つくもがみん!~え?この召喚陣に素材をおいて付喪神を作れる?じゃあ、何にし──「オ、オエエエェッ…………!(吐瀉物噴射)」──召喚陣「ピカァ…」~ 作:環状線EX
学校初日、それは午前中、あるいは午後だけで終わる最高の日。
学校に居る時間のほとんどは職員会議をしている担任待ちと言う名の自由時間。
何なら、若く元気な中学生である俺くらいならば学校が終わった後で遊ぶ約束でもしてくるだろう。
そんな、充実した一日になるはずの俺はなぜか疲れ果てていた。
「疲れた……」
「私の方が疲れたわよ」
俺の言葉にゲロ子がため息をつく。
「千草の場合、勝手にゲロ吐いて、勝手にゲロって名前つけたから自業自得だけど、私は巻き込まれたようなものだし」
「いや、そんなことは……あるかもな」
よく考えてみたらずべてにおいて元凶は俺か?
「はあ、そもそもキラキラネームの子供見て最近の子供は~とかいうけど、今の中高生の名前を付けてるのなんて場合によっては五十に片足突っ込んでるおっさんおばさんでしょ。何でつけられた側がそんなこと言われなきゃならないのよ」
「……」
「少なくとも名づけするなら責任もってほしいわよね。ね、千草」
「……そうですね」
なにも言い返せない。
ちなみに俺が疲れていたのは先生がいない間にバカ騒ぎするはずだった時間を使って、いかに俺がバカな行動をしたのだと山田と田中を中心に説教されたからだ。
学校が始まり数日がたった。
ゲロ子はすっかりクラスに馴染んだようだ。
つくもがみんを連れての登校は今の時代当たり前だが、それは媒介となった物へ擬態をするのが常識だ。
休み時間くらいは人形になっていても何も言われることはないが本来であれば授業中はそれができない。
一応クラスメートには佐藤、鈴木、山田、田中含めゲロ子がゲロから生まれたことは言ってないが学校側には人形ではないといけない理由は言ってある。
今は、皆がつくもがみんを持っているわけではないため他の生徒から特に思われることはないが、暫くして皆がつくもがみんを持つようになれば何であいつだけとなるだろう。
その時どうすればいいか今考えているのだが。
「千草」
「ああ、分かってる」
そんな考えに没頭できない理由があった。
視線だ。
この数日視線を感じる。
見られているのは俺ではなくゲロ子の方だが、とき俺にも向けられる。
まあ、俺に向けられるのは憎悪の視線と言うか、なんだか恨んでいるような視線だ。
ゲロ子は嘗め回すような視線で気持ち悪いらしい。
これは警察に相談か?
いや、協会でもいいかもしれない。
適当につくもがみんを狙っている奴がいるとかいえば警察よりも動いてくれそうだ。
さてどうしようか。
そんな風に考えていると視線の主は意外とあっさりと俺たちの前に姿を現した。
高校生くらいだろうか、黒縁の眼鏡をかけて過剰にワックスのつけられた髪はテカり、肥満気味なのか腹は出てワイシャツは汗か何かで透けている。
そして、顔には謎の笑み。
「天使よ!この吉田太郎がその男から解放してあげます!」
いきなり現れたと思ったら男はそう言って声を上げた。
てか、男って俺?
「千草知り合い?」
「いや、知らな……あ、あれじゃね。この前コンビニでおにぎり握り潰してた人」
確か、そうだったはず。面識はないはずだが。
「握りつぶしてただって!?それはお前が僕に対して着せた濡れ衣じゃないか!」
「え?いや、何の話」
「まだとぼけるのか?まあ、いい。力ずくで分からせてやる!やるぞツクヨミ!!」
吉田とかいう男は一方的に捲し立て、つけていた眼鏡を宙に放り投げた。
男の声と共にそれが形を変えて人形になり、俺たちの前に立つ。
こいつがツクヨミか。……ツクヨミ?
んなことより、つくもがみんでの暴力。
あれ?これ犯罪では?
