7だけにこれから7日間、PM7時(19時)に連続更新します。
ブラック企業に務める平社員なんて碌なもんじゃない。
毎日上司に取引先、時には客に頭を下げて、自分の心を削る毎日。
それでも、生きていくには仕事をしなきゃならないし、他の仕事を探す度胸もない。
気が付けばあっという間に三十代を越えてしまった。
金は溜まれど、使い道は無し。
子供の頃はゲームが趣味だったが、今ではゲームを買う金はあっても遊ぶ時間がない。
「プレステ5も手に入れたけどセットアップもしてねぇな、ってかFF7リメイクの完結作が出る頃までにリバースクリアできるきがしねぇ」
そんな俺も子供の頃にFF7がドンピシャの世代。
当時夢中になって遊んだものだ。
プレステ4で発売したリメイク版を、そりゃもう楽しんだ。
あの頃はまだゲームを楽しむ余裕が少しはあったのだが……。
「まさか出世して、こんなことになっちまうなんて」
俺以外誰もいない会社のデスク。
エネルギー源の栄養ドリンクはキーボードの上に散乱し、一番上の引きだしの中には合間に摘まむコンビニ菓子。
どうも働きが認められて一番低い役職とはいえ係長になることが出来た。
最初こそ出世に喜んだが、残業手当は付かないし、部下の管理もしなくてはいけない。
おまけに上からのプレッシャーが半端ない、課長なんて俺に押し付けるだけ仕事押し付けてすぐに帰っちまうし。
「こりゃ、完全に人柱だわな。下手に出世するもんじゃねぇな」
たぶん、このままだとFF7の最終作が出る頃に俺はこの世にいない気がする。
金はあるんだから、いっそのことこんな会社辞めて、少しの間人生休もうかな。
とりあえず今抱えてるプロジェクトが終われば少し楽になるはずだから、会社なんか辞めてFF7リバースでものんびりプレイするかな。
なんだかんだ、プレイ動画で少し内容見ちゃったんだけど、あのグラフィックで大好きな世界を遊べるって楽しみなんだよね。
「ふぁ~もうこんな時間か」
時計はとっくに日付変更線を越えたことを示し、このままだと会社にいて朝日を拝む羽目になりそうだ。
「コンビニで夜食でも買って、そのまま仮眠室で寝るか」
今更じたばたしたって仕事が急に進むわけじゃなし。
コンビニで明日の分の栄養ドリンクと、好きなおにぎりでも買ってベッドの中で寝てしまおう。
怠い体を椅子から立ち上がらせ、ゆっくりと仕事場を出る。
どうせなら警備員さんに差し入れのお茶でも買ってくるかなと考えながらエレベーターを待つ。
「これだけ自分の体を酷使してると異世界転生とかマジで信じちゃうな」
俺の世代より少し下で流行っていた異世界転生。
大体は現世で上手くいかない人たちが、異世界に転生し、その土地で活躍する話だ。
俺も好きでいくつかの作品を読んでいるが、今更自分が剣や魔法で戦うってのは想像出来ない。
むしろ、運動とか得意じゃないし痛いのだっていやだから内政系の話だったらワンチャンいいな。
「今更自分の力一つで独立ってのも不安だし、結局は会社にいたほうが落ち着くよな。あぁ、俺ってどこまでも社畜気質だわ」
勇者とか戦士よりも、会社で働いてる自分の方がしっくりくるというか落ち着く。
それに中世の街並みとか暮らすのが大変そう。
コンビニが欠かせない人間としては、出来たら文明が同じくらいか上の方がいいなぁ。
「ってことは、異世界転生しても俺は会社勤めを希望してるってことか、笑えるな」
エレベーターが到着した音を聞き、俺はエレベーターに乗り込んだ。
7階から1階まで降りるとなると、エレベーター内にいる時間も長く感じてしまう。
密室された箱が下がる浮遊感、突然気分が悪くなって立っていられなくなってしまう
「うっ、なんだこれ」
とりあえずしゃがみ込むが、どんどんと気持ち悪くなっていく。
少しでも楽になろうと思い切り息を吸い込み深呼吸をするが、その呼吸さえも辛くなっていく。
俺はこのまま死んでしまうのか……。
あぁ、何が原因かわからんが、絶対日ごろの不摂生だよ。
それとも体力の限界だったかな。
動くことすらできなくなり、完全に床に寝転んでしまう。
次第に苦しさを感じなくなっていく、快復に向かっているというよりも体の力が抜けていくから死期が近づいているんだろう。
なんだかもうどうでもよくなってきた……。
「先生、目を覚ましました」
目を覚ますと、呼吸の苦しさもなくなっていた。
いや、記憶も飛んでるな、ここはどこだ?
「良かった、気分はどうですか? あぁ、無理に喋らないで」
もしかしてここは病院か?
