各階の踊り場にある小さな窓から入る儚い光だけを頼りに私は一段一段とゴミやなにかの破片を避けて登っていく。薄暗く続く階段の先を少しずつ目指して。普段は暗い所は苦手だったけれど今は、怖くなかった。
「・・・・・・・」
自分の足音だけが上と下にカツンカツンと落ちるように、登るように響き続ける。その音に耳を澄ませて足を動かし続けていると。
「・・・・・・あ」
階段の代わりに汚れた扉があった。
「・・・・・鍵、閉まってないかな?」
呟いて私はドアノブに手を掛ける。手袋越しにうっすらと伝わる鉄の冷たさを感じながらそれを捻ってギュッと押した。すると扉は少しだけ開いて動かなくなってしまった。冷たい空気がその隙間からヒュウっと頬を撫でていく。
「あれ?」
扉を押す手に力を込めると扉は何かに引っかかっているみたいに軋んでギィギィと音を立てる。
「むぅ!」
私は少し扉から距離を取ると両手をで力の限り勢いをつけて扉にぶつかった。
ガギンッ
「きゃ!!」
すると重い音がしたと思ったら勢い良く扉が開いて私はその先に倒れ込んでしまった。
「いたたたた・・・・」
厚着と手袋のおかげで怪我はしなかったけれど地面にぶつけた所が少しだけ痛かった。倒れた先の地面は黒ずんだコンクリートで私は汚れた服を手ではらいながら立ち上がると周りを見回す。くすんだコンクリートによく分からない何かのパイプ、隅にはよく分からない機械、周りを取り囲む鉄の柵。
ビルの屋上で一人、私は立っていた。
「・・・・・・・・」
そこに誰もいない事を確認するとまっすぐと私は歩き出す。埃っぽいビルの中から出てきたから冷たい空気がなんだか少し気持ちがよかった。そして私は立ち止まる。目の前には錆が包む鉄の柵、その向こうに人気のない廃墟、もっと向こうには灰色の街が広がっている。私は自分の身長よりも少しだけ高い柵に手を伸ばした。
「んっ! しょ! ・・・・だめだぁ」
飛び跳ねて手を伸ばしてみたけれど指先がかかるだけで私の力では掴むこともできなかった。。
「なにか・・・ ないかな?」
振り向いて屋上全体を見回すと目につくものがあった。さっき無理矢理開けた扉の横に大きな工具箱のような物がある。
「あ、さっきはあれが引っかかってたのかな?」
私は小走りでそれに近づくと自分の膝程のそれを手で押して見る。見た目よりも軽かったそれは思ったよりも簡単に動いてくれた。
「よかった・・・」
そして私はそれをさっきの柵の前まで押していく。
「あはは、最後にラッキーだったな」
なんて誰に言うでもなく呟いて笑う。
そう、これで最後だから。
これで、私のせいで誰も傷つかない。
────私がいなくなれば。