コレル村に到着したが、なんとも埃っぽくて炭鉱の町特有の匂いとでもいおうか、そんな匂いが鼻をついた。
正直こんな場所で真っ赤なカラーリングのドレスを着た女がいるのって浮いてるし、目立って仕方がない。
隣に神羅の一般兵がいればまた違うのだろうが、イケメンのクラウドが護衛に一人いるだけでなんともおかしな組み合わせだと思う。
だってそこそこの人数を連れまわすよりもクラウド一人連れてきてる方が心強いし、色々悪だくみするときに余計な護衛なんて邪魔なんだもの。
酒場に着いたらすでに村長と有識者たちが集まっていた。
みんなの表情は決して明るいとは言えず、うつむくように下を向いていた。
挨拶もそこそこに、用意された椅子に座り話し合いを見守る。
暗い表情も無理はない、コレル村の住人たちの悲惨な現状を再認識するのだから。
住人のほとんどは炭鉱夫として働いているのだが、その賃金は驚くほど安い。
しかも、炭鉱での事故や怪我などに対して保険というセーフティラインが存在しない。
かつては個人でも貯えがそこそこにあったり、村で共有した財産を運用していたらしいが、炭鉱が寂れるにつれその財産も底をつき、今では個人での貯蓄など皆無に等しい。
そのため、事故や怪我などで働けなくなった場合の補償がないのだ。
そこに来て魔晄炉の建設は救いの一手になる。
建築する段階でコレル山に詳しい村の住人を雇うことになるし、魔晄炉が完成した暁には利益の一部は村に還元される仕組みだ。
魔晄炉が完成するまでは鉱山も動かすし、彼らに対して保険もかける。
それでも将来的には鉱山を捨てることになってしまうし、先祖代々ここで暮らしを守って来た人々には受け入れるのが酷なことだろう。
貧しさは人から余裕を奪い取っていく、今はまだいいが自分たちの子供にこんな暮らしはさせたくない気持ちも本物だ。
そんな現実が重くのしかかり、彼らに決断を迫っているのだ。
「反対してるのはダインだけだが……」
村長が申し訳なさそうに一人の男に目を向ける。
男の名はダイン、この村で唯一魔晄炉建設に反対する炭鉱夫だ。
彼だって今のコレル村の現状は理解してるし、貧しさを好んでるわけじゃない。
しかし、魔晄炉に頼ることは自分たちの手で炭鉱の未来を閉ざすことに他ならない。
「俺は反対だ、炭鉱を捨てるなんてありえない」
誰もが炭鉱を捨てたいだなんて思っていない。
だが、現実問題として炭鉱経営というのは終わってしまった産業なのだ。
その事実はみんなが肌に感じてしまっている。
ダインが反対するのも、半ば意地なのだろう。
「でもよ、ダイン。石炭なんか誰も使わなくなっちまって、俺たちは毎日毎日汗水たらして働いても一向に暮らしは良くならねぇ」
そこにダインを説得するかのように声をかける大男。
彼の名はバレット・ウォーレス、本来であればクラウドの仲間となり彼を雇うことになる男だ。
まだ神羅を恨むきっかけになる魔晄炉の爆発は当然起こってないし、代名詞と言える腕のギミックアームもこの頃は影も形もない。
元々兄貴肌というか、頼りがいがあるさっぱりとした性格も相まって賛成派の筆頭となっているのだろう。
立ち上がり周りに訴えかけるように声を上げるダインの肩を掴み、正面から見据え小さく声をかける。
「俺はミーナにこれ以上苦しい生活をさせたくねぇんだ」
ミーナとはバレットの奥さんらしい。
まだ子供はいないようだが、今の状態では子供を望むのだって環境的に難しい。
この環境を過ごすのが自分一人なら彼は耐えられたのかもしれない。
でも、奥さんのことを思えば誰かがこの苦しい現状に対して答えを出さねばならない。
そんな使命感が彼を動かし、率先して賛成派として動いているのだろう。
「それは俺だって同じだ! でもな、石炭が用済みだなんて認めたくない。俺たちも用済みってことなんだぞ!」
周りの有識者たちに訴えかけるようにダインは声を上げる。
石炭が用済みになること、それは自分たちの今までの生き様が時代に否定されることを自分たちで認めることだ。
ダインはそんな現実を直視したくはないのだろう。
「これはもう生き方の違いですね。残念ですが話し合いでどうにかなるものではないでしょう」
ダインの気持ちもわからんではない。
しかし、感情論だけでビジネスは出来ないし、生き方を貫くことも出来ない。
