「こうして会うのは初めてだな、セフィロスだ。ザックスから色々聞いているよ」
「お、お会いできて光栄です。兵器開発部門実験部隊隊長のクラウド・ストライフです」
「そう緊張しないでくれ、気概がある後輩が出来てうれしいとザックスがしきりに話すのでな、いつか会って話してみたかったんだ」
こちらが手を差し出すと、ツンツン頭のまだ年若い少年もおずおずと手を握り返してきた。
態度こそ緊張しているが、手の感触で鍛えられた戦士のものだと分かる。
ジェネシスやアンジールという友を失ってから、俺の周りの環境は一気に変化していった。
ソルジャー部門統括だったラザードはいなくなり、代わりに副社長だったルーファウスが統括になった。
思えば俺も少しばかり当時は参っていたのだろう、それを見抜かれたかは定かではないが、大量の仕事を押し付けられ頭を悩ませる時間も無くなった。
「ザックスからですか?」
「あぁ、有能な後輩が出来たからうかうかしてられないと訓練に誘われるからな。いつか君とも手合わせ願いたい」
もう一つ俺から時間を奪っていったのはソルジャーの後輩にあたるザックスだ。
いつからか自主練がより一層厳しくなり、俺が話を聞いてみるとクラウドという兵器開発部門の後輩が俺を超えることを目標としていると嬉しそうに話した。
これが中々に優秀らしく、訓練の内容など聞いても並みのソルジャーをはるかに超えるものだった。
ルーファウスもかなり目をかけているらしく、そのうち俺との模擬戦なども考えているらしい。
珍しく宝条が興味を抱いた存在だというのも目を引いた。
クラウドは奴の用意した実験サンプルたちをすべてねじ伏せ結果を残した。
あの男は神羅の社員をサンプルとして見ているが、それでも有能だと認めたサンプルには多少目を掛ける。
「もしも科学部門の宝条に何か言われて困ったことがあったら俺に相談してくれ、出来る限り力になる」
「宝条博士ですか? 今の所科学部門の実験生物との模擬戦を時折頼まれますが、特に問題はないですね。一度ソルジャーになるための処置をしないかとお話を頂きましたが、スカーレット様の方針でソルジャーにならずとも戦える戦士を目指してますのでお断りしました」
やはりクラウドを実験台にするつもりだったか、しかしクラウドの宝条に対しての印象に少し違和感がある。
あんな男に敬意を表す必要もないし、嫌悪感すら出してもおかしくないのだ。
事実あれと関わったソルジャーや事務方の社員も、奴に対して表向きは敬意を払いつつ、裏では一言付け加えることも多々ある、直接かかわったクラウドもてっきりそういう態度をとると思っていた。
「クラウドの上司はかなり過保護でね、彼に対して無理を通すと兵器開発部門が煩いから宝条も下手なことは言ってないのさ」
ルーファウスが補足するように説明を入れてくれた。
たしか兵器開発部門の統括はスカーレットという女だったな。
俺はほとんど接点がないが、あまりいい噂を聞かない女だったはずだ。
宝条と同じように自分が開発した兵器で社員を実験台にしたり、部下を使い潰すことに躊躇がないという話は聞いたことがある。
仮に同じ統括クラスが反対したからとて、あの男がそうやすやすと引き下がるとも思えない。
俺の中の認識と、目の前の若手から受ける印象に齟齬があるな。
何かまだ俺が知らないことがあるのか?
