。船に揺られている間だけは、『ルイズ』の心は平穏を保つことができる。嫌な世界のことを、忘れることができる。
どうして自分だけ、と『ルイズ』は思う。
母のようなスクエアメイジになどなろうとは思っていない。トライアングルでも、ラインでなくても良い。ドットで良い、ただのドットクラスの魔法が使えるだけで良いのに、何故それすらできないのだろう?
夢の中の――過去の『ルイズ』はそう思う。現状を嘆き、悲しみ、そして小さな自分の殻を作り閉じこもってしまう。
――何で立ち上がらないのよ、と誰かが呟いた。
「――小さな『ルイズ』。どうしたんだい、こんなところで」
気付くと、船にはもう一人、青年が乗っていた。
船を少しも揺らさない技術。泣き入っていて気付かなかったのもあるだろうが、それだけでかなりの力量だったと『今のルイズ』は改めて気づかされる。
「……、」
「お母様が君を探していたからね。君ならきっと此処にいるだろうと思ったんだ」
「まあ、子爵様……」
『ルイズ』は頬を赤らめた。同時に安心していた。目の前の好青年が、『ルイズ』のことをとりなしてくれると思ったからだ。幼い『ルイズ』は、彼のやさしさに依存していた。
無理からぬことだ。魔法は使えず、使用人の人望はない。肉親である母親は厳しいし、彼女を溺愛する父親でさえ魔法に関しては何も言おうとしない。こと魔法に関して、青年こそ『ルイズ』の唯一の理解者だった。
――
「さあおいで、僕の方からお父様にとりなしてあげよう」
そう言って、青年は手を伸ばす。『ルイズ』も、それに手を伸ばし――、
「結構。いつまでも子爵様におんぶ抱っこじゃ、いつまで経っても『アイツ』にわたしを認めさせることなんてできやしないわ」
その姿は既に現在のものに戻っていて、不敵な笑みをたたえて青年の方を見返していた。
しばし虚を突かれた表情を浮かべていた青年だったが、ルイズがしたことを理解すると、口端を静かに歪める。その仕草は、まるで彼女がここ一か月足らずで見慣れた『あの使い魔』によく似ていて――、
「よく言った。それでこそ私のご主人様よ、ルイズ」
ルイズの目の前にいるのは思い出の中にいた青年ではなく、もっと圧倒的な現実感を伴った少女だった。
彼女は弾かれた手をぽんと、ルイズの頭の上に置き、口を耳元に寄せて呟いた。
「だがなルイズ――アンタにはまだ知らないことがある。障害は私じゃあない。もっとnbv根plkcyqg的な問題がある」
あまりに不自然なノイズに、ルイズが首を傾げた、その時。
世界が、裂けた。
***
第八章 馬鹿と失敗は使いよう Princess_Comes_Here.
***
「……づあー、途中まで良い夢だった気がするのに、最悪の目覚めだわ」
目を覚ますと、そこは見慣れた自室だ。この一年間で随分と学院生活にも慣れた。慣れてはいけないことにも慣れてしまった気がするが、それによって失ったものは、横で眠っている少女との交流の中で取り戻せたような気がする。
「わたしの使い魔、か……」
そう呟き、横で眠る少女に視線を向けてみる。何か寒いと思ったら、少女は掛け布団をひとまとめにして、抱き枕のようにして眠っていた。何度か言っているのだが、一向に治る気配はない。彼女にしてみればこれでも足りないくらいらしいのだが、『何』が足りないのかは説明してくれなかった。
服装は簡素なネグリジェだ。布団を抱きしめている関係で少しずれて、地肌が見え隠れしているのが非常に扇情的だったが――生憎、ルイズは女の肌に欲情するような趣味は持ち合わせていなかった。
麦野沈利。
『ゼロ』の使い魔にして、
まだまだ彼女がルイズを主人として認めたという事実はない。
結局、あの舞踏会の最後で初めて名前を呼んだ麦野だったが、それっきりいつもの『ご主人様』に逆戻り。これで少しは態度の軟化もあるだろうと期待していたルイズは肩透かしを食う形になり、そのことで多少の衝突もあった。(無論、ルイズが完璧に言い負かされる形で終わったのだが)