ここは史実通り俺の一言でこの村の運命を決めなければいけないのだろう。
「村長、そろそろ票決に移っては?」
誰かが動かさなければきっと話し合いはまとまらない。
俺の一言でも村長の覚悟は決まらないのか、バレットにアイコンタクトを取る。
バレットは目を細めながら険しく眉を歪め小さく頷く。
「それでは決を採る」
村長が立ち上がり皆に確認を取る。
みんなに小さな紙を渡し、それぞれがペンを走らせる。
ダインは乱暴に椅子に座り込むと頭を抱えるように顔を伏せた。
バレットは覚悟を決めたように一番初めに書いた紙を小さな箱の中に入れ、クラウドもその様子を見守る。
そして、全員が書き終えたことを確認すると村長がゆっくりと口を開く。
俺は当然結果を知っているし、神羅カンパニーがこの後コレル村に対して行ったことを理解している。
そんな俺が今更何を恐れる必要があるのか? そう自分に言い聞かせて、村長の一枚一枚読み上げる採決に静かに目を閉じ耳を傾ける。
これは多くの人たちの運命が変わる分岐点なのだろう。
少し心が痛むが、これも仕事であり仕方がないことなのだと自分に言い聞かせるしかなかった。
そして魔晄炉建設に反対票を投じたのはただ一人であった。
「それでは決を採る」
おやっさんの声が響く。
普段は喧騒に包まれた酒場ではかき消されそうなか細い声だが、今日は一層響き渡る。
なぁ、ダイン。
俺だって今までのように炭鉱で食っていけるならそうしてぇ。
でもな、もう俺たちは限界なんだ。
お前だって幼いマリンを食わしていくために切り詰めて生活してるんだろ?
辛い選択だが、誰かが決めなきゃいけねぇことなんだ。
俺は魔晄炉建設の話をおやっさんから聞いた時に、もうこれしか道はねぇと思った。
男一人が出稼ぎに出てミーナを養えるならそうしたのかもしれねぇが、家族や仲間たちがこの村で一緒に暮らしていけるならそれが一番なんじゃないかと思えちまった。
今までの過去を否定しちまう選択なのかもしれねぇ。
でも、ミーナやお前の娘のマリンにだって明るい未来を見してやりてぇんだよ!
ここにいるみんな本心じゃお前に賛同したいんだ。
おやっさんから紙を手渡される。
普段はメモ帳くらいにしか使わない小さな紙切れだ。
でも、こんなにも重たい紙切れなんてこの先持つことはないんだろうな。
俺は書きなぐるようにペンを走らせ、小さく息を吐き出すとゆっくりと立ち上がり投票箱に向かう。
みんなの視線が俺に集まるのがわかる、俺の一挙手一投足にみんなが注目している。
そんな視線に耐えながら俺は投票箱の中に手を入れる。
俺に続くようにみんなが箱の中に紙切れを入れていく。
神羅から来てる上役の女も、そばに突っ立ってる護衛の男も何も言わずただ俺たちの決心が固まるのを見守っている。
最後にダインが力なく箱の中に手を入れた。
おやっさんの声が一枚一枚を丁寧に読み上げていく。
結果はみんなわかっていたのだろう。
ただ、誰も声を上げずにその結果を受け入れた。
「それではこれから、魔晄炉建設に伴い皆様の生活がどのように変わっていくのかをご説明させて頂きます。ただ、皆さん少しお疲れのご様子ですから10分ほどの休憩時間を設けましょうか」
そう言って女と横にいた男は一度外に出ちまった。
重苦しい空気がほんの少し和らいで、各々が体を伸ばし緊張感から解放される。
「なぁ、ダイン……」
「わかってる。お前だって好きでこの炭鉱を捨てるわけじゃないって」
ダインは力なく笑いながら俺にそう答えると、ふらふらと立ち上がり外へと出て行ってしまった。
他の奴らも外に出て空気でも吸いに行ったのだろう。
気が付けば酒場に残ってるのは俺とおやっさんの二人だけだ。
「すまないなバレット、辛い役回りをさせてしまって」
「いや、いいんだ。俺がみんなを説得して回ったんだ。おやっさんが気に病む必要はねぇよ」
透明なグラスに入った水が俺の前に置かれる。
一気に飲み干すと喉に染み渡るようで、体の内から熱を持っていたのだと実感させられる。
「これで終わりじゃねぇ、魔晄炉と一緒に俺たちの生活も新しく始めるんだ」
「その通りだ。今回説明に来てくれてるスカーレットさんは、こちらの要望も良くくみ取ってくださる。決して悪いようにはならんはずだ」
