3 プロローグ 3-1 海は広いな大きいな暑いな
路地裏を一人の男が走っている。男の手には血のついたナイフ。男は借金をしていた相手と口論になり、激情して刺してしまった。
「はあっ はあっ あいつ、ざまぁみろ! 俺を怒らせるからこんな事になるんだ」
人を刺した事で男はもう冷静ではなくなっている。もう目線も定まっていない、なりふり構わず行く先もなく、ただ走っていた。そこで。
「きゃあ!!」
ドンッと人に衝突してしまった。
「いった〜い」
ぶつかった相手は尻餅をついている。女の様だ。
長い癖毛で眼鏡を掛け、あからさまに陰気な人間だと分かる風貌だった。白衣を着ているのは奇妙だったが。
しかし男は倒れた時にはだけたシャツの胸元に目が釘付けになっている。
(一人殺っちまったんだ、今の内にやりたい事やっといた方がいいよなぁ!)
邪な考えが頭を支配する。そして息を荒くしながら地面に座り込んでいる女に近づきナイフを突き付けた。
「動くな、声も出すな、こっち来い」
「え? なんでですか?」
ナイフを突き付けられているとは思えないほど冷静に女は答えた。そんな様子に男は怒り少し痛めつけてやろうとナイフを振りかぶった。
「ねーこの国、治安それなりにいいって聞いたんだけど」
別の女の声がした。 そして。
ゴオォォォォという轟音と共に男は声の方向から現れた炎に飲まれた。そしてその炎は男だけを燃やし続けた。
声を出す事も出来ないまま黒焦げになった男は地面に倒れる。
「なんか最近は結構荒れてるみたいですよ〜」
尻餅をついていた女は男の存在など無かった様にパンパンと塵を払いながら自然に話す。話しかける相手は子供だった。橙色の髪をサイドテールに結び、服装はボロボロのマントの様な物を羽織っている。その中はスポーツブラの様な布とショートパンツで露出の多い格好だった。そして両手にはゴツゴツとした大きな籠手を付けている。
「ふーん、どうでもいいけど、早く行くわよ」
右手の籠手は熱されて赤く光っている。先ほどの炎はこの手から発射されていた。
「愛しい私の"ツガイ"が待ってるの」
頬を赤らめ恍惚の表情で少女は呟いた。
◆ 3-1
輝く太陽! 白い砂浜! そして! 青く広がる海〜!! そう! ここはプライベートビーチ!
センセの知り合いに頼んで別荘地を借りてバカンスを楽しみに来ているのだ! センセとみーちゃんとハルさんと!
私は砂浜でビーチパラソルの下、デッキチェアで優雅に寛いでいる。
「凛々奈さん!」
タッタッタッと砂浜を小走りでみーちゃんがやって来た。可愛らしい水着で浮き輪を抱えて。
「あら〜 みーちゃんかーわい!」
椅子から立ち上がりみーちゃんに近づく。
「えへへ、ありがとうございます、凛々奈さん流石にジャージじゃないんですね」
「みーちゃんは私を何だと思ってるの・・・」
若干ショックを受けるが、まあ普段の行いから仕方ないのかと反省した。
「二人とも〜お待たせ〜」
そこへ大きなクーラーボックスとアタッシュケースを持ったハルさんも合流した。
「はい、これ飲み物とか色々入ってるから好きに持っていって」
クーラーボックスを地面に置いてからアタッシュケースをパラソルの日陰に置く。
「あとこれ、護身用」
「ありがとねハルさん、でもこれこのまま置いといたら熱々になっちゃいそうだね」
「そうね、でも中身は大丈夫よ」
このケースの中身は私の戦闘用の装備一式。普段からみーちゃんと出かける時はあの時の反省を活かしてもしもの時のため用意する様にしていた。
「普段なら服の下に忍ばせるんだけど、水着じゃそうはいかないもんね」
「念の為用意したけれど、今日は物騒な事は忘れて全力で楽しみましょう!」
「そーだね! あ! みーちゃん日焼け止め塗ってあげるー!!」
いつの間にか浅瀬まで行っていたみーちゃんに駆け寄る。
「さっき塗ったので大丈夫です、唯牙さんがアイツに見つかる前に塗っておけって」
ガーンッ ズコーッ 冷たくあしらわれたショックで砂浜に倒れ込む、おのれセンセ。 ん?
「あっっっっっっっっつ!!!!!」
倒れた先の砂は太陽に照らされ裸足では歩けない程熱くなっている。
体の前面を真っ赤にした凛々奈は海へと走り出しみいなも追い越して水面にダイブした。
「そりゃそうなるわよ・・・」
ハルは苦笑いをしながら見守っていた。
「ハルさーん、あれ、やってみたいです、ビーチバレー!」
みいながまたパラソルの方へ走ってくる。デッキチェアの横に転がっているビーチボールをハルは持って立ち上がった。
「うふふ、いいよ〜」
「あと! あと! 泳ぐ練習もしたいです! それと! 砂でお城も作りたい!」
海に来てテンションが上がっているのだろう、みいなは目を輝かせて飛び跳ねていた。
「そうね、やりたい事好きなだけ楽しみましょう!」
「わーたーしーもー!」
海から全身びしょ濡れの凛々奈も走ってきた。
「だ、大丈夫ですか? 凛々奈さん?」
「う〜 ヒリヒリする〜」
「ちょっと赤くなってるだけだから大丈夫よ、まずはビーチバレーしましょうか!」
「はい! あ、そういえば唯牙さんは?」
「あー、ユイは暑いの苦手だからね〜」
「それにセンセ肌露出するのキライだから多分こないと思うよ」
「そうなんですか・・・・残念です」
みいなは俯き残念そうな顔をする。
「みーちゃんがお願いしたら来てくれるかもしれないよ、明日もあるし、後で一緒に誘ってみよっか!」
「は、はい!」
また元気になったみいなと二人は夏の海を全力で満喫した。
◆
ビーチから少し離れた建物、みんなが泊まる別荘の中で唯牙は冷房をフルで稼働させてソファに寝転んでいた。
「あちぃ」