「でも、コイツのお蔭でわたしの歯車は動き出したと言っても良い」
麦野が来る前のルイズは、劣等感に負けない為に意地を張って、自分を侮辱する者には誰彼かまわず噛みつく姿勢を見せていた。キュルケやモンモランシー、ギーシュ、マルコリヌなどは学友であり本心から嫌っていたわけではないが、それでも表面上の態度は嫌っていたし、ゼロと言われることに対して過敏だった。
だが、麦野が来てからは――そうしたことが気にならなくなった。というよりは、気にしている暇がなくなった。『麦野に自分を認めさせる』という大きな目標が出来たから、ゼロだなんだと馬鹿にされてもそちらに大きく意識を割くような余裕がなくなっていたのだ。
それは、最初は単に『意地を張る対象が変わった』というだけの話で、心の成長なんかではなかった。ルイズが本来備えている精神の輝きが、余分なものを払ったから輝き始めたというだけのことだった。しかし、きっかけになったのは間違いなく麦野だ。この残酷な気性の女の行動が、奇跡的に良く働いて、ルイズの中に眠れる光を呼び覚ました。
ルイズは、おそらく誰よりもそのことを理解していた。
「……ありがとね、わたしのところに来てくれて」
そう言って、ルイズは指で麦野の髪を梳く。起きているときはあれほど隙がないのに、こうして見ていると麦野も普通の女性なんだと思わされる。年齢の程は、大体二〇代前半くらいだろうか? そろそろ結婚してもおかしくないだろうに、この女は戦いに明け暮れて、今のような性格になったのだろう。青春時代を殺し合いに費やして来たのなら、ああいう性格になるのも頷けるというものだ。
……ルイズはほんの一点だけ勘違いしていたが、他の分析は概ね正しかった。
と、
「……アンタ、いつまで私の髪を梳いてるわけ?」
寝ていると思っていた麦野が、唐突に口を開いた。
優しげな笑みを浮かべていたルイズの表情が、一瞬空白に染まる。完全にフリーズしたルイズは、やっとの思いで言葉を紡いだ。
「あ、あんた、い、い、いつから……?」
「づあー、途中まで良い夢だった気がするのに、最悪の目覚めだわー」
「最初っからじゃないっっっ!!!!」
ガバア!! と跳ね起き、ルイズは顔を真っ赤にしてベッドから飛び降りた。羞恥心が暴走していて、身体を動かさないとやっていられないという精神状態に陥っているらしかった。
呆れたような視線を向けている麦野のことなど放っておいて、ルイズは頭を振りながら何事かを呟き、途中何度か転びながらも扉を吹っ飛ばす勢いで外に出た。
「あー……アイツネグリジェのまま行っちまったよ」
ルイズのネグリジェは、膝まで覆うワンピースのような形だが、ネグリジェの性質としてそもそも布地が薄い。身体がほんのり透けてしまっている為、ルイズのボディラインは丸見えなのだ。
……少なくとも、あの格好のまま部屋の外に出るのは、麦野は御免だった。
「ちょっとルイズ!! 朝からうるさいわよ! ……ってあんたそれどうしたの、なんでそんな格好で外出てるの!?」
「うるさいわねツェルプストー! あーもうやだやだ死にたい――――!! うーあーうーうー!!!!」
「…………」
羞恥心に負けて叫びながら女子寮を走って行くルイズを、ベッドの上に横たわったまま見送った麦野は、次の瞬間ひょっこり顔を出したキュルケに言った。
「青春って素晴らしいわね」
「いや、明らかにそれだけじゃ片付かない様子だったけど……」
お互いに肩を竦める。
ルイズの方は、あれが恥の上塗りになって延々と羞恥心のループに入るであろうということにはまだ気付けないのだった。
***
『幸運にも』と言っていいのだろうか、その後のルイズの痴態を見た人間はいなかった。少しして戻って来たルイズを、麦野は何も言わずに迎え入れた。それは決して無関心からくる行動ではなく、やさしさだった。ルイズはそのやさしさに少しだけ泣いた。
