突然現れたヴィンセントという男。
どうやら元タークスで、宝条博士の違法な実験に巻き込まれこの屋敷にずっと隔離されていたらしい。
たしかにあの宝条博士ならやりかねないし、スカーレット様が裏を取っているなら間違いないのだろう。
それでいてかなりの強者だということも、体の運びからわかる。
ザックスやウータイの使い手たちとは、また違ったタイプの戦士なのだろう。
これで数年間、棺桶の中に引きこもっていたなど、誰も信じまい。
この男が兵器開発部門に来ることはスカーレット様の力になることだし、俺以外にも戦える人員が増えることに関しては文句はないが個人的に気に入らない。
何よりもスカーレット様の厚意に甘え、その名を呼び捨てにするなど社会人としてありえない。
元タークスなのだというのなら、そのあたりの上下関係もきっちりと理解し、敬称を付けるべきだ。
少々特殊な経歴の持ち主だというのを加味しても、俺に対する扱いは別にどうでもいいが、スカーレット様に対する態度が目に余る。
しかし、本人がそれでもいいと言ってしまえば、俺がとやかく口を出すのも道理が通らないし、どうすることも出来ない。
会社内ではきちんと人の目を気にするという話だが、そんなのは当たり前だ。
「俺は機械に疎いが見事なもんだ、仮にも宝条が仕掛けた防衛プログラムなのだろう?」
「当たり前だ、スカーレット様は一流の技術者なんだぞ。特に機械分野に関しては宝条博士よりも精通している」
宝条博士を呼び捨てにするのはまだわかる、自分を実験台にした男を敬う必要などないだろう。
しかし、仮にもスカーレット様は、ここで燻っているヴィンセントに再びチャンスを与えてくれた恩人に他ならないだろう。
ソルジャーの夢破れた俺を拾ってくれたのと同じことだ。
自分と似たような境遇でスカーレット様に必要とされているのに、この態度がどうしても気に食わない。
「ふむ、地下に隔離されている実験体ロストナンバー……こいつが脱走したことにしましょうか」
「どうする、俺一人でも対処可能だ。万が一のことを考えてクラウドにはスカーレットの護衛を継続させた方がいいんじゃないのか?」
また、呼び捨てだ!
たしかにスカーレット様の安全を考えるなら、護衛は必須だし、出来るなら俺が傍に居たい。
しかし、ロストナンバーとやらの脅威や、ヴィンセントの実力が未知数な今、円滑に作戦を成功させるなら俺がしっかりとヴィンセントを監視してサポートした方がいいはず。
最悪、別行動しているツォンさんにスカーレット様を任せることが出来たら俺も安心出来るのだが……。
「だめよ、イレギュラーがあれば困るし、なるべく時間も掛けたくないわ。それに私はしばらくここに残って資料をいくつか端末から抜き出さないといけないから、護衛も不要よ」
たしかに、見たところこの部屋は危険な実験体が入ってくるような侵入経路はないし、エリアごとに隔離されているから、護衛は不要かもしれない。
時間的に余裕がないのならば、俺とヴィンセントがなるべく早くロストナンバーを処理して合流するのが得策なのか。
「クラウドのことが信用できない? たしかにまだ若いけど、実績もあるし、何よりも私が一番信用している部下よ」
「いや、彼が信用に足る護衛なことは見ていればわかる。そう言うことならば力を貸してもらおうか」
あまり考えすぎてもしょうがないのかもしれない。
たとえどんなにこの男が、優秀なのだとしても、俺がスカーレット様の腹心であることに変わりはないのだから。
きっちりと与えられた役目をこなしていこう!
