つくもがみん!~え?この召喚陣に素材をおいて付喪神を作れる?じゃあ、何にし──「オ、オエエエェッ…………!(吐瀉物噴射)」──召喚陣「ピカァ…」~ 作:環状線EX
『つくもがみん』
後にそう言われる存在が現れたのが四十年前。
その原因になったのが1987年に起こった俗にいう『光の環事件』である。
世界各国の満十五歳以上の者の前に青白く輝く直径二メートルにも満たない円が現れたのだ。
それはまるでフィクションに出てくる魔法陣のような見た目をしていた。
しかし、特に何かが起こる様子もなかった。
ファンタジーよろしくの魔法が出るわけでもないし、原点ともいえる魔法円のように災いから守る結解と言うわけでもなかった。
誰もが疑問に思う中、世界各地で少数ではあるがこの円の真価を発揮する者がいた。
この光り輝く円の真価は円に置かれたものを媒介に付喪神へと昇華すること。
付喪神に昇華されたものは様々だった。
財布。
タバコ。
手紙。
果てはそこらに落ちているようなどんぐりなんかまで。
一見、ただ、無差別に実行しているようにも見えただろう。
ただ、それにも共通点があった。
決して、他人の私物から付喪神が生まれることはなかったし、たとえ、上空を飛んでいた鳥が糞を円めがけて落としてもそれを昇華させることはなかった。
財布は長年使っていたから。
タバコは体に馴染むほど吸っていたから。
手紙は大切な人からもらったものだから。
ただのどんぐりに見えても一生懸命娘が拾って来てプレゼントしてくれたものだから。
その人に何かしらの縁があるもの一回だけ付喪神になることができた。
それから四十年。この世界の人間は付喪神と共存していた。
付喪神はとある雑誌の影響で『つくもがみん』呼ばれるようになり、すっかり生活に溶け込んでいた。
今日の日付は四月六日、俺──
つまり、俺もつくもがみんを呼び出せる年齢と言うことだ。
とは言え、まだ、午前で俺が生まれたのは午後十九時三十五分らしいから時間はたっぷりある。
と、言うことで時間もあるので某遊園地に来ていた。
もちろん一人ではない。男三人女二人の計五人だ。
何でも俺の誕生日を祝いたいとのことで計画してくれたらしい。
とはいうものの俺は今一人、友人四人が乗るジェットコースターを見上げながらウーロン茶をストローで吸い上げていた。
遊園地に来てまで今日の主役である俺が一人で水分補給とはなんとも言えないが、まぁ、これも仕方ないのだ。
なんてったって、俺は絶叫系が苦手なのだ。
あいつらの中のうち二人はファッション絶叫系苦手野郎のようで「俺もさ苦手だけど乗るんだからさ、束羽も乗ろうぜ」とか言ってきたが我慢云々で乗れるのなら困ってねーんだよ!と言ってやりたい。
あんな死の危険を感じる乗り物に誰が乗るかってーの!
「ん?」
ふと見上げた空で何か光った気がした。
まるで何かが反射したような……
「あれは……佐藤か?」
「「ぎゃぁあああッ!!!!!!??」」
ジェットコースター特有のものとは少し違った絶叫。
恐怖。困惑。嫌悪。
負の感情が読み取れる。
どうしたことかと思い良く目を凝らしてみる。
すると、俺をジェットコースターに誘ってきたあいつは百キロ越えの速度で移動しながら吐瀉物をまき散らしていた。
ごめん佐藤。俺誤解してた。お前も本当に苦手だったんだな。
まぁ、それはともかく。
「アハハッ!ざまぁねぇなぁ!」
最高の思い出をありがとう。
佐藤、お前のことは忘れないよ。
Happy birthday、俺。Happy birthday、佐藤のゲロ。
情けをかけると思うなよ、佐藤。
俺は常日頃から思ってたんだ。酔うから絶叫系嫌いっていう奴、死の危険を感じてる俺と同列に語られるとこっちが軽視されるんだよ。
酔いは甘え。(個人の感想です)
それはそうとそろそろ出てくる時間だろう。
俺はスキップをしながら出口に向かう。
「みんな~楽しかった~?」
あくまで、上空六十メートルで起きた出来事を知らない俺はそういう。
あんな高いところ見えるわけないしね。
「ま、まぁな」
どうしたんだよ、鈴木?そんな顔を引きつらせて。
「と、取りあえず、少し休憩しない?」
「そ、そうだね!それがいいよ!」
山田の提案に田中が必死に頷く。
「そっか、俺もトイレ行こうと思ってたからいいと思うよ」
俺だって優しいんだ。もちろん賛成だとも。
ん?どうした佐藤?今まで黙ってたのに俺がトイレに行くって言った瞬間いきなり反応して。
あ!もしかして佐藤もトイレ?良いぜ、連れしょんしようぜ!
