終末世界で英雄賛歌を謳う   作:でち公

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第6話

 

 今日はお兄さんとのデ……遊ぶ約束だけど、変な所はないかな? ちゃんと可愛いって思ってくれるかな? 

 

 そんなことを思いながら私は目の前の鏡にたって何度も髪の毛を弄ったり、身嗜みを整えたりしている。だってこれ以上お兄さんに失態を見せたくない。

 

 ただでさえ、あんな酷いものを見せてしまったのだ。お兄さんはあまり気にしていない風に見えたけど、それが本当に気にしていないのかは分からない。だから、あの痴態を払拭するためにも気合い入れていかないと。

 

 そんなことを考えながら服をあれこれ組み合わせたり、髪を整えたりなどで鏡の前に約三時間は立っていた。

 

「あ、もうそろそろ時間だ。よ、よし頑張れ私! 今日はお兄さんに可愛いって思って貰えるようにちゃんと振る舞うんだ」

 

 自己暗示をするように呟いてセフィラ・フラグメントの隊員寮にある部屋から出て、待ち合わせ場所へと向かった。少し早いが遅れるよりかはマシだろうと判断して胸を弾ませながら向かう。

 

 別に「待った?」「今来たとこ」なんて甘酸っぱい恋愛漫画あるあるをやりたいわけではないのだ。決してないのだ。ないと言ったらない。

 

 待ち合わせの一時間前くらいに出発してるが、これは道中に何かあった時の事を想定しているだけである。

 

 ……待ち合わせ場所はセフィラ・フラグメント本拠地前だけど。*1

 

 そんなことを誰かに言い訳しながら待ち合わせ場所に向かうとそこには見慣れたフード付きの白の法衣を纏っている人がいた。フードにすっぽりと包まれた頭部の上には果たしてどんな謎技術が使われているのか理解出来ていないが、まるで天使の輪のように白銀に輝く光輪がクルクルと自己主張するように回転していた。

 

 間違いなくお兄さんだ。

 

 でもどうしてこんなに早く? もしかして私、時間間違えてたんじゃ……と若干テンパりながら早足に向かうとその足音に気がついたのか、くるりと白の法衣を纏った人物が振り向いた。

 

「む、暁か。早いな、まだ約束の一時間前だが」

 

「おに──ニーアさんこそ、何でこんなに早く?」

 

 もしかして私とのデ……遊ぶのを楽しみに──

 

「いや、俺は警邏から帰ってきたところだ。妙に胸騒ぎがしてな」

 

 ですよねー。世の中そんな甘くないよね。

 

「まあいい、来たのならこれを渡しておこう」

 

 そう言ってお兄さんが懐から取り出して渡してきたのは黒曜石の如き艶やかな光を放つカードだった。

 

 こ、これもしかしてブラックカード!? 

 

「あ、あのあのこれって……?」

 

「遊びに行くのならそれを持って行って好きに使え。必要経費として全て経費で落とすから遠慮などするなよ。今日は存分に楽しんでくるといい」

 

 その言葉を聞いて暁はピシリと固まった。

 

 あれ、これもしかしてお兄さん私と遊ぶって考えてない……? 私が一人で舞い上がって勘違いしてただけ? 

 

 暁の心に罅が入る。

 

 もしも勘違いだったのならなんて自分は滑稽なのだろうか。舞い上がって何時間もかけて準備して、昨日の夜なんて楽しみすぎてなかなか寝付けなかったというのに、それが全て自分の勘違いで無駄だったのだから。

 

 あ、ダメだ。そう認識すると目から涙が零れちゃいそう。それにもしかしたらお兄さんはああ言ってるけど来てくれるかもしれないし……! 勇気を出して聞いてみよう。

 

「あ、あの……ニーアさんは一緒に来てくれないんですか?」

 

「俺がか? 流石に俺も同行したらお前とその友人が楽しめなかろうよ。私生活まで干渉はしないつもりだ。俺の事は気にせず楽しんでこい」

 

 ち、違った。全然違った。何だったら私が友達と行くことを想定してた。泣きそう。私が思い上がってただけなんだ。お兄さんにはそんな気がないのに私が思い上がって一緒に遊んでくれるって勘違いしてただけなんだ。