「スカーレットさんってのはあの派手なドレスの女か?」
「あぁ、神羅の重役だよ。今回の魔晄炉建設の責任者だ。バレット、お前さんにはこれからも苦労を掛けるがよろしく頼むぞ」
神羅の重役がこんな辺境の地まで足を運んで来るなんてな。
それだけ連中も新しい魔晄炉の建設に本気なんだろう。
「あぁ、精々気に入られるようにしねぇとな」
建設にはうちからも人を雇ってくれるって話だったし、これから世話になることも多いだろう。
出来たらいい関係を築きたいもんだが、あの派手な化粧と服は何とかならねぇもんかな。
あれじゃ悪目立ちしてしょうがねぇし、村の奴らじゃ気後れして話しかけられそうにもねぇ。
もう一人の兄ちゃんの方がまだ話しかけやすいが、たぶん護衛とかで権限もくそもないだろう。
俺が率先して神羅の連中ともコミュニケーションを取ってかねぇとな。
そんなことを考えていたら、酒場のドアが開きスカーレットさんと男が戻って来た。
今のうちに挨拶でもしといたほうがいいかな。
「スカーレットさん、これからコレル村を……新しい魔晄炉共々よろしくお願いします」
「村長、それはこちらも同じです。神羅とコレル村、いい共存関係を築き上げていきましょう」
「そうですね、あぁ、紹介が遅れました。彼がバレット・ウォーレス、炭鉱夫たちのまとめ役です」
「バレット・ウォーレスです。よろしくお願いします」
俺は頭を下げて思わず手を差し出しちまうが、今の俺の手は石炭で黒く煤けている。
こんな手で握手する何て失礼だ、慌てて裾で手を拭う。
俺の手を気にする様子もなく、スカーレットさんは俺の手を力強く握り返す。
見た目は派手だが、芯の通った強い人なのかもしれねぇな。
「バレットさん、実は説明会の後コレル鉱山の視察も行いたいのですが、良ければガイドをして頂けませんか?」
「ガイド? そりゃ構わねぇが、中はとてもじゃねぇがそんな恰好で入ってける場所じゃねぇぞ。定期的に間引いてはいるがモンスターが入り込むこともある」
「ご心配なく、クラウド」
隣にいた男が俺に頭を下げて来た。
「スカーレット様の護衛をしています、クラウド・ストライフです。モンスターに関しては心配いりません」
「若いですが、腕は確かです。私のことは心配いりませんので、どうか建設工事が始まる前に炭鉱を案内して頂けませんか?」
たしかに建設予定地を見ておきてぇってのもわかるし、俺たちがどんな現場で働いてるかを見てもらうのも悪かねぇだろう。
モンスターだって今日のために念入りに間引きしたばかりだし、そんなに問題あると思わねぇ。
「それじゃあ説明会が終わった後に俺が案内させてもらいます」
「よろしくお願いします。もっと砕けた口調でも構いませんよ、私たちはビジネスパートナーなのですから」
そう言ってスカーレットさんはにっこりと微笑む。
とりあえず初対面の印象としては派手好きな姉ちゃんだが、企業の連中にありがちないけ好かない奴ってわけでもない。
神羅の連中もスカーレットさんみてぇな人ばかりなら楽なんだがな。
その後の説明会は、まぁ普通だったな。
気持ちの切り替えが人間すぐに出来るもんじゃねぇが、それでも少しずつ前を向いてかなくちゃいけねぇ。
建設の段階で俺たちの村の雇用も確保してもらえるって話だし、村で神羅の社員に金を落としてもらえるように食堂や宿屋なんかも出来ねぇかと意見が出て来た。
説明会が終わって、話し合いに参加した連中も一人また一人と家に帰る。
きっと新しく変わる村に対して、それぞれの家族で話し合うことになりそうだ。
俺も家に帰って準備する時間を貰えたから急いでミーナに今日のことを報告しねぇとな。
だが、あんまりぼやぼやもしてられねぇ、この後もう一仕事あるからよ。
「ただいまミーナ! ちょいと報告があるんだが……」
皆様の応援のおかげで何とか週一ペースでの更新が保ててます。
誤字報告や感想本当にありがたいです、結構なポカをしてる確率高いです。
次回更新日も5/15の水曜日19時を予定してます。
今作を書くにあたっての目標の一つが定期更新だったのですが、何とかこなせてますね。
次回予告としてはコレル村の話が続くと思いきや、時間が飛んで意外なキャラの出番があります。
あんたの出番があるなんて二次創作でも珍しいぞ!