「着いた着いた、飛行機のセレモニーは終わっちゃってるみたいだけど、何とか間に合ったね」
ロケット発射基地から少し離れた場所にある飛行機の発着場。
ちょうどセレモニーも終わり、参加していたであろう飛行機の格納も終わったようで、滑走路に空きがあったのが幸いだった。
急遽予定にない飛行をしてきたのはこっちだから、向こうの邪魔をしてないことに一安心し、無事パルマー統括を送り届けることも出来た。
「うひょひょ、ありがとうねクラウド君。おかげでロケット発射に間に合ったよ」
ニコニコと、屈託のない笑顔でパルマー統括がお礼を言ってくれる。
「おい、ふとっちょパルマー! 責任者のくせにがっつり遅刻してんじゃねぇか。しかもこんな懐かしいもん乗ってきやがって、俺に慣れねぇスピーチさせた挙句、楽しい空の旅ってか?」
突然声をかけられたと思うと、パルマー統括の腹に軽くジャブを入れる。
パルマー統括も、別に気に留める様子もないので、これがいつもの挨拶なのだろう。
「ごめんごめん、直前で予定が変更になっちゃってさ。それにわしってスピーチとか面倒……苦手だからシドちゃんがやったほうが絶対いいよ」
「今面倒って言ったろ、そりゃ宇宙開発部門の奴ら相手のケツを叩くのはお手のもんだが、今日は社長や副社長も来てんだぞ。あんな奴ら喜ばすようなこと言えるわけねぇだろ」
「うひょ、なんて言ってきたの?」
「今から結果見せつけてやるから、しっかり見て予算もっと寄越せってカメラに向かって言ってやったぜ!」
なんだろう、豪快というか無茶苦茶というか。
この人が統括が言っていた、宇宙開発部門のシドさんか。
よくもまぁ、こんなタイプの人間が神羅で一部門のそれなりの地位にいるものだと思わざるをえない。
少なくとも他の部門では絶対に見ないタイプだ。
これが科学部門なら実験台として、治安維持部門なら左遷確定だろう。
どちらかというとコレル村に何度か視察に行ったとき、バレットたちの炭鉱夫の作業を見せてもらったが、あそこで働いてる人たちの方が近い。
声に威勢が乗り、豪快で、それでいて人情に厚い。
炭鉱のまとめ役だったバレットがまさにそのタイプだったのだが、まさか同僚にあたる神羅社員で、自分と近い統括の側近にこんなタイプがいるなんて。
「うん、こっちの兄ちゃんが飛行機を運転してきたのか?」
シドさんは、ようやく俺の存在に気が付いたようで、こちらに向き直った。
俺のことを視界に入れると、にっこりと満面の笑みを浮かべ、
「なかなかいいセンスしてるじゃねぇか。気に入ったぜ! 兵器開発部門の奴らときたら空飛ぶメカは無人機ばかり作ってやがる、それも悪いとは言わねぇが、やっぱり人が操縦して大空駆けあがってなんぼだよな!」
と、これまた豪快に肩を叩いてきた。
「シドちゃん、クラウド君困ってるよ」
パルマー統括はそう言いつつ、シドさんの様子を楽しんでいるようだった。
「おっとすまねぇ、俺はシド・ハイウインドだ。一応今の肩書は神羅26号の艇長になってるな、よろしくな兄ちゃん」
そう言って手を差し出してくるのを、俺も握り返す。
パイロットだと聞いていたが、それこそソルジャーにも引けを取らないほど手のゴツさは軍人のそれだ。
もし組手をしたとしても並みの一般兵や下手するとタークス相手にも渡り合えるかもしれない。
パイロットにこれほどの戦闘能力が必要なのだろうか?