 

 う、鬱い。勘違いも甚だしすぎて首を吊りたくなるレベルで鬱いよ〜。

 

 やだなぁ……お兄さんと一緒に遊びたかったなぁ……。

 

「あ、あの私、ニーアさんと一緒に遊びに行きたくて……その、友達とか誘ってないんですぅ……」

 

 そんなことを考えていたからだろうか、自分の口からポロッと願いが漏れ出てしまった。

 

「俺とか? こんな男と遊んでもつまらんだろうよ。何せ街に遊びに行くような服すら持ち合わせていない男だ。こんな奴と遊んでお前の貴重な休日を潰すのは俺としても申し訳が立たんよ」

 

「そ、そんなことないです! 私、ニーアさんと一緒に遊びたいって思ってて……その、駄目ですか?」

 

「……もう一度聞いておくが、本当に良いのか?」

 

「はい! 私はニーアさんと遊びたいんです」

 

「分かった。お前がそういうのなら共に行かせてもらおう──ああ、いや……一緒に遊ぼうか、暁」

 

「〜〜〜っ! はい! 沢山遊んでいっぱい思い出を作りましょうね!」

 

 善は急げだ。お兄さんの気が変わる前に街に連れ出そう。そう思ってお兄さんの手を取ると駆け出す。

 

 ──ああ、今日はきっと最高の日になる!

 

 

 

 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

 

 

 俺のような顰めっ面で無愛想な男を連れ回して楽しいのかと疑問を抱いていたが、暁はちゃんと楽しめてるようだ。

 

 最大級のモール型ショッピングセンターに来て美味いものを食べて、ショッピングをして、心ゆくまで遊んで……いつもからは考えられないほどにはしゃいでいる暁の姿が印象的だった。

 

 だがまあ、正直な所俺をゲームセンターに連れ込もうとしたのは驚いた。この俺がゲームセンターに入るのはまずい。

 

 何せ漫画や小説などである極度の機械音痴のような者達と同様、この体は「何もしてないのに壊れた」を本当に実行してくる体なのだ。

 

 流石に俺が遊んだゲームが全てぶっ壊れて閉店になるのは避けたい。遊ばなければいいとは思うのだが、万が一というものがある。触らずとも壊れるようになってしまった場合、市民の憩いの場を意図せず壊してしまうことになる。それは避けたい。

 

 なので、申し訳ないがゲームセンターだけは拒否させてもらった。

 

 その代わり服を見に行くことになったのだが……

 

「ニーアさん! これ、これなんてどうですか! ニーアさんに似合うと思うんですけど!」

 

 何が楽しいのか、彼女は俺を着せ替え人形の如く様々な服を着せてくる。それも店員とタッグを組んで来たものだから圧が強く、微妙に断りきれない。

 

「暁、自分の服は買わないのか?」

 

「私はいいんです。ニーアさんの服を選んでるのが一番楽しいので!」

 

「そういうものか」

 

 よく分からない。だが、まあそうさな。これで元気になるのであればいくらでも付き合うとしよう。色んな服を持ってきては店員とあれこれ話しているのを見てこれは長くなりそうだと内心苦笑した。

 

 適当な椅子に腰掛けて次は何を持ってくるのかと待っていると──酷く激情を掻き立てるような胸騒ぎがした。今までの感情は全て底へと沈み込み、思考が熱を持ち始める。

 

 ざわりざわりと血が沸騰するようにザワついてくる。

 

 心の奥底から耐え難い激情が湧き出す。

 

 ああ、これは──

 

「暁」

 

「はい、どうかしましたかニーアさん?」

 

「今すぐ変身して市民達の避難誘導をしろ。店員さん、あなたもいつでも逃げられる準備を」

 

「へ、あのそれってどういう──」

 

 瞬間、世界が黄昏に染まり、ぞわりと背筋をなぞる様に悪寒が走った。それと同時に人々の憩いの時間を壊すのかと激しい怒りも込み上げる。

 

「……ふー」

 

