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朝、凛々奈の部屋で寝ていた三人は階段から降りて来る。揃って眠そうな顔だ。
「あら、三人仲良く一緒に起きてきた」
するとそこには既に事務所に来ていたハルと自分のデスクでパソコンを操作している唯牙がいる。
「ふわぁ〜あ、おはよ〜 あえ? ハルさん早いね」
凛々奈が大きく欠伸をしながら言う。
「ふふ、みんなおはよう なんだかまだ眠そうね」
「流石に三人で一緒のベッドは狭かったわ〜」
「なんだかあんまり寝れた気がしません」
目を擦る凛々奈とみいなの横のサクラは何故かずっと首を斜めに傾げていた。
「・・・・・・・・寝違えました」
「あらあら、大丈夫?」
「・・・・・・・・痛い」
「無理矢理真っ直ぐにしたら治んじゃない? えいッ!」
凛々奈はサクラの顔を両手で掴んでグイッと真っ直ぐになる様に曲げた。
「痛いッ!! やめて!!」
ガスッ
凛々奈の首にサクラが手刀を叩き込む。
「あぎゃッ! なにすんの!! 治してあげようとしたのに!!」
「それで治るんなら自分でやってる!!」
「訳のわからん事やってないでさっさと顔洗って着替えてこい」
パソコンを見ながら唯牙が言う。
「は〜い」
凛々奈とサクラは顔を洗いに洗面所へ歩いていった。
「ハルさん、サクラさんの事をもう知ってたんですね」
みいながサクラに尋ねる。
「昨日夜中に届け物だけ置いておこうと此処に寄った時にたまたま顔を合わせてね」
「そうだったんですね、遅くまでお疲れ様です」
「うふふ、ありがとうみいなちゃん、さ、みいなちゃんも着替えておいで」
「はい!」
返事をするとみいなは二人の後を追いかけた。
「なんだか三人姉妹みたいね、あの子達」
「騒がしくなったもんだ・・・」
◆
三人は顔を洗ってからソファに並んで腰掛けた。ハルもその向かいに座る。
「あっ朝ごはん用意しないと」
するとみいなが立ち上がる。
「ハルさんと唯牙さんも食べますか?」
「私は食べてきたから大丈夫よ、ありがとう」
「あー、じゃあトースト1枚だけいいかな、みいなちゃん」
「はい! サクラさんはパンとご飯どっちがいいです??」
「あ、パン・・・・」
いつのまにか首が元に戻っているサクラ。
「分かりました! 少し待っててくださいね」
みいなは事務所の奥へ歩いていった。その後ろ姿を凛々奈は腕を組んで見つめている。
「うんうん、みーちゃんは良いお嫁さんになる・・・ ていうか私のお嫁さんにする・・・ 絶対する・・・ ふふふ、サクラ、結婚式には呼んであげるわ」
「え?・・・ごめん聞いてなかった」
「聞いててよッ!!」
「貴方達、昨日会ったばかりなのにもう仲良しね〜」
「昨日の敵は今日の友って言うからさ〜 拳を交えたらもう親友よ〜 拳どころかもうお互い半殺しだったからね〜」
がっはっはと何故か豪快に笑う凛々奈。
「・・・・・半殺しで済んでましたかね? あれ」
「そんな漢の友情みたいな感じなのねぇ〜」
「てかさ! ハルさん!!」
突然何かを思い出した様に凛々奈は立ち上がりハルに詰め寄る。
「な、なに? 凛々奈ちゃん・・・・」
「ハルさん・・・・ センセと一緒に私に変なあだ名つけてバカにしてたでしょ」
ムスッとした顔を近づける。
「あははは、バカにはしてないよ〜」
「・・・・・やさぐれイキりりな」
横からサクラがボソッと言う。
「そう! それ! めっちゃバカにしてるでしょ!!」
「違う違う! あれはユイと二人の時に思い出話をしててね!」
「バカにして笑ってたんでしょ!!」
「そうじゃなくて〜」
突然ハルは凛々奈の顔を抱きしめて胸に埋める。
「こんなに元気に可愛い子になってくれてよかったね〜って、あの時のやさぐれ凛々奈ちゃんもあれはあれで可愛かったよね〜って話してたの」
ハルの胸の中でモゴモゴする凛々奈が上を向いて目だけ胸からだす。
「・・・・・・・・なら許す」
「許すんだ・・・・・・・・」
見ていたサクラが言うと凛々奈は抱きしめられたままサクラに向き直る。