ひょっとすると俺みたいに、パルマー統括の護衛も兼ねているんじゃ……。
「兵器開発部門実験部隊隊長のクラウド・ストライフです!」
「ほぉ、お前さんが噂の……やっぱりなんでも会って話してみるのが一番だよな、気に入った! せっかくだしロケットの中も見てけよ」
「いいんですか? 宇宙開発部門の機密なんじゃ……」
「いいっていいって、むしろお前さんに見てもらって、次の打ち上げの時には兵器開発部門に手伝ってもらいたいしな。うちの統括ももう少ししっかりしてくれりゃ予算を魔晄炉ばかりに取られないで済むのによぉ」
笑いながら、シドさんは親指を立てると、そのままロケット基地へと案内してくれるようだ。
「おめぇの所の統括はいいよな、きちんと技術者も抱え込んでそいつらに好きなだけ予算を与えてるって話じゃねぇか? うちなんか統括がこんなふとっちょの怠け者だから、限られた予算で今回のロケット一つ打ち上げるのにカツカツよ」
「だって今までの打ち上げ全部失敗なんだもん! ミッドガルでやった時の失敗したロケットなんてまだスラムに刺さったままなんだから」
「おう、あんときは死ぬかと思ったぞ。宇宙どころか地面に真っ逆さまでよ、脱出ポッドだけが成功したなんて笑い話にもならねぇよ」
二人はそんな会話をしながら、ロケット発射基地へと向かうための車へと近づく。
「でしたら自分が運転してもよろしいでしょうか、シド艇長?」
「いいっていいって、そんな気を使わなくて。それに俺のこともシドでいい、艇長なんてうちの技術屋たちには言われてるが、ほとんど接点もない奴に言われてもしょうがねぇ。おめぇさんも同じ会社の同僚みたいなもんだから気軽に呼んでくれや」
「わかったよシド。それじゃ俺のために運転手をさせてくれ、運転してないと乗り物酔いする体質なんだ」
気軽に名前を呼んで欲しいと歳も役職も高い人に言われることが多かった俺が身に着けた一つの処世術は、素直にその人に従う。
TPOはわきまえないといけないが、呼ばれたい名前で気持ちよく呼ぶ方が相手も気持ちいいだろう。
さすがに統括クラスにする勇気はないが……。
「はははっ、飛行機の操縦出来る癖に乗り物酔いしやすいってか。そいつは難儀だな、いや、むしろどんな時も操縦できる側になれるから羨ましいまであるな?」
「うひょ、シドちゃん。早いとこ発射場に行こ~よ、一仕事して移動の間もキャラメルしか食べてないからラードたっぷりの紅茶で一服したいのよ」
そう言っていつの間にか後ろの席に座ってシートベルトをしているパルマー統括。
「じゃあ、お言葉に甘えて運転はクラウドに任せるかな。乗り物全般動かせるが、俺はやっぱり空を飛んでる方がずっと自由でいいや」
ロケット発射場に向けて車を発進させる。
運転している間は、シドとパルマー統括からロケットや宇宙開発について色々と聞かされる。
あまり神羅的には力を入れていない分野であると認識していたが、現場で働く人たちからはそんな雰囲気を微塵も感じない。
むしろ、新規魔晄炉を建設するために忙しくしてる都市開発部門と熱量は変わらない。
パルマー統括についてきて正解だったかもしれない。
数字だけで判断せず、実際に見てわかることも多いものだ。
思えばスカーレット様もコレル村の視察に俺を積極的に行かせていたのも、そう言った現場の雰囲気を感じ取らせるためだったのかもしれない。
俺も部隊長として、いつか部下を持つ可能性は高いだろう。
そのために、しっかりと勉強しなければならない。
スカーレット様はそれだけ俺に期待してくださってる、頑張ろう。
「ほら、でっけぇだろ。これが神羅の科学技術の結晶、神羅26号だ!」
発射基地の中心部に佇む巨大な円柱の塊は、神羅の宇宙開発部門が作り上げた、宇宙に飛び立つ飛行船。
ロケットという名称は聞いていたが実物を見るのは始めてだ、近くで見るとその存在感に圧倒される。
「これが空を超えて宇宙まで飛ぶのですか?」
「あたぼうよ! 飛行機とはけた違いのエネルギーを噴射させるのよ、ちょっと中も見てけ、今の時間ならチェックもほぼ終わってるはずだ」
シドはそう言いながら、発射基地の中に入る。
パルマー統括もそれに続き、俺もそれに続く。
中には数人の作業員が作業をしていたものの、こちらに気が付くと手を止めて一礼する。
「シド艇長、セレモニーお疲れ様です、神羅26号、整備も間もなく終わります!」
「おうおう、社長と副社長相手に啖呵切っちまったからな、絶対今日の打ち上げは成功させるぞ!」
同じ技術屋集団とはいえ、兵器開発部門とも科学部門とも違った雰囲気だな。
威勢がいいというか、科学者というよりも職人が集まったような感じはシドを慕ってまとまっている人たちなのだろう。
「まさかテレビ放送で予算を求められるとは思わなかったぞ」
奥の部屋からそう言って出てきたのは先に着いていたルーファウス副社長。
俺も背筋を伸ばし、敬礼をする。
「流石にスカーレットは勘が良いようだ、すまないがクラウド、君にも協力してもらうよ」
そう言って、俺の敬礼を解かせると、副社長の影から見慣れた男が、いや、俺も実際に会うのは初めてだが神羅の人間で彼を知らぬ人間などいようはずがない。
「初めましてクラウド、君の話はザックスから聞いている。一度会ってみたいと思っていた」
長い銀髪に、身長を超える刀と呼ばれる独特の武器を背負っている。
黒いロングコートに合わせられた銀色の肩当、そして魔晄を浴びたソルジャー特有の目の色。
「セフィロス……」
予想だにしない出会いに思わず声が漏れる。
なぜここに?