「あ!俺ごみ捨ててくるからトイレは後で行こ」
そういえばウーロン茶のごみ捨ててなかったわ。
どうした?佐藤。ほっとしたような顔をして。
あ!あそこに野生のゴミ箱が!
「いやーゴミ箱がなかなか見つからなくて大変だったよ」
ゴミ箱だと思って近づいたらペットボトルしか捨てる場所無くて焦ったわ。
そのおかげでトイレにも行きそびれた。
あれ?佐藤それここで買ったTシャツ?ノリノリじゃん!でもお前今日のためにわざわざ服選んでたけど、そこまでして楽しむなんて流石かっけーわ。
「束羽、次はもっとお前の行きたがってたのに行こうぜ。お前のために計画立てたんだからさ」
「いいのかよ、佐藤?お前絶叫系網羅するとか言ってたじゃん」
「い、いや、みんなで楽しんでこその遊園地だろ。あと、網羅するとは一言も言ってない」
「あれ?そうだっけ?よし、じゃあ次はここいこーぜ」
「そうだな」
「俺も賛成」
「私もオッケー」
「私も」
やけにみんな賛成してくれるな。子供っぽいとかつまんなそうとか言ってたのに。
まぁいいか。
この後めちゃくちゃ遊び倒した。
「うぷっ」
現在帰るためにバスに乗ってるのだが、俺は吐き気を催していた。
やけに皆距離を取るな。まるで今日ゲロを盛大にはいた奴をまじかで見てきたかのようだ。
いや、これマジきついな。
吐き気が甘えとか言ってたやつに頭から吐瀉物のシャワーを浴びせてやりたいわ。
やべ、想像したら余計に……
君たちにいいことを教えてあげよう。
車で酔ったときその苦痛から逃れたいのなら寝ることが一番だ。
寝れば一時的に意識が途切れ運が良ければ起きたら到着しているなんてこともある。
ん?酔ってんのに寝れるわけがない?寝たら理性が死んで決壊する?そもそも、薬飲んだら楽になる?いや、知らねーよ。
というわけで家に帰ってきたのであるが、先ほどの方法には欠陥がある。
それは、夢から覚めても酔いは醒めてはいないということだ。
つまり、まぁ。
「うっぷ」
気落ち悪い。
いや、だが、大丈夫だ。落ち着け。ここは家だ。万が一があっても外で吐くより断然いい。
取りあえず座るか。
「ん?」
ソファに座った俺が見たのは幾何学模様だった。
というか、これはもしかしなくても、つくもがみんの召喚陣だろう。
なんかすごい複雑な模様してる。見てるだけで気持ち悪くなってくる。ほら、よくあるじゃん。小さい文字とか見てたら余計気持ち悪くなるとか。
しかし、俺はこれに耐え、つくもがみんを呼び出さなければならない。
本来ならどれを媒介にしようか?なんて、考えを巡らせるのだろうが、ここに置く物はとっくの昔に決まっている。
実のところ、俺くらいの世代だと親なんかが子供が生まれた時のお祝いも兼ねて何か一つ将来媒介となるものを決めるのだ。
それによりその子供は生まれたころから媒介となるものを肌身離さず身に着けることで、より、強力なつくもがみんを召喚する。
つくもがみんは人生のパートナーと呼ぶべき存在のためそれだけ皆が入念に準備するのだ。
と言うことで、俺は手首から組みひもを外す。
青系統の色で編まれたそれは俺の宝物とも言えた。
これからこいつが俺の相棒になるんだ。
