この真っ白な部屋に連れて来られてどれくらいたったんだろう。部屋の中にあるのは2つのベッドと小さな机だけ。
はぁ、と私はため息を吐いた。壁にもたれかかって一人で膝を抱えて座っている。何もないこの部屋では、こうしてボーッと床か壁か、天井を見ているしかやる事がない。
そしてそんな時ウィーンという音と共に部屋の扉が開き誰かが私に向かって走ってくる。
「サクラ〜〜〜!!」
入ってきたのは一人の少女。彼女は座っていた私に駆け寄ってきて勢い良く抱きついた。
「うわっと、危ないよ モモお姉ちゃん」
「えへへ〜 寂しかった?」
ニコッと笑って私を見つめる。私とそっくりなその顔で。 この人は私の双子のお姉ちゃん。
私達は孤児院で育っていたけれど、いつからかこの施設に連れて来られてここで暮らしている。
よく分からない注射や薬を飲まされて、いつの間にか鏡写しだった私達の姿には変化が訪れていた。
お姉ちゃんの髪は雪みたいに真っ白に、私の髪はなんでか髪の内側だけ中途半端に白くなった。
お姉ちゃんは流行りのツートンカラーじゃん! って言っていたけれど、お姉ちゃんと一緒じゃないのが私はとても嫌だった。
「お姉ちゃん・・・ 大丈夫? 今日は怪我してない?」
「うん! 心配性だな〜サクラは〜 可愛い妹め〜」
少し照れながらお姉ちゃんは私の髪をワシャワシャと乱暴に撫でた。
もう一つ私とお姉ちゃんには違いが生まれていた。 お姉ちゃんの髪が真っ白になった頃。 お姉ちゃんは自分の血を操作する事が出来る様になった。
この施設の人はそれを見るとお姉ちゃんだけを今日みたいに連れ出して何か実験をさせている。
「だって・・・ お姉ちゃんが居なくなったら・・・私・・・」
嫌な事を考えてしまって目を伏せる。
「だ〜いじょうぶ!! 私はずっとサクラと一緒!! サクラが私を嫌いになったってずっと一緒にいてやるわよ!!」
お姉ちゃんは私を胸に抱きしめた。
「嫌いになんて・・・ならないよ・・・」
ガチャン ガチャン
そうしていると扉の方から音がする。扉の下についた小さな穴からトレイに乗った食べ物が2つ部屋に入れられた。
「ご飯の時間だね〜 とりあえず食べよっか! サクラ、 私お腹減っちゃった〜」
「そうだね・・・」
私はお姉ちゃんと食事を取りにいく。
「あ、こっちがサクラのね〜 ハイ!」
「ありがとう」
お姉ちゃんは私の分のトレイを持ち上げて渡してくれる。 いつからかお姉ちゃんの食事にだけは真っ赤なへんな飲み物が付いて来るようになった。
「これよく分かんないから飲みたくないんだけど、飲まないとアイツらが怒るのよ」
なんてお姉ちゃんは言っていた。
そういえばその頃から私は注射をされて定期的に血を取られている。
小さな机に食事を置いて二人で食べる。無機質なパンと味の薄い料理。 孤児院にいた時も同じ様な物だったけれど、やっぱり何もない真っ白な部屋では美味しくも不味くも何も感じなかった。
「たまにはなんかステーキとかお刺身とか良いもの持ってきなさいよね! ほんと!」
お姉ちゃんは怒りながら不味そうに食べている。
こんなに無機質で止まってしまっている部屋の中の生活だけれど、私には大切な大好きな時間があった。
食事を終えて暫くすると部屋のライトが消されて小さな薄暗い電灯だけが点灯した。
外と遮断された部屋で朝も夜も分からなかったけど この部屋が暗くなるのが私達にとっての夜だった。
私達はベッドに入る。ベッドは2つ用意されているけれど同じベッドに入って並んで横になる。
「お姉ちゃんはこの部屋から出てもお外には行けないの・・・?」
目の前で向かい合う自分と同じ顔をしたお姉ちゃんに語りかける。
「そうだね〜 ここの施設の中しか今の所は行かされてないね〜」
「・・・・お外、 見たいね 昔みたいに一緒に星と・・・お月様・・・」
「孤児院では私がこっそり連れ出してお月見したりしてたもんね」
「・・・うん 見つかったら私を庇ってお姉ちゃんだけ怒られてた・・・」
「あははは、 そうだっけ?」
「あはは、 そうだよ」
薄暗い部屋の中に、私達の声だけが小さく歌のように響く。
「サクラはやっぱり笑ってた方がいいよ、サクラの笑顔が私は大好き」
「えへへ、 ありがと・・・お姉ちゃん」
「何時だって、お姉ちゃんが守るから 世界でたった一人の大切な・・・」
チュッ
お姉ちゃんは言いかけると私の頬にそっとキスをした。
「お姉ちゃん・・ 寝る前に絶対それするよね」
私は少し顔が熱くなって目を逸らした。
「大切な人にはこうやっていつもありがとうって、大好きだよってするものなのよ」
私と違って自身に溢れる表情でお姉ちゃんは言う。 私は少しお姉ちゃんに近づいて頬に唇を近づけて優しく触れる。
「うん・・・ お姉ちゃん ずっと・・ 一緒・・・ おやすみなさい」
「おやすみ、 サクラ」
私にとって1番幸せで落ち着くこの時間、こうしていると不安や悲しみも何処か溶けて無くなってしまうみたいで・・・
ゆっくりと、優しい眠りに落ちていった。