「さて、合流したクラウドにセフィロスがなぜここにいるか説明したいのだが、自己紹介はそれぐらいにしてもらってもいいかね?」
「あぁ、すまないルーファウス」
いかんいかん、任務の前だというのに関係ないことを考えこんでしまった。
今回の任務は神羅のロケット発射基地を狙うアバランチの排除。
大々的にセレモニーを行い、あえて警備を手薄にして奴らを誘い込んだところ敵の主力を一気に潰す。
同時に建設中の魔晄炉の方は警備を強化し、あえてその情報を外部に漏らす。
囮にされている宇宙開発部門には少し気の毒だが、ここでアバランチの主力を叩いておきたいのは本音だ。
宇宙開発部門の二人が目の前にいるのもあり、囮の件は伏せ、アバランチがここを狙っていることだけを説明し、そのために俺が秘密裏にここへ来たとだけ説明するルーファウス。
「ってことはあれか、テロリスト共がここを狙ってるって言うのに戦力はセフィロス一人ってことか?」
責任者のシドという男がルーファウスを問い詰める。
腕に自信があり、態度が大きくなりがちなソルジャーでもこんな口調で副社長に詰め寄る光景はまずない。
「セフィロスの強さは知っていますが、一人では手が足りないのではないですか?」
クラウドの疑問も当然だが、こちらも当然勝算があってのことだ。
「それについては問題ない、アバランチの戦力は今までに相当削りきっていてね。おそらく敵が動員するとしたら少数精鋭で腕に覚えのある者だけだろう。数ではなく質で勝負したところでセフィロスをどうこうできるような存在はアバランチにいないからな」
どうやったかは知らないが、アバランチの内部にまでルーファウスは食い込んでいるらしい。
事前に得た情報では、少数の腕利きによるルーファウスとプレジデントの暗殺を囮に、ロケットへの妨害工作を本命としているらしい。
「暗殺に関してはセフィロスが担当する、クラウドには神羅26号へ工作を仕掛ける奴らを担当してもらいたい」
「わかりました」
「そういうことなら俺も手伝うぜ、俺の夢をわけのわからん連中に邪魔されちゃたまんねぇ」
本来であれば、暗殺を仕掛けてくる奴らを捕えた後に工作員を処理する予定だったが、人手があるのは正直ありがたい。
ザックスや他のソルジャーの協力もあればよかったのだが、下手に人員を動かすと作戦がバレる恐れがあった。
俺も部隊の指揮が出来ないわけではないが、ザックスの方が人をまとめ上げるのには適しているだろう。
どうしても俺と他のソルジャーでは、憧れや尊敬があるのか一つ壁のようなものが出来てしまう。
しかし、ザックスが指揮を執ってしまえばそんなものは取っ払われてしまう。
近いのはアンジールが部隊を指揮した時だろうか。
あいつも後輩の面倒見がよく、人を纏めるのが上手かった。
ジェネシスも少し表現が回りくどく、ニュアンスや自分の勘を大事にしていたが不思議と人を引き付ける。
個人の戦闘では誰にも負けるつもりはないが、誰かと歩調を合わせるのは少々難しい。
思えばあの二人が俺に食らいついてきてくれたから、共に戦場を駆け抜けることが出来たのだろう。
二人はいなくなってしまったが、今はザックスが必死に俺の隣に立とうとしている。
あいつがしきりに褒めるクラウドもいつか俺と肩を並べる日が来るのかもしれない。
「どうしたセフィロス?」
警備をどうするか話し合いながらロケットの方へ歩いていくクラウドとシドを見つめながら、またしても考え込んでしまったようだ。
「いや、なんでもない。少し後輩が眩しく思ってな」
「ならば簡単に追いつかれるような先輩にならないことだな、精々越えるのが厳しい壁でいろ。本当に怖いのは下から登り詰めてくる奴らだからな」
副社長も楽しそうに仕事をする。
悪だくみともいうのかな、自分が社長になるためにお前の力を使わせてもらうと宣言したときは、面白い男が上に就いたと思ったものだ。
「ルーファウスのいう通り、クラウドはかなりの使い手だな」
「少し見ただけでわかるものなのか?」
「視覚情報と手を握った時にある程度な」
「それなら今度からソルジャーの面接に立ち会え、一人一人チェックするのも骨が折れる。統括の仕事を誰かに任せるわけにはいかないが、少し位楽をさせろ。クラウドはスカーレットの護衛から秘書まで全部こなすぞ」
口元に笑みを作りながらルーファウスが話すが、秘書の役目など俺には務まりそうもない。
「フッ、流石に秘書の役目までするつもりはないな、護衛までで勘弁してくれ」
「ただの英雄様ならそれでもいいが、俺が社長になった後はソルジャー部門幹部としての立場というのも慣れてもらわねばならん」