セフィロスの所在は神羅の中でも機密に扱われ、他の部署の人間にはその予定の把握も難しい。
今は対アバランチのために個人で動くことも多く、セフィロスがいつ訓練をするのか、どこの戦場に参加するのか。
これらの情報は徹底して秘匿されている、敵対組織もセフィロスにはアンテナを張っているし、ソルジャーから離反した存在も警戒してのことだろう。
「先ほどスカーレットから連絡が来てね、君の上司は嗅ぎつけるのが早い。優秀な証拠だね」
ルーファウス副社長は含み笑いをしながら、自身の通信端末をこちらに手渡してくる。
最近開発されたばかりの新機種で、画面をタッチすることでボタン操作をすることなく動かすことが出来る。
画面に浮かぶは兵器開発部門統括の文字。
俺は耳に端末を当てると、聞きなれた声が返ってくる。
『もしもし、クラウド……そっちに連絡入れる前にルーファウス副社長に会っちゃったのね。悪いけどそのままルーファウスの指示に従ってセフィロスのサポートをお願い』
「パルマーを降ろしたのは、その席にセフィロスを乗せるためだったのね」
『あぁ、社長が乗る専用機なら誰にチェックされることもなく、極秘に人を運び出せるからな。セフィロス一人なら他の社員にバレないように神羅から移動させることが出来る』
クラウドと別れた後色々と調べてみたら、セフィロスが休暇を取ってるのが妙に気になった。
そしてわざわざパルマーを飛行機に乗せなかった理由を考えた時に、空いた席に違う人物を乗せるのではないかと思った時にピンと来たので、ルーファウスに確認を取ったら、あっさりと教えてくれた。
まるでネタ晴らしをするのが楽しくて仕方ない子供のようだ。
『アバランチがどうもコレル村に建設中の魔晄炉とロケットの両方を狙ってるようでね、魔晄炉の方はソルジャーも部隊規模で常駐させてるし、万が一に備えてタークスも動かしてる』
もしも反神羅組織が狙いを付けるとしたら、ミッドガルの本社ではなく、建設途中の魔晄炉やロケット発射場のような人員が本社に比べ薄いわりに神羅にダメージが通りそうな場所を狙うだろう。
「でも、魔晄炉の方は過剰なくらい人員を送り込んでるでしょ。それこそわざと外にアピールするくらいに」
今神羅が力を入れているのは成功事例がまだないロケットではなく、社長肝いりの魔晄炉なのだ。
それは社内の人間なら誰もが知っているし、神羅の外の人間が見ても丸わかりだろう。
『そうだ、反神羅を掲げるなら狙うのは魔晄炉だが、こちらにはセフィロスとソルジャーたちがいる。奴らも正面切ってこれらの戦力に喧嘩を売ることは出来まい』
「だからこそ、セフィロス単身をあえてロケット発射場の方へ連れてったのね」
つまりアバランチをおびき寄せるために、あえてロケット発射には戦闘員を最低限しか派遣せず、囮として使っているのだ。
『私は宇宙開発部門にあまり必要性を感じてない、しかし、利用できるなら利用するつもりだ』
社長の関心は魔晄とそれがあるとされている約束の地へご執心だけど、かといってルーファウスが宇宙に期待してるかって言ったら別だもんな。
俺も正直技術保存として宇宙開発部門はあってもいいと思うけど、会社の力をそこにつぎ込むかと言われたら中々難しいって思わざるをえない。
『クラウドはもうこちらに送り込んでるんだろう?』
「えぇ、置いてかれたパルマーを積んでお届けに上がりますわ」
『パルマーは別に要らないが、そう言うことならクラウドにも一仕事してもらおう。セフィロスだけで十分な見積もりだが、これを機に顔を通しておきたいからな』
セフィロスはルーファウスがソルジャー部門の統括になってから全然会うこともなかったし、下手につつくのも怖かったから放置しちゃったけど、まさかクラウド単身で出会うことになるなんて。
すげぇ心配だけど、ここまで来たらどうしようもないし、今のセフィロスはニブルヘイムの事件を経験せず、まだおかしくなってないはず。
大丈夫だよね、もしうっかりロケット発射場でクラウドと因縁が出来て、ニブルヘイムから舞台がロケット村に移った事件にすり替わったとかになっちゃったら俺の胃が死んじゃう!
「クラウドには私から一度話しておくわ」
『それならこのまま電話を替わるか? ちょうどパルマーと一緒にロケット内部に乗り込むのがここから見えたぞ』
「そうね、それじゃお願いするわ。くれぐれもクラウドのことをお願いね」
『ふん、部下に対する態度にしては過保護だな』
そりゃそうよ、あんたは知らんかもしれないが、セフィロスとクラウドを引き合わせるのってすげぇ不安なんだから!
万が一何か起こっても、そんな遠くの地じゃ俺もヴィンセントも手助けできないし、万が一に備えて装備一式はクラウドに持たせたけどそれでも不安なの!
『優秀なのはわかるが、しょせん部下の一人だろう。もっと気丈に振舞おうとは思わんのか?』
「いやよ、心配なんですもの。もし使い捨てたら後で怖いわよ」
『ふははっ、わかった。無駄に女の怒りを買う趣味もないし、私は優秀な人材を使い潰しはしない』
こっちがクラウドを心配してるのがおかしいのか、ルーファウスはひとしきり笑う。
あのなぁ、世界の命運を担ってるのはもちろん、俺の明るい人生設計のためにも超必要な人材なんだぞ!
意外とパルマーの登場は皆さん好評というか、無害な感じに受け入れられてますね
シドとの出会いは皆さん予測できたと思いますが、まさかセフィロスとここで出会うとは……
次回更新予定日は5/29水曜日の19時予定です