「あんたもこの胸に包まれたら分かるわ、ここでは怒りなんて消え去って仏の様に穏やかな心になるのよ」
「何を言ってるんですか・・・・」
「おまたせしました!」
するとエプロン姿のみいなが皆の朝食を持ってきてくれた。
「ハルさん、珈琲だけでもよかったらどうぞ」
ハルの前にカップを置く。
「ありがとうみいなちゃん」
「なにやってるんですか凛々奈さん」
ハルの胸に顔をうずめている凛々奈に言うとまたそのまま顔だけみいなに向ける。
「癒やされて悟りを開いてるの」
「そうですか・・・」
もう随分と凛々奈の変な行動に慣れてきているみいなだった。
「もう私ここに住むわ」
ムギュっと更にハルに抱きつく。
「もう、みいなちゃんが朝ごはん用意してくれたから離れなさい」
「ぶぅ〜」
頬を膨らませて渋々元のソファに戻る凛々奈。
「あ・・ わたし手伝う・・・」
サクラはみいなについて行って一緒にパンと目玉焼きの乗った皿を運んだ。
「サクラさんありがとうございます!」
「ううん、作ってくれてありがとう みいな」
朝食を机の上に並べ終わり皆で朝食を食べる。
「そういえばみいなちゃん、夜中に何か凛々奈に怒ってなかったかい?」
トーストを手に唯牙はみいなに尋ねた。
「あ、あれはなんでもないですよ! 大したことじゃないです!」
「みーちゃんったら可愛いんだよ〜 センセ〜 サクラに私をとられるんじゃないかってやきもちやいてたんだよ〜」
「やきもちじゃないです!!」
「・・・・・結局今度凛々奈が1日みいなの言う事なんでも聞くって事で機嫌が直った」
「別に怒ってなかったもん!」
「うへへぇ 可愛いなぁ〜」
「まあ仲直りしたならいいんだが」
そんな会話をしながら朝食を食べ終わる。するとハルは少し真面目な顔になってサクラに声をかけた。
「それで、どうするか決めた? サクラちゃん」
それはこれからサクラがここに残るかという問い。サクラはハルの目を見て答えた。
「・・・・もしかしたらすぐに出て行くかもしれませんが、とりあえず・・・ 少しだけ、お世話に・・・・なります」
「うふふ、そう 良かった」
「なら改めてよろしくだな、サクラ」
「お姉ちゃんが増えたみたいで嬉しいです!」
「ええっ!? 駄目ッ! みーちゃんのお姉ちゃんは私だけ!!」
皆は暖かくサクラを迎え入れた。
(お姉ちゃん、これで良かったのかな?)
そんな事を思うサクラの首の傷跡の紅い結晶がキラリと輝いた。
◆
「それじゃあサクラちゃんは私専属のボディガードとして連れてくからね〜!」
正午まで皆でゆっくりと過ごしてからハルとサクラは荷物を用意して出発しようとしていた。
「私・・・何をすればいいの?」
「そうねぇ、厄介な奴に喧嘩売られたら助けてもらうけど、そんなに頻繁にある訳じゃないから」
「何か他にする事があるの・・・?」
「ふふっ だからサクラちゃんのメインの仕事は、私の話し相手かな!」
「え・・・」
「私だけ一人で行動する事が多かったから寂しかったのよね〜」
「・・・それ私じゃなくてもいい」
「だーめ! サクラちゃんがいいの!」
ムギュっとサクラの顔を胸に抱きしめる。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「どう? サクラ、そこに一生顔を埋めていたいでしょ」
何故かそれを見てドヤ顔の凛々奈。サクラはバッと胸から顔を離す。
「なんで貴方が偉そうなんですか」
「ふふふ、それじゃあ行きましょうか、サクラちゃん」
「ハルさん、サクラさん! 行ってらっしゃい! 気を付けて!!」
「ハルを頼んだぞ、サクラ」
唯牙とみいなが二人を送り出す。
「いってくるわね」
扉を開けて二人は出発しようとする。
「サクラ!」
呼び止められてサクラは振り返る。
「・・・なに?」
「無茶しないようにね、あと・・・ ちゃんと、帰って来なさいよ」
「・・・・・・・・うん、いってくる」
一人の少女が加わって、凛々奈達の日常はまた新しく動き出そうとしていた。