ともあれ朝の支度を終えたルイズと麦野は、朝食をとってから朝の授業に臨んでいた。
今朝の授業は風のスクエアメイジである『疾風』のギトー。風最強論を推し進めるメイジだった。
「風のどこが凄いのかしら。まあ、
「……あんたの世界って凄いのね。それ、スクエアメイジ……いや、お母様でもできるかどうかってところよ」
声高らかに風がいかに最強を話しているギトーを横目に、麦野とルイズの二人は話す。
「まあ、アンタのところは
「……それって何の違いがあるの?」
「前者は『空気の噴出点』を作って、そこから風を吹かせることに特化したタイプ。それだけしかできないから、出力も高い。まあ、高位になると複数のベクトルの噴出点を生み出すことでもっとマクロな気流も操れるようになるんだけど」
「ぎ、ギリギリ理解できるわ」
「後者は単純に風を操るタイプ。前者がパワー重視ならこっちは精密さ重視ね。威力は十人並だけど、代わりに通常では有り得ない精密な風を起こすことができる」
「なるほど。それで、どっちが強いの?」
「どっちがどっちということでもないわ。風を操る者同士の戦いなら、どっちがより精密かつ強力に風を掌握できるかが勝負の鍵になる。つまり――」
そこまで麦野が言いかけたときだった。
「そこ。何を先程から話している?」
ギトーがそれを見咎めた。やば、とルイズは顔を顰める。
ギトーはそんな様子は気にも留めずに続けた。
「授業中に私語とは感心しないな、ミス・ヴァリエール。そうだな……実技の練習だ。君の『失敗魔法』は、失敗ではあるものの周りに恐れられているほどの威力を持っているらしいじゃないか。しかも、どんな実力者でもそれを防ぐことはできない。それを撃って来い。それを風の力で防御することで『風の最強たる所以』を教えてやろう」
要するに、ルイズをダシにして自分の力を自慢したいというわけだ。まあ確かにギトーはスクウェアメイジなので腕が立つのは間違いないのだが、如何せん彼には勇気が足りない。だからこうして授業という危険の少ない場で、しかも生徒という明らかな格下にしか自慢ができないのだ。この世界とは違う歴史を歩んだ場合の話だが、彼はフーケ討伐隊を募った時に怖気づいて志願する事すらできなかったのだから。
「せ、先生!? やめてください、そんなことは先生の為にもあたし達の為にもなりません!!」
たまらずキュルケが声を上げた。
この構図、前にもあった気がするなあとルイズは頭の隅で思いながら、どうしようか考えていた。どうせ『爆発』を使えば教室はめちゃくちゃになる。そうなれば罰掃除はルイズの役目だ。そういうのはちょっと面倒臭い。
別にやらなくても、ルイズの名誉が貶められるわけでもなかった。何せ相手はスクウェアで、こっちはゼロなのだ。わたしなんかには到底無理ですわ、すみません授業をちゃんと聞きます――とでも言っておけば、それで丸く収まるだろう。
キュルケにナメられているのに引き下がるのはムカつく話だったが、それに関してはあとで『ゼロの魔法なんかにビビっちゃって情けな~い』とでも言っておけば溜飲が下りる程度のムカつきだった。
だから、ルイズは申し訳なさそうな顔を作って辞退しようとした。
その時だった。
「どうした? 来ないのか? ――そういえば、君の父は騎士として名を馳せた有能なメイジだったな」
その台詞は、ルイズを焚き付ける為のものだったのだろう。
父は有能なメイジで、誇り高い騎士だったのに、その娘であるルイズはメイジとしては無能で、しかもこんな授業の軽い手合せからすら逃げ出すような臆病者なのか? と。
事実、ルイズに対してその効果は覿面だった。
「――――『決闘』ですわ、ミスタ・ギトー」
ルイズの表情に、『激情』はなかった。