「ところで、あんたのその銃って当時の装備そのまま?」
「あぁ、扱いやすさを優先したオートマチック拳銃で名称を……」
「クイックシルバーでしょ、今でも現役で使われてるわ」
クイックシルバーは安価で扱いやすいハンドガンの代名詞として知られていて、神羅に所属する一般兵のメイン装備はアサルトライフルを支給されるのだが、それとは別のサブウェポンとして携帯する人も多い。
俺もテスターとして様々な武器を使ったが、軽くて狙いも着けやすい。
変な癖もなく、弾丸の入れ替えやメンテナンスも容易なため、護身用として市場に出回っている数も多い模範的なハンドガンだ。
「いくら今でも使われてるからって何十年も前から放置して、実戦で使ってないんでしょ。そんなもの兵器開発部門の私の下で働く男が使ってたら私の品格が疑われるわ。これを使いなさい」
スカーレット様がずっと持っていたトランクを開けるとそこには少し大型な6連発リボルバー拳銃が収まっていた。
「私が直々に開発した通称アウトサイダー、攻撃力はもちろんのこと魔力補正とマテリアの相性も抜群よ」
「ふむ、見た目に反して取り回しはしやすいように重心がきちんと考えられている。それに俺の利き手用にシリンダーラッチが左側に付けられているな」
ヴィンセントはアウトサイダーを手に取りながら細部を確かめる。
何故かわからないが、アウトサイダーはヴィンセントにぴったりの銃に感じる。
「いい銃だ、一見すると大型だが、それもマテリア装着を考えてのこと。かといって機能性を犠牲にしてる様子もない。当時噂を轟かせた天才兵器発明少女の名は伊達ではないようだな」
「昔の話はよして、私を少女なんて言ったのはあんたが初めてよ」
「中身は無駄に時間を重ねたものでな」
なんというか掴めない、見た目と中身がチグハグなのだ。
そして、スカーレット様を小娘扱いしたことを怒りたい所なのだが本人は、少し恥ずかしそうにやんわりと否定するだけ。
女性の年齢を確認したり、話に上げるのはリスクが高いし、とてもじゃないが俺には真似できそうにもない。
「クラウド、どうしたの難しそうな顔して?」
「い、いえ、なんでもありません! いつの間にそんな物を用意していたんですか?」
「ほら、前にクラウドの武器を色々調整してる時に、攻撃力とマテリアの両立に悩んでたじゃない。あれを解決するためにあの後色々バスターソードを改造したでしょ、その時のノウハウを生かした自信作なのよ」
「彼が背負ってるソードも特別製か、確かに丁寧に手入れされているし、相当な業物だということがわかるな」
それからスカーレット様がいかに俺が優れたテスターとして結果を残してきているかを語り始めた。
まるで自分のことのように胸を張って自慢する。
もちろん装備開発に関してはスカーレット様の手柄なのだが、俺がいたからこそと、しきりに俺の名前を上げてくれた。
「タークスではなく、武器のテスターだったとは、その歳でそれだけの実力を得るには相当な努力をしてきたのだろう」
「そうなのよ、クラウドはね、私にとっての英雄みたいなもんよ」
英雄、セフィロスのようなソルジャーの英雄にはなれなかったが、兵器開発部門としての英雄に。
そしてスカーレット様にとっての英雄に俺はなれているのだろうか……
「よし、ハッキング完了したわ、これでロストナンバーがいる隔離エリアまで妨害なしで行けるはずよ。これだけお膳立てしたんだから、さっさと行って実験体を処理してきなさい!」
「期待された分の仕事はしよう」
「わかりました、速やかに実験体ロストナンバーを処理して戻ってまいります!」
この男が誰であろうと関係ない。
俺は俺が求められることを遂行しよう。
兵器開発部門統括、スカーレット様ただ一人の腹心なのだから。
地下の隔離エリアでロストナンバーと称される実験体と戦闘に突入したが、なんとも悪趣味なモンスターだ。
宝条が作り出した実験体とのことだったが、大方失敗作として放置されていたのだろう。