ただの疲労だったのだろうか、死を覚悟したけどなんか恥ずかしいな。
そう思うと少し余裕が出てきた、周りを見渡すと個室のようで、ベッドの横には様々な数値が並ぶモニターがある。
まいったな、いくら疲労で倒れただけとはいえ、個室となれば入院代が高そうだ。
保険に入ってるとはいえ、安いもんじゃないし、休んでる間に仕事が出来ないのも痛い。
もしかすると、会社に復帰する頃には俺の座る席がないかもしれない。
「し、仕事を……」
まだ本調子ではないのだろう、体を起こすのもだるいし、なんだか声の調子が変だ。
妙に甲高いというか、自分の声じゃないみたいだ。
「無理はいけません、疲労で体力が落ちているなか、実験で漏れ出した魔晄を浴びて倒れたのですから。プレジデントからも数日休養を取るようにと言われています、何かありましたら24時間ナースを待機させてますから何なりとお申し付けください」
そう言って医者はタブレットに何か打ち込むと、お大事にと丁寧に頭を下げて部屋から出て行く。
魔晄? 何を言ってるんだろう、俺の知らない専門用語だろうか。
それに倒れたサラリーマン相手にしては、妙に親切というか、目上の人間を相手する対応だった。
一体何がどうなっているのかと思っていると、目の前に金髪の長い髪が映り込む。
なんだこれ、俺は黒髪だし、乾かすのが面倒くさいから短髪にしてるのに。
髪を触って少し引っ張ってみると、頭皮が引っ張られる感覚がある。
「なんだこれ……」
もう一度声を出してみるがやはりおかしい、どう考えても俺の声じゃない。
手を上げてみると、そこには明らかに男の手とは思えない、白く細長い指が見えた。
指先には赤いマニキュアが塗られている、まるで女性のような手だ、それにこの髪色と長さって……。
嫌な予感がして自分の胸に手を当てると、男ではありえない柔らかさな塊が二つ。
俺は慌ててベッドから起き上がり、鏡を探す。
ベッドの横の棚に女物のバッグがあり、中に手鏡があるだろうと探ると、知らないブランドの高級そうな鏡が入っていた。
鏡を覗き込むと、信じられない人物が映り込んでいた。
「う、嘘だろ。これってFF7に出てくるスカーレットじゃんか……」
まさか、異世界転生を自分が体験することになるなんて。
「よりによって女。しかも悪役で死ぬやつなんて嫌だ!」
夢かと思い頬を抓るがしっかりと痛い、ネイルで伸びた爪の先が肌に食い込んでなお痛い。
試しに胸を触ってみるが、男の筋肉や贅肉じゃなくて、柔らかく指先が沈み込む素晴らしき揉み心地が少し楽しくなる。
いや違う違う!?
まさかFF7の世界に転生、いや、この場合は成り代わりとでもいうのだろうか。
しかも、よりによって女。
せめてヒロインのティファやユフィみたいな若い子がよかったのにと思ってしまうのは男の性だろうか。
「まさか年増の悪女になるなんて」
よく聞けば声も色っぽい声だ。
リメイク版で聞いた声にそっくり、当たり前だがプロの声優さんが声を当ててるんだ。
そりゃ、いい声に決まってる。
いや、これが夢じゃないとすると一体これからどうする?
クラウドたちとは完全に敵対する立場だし、下手すると世界を救う前に自分がプラウド・クラッドの自爆に巻き込まれて死ぬ。
もしクラウドたちと敵対しても死ぬし、万が一勝てたとしても次はジェノバが星を砕く未来しか見えない。
「あれ、もしかして俺って詰んでる?」
なんだかまた頭が痛くなってきたような気がする。
このまま寝たら、きちんとした病院のベッドに寝ていないものだろうか……。
無理でした。
一度眠気に身を任せてみたが、起きても俺がスカーレットになってる事実は変わらなかった。
とりあえず今は情報収集に徹してみることにした。
幸い仕事をすることもないし、誰も通すなと命令したら少なくても統括クラスの人物じゃないとこの病室には入ってこれない。
神羅カンパニーの幹部を頭に思い浮かべるが、同僚の見舞いに来るような面子は皆無だが、むしろ都合がいい。
スカーレットの私物の中にタブレットがあり、それを使えば神羅のネットワークにアクセスできた。
そこで社内誌やニュース、そしてメールに兵器開発部からの仕事の進捗状況が逐一報告されている。
内容を纏めると、まだ原作、いわゆる7本編の時系列じゃないようだ。
ウータイとの戦争でソルジャーが活躍し、セフィロスが英雄として広報にこれでもかと出ている。
ホランダーとジェネシスが離反し、ルーファウスがまだ副社長に就任していない。
一応ザックスの履歴も探してみたがソルジャー・クラス2ndとして登録されている。
クラウドのことも調べたが、まだ神羅カンパニーに入社していない。
