感涙のままに両の腕を広げた審神者の姿を認めた刀身のひとりは、ぴしゃりと遮るように言葉を放つ。刀の化身であるが故の切れ味は抜群で、急所を淡々と切り付けられた審神者は自覚があるのか肩を跳ねさせ、叱りつけられた幼子のように眉を落とした。
「大倶利伽羅……っ!」
「あんたからの話は聞くが、とりあえずもう一つ約束しろ。“自棄を起こすな”、あんたが堕ちれば連鎖的に
「あうっ」
審神者名、仁のもとに降り立った
二振り目。なのに、ひと振り目であるかれ。黄昏の眼差しを直に浴びながら、己の不甲斐なさに縮こまり、安堵してしまった
誰もが喜びや慈しみを生まぬ地獄のような回廊を生み出すわけにはいかない。付喪神様、という神様たちから力を貸してもらえる存在になるのだと誓ったばかりなのに。
「本当なら真っ先に手入れするべきだった。三日月たちも痛い思いさせて、本当にすまなかった。」
「はっはっは、よいよい。あれは、誰も想像しておらなんだ。あくしでんと、というものであろう? 我らも己の為すべきことを放棄してしまったがゆえ、むしろ詫びねばならんのは」
「俺たちの方、だな。いくら顔見知りの刀とはいえ、今は主の刀なんだ。優先させるべきを履き違えた愚かな剣ぞ。―――処罰を甘んじて受けようじゃあないか。」
「っそんなことできるわけないだろ!」
間髪を入れずに肩を怒らせ、びゃわんと泣きながら処罰を下げるように言い募る審神者。―――そう言えば、八つ当たりに押し返されることはあっても、過重な出陣はあっても、この主は一線を越えなかったなと思い直す。
外部では刀剣同士を打ち合わせることもあるのだとか。付喪神通信で聞き及んだことはあれど、大倶利伽羅が言った通り、黒く染まりきる前の、灰色位の本丸であったのだろう。
演練とは違って、その打ち合いではどちらかの破損が生じるまで。誰かの泣き声や悲鳴が聞こえるまで行われるそうだから。生来、戦事とは無縁な穏やかで和やかな世界で生きる我らの主には、些か考えつかぬことであったのやもしれぬが。
三日月宗近の言葉には、緩やかな否定が返る。あのお人よしは死んでも、ブラック本丸の作り方なんかを知っててもやらんだろうな、と言うのが大倶利伽羅と同調した人間だった頃の本能の主張であった。なんとなく、あの号泣した顔には覚えがあるから顔見知りだったかもしれない。あの顔で泣くやつとは。
べっちょべちょの幼児のように号泣した顔をさらす二十代成人男性を背にしながら、大倶利伽羅は強まり始めた痛みを和らげるためにこめかみを指で圧する。
「うむ。では、主。そなたの疑問には俺がこたえよう。大倶利伽羅はしばし休んでおれ、そなた、疲労が目に見えてるぞ。」
「……」
「此処から先は年寄りの出番だ、若者はしっかり休んで元気な顔をじじいに見せてくれでもしたらそれでよい。……それともなんだ、この
「……俺がどこに行こうが、俺の勝手だろ」
遠慮をするな、さあ。と意気揚々と広げた三日月宗近にかぶさる上布団を、大股でツカツカ近づきばさりとかけ直し、先と同じように大股で襖の方まで足を運んでスパァンと流れるように開閉して出て行った。―――足音から察するに、からかわれたことを若干拗ねている。だが、素直に行く先は、彼らにあてがわれた「伊達部屋」とやらに向かっているようだ。
待てよ伽羅坊とバタバタ遠ざかる白き衣の主を目で追い、あまり幼子扱いをしてくれるな。からかいすぎだぞ、と注意を受けてゆったりと微笑む。鶴があの子につくのであれば安心か。
これからの話題を悟ったのだろう。「それとなく言っておくが、三日月もしっかり休めよ。」 あの竜の子にまた呆れられたり叱られたりするぞとほのめかす鶴の声に、それもまた一興とほけほけ笑んだ声に同じ
「さて、では俺は主に教えてやるか。」
「な、なにをだ……? あの、でも先に休まなくても大丈夫なのか?」
「うむ。だが、なに、主が世話を焼いてくれるのだろう?」
「それは、そう、だけど…」
心配気味にちらちらと布団と三日月宗近を交互に見やり、最終的に休むつもりがないのだと諦めを前にした審神者はその場で正座になり、姿勢を正した。
此れより語るは、刀剣男士たちの活動報告は還元したときに判明するものであるが、活動中のそれを知る為に本霊より出でた「分霊代理」の存在のことなれば。つまり、破壊されて本霊のもとへと還元されたはずの大俱利伽羅が、記憶を保有したまま相まみえることが出来た理由である。