白い部屋、沢山の機械と医療器具に囲まれた手術台の上で少女はその先を喪った右肩を押さえ苦悶の表情を浮かべている。
「クソクソクソクソ白銀凛々奈白銀凛々奈白銀凛々奈殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
彼女、ネージュは視点の定まらない血走った目でひたすら呪詛の声を漏らす。その時部屋の扉が開き一人の女が小走りで走ってくる。
彼女はネージュの前に来ると心配そうにあわあわと落ち着かないように手を動かす。
「ぁ・・・・ぁぅぁ・・・・ぁぃぉ ぅ」
消え入りそうな声で何かネージュに話しかけるが聞き取れるものではなかった。しかしそれで彼女に気付いたネージュはギロリと彼女の事を睨むと乱暴に髪を掴み自分の方へ引きよせる。
「きゃ」
小さく悲鳴を上げる少女を気にも止めずネージュはその首筋に歯を立て噛み付いた。荒く引裂かれた皮膚から流れる血にネージュは舌を這わせる。
「あっ ぐぁ」
痛みとネージュの舌の感覚に少女は苦悶とも愉悦とも分からない表情でぉ顔を赤らめて身をよじる。
「こらこら いつも言ってるだろう 乱暴に扱っちゃだめだよ、うねりは君の調整者なんだから」
聞こえた声の方を見るといつの間にか入り口の扉にもたれかかるアークがいた。
「うるさい!! おとなしく使われてればいいのよこんな奴!!」
収まらない怒りでネージュは顔を歪ませたままアークを睨むと抱き寄せていた少女を乱暴に突き飛ばす。
「きゃあ!」
突き飛ばされた少女、うねりと呼ばれた少女はゆっくりと体を起こすとはだけた衣類を直しまだ血が止まらない首筋を手で抑える。
「やれやれ、うねり 手当てを受けてきなさい」
「あぅぅ」
言われたうねりはよろよろと立ち上がり二人の横を歩き部屋から出ていった。
「そんな事より早くアイツの所へ行かせなさいッ!凛々奈!白銀凛々奈ッ アイツを殺さないとこの腕の痛みが止まらないのよ!!」
アークにも今にも飛びかかろうという気迫の血走った目で睨むネージュをアークは冷めた目のまま見つめている。
「駄目駄目、新しい楽しみも増えたからね 予定よりもう少しあの子達には時間をあげる事にしたんだ」
「ふざけるなっ! こんなにされてわたしの気がすまないのよぉ!!」
「君の気持ちも分かるけれど、言う事を聞いてくれないと困るなぁ」
「そんな事関係ない! 私一人でもアイツをぶち殺してくるわよッ!」
ネージュはそのまま部屋を出ようと歩き出した。アークはそれを目だけで追うと小さく溜息を吐く、そして
「狂犬にはしつけが必要かな」
そう呟くアークの横をすれ違い部屋の外へ出ようとするネージュの前に音もなく女が現れた。
「キャンキャンうるさいんだよお前」
「邪魔よ、退きなさい神威」
現れたのは七獄 神威、その横をも無視して通り過ぎようとするネージュが一歩踏み出した刹那。
「────っがぁ」
意識が飛んだ、まるで瞬きするように一瞬視界が暗く染まったと認識した瞬間ネージュはいつの間にか部屋の壁に叩きつけられていた。 体には激痛が走り霞む目で前を見ると変わらず壁にもたれかかるアークと上段蹴りのモーションから姿勢を戻す神威が見えた。
(蹴られた!? 嘘ッ 何も見えなかッ)
ガシッ
混乱する思考のネージュの顔をいつの間にか距離を詰めていた神威が片手で掴み持ち上げる。
「いいんだよな?」
少女を片手で持ち上げたまま神威は顔だけ振り向いて言う。
「躾にはこれが一番でしょ」
「ま、そりゃそうか」
「・・・・なんなのよ」
手の中でもがくネージュを意に介さず神威は空いた手でポケットから何かを取り出すとネージュの首に取り付けた。
「ガハッ」
しっかりと取り付けた事を確認すると神威の手は開かれネージュは床に落ちる。首に感じる圧迫感に少し咳き込むと残された片腕で触れて確かめる。ひんやりとした金属の感覚。
「なによ・・・ これ」
「首輪だよ」
背を向け歩きながら神威が言う。ネージュの首には丸みを帯びた銀色の鉄の輪がかけられていた。
「お前がそこのご主人様の言う事をちゃんと聞くためのな」
「ハァッ!?」
「言う事を聞かなかったり無理に外そうとしたらドカン! らしいぞ」
「んなっ!」
「ホントは僕もこんな事したくないんだけど、とりあえずこれで冷静になってよ ネージュ」
「ふ、ふざけるな・・・ こんなっ」
叫ぶネージュの視界がゆらぐ、先程の攻撃のダメージで意識が遠のく。
「まずは傷を癒やしてからだよ、おやすみ」
「・・・・この」
パタリと倒れるネージュを置いて二人は部屋を出る。
「アイツまだ使えるの?」
白い廊下を歩く二人。
「んー 憎しみの感情で〈神の卵〉、花守みいなへの依存が弱まっているかもだね」
「いいの? 一応アイツが有力候補だったんじゃないの?」
「ああ 構わないよ、もっと面白い事になりそうだからさ」
アハハハ
白い廊下にアークの子供のような楽しげな笑い声が響いていった。