むしろ恐ろしく冷え冷えと冷め切った表情で、ルイズはギトーのことを見ていた。あまりの剣幕にギトーは一瞬たじろぎかけたが、そうでなくてはと思い直し杖を構えた。
「合図はそちらの使い魔にお願いしようか。三、二、一で開始だ」
麦野はルイズの様子の変化に少し驚いていたが、肩をすくめて頷いた。ルイズがこうしたことに関して意地を張りやすい性質だということは知っていたし、止めるつもりはなかった。尤も、だからといってルイズに肩入れするつもりも全くなかったが。
尚、自分が似たような風に侮辱を受けたなら兆倍返しで応じるのが麦野という人間である。
「三、二、一……――」
麦野が、軽くカウントダウンをした。
次の瞬間、ルイズは勢いよく杖を振りおろす。
同時に、ギトーもまた呪文を発した。
「イル・シール・ウィンデ――『
「『
宣言通り、ギトーの前に風の壁が生まれた。
不可視だが、叩き付けるような風で生まれた塵によって、その軌道が読める。杖を振り始めたギトーの頭の上あたりから、教壇の上まで、叩き付けるような軌道で強力な気流が生み出されているのだ。なるほど確かにその風は強く、あれならばルイズの失敗魔法による爆風も封殺できるかもしれなかった。
(なら――
麦野は言っていた。
風を操る者同士の戦いならば、より強力かつ精密に風を制御できる方が勝つ、と。ルイズは失敗魔法しか使えないが、爆風という点だけを抜き出せばこの戦いは確かに『風を操る者同士の戦い』ということになる。
もしもルイズが、失敗魔法によって生み出される爆風の方向性をコントロールすることができるのならば。
既に威力については強力無比の領域に到達しているルイズならば、ギトーの油断している魔法くらいなら打ち破れるのではないだろうか?
(爆発の範囲を、絞る。全方位に爆発させるんじゃなく、一方向にのみ爆発するように、魔法をかける範囲を『選択』して――――)
そして。
(――――『解放』する!!)
――爆発は、起きなかった。
「ごっばああッ!?」
生まれたのは、『爆風の槍』だった。
ギトーが吹き飛んだのを確認したルイズは、勝ち誇ったように言う。
「確かにミスタの言う通りだわ。『風』は最強ね。もっとも、わたしのほうが上手だったみたいだけど」
「……なるほどな」
その瞬間を、麦野はきちんと目視していた。
ドバオッ!! という破裂音が響いたと同時に引き絞られた爆発の光と同じ方向へ、爆風が発せられる。爆風はギトーの展開する『エア・シールド』の気流のうち、叩き付けて空気の流れが乱れている教壇から少し上のあたり目掛けて突っ込んで行った。
そこは、『エア・シールド』の中でも気流が乱れているせいで、強度の弱っている部分だった。そこに凶悪な暴風を叩き込まれたものだから、『エア・シールド』の気流はさらに乱れる。しかもルイズはその乱れすらも計算に入れて、細い細い穴を通すようにして爆発を発動させたのだ。
結果――ギトーは、腹に拳を叩き込まれたかのような衝撃を覚え、吹っ飛んだ。
ルイズの『爆風』の強力さと、それを制御する精密さが、ギトーのそれを上回ったということだ。
「……やったわ! やったわシズリ! どんなもんよ! わたしの爆発だって捨てたもんじゃないわね!!」
と、ルイズは喜んで麦野に言った。
生徒達はぽかんとした様子でそんなルイズの様子を見ていて、麦野は適当にルイズの喜びをあしらっていた。
ちなみに、生徒達の考えは次の形で一つにまとまっている。
『で、この後どうすんの?』
ムキになってギトーを倒したのは良い。だが彼らはルイズの爆発を恐れて机の下に潜り込んでいたので、ルイズの成長のことなど気付いていなかった。まあルイズの失敗魔法はとんでもないし、ギトー程度じゃ抑えられなかったんだろう、と思うだけだ。