原作の7年前といったところか。
すでにセフィロスは生まれているし、ガスト博士は死亡。
ヴィンセントも神羅屋敷の棺桶に引きこもっているだろう。
「さて、一体どうするか……」
まずはセフィロスをどうにかしないといけない、今の段階でも正攻法で正面から倒すことは出来ないだろう。
となるとクラウドに任せて、自分は余計なことをしないというのも手なのだが、そのままだと自分が死んでしまう。
それに神羅が無くなった後の世界に居場所があるかと言われたら答えはノー。
これだけ恨みを世界的に買った会社だ、どのみち人生ハードモード突入だ。
「どうすれば、俺が幸せになりながら世界を上手いこと動かせる?」
どうも、成り代わったスカーレットの影響が出ているのか、少々自己中心的な性格になっているような気がする。
上がってくる定時報告の兵器に関しても、きちんと内容がわかるどころか、修正案も自然と浮かび上がる。
すでに俺は一度死んだ身だし、リトライの機会を得たんだ。
どうせなら好き勝手生きて幸せを掴みたい、いうなれば成功者として掴めなかった物をつかみ取りたいのだ。
そのために利用できるものをきちんと利用する。
無論、無駄な犠牲を強いる趣味はないが、無駄でない犠牲なら仕方がないだろう。
みんなが幸せになれるわけではない、会社もそうだが人間社会は競争だ。
誰かが這い上がる代わりに、そうでない者もいる。
「とりあえず明日から仕事復帰だな……おっと」
この口調も直していかねばならない。
「明日から仕事復帰ね、キャハハ!」
試しに女言葉で話してみると、声の色気とマッチして違和感がない。
さて、とりあえずスカーレットに成りすますことは出来そうだが、まずは何から手を付けていこうか。
「とりあえず、使える手駒を揃えないと。有象無象の使い捨ては命令できるし、自律兵器も戦力には違いないけど、やっぱり私の命令を忠実に守れる人材が欲しいわ」
原作通りなら、いくらでも戦闘員を利用できるが、あくまで治安維持部門からの借り物になる。
優秀な人材はソルジャーとしてほとんどがソルジャー部門に取られてるし、他の戦闘員は治安維持部門に。
ソルジャー以外の優秀な面子はタークスに引き抜かれてしまう。
「タークスも数が少ないから、ソルジャーになれなかった戦闘員で優秀な奴は引っこ抜いちゃうもんね。となればまだ実力が未知数な新人を青田買いして兵器部門に引き抜くしかない」
兵器のテスターとして数人なら自分直属の部下にねじ込むくらい出来るだろう。
しかし、困ったのは信用出来てなおかつ優秀な人材の確保が難しいことだ。
前の会社では俺もバイトの面接なんかもしたことあるが、人を見るのは簡単なことじゃない。
書類やテスト結果で優秀な奴は俺以外にも、その価値がわかってしまい取り合いになってしまうだろう。
ソルジャー部門と治安維持部門を出し抜いて、人材を引き抜くとすれば奴らが見落として、なおかつ優秀というダイヤの原石を探さなければいけない。
「そもそも神羅に来るような奴らはほとんどがセフィロスに憧れてソルジャーになろうとするし、なれないやつはまとめて治安維持部門だものね。あわよくばそこでタークスへの道が開けるか」
誰かいないもんか、会社じゃなくて俺に忠誠を誓い、ソルジャーよりも戦闘力の高くなるようなことがわかる奴。
「んっ? 待てよ……いたいた、私って天才! いるじゃない、才能あるのがわかりきってるダイヤの原石みたいな人材が!!!」
思わず笑みが零れてしまう。
そうだ、俺は世界一の企業でかなり融通を利かせることが出来る権力を持ち、限定的だがこの世界の行く末を見てきたのだ。
ある意味カンニングではあるが、利用できるものは何でも利用しよう。
「すべてはこの星のため、そして、私の幸せのためにね」
今の俺は悪女と言って申し分ない顔をしてるのだろう。
今作は一話平均文字数5,000以上を目標としていますので、恒例の後書き用語集を控えさせていただきます。
なるべく複雑なFF7の設定をわかりやすいように本編での説明を増やしていこうと思いますが、それでもわかりにくい用語や設定がありましたらご指摘ください。
本来なら設定の出典先なども明記しようかと思ったのですが、ちょっとそれをし始めると小説がまとまらなくなりそうなので……。
私の青春時代の思い出深いゲームが世代を超え、リメイクされることに感動が止まりません。
プレイアブルキャラをはじめ、どのキャラも魅力的ですが、勝生真沙子さんの色っぽい表現と、ちょっと無理して若作りしてる外見のスカーレットが溜まりません(ティファやエアリスにはない大人の魅力がすさまじいです)