 怒りが脳を埋め尽くし始める。

 

 ──邪悪を許すな

 

 人々が狼狽えて逃げ惑う姿が見える。

 

 ──邪悪を殺せ

 

 穏やかな日常を壊すなどと決して許せはしない。

 

 ──邪悪を滅ぼせ

 

 邪悪なる畜生は必ずここで滅却する。何があろうともどんな手を使おうとも殺し尽くす。お前達の存在を許すことは決して出来はしない。

 

 故に死ね、故に絶滅しろ。

 

 貴様らが存在するという事実すら虫唾が走る。

 

「あの、ニーア……さん?」

 

「ステラエクシア、もう一度言う。お前は市民の避難誘導をしろ。モールへ来ている魔法少女がいるのならば協力を仰げ。今回の相手は悪魔だ。断じて戦おうなどと思い上がるな」

 

「は、はい!」

 

 空間に罅が入り、醜悪なる畜生の瞳がギョロギョロと獲物を見定めるように忙しなく動き出す。

 

 ああ、不愉快だ。その存在が、その在り方が不愉快極まりない。だから死んでくれ、ただただ死んでくれ。無為に、無様に、惨めに死んでくれ。

 

 その感情に呼応するように固有魔法が高まるのを感じる。

 

 そんな時に使い捨ての通信機に連絡が入った。この通信機の番号を知っているのは一人しかいない。

 

お楽しみのところごめんね、ニーア

 

「……明か。随分と声が震えているが何かあったのか?」

 

『ちょっと頭と情緒がイカれただけ*2だから大丈夫さ。それよりも今そっちに悪魔が出てるんだろう? それについて分かった事があったんだけど、出現する前に情報共有を間に合わせることが出来なくてごめん』

 

「問題ない。奴は俺の前に現れた。ならば後は滅却するだけだ。奴が何であろうが確実に殺す」

 

『それは頼もしいんだけど、相手はただの悪魔じゃないんだ。……あれは悪鬼達の蠱毒から生じた存在なんだ。今そこにいる魔法少女達じゃどう足掻いても勝てない。だから、仮に戦うのなら君だけになる。それに君はこの状況じゃ本気で戦えないだろう?』

 

「悪鬼同士の蠱毒か……聞きたいことが増えたがそれは全てが終わってからにしよう」

 

 ゆっくりと息を吐く。

 燃え滾る激情と心を燃やす熱を排熱するように。

 

「明、安心しておけ。たかが悪魔程度何ら問題はない。俺は必ず勝つ。邪悪な畜生共に負けることなど俺自身が許しはしない……!」

 

 それだけ伝えると通信機がショートして完全に壊れてしまった。それを握り潰すと同時に空間の裂け目から這い出てきたおぞましく粘液か何かで表皮が絖って光を反射している触手の集合体のような悪魔が巨大な単眼で此方を見下ろしていた。

 

あ、ああああ、ああああ!!!』

 

 劈くような叫びがモール内に響く。その声に耐えきれない人間が気絶しては倒れていく。不愉快な声だ。鬱陶しくて堪らない。

 

 気絶してしまった一般市民を何人かの魔法少女が回収している姿が見えたのでステラエクシアが指示通りに協力を仰いだり、明が手を回したりしているのだろう。

 

 十分だ。

 

 完全に避難が完了するまで固有魔法の完全解放は封じなければならんが、問題は一切ない。

 

こ、ここころす! つ、つれつれれさささってやる! ニーアニーアニーア! お前ををををを、ころころころろろ──さらってやる!』

 

「来るがいい、貴様如き畜生がこの尊き日常を破壊した咎をその身で償わせてやる」

 

 手を前に翳すと光が収束し始め、愛用している剣が実体化する。それを掴み取り鞘から剣を抜き放つ。

 

 俺の固有魔法が邪悪を殺せと今にも肉体を無理矢理食い破りそうなほどに暴れ狂う。早く目の前の存在を滅却しろとやかましく吠え立てる。

 

 ああ、全くもって同感だ。

 

 ──地獄に叩き返してくれる。

 

*1
歩いて徒歩5分

*2
ストーキングしたせい

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