たしかに戦闘力はそれなりにあるが、制御の出来ない怪物など意味もないと失敗作の烙印を押されここに閉じ込められたのだろう。
異形である点と、ここに閉じ篭っているという点では俺もとやかくは言えないのだろうが……。
しかし、思った以上にブランクがある。
この体になってから本格的に戦闘をしてこなかったせいもあるだろう。
それでも奥の手を使わずにこれだけ戦えていることの要因は、間違いなくこの二つだろう。
一つはスカーレットから渡されたアウトサイダーというリボルバー。
正直量産品のクイックシルバーとは比べ物にならないくらい、一撃の威力が出る。
銃の重量、弾の重さを考えてもこれだけの出力が出せるとは……そして威力だけに特化した使い勝手が悪い物では決してなく、少々癖はある物の狙いも比較的つけやすい。
まるで元から俺専用の装備だったかのように手に馴染む。
これほどの装備は当時のタークスでは支給されず、時代の移り変わりを象徴しているのだろうか。
もう一つは共に戦うクラウドという男の存在だ。
話を聞くところ、タークスではなく、兵器開発部門で働くテスターだったらしい。
これほどの腕の男がテスターに収まるはずがなく、今では一つの部隊を束ねる隊長なのだとか。
「今だ、俺が隙を作るうちにさっさとリロードしろ!」
戦う前は俺に対してあまり好意的ではない様子だったが、いざ戦闘が始まると、慣れた手つきでバスターソードを操り、的確にダメージを与える。
そしてこちらがリロードのタイミングに入ったり、優位な位置取りをしようとすると、すぐに敵のヘイトを自分に集め、注意を俺から逸らす。
見た目や言動は若いが、戦いには慣れている。
そして何より状況判断能力に優れていて、瞬時に必要な行動を把握し的確に実行する。
なるほど、スカーレットが認めるのも頷ける優秀な戦士だ。
これだけ剣技が冴えているのならタークスでも十分上で通用するだろうに……いや、だからこそタークスではなく兵器開発部門でスカーレットの懐刀として最適なのか。
先ほど俺がスカーレットを呼ぶたびに、こちらを少し睨むような動作も、忠誠心故と考えればなにもおかしくはない。
それでいていらぬ嫉妬心なぞ戦場には持ち込まず、きちんと感情と行動を割り切れる素晴らしい若者だ。
かつての俺にこれほどまでの才能や、自分を制御する心があったのならば、結果は違っていたかもしれない。
「ぶっつけ本番で加減がわからん、俺の放つ一撃に合わせろ!」
共にほんの少しの間行動しただけだが、信用に足る人物だと確信してしまった。
少なくとも、誰かを守るために必死に行動を起こし続ける人の姿は俺には眩しすぎる。
これから同僚になるのなら、俺も彼からの信頼を得なければならん。
俺は宝条に改造されて得た力を解放する。
もしかしたらこのこともスカーレットは知っているのかもしれないが、何も言ってはこなかった。
ならば自分から開示することもまた信頼の証なのだろう、いや、あの女ならクラウドが信用に足る男だと俺の評価を引き出すと考えているのやもしれん。
ロストナンバー相手にシンプルに殴り掛かる。
無論人がそんなことしても何のダメージにもなりはしないだろうが、俺はただの人ではない。
体が一回り二回り大きくなった俺の質量はロストナンバーとさして変わらないだろう。
そのまま強靭な足のバネをつかって奴の顔面を思いっきり殴りつける。
人間を優に超える力で殴られた怪物は、口から体液を吹き出して大袈裟によろめく。
そのまま奴の足を巨大化した手で掴み、鋭い爪を食い込ませながら思い切り振りかぶって頭から地面に叩きつける。
「あとは任せろ!」
優れた戦士は一瞬の隙を見逃さない。
そして俺が何者であるかなど彼にとって些細な点なのだろう。
スカーレットが信じたから、俺を信じている。
これほどの信頼関係をもしも俺が当時から築けていたなら、俺の運命は大きく変わっていたかもしれない。
いや、もう過去を懺悔するのはやめにしよう。
クラウドの斬撃を食らい続けるロストナンバー。