神羅の統括ともなればソルジャーで1stに選ばれるのとはわけが違う。
多種多様な知識が求められ、科学、治安維持、兵器開発、宇宙開発、都市開発などの各部門基礎知識はもちろんのこと、きわめて高度な教養が求められる。
統括クラスになれば、前統括か社長の推薦はもちろんのこと、それらの知識を試すペーパーテストをクリアしなければならない。
ルーファウスがソルジャー部門統括になった時もそれらの試験をすべてクリアしてからの着任と聞き、興味本位で使われたテキストを見せてもらったが、少なくとも戦い一筋で生きて来た俺には到底解けるものではなかった。
「ただの一英雄などで貴様の可能性を狭めるな」
ルーファウスなりの激励なのだろう。
統括になってから、俺に対して妙に気にかけているというか、発破をかけて来るようになった。
思えば俺がうじうじ悩んでいたらアンジールは不器用ながらも尻を叩こうとしてきたし、ジェネシスも詩人のように詩を吟じてきた、あいつなりの叱咤激励なのだろう。
「そうだな、ここの所統括に仕事を押し付けられすぎたからな。アバランチ相手が落ち着いたら、もっとザックスに仕事を任せて、少し訓練の時間を増やしてもらうか。クラウドとの模擬戦もしてみたいしな、兵器開発部門からソルジャー部門への模擬戦要望を受け続けてるんだろう?」
無人兵器とクラウドの訓練名目でソルジャー部門から人を送り模擬戦を定期的に続けてるというのはザックス本人から聞いている。
「そうだな、少しセフィロスの情報を流しても良くなればそう言ったことも考えておこう。ただし負けは許さんぞ、あの女の自慢ばかり聞くのも嫌だからな」
ふふっ、どうやらクラウドは本当に俺を超える気でいるらしい。
そしてその可能性をルーファウスも認めているということか。
共に肩を並べて戦ってみたいと思ってしまう、ここで二手に分かれたのが少し残念だ。
「あの女とは兵器開発部門のスカーレットのことか?」
「あぁ、妙に頭のいい女だ。目先の利益も拾いながら長期的な視野も持ち合わせている」
統括としてソルジャー部門を管理しながらも俺の隣にいることが多いルーファウス。
本人曰くそれが最も効率的に俺を動かせるとのことだが、その真意は分からない。
しかし、副社長としての仕事もこなしつつソルジャー部門に口出しし、さらに俺個人の訓練まで見ているとなるとかなりハードな生活だ。
「……そういえば、あまり他所の統括に対しての口のきき方を言ったことはなかったが、クラウドと付き合うならスカーレットに統括を付けろ」
「あぁ、もちろん他の社員がいる時は気を付ける」
「いや、クラウドの前では特に気を付けろ。あいつの忠犬っぷりは……スカーレットに対してあまり憶測や噂話を信じて妙な発言をしないことだ」
少し苦い顔でルーファウスが忠告する。
たしかに、統括相手に無駄な口を叩いて左遷された人間の噂も聞く。
左遷で済まされるのは治安維持部門で、科学開発部門と兵器開発部門は行方知れずになるとも、神羅に入社した新人に先輩が教えるのが恒例だ。
「聞いててあまり面白いもんじゃないぞ、年増上司に懐いた若い男の上司自慢話なんて」
まさかこの男にこんな顔をさせるとはな、たしかザックスも自分以上に犬と呼ばれるのが似合うと言っていたな。
少し時間があれば、世間話として聞いてみるか。
「さて、早い所アバランチの奴らを撃退するか」
「捕獲ではなく始末していいのか? ここでテロに失敗したとしたら、次はコレル山の魔晄炉の方をなりふり構わず狙ってくるぞ」
「問題ない、ここで追い詰めて魔晄炉を狙うしかないように誘導してる。その時に潜り込ませているタークスの回収もしなければならないな」
「潜り込ませてるね……副社長とはいえ外部の人間をほいほい拾ってきて問題にならないのか? 間違いなく宝条はサンプルにしたがるぞ」
「人聞きの悪い、ヴェルド主任の娘がタークスとしてアバランチに潜入している。タークスが極秘裏にしている任務を他の統括は知らないに決まってるだろ」
ジェネシスもアンジールも救うことは出来なかったが、ルーファウスが彼らを取り戻すために積極的に動いてくれたことは知っている。
二人の墓を建てたバノーラ村は、今も二人の英雄を慕う人間が定期的に訪れ、花を添えてくれる。
「あまり無理するな、俺の目から見ても少し働きすぎだ」
「ふん、だったら早い所今日の任務を切り上げて、ロケット打ち上げ成功の祝賀会の時に休ませてもらおうか」
スカーレットとクラウドがいい感じのコンビなように
ルーファウスとセフィロスも案外お似合いなイメージ
次回更新は6/5水曜日19時の予定です!
次回でロケット村編も纏めたい所