ルイズが凄いのではなく、ギトーが間抜けにも刺激してはいけないものを刺激してしまったというだけのこと。幸い被害はそこまで大きくなかったようだが、結局ルイズの爆発で授業が中断されたという事実に変わりはない――というのが共通認識だった。
そんな風に生徒一同が途方に暮れていた、ちょうどその時だった。
「あやややや! 大変ですぞ!」
頭にベートーヴェンみたいなカツラを被ったコルベールが、慌てて入って来たのだ。
「……おや? ミスタ・ギトー、それからミス・ヴァリエール……、……何となく想像はつきましたが今はそれどころではありませんぞ! 畏れ多くも先王陛下の忘れ形見、『トリステインがハルケギニアに誇る一輪の花』、アンリエッタ・ド・トリステイン王女殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされるのですぞ!!」
その一言で、教室中がざわめいた。
「したがって、粗相があってはならないので急ですが学院が総力を挙げて歓迎式典を行います。本日の授業は中止! 繰り返します本日の授業は中止! 生徒諸君は正装の上で門に整列すること! 良いですね!!」
身振り手振りでそこまで言い切ったコルベールのカツラは、大きな動作に耐えきれず、するりと落ちた。
「正装ってのはそのヅラも含まれているのか?」
麦野がぽつりと呟いた一言で、教室は爆笑の渦に包みこまれた。
***
その後、ルイズと麦野は門の前に移動していた。
麦野は面倒臭いから行かない――と言ったのだが、ルイズはそれを認めなかった。一〇分ほど問答をし、引きずってでも連れて行くとすごんだルイズの気迫に押されて、渋々行くことになったのだ。
「しかし、何だってそんなに本気になるかねえ。王女様の歓迎なんざ他の奴らにやらせときゃ良いでしょうに。出て行ったところで覚えがよくなるのかしら?」
「わたしは、殿下が幼少のみぎりに遊び相手を務めさせていただいていたのよ」
ルイズのカミングアウトに麦野はへぇ、とだけ呟いた。同年代なのなら、確かに公爵家の娘は遊び相手には適任だろう。意外と貴族らしいこともしているんだな、と平素のルイズのお転婆っぷりを知っている麦野は思ったが、実のところ彼女が見ているそれは、大部分が彼女自身への意地によって構成されているということを麦野は知らなかった。
ルイズの方はと言うと何かと姫一行がやってくるであろう門の向こうをじっと見つめていたので、麦野は黙って物思いにふけることにした。
考えるのは、あの爆発のことだ。
(確かに、前々から威力は凄まじいと思っていた。だが、あれほどの精密さがあるっていうのは全く予想外だったわ)
あの爆発。
以前やったときは、とにかく無秩序に爆風が巻き起こっていた。だが、よくよく思い返してみると、至近距離にいたルイズは爆発ですすけていた程度だったのに、遥か遠くにいた麦野は吹き飛ばされそうなほどの爆風を浴びていたし、少し離れたシュヴルーズは爆風で気絶してしまっている。
麦野に浴びせられた爆風を近距離から受けていれば、少なくとも骨折くらいの負傷は負っていただろうに、まるで『爆風の方向性が定められている』かのように、被害に偏りがあった。思えばあの時から、既に予兆はあったのである。
(……ただ、それでも疑問は残る。ルイズの爆発はあくまで『失敗』の産物のはずだ)
「トリステイン王国王女、アンリエッタ殿下の、おなァァあああああああありィィいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
(『失敗』っていうのは制御できないからこそ『失敗』。爆風の『
王女がやってきたようだが、麦野はそれに興味を示さなかった。
ルイズが『鳥の骨』とあだ名される枢機卿に苦い顔をし、美貌の王女殿下に真剣な眼差しを向け、それから髭ロン毛の男に懐かしそうな表情を浮かべている横で彼女の人間関係を把握しつつも、ルイズの『爆発』に隠された謎について考えていた。