本能のままに暴れる怪物だが、その本能が自らの死を察知したのだろうか、最後の抵抗を見せる。
すさまじい跳躍で距離を取り一度態勢を立て直す。
バスターソードの切っ先に警戒しながらも、自分を殴り飛ばした怪物のことも頭に入れ、周囲に対して警戒を怠らない。
だが、変身を解いた俺のことを見逃すようでは戦士としては三流にすぎない。
「すまんが、俺は怪物であると同時に人でもあるんだ」
俺の放つ弾丸はまっすぐにロストナンバーに吸い込まれていく。
やはり銃は良い、こいつのコツも少しばかり掴んできた。
「すまんな、最後を譲ってもらって」
「いや、あんたがとどめを刺さないと裏工作で不都合が出るかもしれない。正直助かった」
自分一人だともう少し苦戦していたと自覚してるのか。
俺の子供時代のひねくれ方とは違い、根は素直な優しい少年なのだろう。
「助かったのはこちらの台詞だ、クラウド隊長」
「なっ!?」
「俺の方が神羅に勤めた年数は長いが、兵器開発部門では一番の新参だからな。すまんがこれから頼りにさせてもらう」
俺が頭を下げると、クラウドは驚いた表情を見せ、そしてすぐに笑顔を浮かべた。
こんな笑みを浮かべるのか、戦士の制服を脱いだ彼はただの好青年のようだな。
スカーレットが彼に期待するわけだな。
「これからよろしくお願いします、ヴィンセントさん」
「ヴィンセントでいい」
「それなら俺もクラウドで構いません、隊長なんて呼ばれなれませんから」
どうやら彼も俺のことを少しは見直してくれたらしい。
良好な関係を築いていかなければ。
「ただし、スカーレット様は本人がいいと言っても出来るだけ敬うべきです。そもそも俺もヴィンセントもあの方に拾ってもらえたからこそ……」
少しばかり忠犬が過ぎるな……。
これも彼の個性だと受け入れよう。
色々説明しなきゃいけない項目があるのでざっと解説
本編とは別に後書きを急ピッチで今回仕上げたので、ミスや解説不足あればご指摘ください。
今作は書かないと宣言した用語集ですが、ちょっとゲームに触れてないとわかりにくすぎるネタなのでこんなところで捕捉しちゃう。
「クイックシルバー」
ヴィンセントの初期装備の銃。
攻撃力+38、魔力+10、命中率+110、マテリア穴は4個、連結穴1組。
ヴィンセントの武器といえば銃ですが、実は唯一のオートマチック。
外観のモデルはアメリカ軍のかつての正式銃であった名銃コルトM1911A1と思われる。
直訳すると早い銀とはなんのこっちゃと思うが、ポルターガイスト現象を指す女の悪霊に由来するらしい。
「アウトサイダー」
海底に沈んだ神羅飛空艇の内部で手に入る、大型の6連発リボルバー拳銃。
攻撃力+80・魔力+48・命中率+120。マテリア穴は8個 連結穴2組。
モデルとなった銃はアメリカのS&W M29Cと思われる
パーフェクトガイドにイラストが記載されているが、どういうわけか左利き用(シリンダーラッチと呼ばれる機構右側に付いている、ヴィンセントは右利きなので本来は左側についてないとおかしい)
性能としては最強装備の一歩手前。
攻撃のモーションが非常に短いうえにかっこいいのもポイント。
「シリンダーラッチってなんやねん?」
いわゆるリボルバーの弾を入れ替える時に触る部分。
例を挙げるなら次元大介が弾を入れ替える時にクルクル回転する丸い部分を左にスライドさせて弾を入れますが、その時に左に回転軸をずらすためのスイッチ。
銃マニアしか使わない単語だろうが、実はアニメや映画などをよく見て見ると操作してるのがわかる。
「ロストナンバー」
金庫の中に閉じ込められたボス、実は旧作では倒さなくてもストーリーは進めれる。
リバースでは金庫の中ではなく、フロアに閉じ込められている。
初めて神羅屋敷に訪れた時に戦うことも出来るが、その時点ではかなりの強敵。
感想欄でも書かれていたがみんなのトラウマ。
「次回更新予定」
同じく一週間後の5/1水曜日の同じ時間(19時)を予定しております
これにてニブルヘイムでのお話はいったん終了、次回は別エリアのお話。