俺はそれを置くためにしゃがみ込む。
「これで俺も──
しゃがみ込んだ瞬間、腹部が圧迫される。
こみあげてくる吐き気。
でも俺はこんなものに屈しな──
──オ、オエエエェッ…………!」
胃からしょくどうを通り、それは逆流する。
焼けるような痛みと共にそれは俺の喉を駆け上がり、その結果、俺は盛大にぶちまけた。
次の瞬間、無情にも青白く発行する陣が輝きを強めた。
吐瀉物には胃液の他に末消化の食物が含まれているという。
つまり、例えゲロを召喚陣に吐いてしまったとしても自身が食した何かが反応するかもしれないという考え方も捨てきれない。
そう。まだ焦る時間じゃない。
ほら、今日だって遊びに行ったこともあって普段食べないようなものまで食べてる。
もうこの際、ちょっとアメリカン(発祥は17世紀のベルギー)だけどポテトの付喪神とか、何なら食物繊維の付喪神でも構わない。
俺は全力で神に祈った。
光は強さを増していき人型を象る。
やはり、神の召喚とあって神聖な気配を感じる。
光が収まるとともにそれが少女であることがわかる。
小柄でありながら胸はないがスタイルはいい。
肌は白く透き通るようだ。
それに、身体だけじゃない。
これは美少女ってやつだ。
勝ったな。
多分あたりだ。
このなりでゲロの付喪神とは言わんだろう。
「あなた様は?」
仮にも相手は付喪神、神である。俺は失礼がないように尋ねる。
一拍おいて薄く小さな唇が震える。
「……──の付喪神……」
「え、なんて……?」
小さく呟かれた言葉はよく聞き取れない。
いきなり、呼び出されて緊張している可能性もある。
ゆっくり行こう。
相手が神でも見た目は幼女、この世に顕現してまだ間もないし、仕方がないだろう。
「とっ!」
「と?」
「吐瀉物の付喪神!!」
「は?いや、待て、なんて?吐瀉物って言った?」
「……」
「はー、んだよ。つーか、何恥ずかしがってんだよ。吐瀉物じゃなくてゲロって言えよ。言い方を変えようが恥ずかしいだろ」
「は、恥ずかしいって、あんたが神聖な陣に吐瀉物をまき散らしたんでしょ!」
「お、おいやめろ!掴むな!ゲロ付くって!」
全身吐瀉物まみれのゲロ神様は俺の首元を掴んで揺らしてくる。
昇華されたゲロ以外は残っていて上から被ったのだろうか?
つーか、力強っ!?
「こ、これ以上揺らすと──オヴォロロロッ…………!」
「うわっ、きも!?オエエェェッ…………!」
「ゴホッ、何、もらいゲロしてんだよ!?お前ゲボの付喪神だろ、なんで耐性ねぇんだよ」
「だ、だからこそでしょ!吐瀉物と吐く行為は関連性が深いのよ!」
そんなこと知らんがな。
「まぁいいや。なんか吐くものはいたらスッキリしたし風呂入ってこよ」
流石にゲロまみれで過ごす趣味はない。
そう思い歩こうとしたところで腕を惹かれる。
「……おい、なんだ」
「私を先に風呂に入れなさい」
「え?やだけど」
「なんでよ!?ひどいと思わないの?女の子が全裸で吐瀉物まみれになってても!」
「やめろ、変な誤解を招く」
「誤解っていうかそのままでしょ」
「はぁ、さっさとしてくれよ」
四月六日のこの出来事が俺とこいつの始まりだった。