「ふ、今更謝っても遅い!」
「いや、何も言ってねーけど」
「うるさい!ツクヨミがいればお前なんか一発だ!こいつの能力はレンズによる光の収束、焼き殺してやる」
男は殺気を向けてくる。
そして、ゲロ子を見ると微笑んで。
「いま、こいつを倒します。そしたら僕と幸せになりましょうね」
「え?無理」
「ッ!?」
驚いたような顔をして後ずさる男。
あ、泣きそうだ。
「つ、ツクヨミ。今日は帰るぞ」
男は背を向けて逃げるように走り出した。残されたつくもがみんは後を追うようにして追いかけていった。
「なに、あれ?」
「さあ?」
俺に聞かれてもわからない。
面識すらないのだから。
「それより、千草。これ行こ」
「アイスフェア?」
気を取り直すようにしてゲロ子はスマホの画面を見せてくる。
つくもがみんの態々スマホを買ってやったのかと思われるかもしれないが、これは普通だ。
と言うか、一般的にケータイのプランと言えば人間とつくもがみんの両方が使えるように作られている。
学割と一緒に利用するとお得なのだ。
「そ、駅前でやってるんだって」
「んじゃちょっと寄ってくか」
「わかってんじゃん」
「まーな」
ゲロ子とのアイスイベントはこいつの機嫌と直結するため基本断ることは出来ない。
アイスで簡単に機嫌が直る代わりにアイスで簡単に機嫌が悪い方向にも左右される。
俺はゲロ子に手を惹かれながら駅前へと足を進めた。
ゲーセンと言えば営業時間中ずっと大音量が流れていそうなものだがここはそうではなかった。
親と来る小学生もいなければ中高生が騒いでいるわけでもない。
ここは数年前に営業難で潰れていた。
ただでさえ人通りの少ない場所であるにも関わらず大通りにはもっとでかいゲームセンターがあるとなればここに来るのは少数だろう。
あるのはアーケードや対戦ゲームばかり、唯一あるUFOキャッチャーは誰も欲しがるとは思えない152種のパチモンゲームが遊べる中華製のエミュレータがポツリと転がっているだけ。
そんな空間で唯一稼働するゲーム機の前に男が一人、吉田太郎である。
「クッソ!どうして!?あいつが天使に何かを吹き込んだのか?」
ゲームをすると言った様子はなく代わりに台座に置かれたのは数枚の写真。
これはここ数日の成果であった。
映るのは天使である彼女。横に見切れる男の姿は気に入らないが素人にしては良く取れていた。
態々プリントして並べられたそれらを見て吉田太郎は考える。
今回の敗因は何だったのか、何を間違えたのか。
「クッソォオオオ!!!!」
男は唾を飛ばしながら絶叫した。
だから気付かなかったのだろう、床に散らばったガラスが踏みつけられた音を。
それは自分以外の侵入者の知らせ。
だが彼は気付かなかった。
だから、ここでやっと気づく。相手からのアプローチによって。
「るっせーなァ!つーか、最近荒らされてると思ったらネズミが入っていたのかよ」
接近してやっとその男に気付いた。ネズミと言うには太り過ぎかと男は笑う。
吉田太郎は勢いよく顔を上げた。
誰だか知らないが邪魔をするなと、そんな気迫は一瞬でそがれた。
目の前にいたのは明らかにヤンチャをしてそうな男たち。
そんな危なそうな集団に見下されて背筋が凍る。
今にも殺される。そう、思った吉田太郎は眼鏡からツクヨミに姿を変えたつくもがみんを出す。
「あ?」
「殺してやる」
「何だコイツ?俺たちが使ってた場所を勝手に散らかしといて殺すはないんじゃねーか」
男がそういうと茶化すようにして周りが笑う。
しかし、吉田太郎はそんなことは気にしない。こんな奴らに負けてたまるか。
「ツクヨミこいつらを──」
「いや、無理だろ。数的に」
男はツクヨミではなく吉田太郎を蹴る。
何故かつくもがみんと一緒に出てきたので確実な方を蹴った。
「ぐッ、クッソォオオオ!!!!」
しかし吉田太郎は諦めない。
男に体当たりをくらわすつもりでタックルをする。
一方男からしてみれば素人に拍車がかかったような動き簡単に避けられる。
だがこれは、吉田太郎の読み通り。
そのまま外へ転がり出て逃亡していった。
「あ、逃げた」
「あれ、なんだったんでしょうか?」
「さあ」
男たちは吉田太郎のよくわからない行動に戸惑いながらそうつぶやいた。
こちらから手を出してもないのになぜか殴ってきた吉田太郎を思い出していると一人の男が悲鳴を上げる。
「あぁ!最悪だ。またボタンがベタベタになってやがる」
「電源もつけっぱなしかよ。ん?何だこれ」
「どうした」
「いや、これ見てくださいよ」
一人の男が先ほど先陣を切って入った男にそこに広げられていた紙を渡す。
「何だこれ。写真か?結構顔は整ってるが……おい、これ盗撮か?」
「やべーなアイツ。でもこれ次のターゲットにいいんじゃねーか」
やばいやばいと言いながら一人の男が提案する。
「確かにな。よし、だれか居場所を突き止めろ」
そういうと、数人が建物から出て行った。